ツンデレ暴力ヒロインたちはツンドラ収容所に送られました~刑務官の俺は「もう遅い」メインヒロインたちを「ざまぁ」な状況から再生する~

秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家

「ツンドラ・ツンデレ収容所」


「なんであたしがこんな労働しなきゃいけないのよ!」

「そうよ! あたしたちに相応しいのは収容所じゃなくて学園よ!」

「あー、腹立つ! なんであたしがメインヒロインじゃないのよ!」


 ここはツンドラにあるツンデレ収容所。

 かつて暴力を振るったツンデレヒロインたちが強制労働させられているのだ。

 俺は、その刑務官を務めている。


「今の世の中、暴力は許されないんだぞ。おまえたちはメインヒロインだからといってやりたい放題やりすぎたんだ。これからは心を入れ替えろ」


 俺は文句を言うツンデレたちに説諭する。

 しかし、ツンデレたちは脊椎反射のごとく騒ぎ始めた。

 ツンデレは沸点が低いのだ。


「あれは暴力じゃなくて愛情表現の一種!」

「冷静に突っこむのやめなさいよ! 殴るぐらいいいじゃない!」

「さっさとこの薄汚い場所から出しなさいよ!」


 ツンデレたちはなんら反省することなく食ってかかる。

 昔は、俺もそんな彼女たちの反応に萌えたりもしたのだが……。


 時代は変わった。俺は彼女たちを矯正しなければならない。


「まずは『!』をつけてしゃべるのをやめるんだ。あと暴力は当然禁止だ」


 だが、すぐにツンデレたちは抗議してくる。


「それじゃ個性がなくなっちゃうでしょ!」

「そうよ! 二、三発殴らせなさいよ!」

「早く学園でメインヒロインを務めさせなさいよ!」


 やはりツンデレは自己主張が強くてワガママだ。

 まあそのおかげで団結してツンデレ一揆とか起こさないだけマシなのだが。


「……おまえたちが日本に帰ってメインヒロインになる方法はある」


 俺は懐から、今流行りのラブコメ書籍を取り出した。

 それらのメインヒロインはクーデレや癒し系お姉さんなどだ。

 ツンデレはひとりもいない。


「どうしてもメインヒロインに戻りたかったらクーデレや癒し系お姉さんになれ」

「なっ!? なんであたしたちがそんなキャラにならなきゃいけないのよ!?」

「絶対に嫌よ! ぶち殺すわよ! ツンデレこそ王道にして至高! ほかのキャラは邪道!」


 なおも騒ぐツンデレたちに俺は冷たく告げる。


「……なら、おまえたちはこのままずっとツンドラ・ツンデレ収容所から出られないぞ? それでもいいのか? 一生ここで暴言を吐きながら朽ちるのか?」


 俺の言葉が本気だと感じたのだろう。

 ツンデレたちは一斉に黙った。


「おまえたちもこのまま終わりたくないだろ? もう一度メインヒロインになるために一緒に頑張ろう。俺も協力する」


 ツンデレたちは単純だ。不平不満もすぐ口にするが、本気になれば意外と努力家になるのだ。

 俺はかつて一世を風靡したツンデレたちを再生したい。

 このツンドラ・ツンデレ収容所を『ツンデレ再生工場』にしたい。


「俺についてこい! もう一度メインヒロインを目指そうじゃないか!」


 俺は今は廃れつつある熱血主人公っぽく振る舞ってツンデレたちを鼓舞する。


「わかったわよ! やればいいんでしょ、やれば!」

「このまま負けてられないわ! 見てなさいよっ!」

「もう一度メインヒロインになってやるんだから!」


 熱い思いが伝わったのか、俺に続いて無数のツンデレたちが収容所内の教室に向かった。


☆ ☆ ☆


 そこからは――苦難の教育が始まった。

 ツンデレたちに染みついた暴言と暴力はそう簡単には矯正できない。


 それでも俺はありとあらゆる教育方法によってツンデレたちを粘り強く指導していった。

 とてもここでは書けないような指導内容もあったが――ともかくツンデレたちは頑張った。



 そして、月日が過ぎ――俺の指導が終わりを迎える日が来た。



「……おまえたち、よく俺の指導についてきてくれたな」


 感慨深く、俺は元ツンデレたちを眺める。


「あなたの指導には感謝するわ。これで再び頂点を目指せる」

「わたくしたちは非暴力の教えを守って、これからも精進いたしますわ」

「先生、ありがとうございます♪ このご恩は一生忘れません♪」


 元ツンデレキャラたちは立派にツンデレから脱却していた。

 言動も行動もクーデレやお嬢様、癒し系お姉さんになっている。


 よくぞ、ここまで……。

 俺は目頭に熱いものがこみあげてきた。


「……もうおまえたちに教えることはない。さあ、もう一度天下を獲ってこい!」


 ツンデレ収容所の門が開け放たれ、元ツンデレたちはバスに乗せられて移動していく。

 ここからシベリア鉄道と船を乗り継いで、彼女たちは再び日本の地を踏むことになるのだ。


「健闘を祈る」


 再びメインヒロインを目指す彼女たちを、俺はいつまでも門前から見送るのであった――。



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