セカンドエンディング

崎本奏

     セカンドエンディング


セカンドエンディング



フレイムアイスシリーズ第2作目


あらすじ

パラレルワールドからやってきた主人公の水崎海斗が6人の仲間と出会い、そして恋をして悲しんだり傷付いたりしながらも成長していく物語である。



登場人物


水崎海人

この作品の主人公。明るく正義感の強い青年で別世界で出会った加奈に一目惚れをして好きになってしまう。しかし心の中にある悲しみを背負っている。


火高加奈

美人だが暗い少女。当初は暗かったが海斗と出会った事で彼女は変わっていく。


電龍人

友好的で無邪気な青年。明るく優しい好青年で海斗が最初に出会う仲間であり海斗と共に行動する。


草麦胡桃

海斗に恋心を抱く少女で将来の夢は獣医。目的のためなら手段を選ばず人も平気で傷つけるなど冷酷な性格をしている。


風凪湖南

クールだが心優しい少女。彼女は自分が信じる道を突き進んでいく。


光楽人

努力家で親しみやすいがどこが問題のある青年でもある。


空川時

暴力的な青年で力こそが全てと考えるなど悪党な性格の持ち主。


鉄中椿

やさぐれた性格で高校生でありながら裏で商売をする人物。しかし彼はそれを正義であると考える。


エピローグ

 ある日、横断歩道で交通事故が起きた。

そして一人の少女は病院に搬送された。

そして緊急手術が行われる。

ドクターたちが必死に治療する中、少女はある夢を見る。


「兄貴!!なぜ俺たちを裏切った。なぜ彼女を傷付けた。兄貴!!」海斗は叫ぶ。

「これは世間に対する復讐だ。俺はこの世間を許さない。これは天罰だ」男は大笑いする。

「彼女は何もしていないじゃないか。むしろ彼女は俺たち家族の味方をしていた。なのに……それなのに」

「味方だろうが俺にとっては悪党だ。彼女を傷付けて世間に見せてやったんだ。お前たち社会が一人の女を傷付けたと」

男はどこかに歩いて行く。

「待てよ、兄貴!!」しかしその声は届かなかった。

そして男は暗闇の中に消えていった。

「兄貴……兄貴……うわぁぁぁあああ!!」海斗は悔しかった。悔しいあまりその場に倒れこむ。

青年が泣き叫んでいるとそこに一人に少女がやって来た。

少女は言った「あなたは1人じゃない。苦しい事があってもきっと誰かが手を差し伸べてくれる」

少女の励ましに海斗は少し心が癒えた。

海斗は少女の顔を見ようと顔を上げると目が覚めた。

海斗は夢を見ていた。



2月上旬のある日、大学の合格発表があちこちで行われていた。

海斗は家のパソコンから合格発表の一覧のサイトを検索し自分の番号を探す。

結果は不合格だった

海斗は一瞬にして生気が抜けた。今まで味わった事のないほどの挫折だった。

海斗は初めからその大学を志望していて1年間毎日勉強した。

時に心が折れ、時に逃げたくなってもそれでも負けずに努力した。

それなのに落ちてしまった。

そして海斗は考える。

一浪して来年またその大学を受験するかもしくは2次募集を受験してそして志望大学を諦めるか海斗は決断を迫られていた。

――あの出来事があるからもう駄目かも。

海斗は諦めようと考えた。

夜、海斗は部屋の椅子に座り考えていた

――これからどうしたらいいんだよ。

海斗の心から将来への希望は消えていた。

それでも足掻こうと努力したが結局、良い方向には変わらなかった。

そこに不敵な笑い声が聞こえた。

振り返るとそこには赤と黒の服を着た男が立っていた。

それは悪魔だった。

「あんたどこから入ってきた!」海斗は驚く。

「お前に良い話を持ってきたぜ。お前にまた最初から高校生活を送らせてやる」悪魔は海斗の耳元で囁く。

「何言っているんだ、あんた、早く出ていけよ、警察呼ぶぞ」海斗は怖がる。

「どうだ、高校生に戻る気はないか」悪魔は再度聞く。

「分かった!戻りたい!だから早く出ていけ」海斗は怖かったため適当に返事した。

「その願い聞き受けた」海斗の言葉を聞いた悪魔は手から赤い光線を放つ。

海斗が目を覚ますと朝になっていた。

見ると悪魔はいなかった。

「夢だったのか」海斗はそう思う。

しかし部屋の中をみると明らかに自分の部屋ではなかった。

「これはどういう事だ」海斗は混乱する。

とりあえず下に降りてみるとそこは知らない場所だった。

そして誰もいなかった。

「俺…誘拐されたのか」海斗は怖くなる。

とりあえずテレビをつけると日付が3年前に戻っていた。

海斗はさらに混乱するが悪魔の事を思い出した。

そして鏡を見るとある違和感を覚えた。

――俺、若返った?

海斗はまた困惑した。

――こんな非現実的な出来事が起きるなんて。

あまりの出来事に海斗は朝から驚きもう訳が分からなかった。

海斗がバックからパスモを探すとなぜがなかった。

ふと机の上を見るとそこには花式高校の受験合格の書類などがあった。

海斗は困惑した。

何故なら自分が行っていた高校とは違うからだった。

海斗は訳が分からないまま外に出る。

海斗は驚く。

何故なら家が変わっていて自分が住んでいた家よりも立派だったから。

海斗は分かっていたとはいえ驚いた。

海斗はとりあえず自転車に乗ってスマホの地図機能で調べながらその花式高校に行く。

そして到着すると海斗は驚く。

自分の行っていたボロボロの高校とは違い花が溢れる綺麗な高校だった。

そこに悪魔がやってきた。

「これはどういう事だ」海斗は悪魔に問い詰める。

「俺は時間を巻き戻すとは言っていない。ここはお前がもし別の高校に入学していたらの世界だ。だからこの高校はお前がもし元の世界で通っている高校を受験せずにこの高校を受けたらの世界だ。ただしここはもしもの世界ではなくパラレルワールドだ」悪魔は説明する。

さらに悪魔は話した。

「お前は気付いていないかもしれないがこの世界でお前は2週間徘徊した後に警察に保護されたものの名前も分からず身元も不明だったためお前をある団体が保護した。そしてお前がいた家は、その団体がホームレスなどのように帰る場所がないものがその時期だけ利用できるように提供されている家だ。つまりお前はこの時点で無意識のうちに一年間この世界で生きている。お前はその間にこの高校で受験をして合格した。それも勿論、無意識のうちに。そしてさっきお前を目覚めさせた」

「俺、もう一年以上もいたのか」海斗は不思議な感覚だった。

それを聞いた海斗は質問する。

「そういや何で悪魔がこのような不思議な事をするんだ? こういうのはだいたい天使とか妖精がする事じゃないか?」海斗は疑問に思った。

「悪魔だってやるときはやるんだよ」悪魔は不機嫌そうに返した。

「そういや俺の家族や友達は?」海斗が聞く。

「この世界にはいるかもしれないがいたとしてもお前の事は知らないだろう、何故ならこの世界はパラレルワールドだから同じ人間でも別の生活を送っている。そしてお前は今、パラレルトラベラーになったんだ」悪魔はそう言い去っていった。

「パラレルトラベラー?」海斗は何の事が分からなかった。

海斗が過ごす都立花式高等学校はチャレンジスクールの1つでチャレンジスクール初の医療を中心に勉強をする学校でありそして将来の医者を育成するための学校でもあった。

海斗はバックの中に入っていた花式高校のパンフレットを読んで思った。

――俺、医療には興味ないのに。というよりそもそも血や内臓を見るのも苦手なのに。

海斗は入る前からとても不安に駆られる。

海斗はとりあえず学校に入る。

すると初めて見る生徒ばかりだった。

海斗は不安だった。

――「お前誰だ?」「不審者?」とか言われないかな。

みんな海斗を見ていたが別に気にしていなかった。

「君、初めて見るけどもしかして今日が初登校日かな」

そう話しかけてきたのは電龍人だった。

「今日が入学式じゃないのか?」海斗が聞いた

「何言っているの、もう2週間ぐらいたっているけど」龍人は笑う。

「はぁ?」海斗は驚く。

――何でこんな中途半端なところからスタートするの? 普通は入学式からだろう。というよりもっと早く目覚めさせろよ。

海斗は今度悪魔に会ったら言おうと思った。

「まぁ何か困った事があったら言って」龍人は笑顔だった。

海斗は思った。

彼は親しみやすい人だと。

その時、海斗はある者を目撃する。

それは火高加奈だった。

しかし海斗は後ろ姿しか見ていないのに何故か分からないが彼女に興味を持ちだす。

そして海斗は彼女の側に行く。

「ねぇ君、名前は」海斗は加奈に話しかける。

その時、初めて加奈の顔を見る。

それは美しい顔立ちでまさに美少女だった。

海斗は一瞬にして加奈に一目惚れした。

海斗にとっては生まれて初めての気持ちだった。

その時、加奈は黙って教室から出ていった。

海斗は少しショックを受ける。

休み時間、加奈は屋上で座っていた。

そこに海斗がやってきた。

そしてお互い存在に気付く。

加奈は嫌がっているような感じに海斗は見えた。

「しかし今日は朝から色々驚いたな、驚きすぎて疲れた」海斗は何となく話しかける。

「何で私に話しかけるの?」加奈は怒っているようだった。

「別に話しかけていないよ、ただ独り言を言っていただけだよ」海斗は言った。

加奈は不機嫌そうだった。

すると海斗は真面目に話し出した。

「俺、別世界からやってきた人間なんだ、だからこの世界ではほどんと生きていないんだ」

「意味が分からない」加奈は海斗を拒絶しているようだった。

海斗もなぜここまで冷たくされるのか分からなかった。

「面白いね、君」そこに龍人がやってきた。

「別世界からやってくるなんてファンタジ―だね」龍人も冗談としか思っていなかった。

「信用できなくでも仕方ない。普通に考えてこんな事あるわけないんだし」海斗は寂しそうに返した。

「そういえばここは医療の学校だけど2人も医者になりたいのか」海斗の質問に龍人は答えた。

「俺は昔、交通事故に遭ったんだがその時に救急車が来て隊員たちが俺を励ましてくれた、そして俺の担当医は俺を毎日励ましてくれた、そんな先生に憧れて俺はドクターになる夢が出来たんだ。そして俺は小児科医を目指している」龍人の話に海斗と加奈は惹かれてしまった。

「私もたくさんの人を救いたいと思ってこの道に進むことに決めたの。私は看護師になりたいと思っているの」加奈も話した。

「いいね、2人とも俺なんて自分の事ばかりで人の事なんてどうでも良いと思っているのに、あんたらは偉いよ」何故が海斗は変な事を言うため。しかし海斗の言葉に加奈と龍人も何故か面白く感じた。

「お前は夢ないの?」龍人は聞く。

「俺はないな。でも正直医療の道には進まないな」海斗はそう言う。

「何でだよ」龍人は笑顔で聞く。

「だって責任重いじゃん。命を救うって」海斗はそう返した。

「じゃあなんてこの学校入ったんだよ」龍人は笑う。

加奈も笑顔になる。

「いいじゃん。お前の笑顔」海斗は加奈の笑顔を見て言う。

加奈は表情を戻す。

しかし3人はそんな会話をして少し打ち解けた。

放課後、海斗が玄関に行くとそこに加奈がいた。

「よぉ、誰が待ってんのか」海斗は話しかける。

「別に……というより友達いないから一緒に帰る人いないんだけど」加奈は悲しそうだった。

「なら一緒に帰ろう」海斗は加奈の手を握る。

「ちょっとやめてよ」加奈は抵抗するが海斗は歩き出し一緒に帰る。

加奈は緊張していた。

男と付き合ったことがなければ遊んだこともない加奈にとって初めての出来事だった。

しかし加奈は海斗に心を開いてもいいかと考えていた。

その日以降、3人は少しずつ関わっていくようになった。

海斗が屋上に行くとそこに加奈がいた。

「しかし今日は天気が良いな」海斗は笑顔で言う。

「そうだね。とても良い天気だね」加奈が一瞬笑顔で言った。やはりすぐに表情は戻ったが加奈も少しずつ会話が増えていた。海斗もそれをうれしく感じていた。



海斗は龍人と加奈とキャッチボールをしていた。

加奈はとても楽しそうだった。

最初の頃と比べて3人の中で友情が生まれていた。

昼休み、加奈が屋上で休んでいるとそこに草麦胡桃がやってきた。

彼女は美貌の持ち主で学年の番長的存在でもあった。

「火高さん、悪いけど今後海斗とは関わらないでくれないかな」

「何で」加奈は驚いてしまう。

「私は海斗が好きなの、それなのに海斗はあなたとばかり一緒にいて他の女子は気にもしない、このままじゃ海斗は手に入らない、だからよ」胡桃はいじめっ子のように話す。

「それは嫌だ、意味が分からないしそれに海斗は私の友達だけど私は海斗と恋人関係になりたいとは思っていないわ」加奈は胡桃の言葉を拒否した。

「そんな事信用できるわけないでしょう、それにあなたには海斗じゃなくて楽人の方がお似合いよ」

それは光楽人の事だった。

名前のかっこよさとは裏腹にメタボ体形で眼鏡をかけていて不潔だったため入学してすぐにクラスから嫌われその結果、海斗が来る前に不登校になっていた生徒だった。

胡桃はそんな楽人を見下ろしていた。

「あのデブ、あの見た目でよく入学してすぐに私に告白してきたものだね、もう少し自分の身の程を知るべきなのよ。だから『何であなたみたいなゴミと付き合わないといけないの』と言ってやったの」胡桃は楽人の悪口を笑いながら話す。

「あなたドクターを目指しているんじゃないの」加奈は勇気を出して言った。

「何が言いたいの」

「ドクターは人の命を救い悲しみを消して笑顔にするのが役目、でもあなたは人を平気で傷つけてそして今、笑っている。そんな人が将来、命を救うとは思えないわ」加奈は感情的になる。

加奈の言葉に胡桃は怒り出す。

「あなたこの分際で私に立てつく気なの」胡桃は挑発する。

「もういいわ」胡桃はその場を立ちろうとした時、加奈は呼び止めた。

胡桃は振り向く。

「あなた将来何になりたいの?」

「獣医よ、でも何でそんな事聞くの」胡桃が聞き返した。

「あなたが何を目指しているのか気になって」

胡桃は立ち去った。

しばらくすると入れ替わりで海斗がやってきた。

「どうした、そんな顔して」海斗は心配の声をかける。

「何でもないよ」加奈はそう返す。

授業が始まりみんな席に着く。

この日は映像を見る内容だったがその映像が助産師の映像だった。

加奈は思った。

なぜ生まれてくる時は可愛いのに大人になると性格が悪くなったりするのかと。

加奈は胡桃の件もあってそう考えてしまう。

放課後、加奈が校庭にいるとそこに胡桃がやってきた。

「火高さん、あなたに協力してもらいたい事があるんだけど」胡桃は何故が加奈に頼み事をする。

「何」加奈は警戒する。

「あなたが海斗の目の前で私をいじめて、すると海斗は私を助ける。そうすればそれがきっかけで私と海斗は結ばれるのよ」胡桃は笑顔で話す。

それは目的のためなら他者が傷つくのも気にしないまさに冷酷非道の人間だった。

「そんな事出来るわけない。第一そんなことしたら私は友達を失うだけじゃないの」加奈は反論し断る。

「あなた、失うものがないからいいじゃないの。それにここにはたくさんの生徒がいるのよ。いくらでもあるんだからいいじゃないの」胡桃はまるで人を物のように話した。

「そういう問題じゃないよ、自分の幸せのために他人を利用しようとしているのが嫌なの。というよりそんなことしてたらいつか海斗どころが誰からも相手にされなくなるよ」加奈はそう反論する。

胡桃は加奈を睨みつける。

「あなた意外と挑発的ね」胡桃は怒りそうだった。

「他人を利用して自分が幸せになる、そんなのドクターを夢見るものがする事じゃない」

すると胡桃の態度が変わる。

「あなた勘違いしているけど私は動物の命を救いたいからドクターになりたいんじゃない、ドクターになれば社会的権力が上がるからなりたいのよ、別に死のうが生きようがどうでもいいのよ」

