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「ボールペンはいくらだっけ?」

 僕の質問を無視しながら、安藤は袋からさっきの絵本らしきものを取り出した。

 チェックの包装紙と赤いリボンが付いていて、それを僕に両手でさし出した。なんとなく青春時代のバレンタインを思い出した。


「ん?」

 僕が声と一緒に疑問符フラグを掲げると、彼女は疑問符を驚嘆符で返してきた。

 疑問符の会話にしびれをきらしたのか、安藤が声をあげた。

「もうすぐ、あなたの誕生日じゃないの」

「ああ!」

 僕は手の平に拳を落とす古典的なポーズをしてしまった。きっと安藤には、僕の頭上で光る電球が見えたかもしれない。


「どうして、もう、昔からイベントごとは忘れちゃうんだから」

「安藤の誕生日は忘れた事なかったじゃないか」

 僕は悔しくて言い返す。

「1回だけ忘れた」

「そうだっけ?」

「忘れたことも忘れたのね」

「忘れた」

「もう」


 僕たちは笑い合った。そして僕は安藤のプレゼントを受け取りお礼を言って、近くのベンチに座った。中身はわかっているけど、包み紙を開くのはとてもわくわくする。いくつになってもだ。どうしてだろう。


 僕は紙をやぶかないように、慎重にセロテープをはがしていった。

 ぺりぺり。ぺりぺり。べり…ぺり。

 安藤も中身を知っているくせに、どこか嬉しそうにそれを眺めている。


 包みを開くと、さっき僕が選んだボールペンと、安藤が選んだ絵本が出てきた。安藤が横でオメデトーと言って軽い拍手をしたから、僕はイエイエと答えた。


 僕たちはさっそくそれを読んだ。

 主人公の子犬が月の妖精に導かれ、冒険をするというストーリーだった。絵本に出てくる月は赤みが強い色だった。波長が長い、と安藤が言ったので僕は頷いた。


 子犬は都会のビルを飛び越えて森に入った。すると、月の妖精はいなくなり、太陽の妖精が姿を現す。子犬のビックリ顔が描かれる。


 物語はそこで終わった。次巻に続く。

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