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 これは僕の誕生日祝いに、安藤が買ってくれた絵本の裏表紙の文だった。

 僕はいつも忘れたころに、この絵本を開く。

 例えば、部屋の模様替えをしている時とかね。そういう時は大抵、作業が中断してしまう。

 

 ひっぱり出してきた雑誌やら漫画やらを手にとって眺めている内に、作業を忘れてしまうのだ。

 今も僕は模様替えを中断してしまい、箪笥が中途半端に斜めを向いている。整理しようと思って床に分けておいたCDや積み上げた本は、気が付いたら崩れて部屋に扇状地を形成していた。


 僕は絵本を片手に窓際に進み、カーテンを開けた。途中で何か踏んで慌てて足を引っ込めたけど、紙袋がさらに潰れただけだった。


 ずっと遠くに、鈍く光る月が光っている。


 窓を開けると、とたんに冷気が入り込み、鼻の頭がキュッとなった。

 透明だけど、そこにある空気が僕の頭の中でシーン…と無音を鳴らす。

 なんとなく懐かしい気持ちで、僕は眺めた。思わず吐息が漏れて、見えなくなった。


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