胡桃の発言に加奈は怒りがこみ上げる。

加奈は思わずそこに置いてあった空き缶を胡桃に投げつける。

「何するのよ」胡桃は怒る。

「あなた最低よ、もう顔なんか見たくない」

そこに海斗と龍人やってきた。

「何しているんだ」海斗は警戒する。

「別に何でもないよ」胡桃はそう言うと海斗に聞いた。

「あなたどんな女がタイプなの」胡桃は何となく聞く。

「俺は特にこれといってないな、ただ楽しければいいだけだし」海斗は明るく返答する。

「そう……」胡桃は去っていった。

「胡桃と友達なの?」龍人が聞く。

「違うよ」加奈は否定する。

「何かあったのか?」海斗が心配する。

「別に何でもない」加奈はその場を去っていった。

海斗は何かあったなと勘付いた。

加奈はこの一件で胡桃が嫌いになった。

夕方、胡桃は屋上にいた。

胡桃はどうしたらさらに強い立場になれるのか考えていた。

胡桃はそれほどにまで強さにこだわっていた。


ある日の帰り道、海斗と龍人、加奈が歩いていると龍人は体験入部の話をする。

「2人も明日何か体験入部しないか?」龍人は誘う。

「いいね、やろう」海斗はそう返すが加奈は迷う。

加奈は中学校で部活動に入っていなかったため部活を体験した事はなかった。

しかし加奈は部活動に興味を持っていた。

「加奈もやろう」

「分かった、体験入部だけでも行ってみる」

翌日の放課後、3人が手芸部の教室に入るとそこに風凪湖南がいた。

彼女は上品で優しそうな女だった。

「君も体験入部」龍人が聞くと。

「いやもう入部しているから部員よ、でも私含めて4人らしいよ」湖南は返答した。

「4人なの」海斗は驚く。

「そう思うでしょう。しかも内3人は受験があるから毎回来ているわけじゃないらしいよ」湖南はそう説明する。

もはや自由解放状態だった。

「寂しいものだな、まぁいいか」海斗は開き直る。

湖南は3人に針と糸などを渡す。

早速試しに作ってみる。

しかし海斗は何を作ろうか思いつかずずっと考えていた。

龍人は何故かカマキリの袋を作っていた。

「何でカマキリなの?」加奈が疑問を言う。

「カマキリが好きだからな」。

すると湖南が三人に話しかけた。

「三人は何が夢あるの?」

「俺はいつかドクターになってたくさんの人を救いたいと思っているんだ」

「私も同じよ」

龍人と加奈はそう返す。

「俺は別世界から来たからまぁ成り行きで花式高校に入ったっていう感じだな」

海斗はまだ別世界からやってきた事を言った。

『またこの話か』加奈と龍人は思った。

「何それ」海斗の発言に湖南は笑う

。湖南も信じていなかったが海斗は湖南とも距離が縮まったように感じた。

そして夕方4人は部活を終え一緒に帰る。

「どう、入部する?」湖南は3人に聞く。

「面白そうだから入ってみる」海斗はそう返した。

「俺も入るか」

「私も入部する」加奈と龍人もそう返した。

「分かったわ」湖南は嬉しそうだった。

そして海斗にまた新しい友達が出来た。

翌日、海斗が入部届けを提出しに行こうとした時、そこで湖南とすれ違う。

海斗は思い出したように湖南に聞く。

「そういえば君は何でドクターになりたいの」

前回、湖南はみんなにそれを聞いていたが湖南はそれを言い忘れていた。

「私は助産師になりたいと思っているの、生まれてくる命を支えたいと思って」

「そうか」海斗は理解した。

「みんな偉いな。誰かのために働きたいだなんて」海斗は前と同じ事でまだ感心する。

「あなた面白いね。本当に別世界から来たんだね」湖南は冗談のつもりで信じる。

しかし海斗は笑顔だった。

そこに胡桃がやってきた。

「あなたたちそこで何やっているの?」

海斗と湖南は胡桃に気付く。

「別にただ話しているだけだ」

海斗はそう言うが胡桃は気に食わなかった。

胡桃は湖南に対して警戒心を向けようとしていた。

それは海斗を取られないために。

そこに加奈がやってきた。

加奈を見た胡桃は立ち去った。

すると加奈は胡桃を追いかけた。

「あなたもしかして今度は湖南に目をつけているの」

「そうよ、海斗は私と付き合わないといけない。湖南は私にとってかなりの脅威になる気がするから」胡桃の言葉に加奈は呆れた。

「……あなた勇気がなさすぎるのよ」加奈が呟く。

「何言ってんのよ」胡桃は動揺する。

「だって海斗と付き合いたいとかそんな事言っているくせにあなた海斗と関わろうとしないじゃない」

「それは……」胡桃は言葉が出なかった。

「あなたは勇気がないのよ、勇気がないから今の状況が変わらないのよ」加奈は主張する。

「馬鹿にしないでよ」胡桃は去っていった。

しかし加奈の言葉は胡桃に響いていた。

――自分は海斗に振り向いてもらう事よりも周りの障害を排除しようとしている事を優先している。

胡桃の弱い所それは前に進もうとせず誰かを妨害して自分と同じ立ち位置にするだけという無意味な事しかしていないことだった。



海斗と加奈、龍人は放課後、忘れ物をしたため体育館の中に入る。

するとそこにはボロボロの生徒と空川時がいた。

生徒は時に挑むが時は後ろへはじき飛ばす。

生徒はまた倒れる。

3人は生徒のそばによる。

「何でこんな事する」龍人は激怒する。

「こいつが陰で俺を侮辱していると聞いたからだ。だから問い詰めたら襲って来たんだ」時は悪びれた様子はなかった。

「お前将来医療の道に進むんじゃないのか」龍人はそう強く言う。

「そんなの興味ねぇな」時はそう返した。

龍人は怒りがこみ上げる。

「落ち着け」海斗が龍人に言う。

「俺に挑むなら相手になってやる。ただし容赦はしないが」時は去っていった。

その後、3人は数日前に先生に教えてもらった処置で生徒の手当てをしてあげる。

生徒は悔しそうだった。

海斗たちは時を危険視する。

3人が手芸部の教室に入るとそこに湖南がいた。

「どうしたの、元気なさそうだけど」湖南は心配する。

海斗は迷うが体育館での出来事を話した。

すると湖南は意外な事を話した。

それは時は強さに執着する人間で時に屈服し手下にされていたり恐れている生徒もたくさんいた。

さらに自分を侮辱するような者は誰だろうか容赦せずに圧力をかけたり怖がらせたりするなど力で人をねじ伏せようとする性格だった。

しかしその事実は学校側で知られてはいない。

「何でそんな奴がこのチャレンジスクールにいるんだ」海斗は驚きながら言う。

「審査が甘いから本来条件に当てはまらない人でも入れたりするのよ」湖南はそう説明する。

「でもそんな人が将来ドクターになると考えるととても嫌だ」加奈は胡桃と同じく時に対しても不快感を持っていた。

「止めるしかないな」龍人はそう決意する。

「でもどうやって止めるんだ?」海斗が聞く。

「それは内緒だ」龍人にはある考えがあった。

翌日、海斗と龍人が屋上にやってくると時が他の生徒の胸倉を掴んでいた。

「お前、俺を簡単に潰せるらしいな」

時の迫力にその生徒は半泣き状態だった。

周りには女子生徒も何人かいた。

「やめろよ」海斗は時からその生徒を離す。

「邪魔するなよ」時が怒る。

「お前、何で人を力でねじ伏せろうとする、人を傷つけるなんてドクターのする事じゃない」

海斗の言葉に時は笑い出す。

「ドクターとかどうでもいいんだよ」時はそう言い立ち去った。

「大丈夫か?」海斗は生徒に寄る。

しかし生徒は悲しそうだった。

「好きな子の前で泣きそうになるなんて…」生徒はそう小さな声で言う。

龍人は怒りに燃える。

――人の心と体の救うのがドクターだ、それなのにあいつがやっている事はドクターどころが人の未来を貶す行為だ。

そして海斗にもその生徒の気持ちは痛いほど分かった。

もし自分が加奈の前で半泣きになっていると想像するととなおさらだった。

放課後、海斗と龍人、加奈は時を屋上に呼ぶ。

「お前、さっきお前のしたことで1人の生徒に深い心の傷が出来た」海斗の言葉にも時は何の反応もしなかった。

「力の強い者が繁栄し弱い者はゴミとして屈服する、それが現実だろ」時の発言に三人もさすがに呆れた。

もはらドクターを夢見ることも失礼なぐらいだった。

「なぜそんな事考える?」

「俺は学んだんだよ。中学校で」時は立ち去った。

「中学校……」海斗が疑問に思う。

龍人が帰ろうとした時、そこに昨日殴られた生徒がやってきた。

「昨日は手当してくれてありがとう、君包帯の付け方うまいね」

「別に、というより基礎中の基礎じゃん」

龍人は言うと生徒は海斗にある頼み事をする。

翌日、時が体育館に行くとそこに海斗と龍人、加奈がいた。

「まだ何の用だよ」時は面倒くさそうだった。

すると龍人は言った。

「俺と勝負しようぜ、もし俺が負けたらお前の手下になってやるからよ、ただし俺が勝ったら俺の言う事を聞け」

それを聞いた時は笑顔になる。

「面白い、いいぜ、瞬殺してやる」

時は自分が勝つだろうと思っていた。

そして時は不意打ちで龍人にパンチをするが龍人はそれを避けて時を転ばせる。

海斗と加奈、時は驚く。特に時にとっては予想外だったため。

時は今度は掴みかかるが龍人は時の手首を掴み握り絞める。

時は苦しみ出す。

龍人が手を離すと時は倒れこむ。

「お前……」時はビビっていた。

「なぜ殴らない」時が聞くと龍人は答えた。

「これは誰かを助けるために鍛えた力だ。喧嘩のために鍛えた力じゃない、それにドクターを目指す人が血を出させちゃいけないだろ」

「……」

「分かっただろ、今までお前がやってきた事を。やられたみんなはお前と同じがそれ以上の痛みや精神的な傷を負わされたんだよ。」

時は悔しそうだった。

すると海斗が聞いた。

「お前は何でそこまで強さにこだわる?」

「……俺は中学校でいじめられていた」海斗たちは予想外だった。

時がいじめられていたことに。

「俺は不良たちにいじめられていた。毎日殴る蹴るなどの暴行を受けて……それで俺はやがて学校に行くのをやめた。でもせめてそいつだけには復讐をすることに決めた。その日から俺は毎日トレーニングをした。そして学校に行った。そこで俺をいじめていた奴をボコボコにしてやった。その日以降俺は誰にもいじめられなくなった。そして気付いた。力が強い者は素晴らしいと。強い奴は何でも思い通りになると」

