第12話 打算的な体力測定
「どうかな。私を親友にしてくれる?」
さりげなく段階を上げ、
「親友だの友達だの今更お前っ。お、オレはそんな都合の良い男じゃないんだからねえ!」
「
「なっ、しょっ、そんなことないんだからね!? オレは生まれつき余裕の笑みで君臨してるだけだからあ。世界を見下してほくそ笑んでるんだよお」
「嫌な赤ちゃんですね……」
「本当にね。
「はっ、はい。もちろんです
「
二人でぎゅっと握手を交わす。
「くふふっ、ふにふになのに指だけ皮が厚くなってるね。スタートのとき地面に手をつくからかな」
「あの……そろそろ手を……」
「あ、ささくれ。駄目よちゃんとケアしないと。ハンドクリーム塗ってあげましょう。くふふふ。若い女の子のお手々だぁ」
「ちょっと目と鼻息が怖いです
そんな
無言で二人の前に立った
「なあんだよ二人だけ仲良くしやがってよお。全然羨ましくねえけど、仕方ねえから話くらいは聞いてやらあ」
「すっごい上から目線の寂しん坊だ!」
思わず後ずさる
「そうね。私と友達になると良いことがたくさんあるよ? とりあえず、私にできる範囲で
「無償労働がとりあえずで出てくるだとお? くっ、だがオレは簡単には屈しねえぞ。何を言われようがフラれた男のプライドってもんが」
「毎年三月には歴代の生徒会役員がみんな集まってパーティーをするんだけど、一緒に行く?」
「よろしくお願いします
「落ちるの早っ!! 全日本プライド投げ選手権放り捨て型優勝候補の
「馬っ鹿お前。
「欲に忠実な人だ……」
「ふふっ、本当にね。
「これからもよろしくね
「お、おう……」
柔らかに崩れた
そう目を離したのがいけなかった。ただの握手は数秒で
「くふふっ。この形この大きさこの肌触り! 骨ばった指の関節からは想像できないほど柔らかな
鼻息荒くよだれを垂らさんばかりに
「おいっ、触りすぎだあこの手フェチ! いい加減に放せっ、金取んぞ!」
「おいくら?」
「支払いに
「言い値で払うよ」
「まず定価が分かんねえんだわ!」
こうして
◇ ◆ ◇
体育館での測定を終わらせ、床に座ってお喋りを始めてしまった女子二人。それ付き合って
「身長が高いのいいなぁ。わたし百五十五ないんです」
「言うほど小せえかあ?」
資料を見たときの記憶が正しければ、彼女の身長は百五十四センチ。日本人女性の平均を考えれば低すぎるというわけでもない。だが
「体格がいいってスポーツ選手にとってそれだけで財産なんですよ。特に身長はストライド──歩幅に直結するので、伸びるものなら伸ばさねばって感じです。それで、
「百七十二よ」
「オレのほうが七センチでけえぞ。ほれ羨ましがれ」
「
「うーん。やっぱり決め手は遺伝かな」
「科学の進歩も太刀打ちできないっ」
「ほ……他にはありませんか……」
「そうねぇ。うん、寝れば育つよ。私もけっこう寝たぼうだし」
「分かりました!」
勢いよく顔を上げた
早業を披露され呆然としていた二人だが、やがて
「……
「ああ、そいつ
「人馴れどころじゃないよ。無防備な頭部を会ったばかりの他人に預けるなんて。こんな警戒心でどうやって生きてきたのよこの子は!」
「野生じゃねえからなあ」
登下校でパルクールする姿を見ると野生児っぽいが。
「ところで
「言いがかりだなあ。確かにオレは壁新聞の常連だが!」
「主に悪評でね」
「っつうかよお。んなことしてオレになんのメリットが?」
おどけて肩をすくめる。
「
声にはどこか確信がちらついている。
「なんだあそりゃ? オレのメリットじゃねえよ、それは」
「そうかな」
「そおだよ。オレにあんま夢を見てんじゃねえ。コイツはただの自分本意なクズ野郎だ。他人に好かれるほど価値はねえよ」
自分自身を指差して
「つうかその噂もオレが鬼畜みたいな形に変わってたしなあ。おかげですれ違う女子の視線が痛えのなんの」
「そうね。私も貴方も双方が悪く言われてた。あれは少し歪み方がおかしいと思う。噂の渦中の人間がみんな被害を受けかねない」
「まあオレは何と言われようが堪えないがなあ」
「それは──」
「……ってこのまま寝かせてたら駄目よね」
「そうだなあ。まだ測定ぜんぶ終わらせてねえ。おい起きろおコラ。むしろなんでたった数秒で眠れるんだお前は」
「う~ん……亀はいつでも寝れるんですよ……むにゃ」
「目覚めんかお前は霊長類だ」
「あたっ。……んぬぅ。…………あ、ごめんなさい、夢の中でなんかこう、座って手を前に伸ばす測定してました。あれ今回は種目にないですよねー。名前思い出せなくってなぜか倒立してました。なんでだろう」
「たしか長座体前屈じゃないかな」
「そうそれですそれ! あれ得意だったんですよね。お二人はどうです?」
「覚えてねえなあ。やってみるか。ほいよお!」
「ぬううう」
「うわっ、硬すぎ……。普段どうやって靴下とか履いてるんですか。日常生活に支障が出るレベルでしょうそれ」
「ぐぬぬぬぬ」
「くふふっ、これは酷いね。仕方ないから後ろから押して上げようかな」
「ぐええっ、内臓潰れるっ」
「あのお
「うん、当ててるよ?」
「なにゆえにいっ? ありがとうございますっ!!」
「顔が真っ赤ですよ
「かっ……代わりにオレの腰が
乳圧から解放された
動けなくなった
「おい
注文を付ける
「さっきのが本題だったんだけどなぁ。まあいいよ、もう一つ話があるのは本当だものね」
ぼそっと呟いて、表情を切り替えた。
「
「へえ?」
突然の呼び出し宣告に
背後で放たれる濃厚な黒いオーラに
「この元カップル、お互い圧が強いなぁ」
お似合いなのに、という言葉はなんとなく呑み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます