第17話 検証重ね本性を探る
翌日も昼休みまで下着窃盗犯の新着情報がなかった。そのため生徒会の資料が唯一の手掛かりである。
昼食を手早く済ませた
「
「それがさっき部室に寄ったら謎の生徒会長権限でわたしだけ休部扱いにされてたんです。はやく下着泥棒捕まえないと復帰できません」
「つっても昨日はなんも進展しなかったからなあ。
「ええ、悔しいですけど一番かわいかったので」
「そうだろそうだろう。めちゃくちゃ似合ってたからなあ。さすがはオレの審美眼だぜ。可愛さ五割は増してたな」
「えっ……そんな満面の笑みで褒められると裏がありそうで警戒するんですが」
「ああ? 良いもんは良いって言うに決まってんだろお? なんのために口がついてんだ」
当たり前のように言う
「そういうのさらっと言える日本人男子は
「
「あ──ありがとう……」
不意打ちの賞賛をくらって目を丸くする。まさか自分まで褒められるとは思っていなかったらしい。
「それで、今日はどうするの?」
「今から目ざとそうな被害者に何人か話聞きに行って、放課後は犯行現場の確認だなあ。犯人らしき人物の目撃証言が皆無なのが気になる。こんだけ無差別だと下着ドロが身内である確率は低い。だったら意識に残るはずなんだけどなあ」
「見慣れない人がいると普通はあれ? ってなりますもんね」
「それがねえってことは、なんか小細工してるに違いねえ」
「そのための現場検証ですね!」
「そゆことお。犯行場所のうち、入れる奴が限られてる場所がいくつかある。検証次第でホシを絞り込めるかもしれん。なんか細工があるならオレが気づけるしな」
「分かるんですか? 探偵みたいですね」
「常にズルする方法を考えてっから目星がつくっつうだけえ」
「聞き込みは手分けするのが早えかねえ。特別教室はちぃと離れてんな。水着売り場は昨日見たが、休んでた店員いるなら聞いとくか。あとは運動部……」
「運動部でも盗難があってたんですか?」
「は?
「澄君って誰です?」
「お前の元ストーカーだよ」
「そういうお名前だったんですね。言われてみれば
「そう、ご立派な被害者様だよ立件おめでとう!」
「てっきり失くしたものとばかり! どこ探しても出てこないわけですよ。酷い……」
「ほんと酷えよなあ。ありとあらゆる負債を背負わせて全財産凍結して人生詰ませてやりてえよなあ」
「そこまでするのは駄目ですよっ。いくら相手が犯罪者だからって、やりすぎは駄目です。過剰に手を出したらこっちが悪者です」
「……っつう建前とっぱらったら?」
「ふん
「さっすが不良を一人一秒でボコる女の発想。なるほど、なんかお前のノリ分かってきたあ」
「やりませんがね。わたしも先輩のノリに慣れてきました」
「私は二人のノリが怖いよ。過剰な私刑は禁止だからね? 罰するばかりじゃ更生に繋がらないもの。話せば分かってくれるかもしれないのだし」
「ああ?」
「えっ、あ、はい。ごめんなさいです」
一人だけ温度の違う
話題は自然と調査へ戻る。
「盗まれたとき不審な人とか見なかった?」
「そういうのはなかったかと。でも……う~ん。わたしあんまり他人の行動に頓着しないんですよね。気づいてないだけかも。陸上部の人たちにも聞いてみます」
横で聞いていた
「やっぱ簡単にしっぽは掴めねえか。
調査メンバーへ今日の方針を明確に指示する。こうして
◇ ◆ ◇
午後七時、早く部活に復帰したい
実際の面積以上の狭さを感じる部屋で、
「まずは今日一番の目的だった現場検証からね。犯行現場はもちろん、女子が下着を脱ぐ場所だから更衣室が一番多い。他にはシャワールーム、水着売り場、空き教室など」
「空き教室?」
「
「事後に忘れてったのが消えたんだろうなあ」
「皆まで言うのはマナー違反よ
また咳払い。
「現在確認されている窃盗十五件のうち、七件が女子しか立ち入れないはずの場所で起きている。にも
「現場に細工の跡はなかった。犯人は普通に出入り口を通ってるはずだあ。ったく、怪しいやつくらい誰か見てねえもんかねえ。透明人間じゃねえんだぞ? リストにある奴らには一通り