それを聞いた加奈は疑問を抱く。

「でもそんな短期間で強くなれるものなの?」

「その同級生は悪魔病が進行したらしい。だから肉体が弱体化した。そこを俺が殴ったんだ」

「お前、病人を殴ったのか?」龍人は驚きながら聞く。

「そうだ、でも問題ないだろ、俺はあいつに毎日いじめられたんだ。殴ったと言ってもあいつはその百倍俺を殴ったんだからな」話を聞いて龍人は時の胸倉を掴む。

「お前のやっている事はそいつとさほど変わらない。確かにお前の気持ちも分からなくない。でも暴力に暴力は更なる暴力しか生まない」

「話を聞いてたか? あいつは俺がやった百倍俺を殴った」

「数の問題じゃない。それが百回だろうが一回だろうが殴ったらその時点で駄目なんだ」龍人はすぐに反論した。

時は龍人の手を解く。

「だったら俺のこの心の痛みはどうしたら良いんだよ」

「俺たちがお前を支えてやるよ、友達として」

「友達? ふさげるな」

「ふさげていない、友達が側にいればお前の心も少しは癒されるんじゃないのか?」

それを聞いた時はしばらく考える

「お前が喧嘩が強いのは認める。だからその強さで弱い者や困っている者を守ったり救ったりするのはどうだ。それで感謝される方が嬉しいだろ。それが俺の約束だ」

龍人の言葉に時は思い出した。

――人を屈服させても誰にも喜んでもらえないし強さを認めてももらえない、自分のしている事は何の意味もない

「良いだろう、だが俺が負けたことは言うな」

「言わないし興味もないから安心しろ」

海斗と加奈も安心する。

そして時は海斗たちの仲間になった。



もうすぐ夏休みになろうとしていたある日1人の生徒が登校した。

そして海斗と龍人、加奈の教室に入る。

みんなその生徒に注目する。

「あいつ誰だ?」海斗が龍人に聞くが龍人は固まっていた。

そして加奈も固まっていた。

しばらくすると湖南もやってきた。

「湖南、あれ誰だ、みんな固まっているが」海斗が聞くと湖南は答えた。

「楽人だよ」海斗は名前を教えてもらっても分からなかった。

そこに胡桃も慌ててやってきた。

「嘘でしょう」それはかつて自分が見下だしていた光楽人だったがその姿はメタボ体形から細身の体系になり清潔でイケメンというとても同一人物とは思えないほど変わっていた。

性格も前は弱久しさがあったがそれはなくなり明るく爽やかな好青年のようになっていた。その日から楽人は女の子から王子扱いされ人気者になった。

数日後、屋上で海斗と龍人、加奈が集まっていた。

「しかし楽人、凄い人気者だね」

「いいな、あの人、あんなにモテて」海斗は羨ましかった。

そこに楽人がやってきた。

「久しぶりだね龍人、でも君は」楽人は海斗を知らなかった。

しかし龍人が紹介すると楽人は笑顔で挨拶をする。

「しかし君いいね、凄いモテて」

「そんなことないよ。でもダイエットは大変だったし常に身だしなみに気をつけなきゃいけないから気が疲れたよ」

するとそこに湖南がやってきた。

「みんな何しているの?」

その時、湖南を見た楽人は一瞬にして心が麻痺した感覚に襲われる。

楽人は湖南に一目惚れしてしまった。

クラスが違うため顔を覚えていなかった上にいつも陰にいたため楽人は湖南を初めて見た。

一方、胡桃は後悔していた。

まさか自分が見下していた楽人が学校の人気者になると思わなかったため。

胡桃は楽人を手に入れようと考える。

翌日、海斗と加奈、龍人が屋上にいるとそこに楽人がやって来た。

「あれ? 風凪さんは」楽人が聞く。

「今日は休みだよ」加奈が返す。

「そうか…」楽人はがっかりだった。

湖南がいると思って屋上に来たのだから。

そこに時がやって来た。

「お前は?」時も楽人を覚えていなかった。

「俺は光楽人だ。まぁしばらく学校休んでいたから覚えていないのも仕方ないけど」楽人は笑顔で言った。

「そうだ」時は理解した。

そこに胡桃がやってきた。

楽人は前回の事もあって胡桃に警戒する。

「楽人君、この前の返事だけど…」胡桃は手の平を返すように話しかけてきた。

「お断りだよ」胡桃が話している途中で楽人が口を割った。

「君は告白した僕に対して酷い事を言ったじゃないか、それで僕はとても傷ついた。それがきっかけで僕は学校に行けなくなった、君は僕にあなたの命に価値がないと言ったじゃないか」

