10話.[とにかく多少は]

「は? 実は女だった? そんで付き合い始めただぁ?」

「うん」


 彼女には許可を得ているから問題もない。

 しかもこの前のは香織ちゃんが僕のことを狙っているかもしれないからということで隠したらしい、それでこうなってから驚かせたかったんだと。

 それを聞いて虚しさしかなかった、あの子が僕のことを狙ってくれたことなんて1度もないんだから。


「そうか、おめでとう」

「むかつく、和久は嫌いだ」

「な、なんでだよ?」

「……昔は香織ちゃんのことが好きだったのに和久がいたせいで駄目になったからだよ」

「え、好きだったのかっ? だったらアピールすれば良かったじゃねえか」


 う、うるさいやいっ、どうせなにをしても和が好かれるのは確定していたんだから意味のない話なんだよっ。

 ふたつの選択肢があって僕と和だったらまず間違いなくみんな和を選ぶ。

 睦みたいな稀有な存在がこれ以上いると考えてはならない、というかもう考える必要もないことだし。


「だからまあ、香織ちゃんのことが好きなら一生懸命になれよ、馬鹿弟」

「そのときがきたらな」


 むかつくっ。

 それでもなんかすっきりしたからいいや。

 殴ったときよりもすっきりしているかもしれない。


「努君ー」

「おぉ、なんか前よりもパワーが上がった気がする」

「それは努君が作ってくれた美味しいご飯を毎日食べているからだよ」


 そして彼女を持ち上げていたらすっかり治った香織ちゃんがやって来た。


「なんか兄弟みたいだね」


 彼女にも彼女のことを説明したら驚きすぎて後ろに倒れそうになったから支える。

 これは浮気行為じゃない。

 また怪我をされて可愛くのない弟に家を追い出されても嫌だからだ。


「睦くんちょっと」


 女子トイレに連れて行かれてしまったのでどうしようもなかった。


「女の子……だった」

「驚くよね」

「待ってっ、ということは努も見たってことっ? 変態っ!」

「嘘をついていただけかと思ったからついね……」


 変態変態と騒がしくするので教室に行かせておいた。

 折れる前と同じではないだろうが、普通に歩けていて安心する。

 それに僕にはもっと意識を向けなければならないことがあるのだ。


「どうしてそんなに頬を膨らませているの?」

「まだ付き合い始めてから3週間しか経過していないのに浮気された」

「違う違う、怪我をしてほしくなかったからだよ」

「ばかー!」

「ぐぇっ」


 お腹に全力頭突きはやめてほしい。


「ごめん」

「……くれたら許す」

「なにをあげたらいいの?」

「ちゅー、してくれたら許す」


 あのときできなかったことをしろと言うのか。

 でも、それこそもう1ヶ月になろうとしているんだからいいかもしれない。

 とはいえ、廊下ではできないからトイレとか空き教室とかに移動することになるんだけど、臭いのことを考えて空き教室ですることにした。

 扉を閉めてその内側に座る。

 少し広げて足を伸ばした間に膝をついてもらって、そのまま。


「……こ、これからまだ授業があるんだよっ!?」

「えぇ、してって言ったのは睦でしょ」


 乙女心は難しい。

 非モテ故に手探りでやっていかなければならないのは大変だ。


「うぅ、集中できないよー」

「ちゅーだけに?」

「努君なんて嫌い」

「嘘だよ、ごめんごめん」


 最近、あからさまに調子に乗っている自分がいる。

 本当に嫌いになってほしくはないから気をつけなければならない。


「……撫でて」

「うん」

「へへ」


 とにかく多少は謙虚でいよう。

 そうすることで少しでもこの関係を維持できるはずだから。

 彼女もきっと僕のことを求めてくれるはずだからだ。

 ふにゃりとした笑みを浮かべている彼女を見てそう思ったのだった。

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33作品目 Nora @rianora_

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