話を振られて
「こっちも駄目でした。みなさん、狙われる心当たりはなかったそうです。下着が消えた時間も放課後、昼休み、朝とバラバラですし。盗難に遭うなんてまさか! と思ったそうです」
「まあ偶然に一人でいるところを狙われた事案が多いしなあ。たまたまか、それともその偶然を付け狙われてたか」
「ストーカーにしては被害者に一貫性がないですよね。ていうかここ最近のわたしストーカーって言葉が頻出しすぎ」
「確かになあ。被害者がみんな女子ってのは分かるが、それ以外の共通点が見えねえ。学年、部活、内部生外部生、それに家柄もピンキリ。ついでに顔の系統もバラバラだったかあ? 犯人はよっぽど多趣味だな」
「下着なら誰のでもいいんですかね?」
調べれば調べるほど、事態は混沌を極めている。
「もちろん学内だから完全に人の往来が絶えることのほうが珍しいけれど。同時刻に外部の人間の出入りがないのはこっちで確認した通り。生徒会は内部の犯行と見てる。二人の意見は?」
「相違なしぃ」
「わたしもそうだと思います。外の人は目立ちますから。あと先生も除外していいと思います」
「それはどうして?」
「運動部の人たち、誰も教師を見かけてないんですよ。顧問以外がうろついてたら運動部員は部費調整の抜き打ち視察かと思って身構えるので、印象に残るはずです」
「つまり犯人は男子生徒ではないかと」
「だとすると全校生徒の三割が容疑者になるけれど。それは──」
「女子を外すべきじゃねえかもなあ」
眉をひそませる
「えっ、だって下着を盗むのなんて性犯罪者──」
「今回の窃盗、どうも衝動的なもんじゃねえ。ここまでくりゃ女子も除外できん。つうかいれば目立つ男子が目撃されてねえなら、犯人も女子の可能性が高えだろ。
教師を外す意見はなるほど妥当だ。オレも支持する。だとしても容疑者は全校生徒二千人だろお?」
「世の中にはいろんな人がいるものねえ」
「ええっ??? でも、女子が女子の下着盗んで何が楽しいんです?」
「使い道なんぞ知るかよ。
呟いてから顔をしかめて横髪を掻き上げた。耳元を露出させ、銀のイヤーカフスを指先で
「つっても手詰まり感は否めねえなあ。裏技も今月使い切ったし。心底避けたいが、つかここ最近は積極的に避けてたが、こうなりゃ学園一の情報通に接触するしかねえかなあ」
「誰です、それ?」
そこには金髪の少女が息を切らせて立っていた。
「あーっまだ居たよかった
「書記ちゃん? どうしたの?」
「明後日って様式変更調整会議があるでしょ? お願いなんだけど、仕事変わってくれないかな? 大事な来客が急に入っちゃって」
「いいよ。どこまでやればいいかだけメモ貼っておいて」
「ありがとー! 絶対お礼するね」
二つ返事に感謝を残して書記は駆けていった。苦笑してドアを閉める
「善人顔で他人の面倒を安請け合いすっと損するぜえ。良い人ってのはだいたいが搾取されるだけなんだからよお」
「平気よ。好きでやってることだから。それに
「オレは打算ありきだ。お前みたいに行動が先で後から理由付けするわけじゃねえ。そもそもオレは善人じゃねえからなあ。人間、適度に悪いことしといたほうが都合がいいぜ?」
広げた二本指をクイクイと動かす。
それは相手を馬鹿にしているようにも、誘っているようにも見えた。
扉を背にした
「いいのよ、私はこれで。クメセキュリティーは誠実さが売りなんだもの」
「さいですかあ」
「そうなのよ」
互いの笑みの裏には別の意味が込められているようだ。危うい境界を綱渡りをしているようなやりとり。目前で繰り広げられるそれに胃を痛めるのはいつだって部外者だ。
(ええ~。この元カップル、息が合うのか合わないのか、どっち……?)
二人の方針の違いをまざまざと見せつけられ、
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