楽人は自分の味わった苦痛を話した。

そしてそれを初めて知った海斗と龍人そして胡桃をあまり知らない時は驚く。

しかし加奈は前から知っていたため驚かなかった。

胡桃は悔しそうな表情だった。

そして無言でその場を去っていった。

加奈は胡桃の事が分からなくなっていた。

一体、海斗か楽人どっちが好きなのか。

そして胡桃は教室で机に手の平をつけ下を向いていた。

胡桃は後悔した。

想定外の出来事にショックを受けていた。



海斗と龍人、湖南が手芸部で作品を制作していると教室に楽人が入ってきた。

「楽人、お前も入部したのか?」海斗が聞く。

「おぉなんか楽しそうだし」

しかし楽人が入った理由は本当は自分が好きな湖南がいたからだった。

「じゃ道具出すね」湖南は道具を集めて楽人に渡す。

楽人はドキドキしていた。

「ありがとう」と言って受け取る。

そこに時が教室に入って来た。

「あなたも入部するの?」湖南は悪い噂もあって警戒した。

「いや、ちょっと暇だから海斗たちと話に来た」

「しかし胡桃って何を考えているのかな」時は何となく言った。

「俺も分からない、彼女が一体どういう人なのか……でも驚いた。まさか彼女が楽人が不登校になったきっかけをつくっていたとはな」海斗は返答した。

二人はそんな会話をする。

「そういえば今日は加奈休みなんだな」海斗が言う。

「そういやそうだな」龍人は返す。

その頃、加奈はお墓参りをしていた。

お線香を焚きお墓の前で手を合わせる。

「あれから1年経つんだね」加奈は悲しそうだった。

その頃、胡桃は学校で飼っているウサギを見ていた。

ずっと楽人の事を考えていた。

しかしその心には好きという感情より惜しい事をしたという感情の方が強かった。

そこに時がやってきた。

「この間の話、偶然聞いたがお前随分酷いこと言うな~命に価値がないのは駄目だろ。俺でもそんな事言わないのに」

「うるさいわね」胡桃は怒り気味に言いながらもウサギを見ていた。

「最近このうさぎ元気ないんだけど」胡桃は心配する。

「……そのウサギ、もうすぐ病気で死ぬらしい」

胡桃は驚く。

どうりで最近元気がないと思った。

「獣医に見てもらったがもう手の施しようがないらしい」

時の言葉に胡桃はショックを受ける。

嫌な事があって傷ついた時いつもウサギに励ましてもらっていた。

そんなウサギがもうすぐ死ぬとなると悲しく思えた。

そこに墓参りから帰って来た加奈がやってきた。

「いつもここにいるよね」加奈は何となく話しかけた。

「別にいいじゃない」

「あなたは誰が好きなの? 海斗だと思えば前に出ず楽人だと思えば前に出る、あなたは何がしたいの?」加奈は問いただす。

「あなたに関係ないでしょう」

しかし胡桃は気付いた。自分はただ価値のある人のそばにいたいと。

しかし海斗では前に出る事が出来なかったが楽人は勇気を出して前に出る事が出来た。

それは今楽人が周りの人たちから人気があるからその楽人の側にいたいだけで別に好きじゃないという事を。

その時、ウサギがさっき以上に動かなくなった。

胡桃は慌てて小屋の中に入ってウサギに触る。

そして何とか治療しようと考える。

「もうやめよう」と加奈は止める。

「何言っているの」胡桃は怒る。

「獣医でももう助からないと言っていたのよ、それなのにあなたに何が出来るの?」

胡桃は信じたくなかった。

「みんな命があるのよ、だから助かる命もあれば助からない命もあるのよ。でもそれを受け止めていかないと」

加奈の言葉を聞いた胡桃は受け入れる事にした。

そしてウサギはその日の内に亡くなった。

胡桃は命の価値がないと言った自分を深く攻めた。

それは実際に目の前で命が消えたからこそ思えた事だった。

翌日、胡桃は屋上で落ち込んでいた。

そこに6人がやってきた。

「これ以上1人になる事なんてないよ、そんなのただ苦しいだけじゃない。それに……あなたはちゃんと命の価値が分かっているんじゃないの」加奈は言う。

胡桃は加奈の説得に迷う。

「命に大きいも小さいもないのよ、ただ一緒にいて楽しければそれでいいんじゃないの」

すると胡桃は口を開いた。

「……私はまだ誰かと手を取りあえるかな」胡桃は聞いた。

「出来るよ」加奈は笑顔で言った。

その時楽人も言った。

「お前に酷い事言われて俺は傷付いた。でももしお前が酷い事言ってくれなかったら俺は痩せでもいなかったしずっと1人だったと思う。これで御相子でいいだろ」

楽人にとってはある意味胡桃が自分を変えてくれたきっかけでもあった。

その時、海斗が口を開いた。

「胡桃、お前は酷い事を言って人を傷付けたかもしれない。でもお前はその事に対し反省しているならまだやり直せる。それに俺の兄も胡桃と同じだった。でも兄は悪魔になった。だから胡桃にはそうなってほしくない」それを聞いた6人は驚く。

