小さい時の約束

 大間拓哉おおまたくや16歳。今日も元気に勇者真由ゆうしゃまゆ16歳を追いかけます。


「マユー!!」

「何のようだ?」

「これ、忘れ物!!」


 オレは特製データ入りのUSBを渡す。


「パソコンで見てくれよな!」


 夜な夜な作った、オレ達の前世の動画だ。オレめちゃくちゃ頑張った。なのに――。


「忘れた覚えはない」


 無造作に握りつぶされポケットにぽいっとほうりこまれた。


「あぁぁぁぁぁオレの1ヶ月が――」

「勉強しろ!! 前回何番だった! まったくこんなことに時間を費やして――」

「む、こんなこととはなんだ! オレの中ではそれはもう大切な、大切な――っておーーーい!」


 ずんずんと先に進む氷の女魔王様。

 今日も思い出してもらえないようだ。だけどオレはあきらめない。

 次なる一手は決めている。


 ◇


「こんなもの見なくたって覚えている……」


 家に帰り、渡されたUSBをパソコンに繋いだ。


魔王あいつ、あの話を美化して、あーあー、違う。これは……うーーー」


 頬が熱くなりながら、タクヤが作った動画に一人で突っ込んでいた。


「私だって、大好きなんだ。どっちの貴方も」


 でも、タクヤは過去ばかり引っ張ってくるんだ。

 私として見てくれることは無理なのかな。

 とても難しいのはわかってる。だって、私は勇者で彼が魔王だから。

 パソコンをとじる。


「違う、もう勇者でも、魔王でもないんだ」


 タクヤに返すためにUSBを引き抜こうと手を添えた。

 少しだけ手を止めて、私はもう一度パソコンを開いた。


 ◇


「マユーーーーー!!」

「なんだ、タクヤ。あ、これ忘れ物」


 ぽいとタクヤに向かって投げると上手にキャッチしていた。


「見てくれたのか!」

「知らん」

「うぅ、次はもっとパワーアップさせてあのエピソードを」


 そんなことを言っていたけれど私は聞こえないふりをした。


「なぁ、マユ。こっちが忘れ物だった」

「な、それは、それは――」


 5歳の時に結婚を誓った結婚届(手書きのお手製)。まだもっていたなんて……。


「結婚出来る年になったら私が出しに行くねって言ってただろー?」


 ニヤニヤしながらタクヤが寄ってくる。確かに言った。言ったけどーーーー!


「馬鹿だろう? まず男は18からしか結婚出来ないし、それ出したところで受け付けてもらえない。だからこっちによこせ! ちょうどいい、燃やしてやる!!」


 私が手を伸ばすとタクヤは魔王の時にして見せたような邪悪な笑みを浮かべた。


「ふははは、ならば18までこれはオレの部屋の額の中で大切に保管してやろう!!」


 最悪の魔王の復活という言葉が頭の中にぽんと浮かんで消えた。


「勝手にしろ……」


 私はいたって冷静に言葉を発する。耳が熱いのはきっと気のせいだろうけど、バレないようにタクヤから顔を背けておいた。

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お前が氷の魔王になった日、オレは魔王でなくなった 花月夜れん @kumizurenka

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