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安藤は髪を軽く手櫛でとかしてから、僕のほうへ向き直り、エスカレータへと促した。早く、というふうに僕の腕をとったから、僕はあの時手を繋いでしまえばよかったと、後悔した。何フロアか見て回ったあと、五階にある雑貨屋へ向かった。
レトロな飛行機やら、アンティーク用品やら、クッションやらメモ帳やらが、たくさん並べられてあった。大抵の男はこういうのが苦手みたいだけど、僕は嫌いじゃなかった。見ていて面白かったし、ここで良くカップやステーショナリーを揃えているからだ。それらは会社の同僚からは、なかなか評判がいい。
安藤は僕をそっちのけで店内を見ていたから、僕もステーショナリーのコーナへ向かった。新しいペンを買いたかったのだ。
定規や電卓を手にとりながら安藤の姿を探すと、安藤は本のコーナを見ていた。しゃがみこんで何かを選んでいる。気に入ったペンを掴んでそちらに向かうと、タイミングよく、安藤がこちらを振り向いた。
「これにする」
そう言って僕に見せたものは、小さな絵本だった。
パスポートサイズで、真ん中に子犬の絵、その上に太陽と月が描かれてあった。シンプルな絵柄だった。帯は付いていない。いい本だろうなと、僕は思った。
「ペンと一緒に買おうか?」
「だーめ」
小さな子供が自分のおもちゃを誰にも貸さずにいるような顔だった。僕の手からボールペンも取っていき、安藤はレジに向かった。店の外で待っててね。と言って。
とりあえず、店の入り口付近においてある雑誌に目を通して待っていた。輸入雑誌と女性誌ばかりだった。究極の恋占い、とか、結婚は30歳がベスト、とか見出しが書かれてあった。
なんとなく気になって手にをろうと思ったら、満面の笑みを隠した顔で、安藤が出てきた。
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