第3話 聖女の祈りは必要なのか……。
一限をふけて、ミチルとレイの三人で中庭のベンチに座っていた。
俺の子供の頃の夢は何であったのであろう?
学者になってテレビに出ることであった。
ミチルは語る。
「わたし達の祈りはこの街の活力なの」
聖女の祈りは人々の活力を司るらしい。
レイは語る。
「物理的に支える三老士の存在でも足りない部分を補うの」
聖女にしてみれば勝手に決められた運命である。
「俺はミチルとレイに会えて素直に嬉しかったぞ」
ミチルとレイが聖女とか関係ない。二人は俺の大切な人だ。
「その目です『四つ葉』が心を奪われた、半分の窓の青年の眼差し」
レイが照れくさそうに四つ葉の一部としての恋心を話す。
ミチルも顔を赤らめている。
紅と蒼の髪の二人からはシャンプーのいい香りがする。
へっへ……。と、鼻を擦る。
少し良い気分で日常が過ぎていく。
それから、帰宅して玄関のドアを開けようとすると、鍵が開いていた。
この時間は誰も帰ってきていないはずなのに。
首を傾げて家の奥に行くと。姉貴が化粧をしていた。
「ただいま、姉貴、今日は早いな」
「翔太、わたしは自由になったの」
……?
「大学に休学届を出してバイトも辞めたわ」
「……姉貴!大丈夫なのか?」
姉貴は化粧を終えると俺にすり寄ってくる。
目の下は真っ黒で一睡もしていない様子であった。
「翔太……わたしの大切な弟……」
これは俗に言うヤンデレなのでは?
違う、これは聖女の祈りが無くなったからだ。
俺は直感的に思うのであった。
ミチルとレイが高校の図書室でもいいから祈りを捧げなかったからだ。
俺が姉貴を拒むと。
「諦めない、翔太はわたしだけのモノよ」
そう言うとフラフラと玄関を開けて外に出て行く。
朝、起きるとキッチンのテーブルの上が散らかっていた。
どうやら、姉貴が夜中に帰ってきたらしい。
俺は胸騒ぎを感じながら登校する。
しかし、あー遅れた、遅れた。
バスが交通事故でストップしていたのだ。
朝の図書室での活動は中止である。
仕方なく、教室に向かうと俺の席に高校の制服を着た姉貴が座っている。
姉貴もこの高校の卒業生なので制服姿でも違和感がない。
その姿はトレードマークの長い黒髪がバッサリと切られていて。
そう、別人のようであった。
「翔太、おはよう……」
俺は廊下に姉貴を連れ出すと。
「ジャン、これなーんだ」
か、か、火炎瓶であった。
ツーンと油の臭いが立ち込めて危険な状態であった。
この状況で頼りになるのはミチルとレイであった。
まだ、五階の図書室にいるらしい。
俺は急いで図書室に向かうと二人に祈りを頼む。
「ミチル!レイ!」
俺の慌てた様子に二人は渋々、ヒモの付いた石に祈りを捧げる。
すると……。
『ジリリリリ!』
非常ベルが鳴り始める。
お、遅かったのか?
俺は姉貴のいた廊下に戻る。
姉貴の姿は無く火炎瓶だけが落ちていた。
一般生徒が油の臭いで非常ベルを鳴らしたとのこと。
その後はうんざりするほど先生の取調を受けた。
その日、帰宅すると姉貴は二段ベッドの下で丸まっていた。
ミチルとレイの祈りで寝込む程の病み具合に落ち着いたらしい。
姉貴に声をかけるが返事はない。
とにかく、無事でなによりであった。
俺は換気の為に半分の窓を開けると紙飛行機が舞い降りる。
紙に文字が書かれている。俺は紙飛行機を広げると手紙である。
差出人は四つ葉であった。
何故、四つ葉からの手紙が届いたのか予想はつく。
今日ミチルとレイに祈りを頼んだからだ。
内容は謝罪に始まり。
ミチルとレイの存在を結合するとのこと。
タワーマンションに戻るか悩んでいるらしい。
しかし、俺は無力だ。
四つ葉に何もしてやれない。
翌朝、朝早く家を出て校舎五階の図書室に向かう。
長い白髪の女子が座っている。
近くにはテーブルの上に石が置いてある。
「四つ葉なのか?」
俺の問いに静かに頷く。
「ミチルとレイにはもう会えないのか?」
四つ葉は首を振り否定する。
「きっと、あなたはミチルとレイを取るでしょうね」
その声はミチルともレイとも言える不思議な感じであった。
「こうして、朝早くに図書室に来たのですもの」
俺は何も言えなかった。四つ葉に初めて会い、その姿に魅かれていた。
「この朝の時間だけ四つ葉でいて良いですか?」
「あぁ」
「安心したわ、タワーマンションに戻るのは止めましょう」
そして、司書さんが出勤してくる時間になった。
気がつくと四つ葉の姿は無く。
ミチルとレイが寝袋で寝ていた。
ここがスタートだ。
俺の本命が四つ葉である事に気づき、ミチルとレイも大切な友人であった。
朝早くだけの四つ葉であり。
俺の恋人である。
四つ葉……本当に不思議な存在だ。
俺は早朝の図書室で仕事をしながら四つ葉を見ている。
気高きオーラは聖女そのものであった。
ヒモの付いた石を両手で持ち、祈りを捧げている。
祈りが終わると嬉しそうにこちらを見ている。
それは恋する少女であった。
俺は照れくさそうにして目を合わせる。
そう、言葉は要らなかった。
これが通じ合う心らしい。
おっと、時間切れ。
司書さんが出勤する時間なのでミチルとレイになるのである。
理屈で説明するのは難しいがいつの間にか四つ葉は寝袋に寝ているミチルとレイになる。
「おはよう、ショタ」
ミチルが目を開ける。
だから、ショタは止めろと思うが何度言ってもダメである。
諦めて、俺は図書室を後にしようと思うとレイが起きてくる。
「いやらしい……」
こっちも面倒な事を言う。
基本的に四つ葉の時の記憶はあるので、まー大変である。
「何を言っている、何もしていないのは知っているだろう」
「うふふふふ……」
笑顔ですり寄ってくるレイはミチルよりやっかいで困る。
俺は頭をかきながら図書室を出る。
そうそう、姉貴は国立への編入試験の為に猛勉強を始めた。
俺が教室に入って間もなくしてミチルとレイが制服姿で現れる。
平和な日常のスタートだ。
俺も進路を決めなければならない。
夜間の大学で良いやと諦めモードだ。
こうして一日が過ぎて行き。
朝方の四つ葉との時間を待つのであった。
聖女との恋物語は始まったばかりである。
二人の聖女から選べと申すか!!!! 霜花 桔梗 @myosotis2
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