第16話 防護服メンタルを水着に剥ぐ
並ぶ色とりどりの水着を見ていると自然と胸が弾んでくる。
「これだけあると悩みますね。
「ううん、私は泳がないし……」
「あれ、ズル休みですか?」
「そうじゃないよ。ただ、水泳の期間は発熱と月経が週替わりで来る予定だから……」
「月のものが隔週で来てるじゃないですか。暦の概念を破壊しないでください。未来予知じゃあるまいしどう考えてもズル休みです。あ、もしかして泳げないとか……」
「そんなわけないじゃない
が、最近クズと評される男とよく一緒にいるせいか、
「そういえば
もう暑い時期なのに
奇妙に思って待ってみると、
「ま………………まさかぁ」
挙動不審に目が泳ぎまくっている。嘘をついているのはこれ以上ないほどに明らかだった。
「え、マジですか? 背中一面に仏神宿ってたらさすがに引くんですが」
「ふふっ、さすがにそんな馬鹿なことしないよ」
「じゃあ上腕で自然の
「…………」
唐突に黙る。かと思えば口をもごもごさせ、わっと顔を両手で隠した。
「若気の至りだったのよ!」
「未だ若気の途上ですよわたし達」
おいおいとウソ泣きをする先輩をあやす
「布面積が多いのを着ればいいんじゃないでしょうか。ほら、ラッシュガードとかも売ってますよ」
さすがの品揃えである。Tシャツと短パンを組み合わせたような商品を差し出す。これなら普段着とそれほど変わるまい。だが
「それが……
「おおい、いいの見つけたぞ。これとか二人に似合いそうじゃねえ? サイズ分かんねえから適当に持ってきた」
ご機嫌な様子で水着を両方
受け取った
「うわっ、かわいい。両方デザイン綺麗。とめき先輩のくせにセンスいいとか気持ち悪っ」
「シンプルにひでえ。
「それは──うっ……」
拒否しようとした
「試着はその……やめない?」
「なんでだよお。これでおびき寄せれれば丸っと解決すんだぜえ? あ、やっぱサイズ違ったか?」
「いや、合ってるけどね。……どうして合ってるのよこれ。ねえ莟ちゃん……」
助けを求めて
「…………」
笑みで封殺されてしまった。
美人な先輩の水着姿を見てみたい好奇心に捕まってしまった
ここには敵しかいない。そう察した
「じゃあ水着を着ない代わりに、脱いだ下着を掲げて校内一周してくるから」
「とめき先輩と同じ発想!? 露出じゃなければなんでもいいのかこの人!?」
「なんなら
「どんなメンタル城塞
「大丈夫、紐パンは母上のよ。私はあんなの履かないもの」
「真顔で身内を売りやがった。羞恥心のポイントがズレてねえお前?」
このままではらちが明かない。
「絶対に水着着といたほうが後々のダメージが小さく済みますから」
「そうよ莟ちゃんが代わりに──」
「私の今日の下着は夢の国のドラゴンなのでたぶん誰も釣れませんごめんなさい!」
勢いよく試着室に押し込んでカーテンを閉めた。
さすがに観念したのか出て来る気配はない。
「あー……なんであんな嫌がってんだ
「女の子にはいろいろあるんです」
「よく分からんが、それを理解したうえで着替えさせるお前のが鬼畜な気がするわ」
「好奇心には勝てませんよね」
などと無駄話をしつつ待つこと数分。カーテンが遠慮がちに開く。
「着た……けど」
だが中途半端に開けたカーテンから姿を出さず、それを握りしめる手しか見えない。
「ここは思い切っていきましょう
「ひゃあっ!?」
そこには水着に身を包んだ
「どおしたよその
ジャージからそこだけ引きちぎったらしい右袖をはめていた。
「こ、これはね……乙女の柔肌を守るために致し方なくね……」
「乙女の肌って片腕だけえ?」
「いや、他も見られたくないけど右腕だけはどうしても」
「謎のこだわり派あ!」
耳まで真っ赤にした
騒いでいるせいか衆目が集まってくる。それに伴い
「もっ、もういいよね!? 制服に着替えても」
「いやあ、そこから出て来るくらいの隙を見せねえと釣れねえと思うが」
「なっ──!」
どんどん鳴乍の顔の赤みが増していく。しまいには涙目になって、震える声で縮こまってしまった。
「っうぅぅ~~。ほんと恥ずかしい……からっ。もぅ……ごめんっ!」
本当に限界だったのだろう。カーテンが閉められた。
不思議な沈黙が流れるなか、
「こ……これがギャップ萌えっ」
羞恥で顔を真っ赤にした少女は、さっき紐パン焼豚とか言っていた女と同一人物には思えない。
「可愛すぎて同性なのに心臓止まるかと思った。とめき先輩は大丈夫──先輩っ!? 前傾姿勢で下腹部を押さえてどうしたんです!?」
「すっ、すまん。今ちょっと血流が一部分に集中しそうでな」
「先輩……」
意味を察した
「今回だけはほんの少しミクロンちょっとだけ気持ちが分からなくもないので、いいですよ。落ち着くまで直立しなくていいようフォローします」
「感謝する……心の友よ……!」
「ヤダっ、先輩の友達ハードルって
こうして
◇ ◆ ◇
制服への着替えが済み、
「お待たせしちゃって──って何事!?」
そこには四つん這いになった
突然視界に入ってきた光景に
「えーっと……
「先輩が急に
「椅子に座りたいではなく!?」
椅子から声がする。
「分かってねえなあ
「たぶん理解しちゃいけないやつよその男心」
否定しつつも
「…………もしかして座りたいのかあ?」
尋ねた瞬間、
「そんなっ、思ってないよ踏みつけたいなんて!」
「予想よかハードじゃねえか! だが今のオレはお前からの責め苦ならば甘んじて受ける覚悟がある。やりてえならやりやがれい!」
ぎゅっと目をつぶって覚悟を決める。だがいつまでたってもローファーの衝撃は来ない。
恐る恐る目を開けると、
「やらないよそんなこと。ほら
常識人の笑みで
その背を眺めながら、
「あいつのこういうとこ、面白くねえなあ」
ぼそっと呟く。
「オレ相手になに遠慮してんだか……」
これだけ騒いで注意を引いたにも
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