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あの日。
僕と安藤は、会う約束をしていた。寒い時期だった。マフラーを口まですっぽり巻いた。
久しぶり、というには期間が短いし、気軽な挨拶で済むほど会っているわけではなかったから、少しだけ気まずかった。電車の中で、僕は何を話せばいいのだろうかと考えていたが、あまりいい話題は思い浮かばなかった。あっという間にビルの前に到着すると、背後から名前を呼ばれる。懐かしくて、嬉しくて、少し恋しく思う、ちょっと高くて細いけど、芯のある声。
僕に声をかけた安藤は、髪が伸びていて肩のラインを超えていた。それくらいの時間は経っていたのかと、僕はようやく実感した。
前髪も目の上まで切っていたので、初めは誰だかわからなかった。印象の変わった安藤を前に僕が目をパチクリさせたみたいだから、彼女はそれを見てクスっと笑みを浮かべた。
会ったときに話そうと思っていた内容は、わざとらしく僕の前で崩れ去った。自分の脳は僕が思っている以上に意地が悪い。
僕たちはひとまず「カフェにでも行こう」と、どちらが提案したのかわからないが、そんな話になった。あの頃しょっちゅう行っていたカフェが、ビルとビルの間にひっそりと店を構えている。
薄暗くてソウルミュージックが流れている、大きな吹き抜けが特徴の店だった。いつも静かだったから、よく行っていた。
オーダーしたドリンクで、乾杯をした。何に乾杯したのかはわからなかったけれど、彼女がグラスを掲げたから、流れでグラスを合わせた。複雑な気持ちになった。一口飲んでから安藤が口を開いた。
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