「どういう事?」胡桃が聞く。

「別に大したことではない」

海斗の言葉に6人は聞きたかったが敢えて聞かなかった。

そして胡桃は決めた。

「いいわよ、あなたたちと友達になってあげる」

加奈は喜ぶ。そして海斗たちも笑顔になる。

しかし加奈は気になった。海斗の話が。


胡桃が仲間になったが加奈はこの前の海斗が気になった。

放課後、海斗が帰っているとそこに加奈がやって来た。

「加奈」海斗は驚く。

「海斗……この前のお兄さんの話聞かせてくれない」加奈は勇気を出して聞く。

「別に大したことはない」海斗は言うが加奈は教えてほしいと頼む。

そこに胡桃もやって来た。

「海斗、この前の話教えて」胡桃も加奈と同じく頼む。

加奈は思った。なぜ胡桃も聞きたいのかと。

海斗は考える。

そして考えた結果、海斗は話し始めた。

海斗は光島で生まれた。

その島は少し都会要素が少ないだけで人はたくさんいて生活で不便に感じるところもあまりなかった。

そして海斗の父親の亮は光島のドクターであり街の人々からも信頼を寄せられていた。

母の静香も看護婦だったが結婚後は仕事をやめ長男の高馬、次男の天都、妹の柚子がいた。

海斗は兄弟の中では三男であり、家族は平和に暮らしていた。

しかしある日、悲劇は起きた。

父親の亮はある手術に失敗し患者を死なせてしまった。

そしてそれが原因で街の人々からの信頼は失い批判をされていた。

海斗と柚子は毎日来る批判に怯えていた。

電話も出る事が出来なくネットも使いたくなかった。

何故なら電話やネットでは批判や中傷などを言われたり書かれたりしているためだった。

海斗たちはそれを聞くのも見るのも嫌だった。

――わざとじゃないのに何でここまで

海斗は悲しかった。

「大丈夫だ。俺が側にいる」長男の高馬は海斗と柚子を励ます。

しかし高馬は考えていた。

――これから天都たちは幸せになれるのだろうか

高馬は3人の事を思うと不安だった。

静香も疲れ切っていた。

「母さん、大丈夫だよ。きっとすぐに収まるよ」高馬は家族を励ます事しか出来なかった。

それが数日間続いたある日、亮への処分が決定した。

それは1年間の医療活動の停止だった。

すると街の人々は前よりまして亮を批判した。

処分に納得がいかなかったため。

「私、学校に行きたい」柚は呟く。

「学校に行ったっていじめられるだけだ」次男の天都は柚子に言う。

海斗たちは家から一歩も出られないでいた。

「どうしたらいいんだろ」高馬は思わず声を出す。

亮は黙っていた。

「そもそも父さんのせいでこんな事になったんだ」天都は亮を責める。

「やめろよ、家族じゃないか」「そうよ、天斗落ち着きなさい」高馬と静香は天都を宥める。

そのとき、インターホンが鳴った。

天都がドアを開けるとそこには井波訪花がいた。

訪花は天都の恋人であり島の人々から批判されても彼女だけは天都の味方だった。

そして海斗たちの面倒も見てくれた。

海斗たちにとっては姉のような存在だった。

「訪花、何している」

「ケーキ買って来たよ」訪花は笑顔だった。

「今、こんなときに俺の家に来るなんて」天都は呆れた。

「こんなときだから来るんだよ。それに私たち付き合っているんだしそれにお母さんとか疲れているんでしょ」訪花は聞く。

「確かに疲れているけど…」

「だったら私も何が出来る事をやってあげるよ。お父さんがいつも天都のお父さんに優しくしてくれているし」

「訪花」天都は態度は悪かったものの心の中では感動する。

そして訪花は周りからの批判も無視し毎日水崎家に来て家事をする。

柚子は訪花をお姉さんのように甘え海斗は訪花に勉強を見てもらっていた。

「訪花さん本当は嫌なら来なくてもいいんだよ。俺が天都たちの面倒を見るから」高馬は訪花を気にかけて話す。

「いいえ、私は天都の事を愛しています。だから天都と同じぐらいに天都の家族の皆さんも守っていかないと」それを聞いた高馬は有難く思った。

天都も同じだった。

結婚もしていないしそれどころか自分と別れても良いのにそれでも自分の事を思ってくれていて天都は嬉しかった。

しかしある日、高馬が道路を歩いていると突然トラックが突っ込んできて高馬は亡くなった。

海斗たちは悲しむ。

ただでさえ多くの人からの批判や嫌がらせがあるのにそれに加えて高馬が死んでしまうのだから。

何より家族を支えてくれた高馬を失ったのだから。

しかし一方で批判や嫌がらせは収まらないでいた。

海斗たちは引き続きそれに耐えなければならなかった。

そして夜、悲劇が起きた。

「うわぁぁぁ」夜の街に悲鳴が聞こえた。

街の人々が駆け付けるとある家が燃えていた。

さらに別の方向を見ると他の家も燃えていた。

海斗たち家族も駆けつける。

すると後ろで爆発音がした。

振り返るとそこには天都がいた。手には灯油とライターを持っていた。

「兄貴」海斗は驚く。

人々が逃げる中、天都は次々と灯油をかけてライターで火をつける。

そして次々と家やマンション、森などが燃えていく

島は悲鳴を叫びに包まれる。

しばらくすると当たり一面火の海と化す。

街はパニック状態になった。

「やめろ、天都」亮は叫ぶ。

海斗は柚を後ろに隠す。

「これは正義だ。これ以上悲劇を生まないための」天都は無表情だった。

「違う、こんなの正義じゃない」亮は言う。

「元々はあんたから始まった事だ」

天都は亮の側によると天都は突然煙のように消えた。

亮は驚く。

「やめて、お兄ちゃん」柚は泣きながら訴える。

海斗が遠くを見るとそこには訪花が倒れていた。

ただでさえ傷付いていた海斗の心はまた傷付いた。

海斗は天都を探すため町を走る。

すると天都を見つけた。

「兄貴!!なぜ俺たちを裏切った。なぜ彼女を傷付けた。兄貴!!」

「これは世間に対する復讐だ。俺はこの世間を許さない。これは天罰だ」天都は大笑いする。

「彼女は何もしていないじゃないか。むしろ彼女は俺たちの味方をしていた。なのに……それなのに」

「味方だろうが俺にとっては悪党だ。彼女を傷付けて世間に見せてやったんだ。お前たち社会が一人の女を傷付けたと」天都は言った。

「でも父さんや兄貴、柚子を傷付ける必要はないだろう」海斗は叫ぶ。

「多少の犠牲は仕方ない。平和な世界を実現させるためには犠牲はやむおえないからな」

「兄貴……」

天都はどこかに歩いて行く。

「待てよ、兄貴!!」しかしその声は届かなかった。

男は暗闇の中に消えていった。

「俺は兄貴を絶対に許さない。いつか必ず兄貴の復讐する」海斗は叫ぶ。

「兄貴……兄貴……うわぁぁぁあああ!!」青年は悔しかった。悔しいあまりその場に倒れこむ。

「何でなんだよ。家族なのに。俺は……」海斗は今まで味わった事がない、さらに言えばこれから先、味わう事もないであろうほどの悲しみを経験した。

そして町は救急車のサイレンの音で包まれた。

翌日、この惨劇はニュースとして取り上げられた。

それは医療ミスを犯して批判されたドクターの息子の復讐というネタとして。

島は焼け野原になってしまいまるで別の島のようになってしまった。

警察は天都を探すがしかし結局見つからなかった。

そして光島の住人は全国から批判の対象となった。

それはこの事件をきっかけに光島で海斗たち家族への必要以上の批判や嫌がらせなどの問題が発覚し被害者であるはずの光島の住人は加害者のような立場となった。

逆に天都に対しては加害者であるにも関わらず同情の声も多くあった。

そしてそれがきっかけで犯罪者の身内に対する批判や差別などの問題が一気に表面上で現れそしてその結果、前よりもその問題に対する対策が重視された。

天都のやった事は皮肉にも社会の問題が見直される結果となった。

皮肉にも天都のやった事が社会の問題を見直す結果となった。

しかし海斗にはそれが心の傷として残ってしまった。

その話を聞いて加奈と胡桃は言葉が出なかった。

「兄貴は俺の家族、恋人、そして多くの人を傷付けた。それを正義と言って」海斗は辛そうだった。

「光島は知っているけどでもそんな話聞いたことない」胡桃は言った。

「俺は別世界から来ている。だからその光島もこの世界ではなく別世界の事だ」海斗は説明する。

「別世界だなんてそんな」胡桃は海斗がふさげていると思う反面、本当かもしれないとも考えた。

「そんな事が」

加奈は海斗が別世界から来た事は信じていないがしかし海斗が味わった惨劇は信じていた。そして思ってもいない話を聞いて動揺する。

「でも私は海斗がどんな人であっても関係ない」

加奈の言葉を聞いて海斗は思わず振り返る。

「だって海斗は私の友達だから。だから海斗がどんな人であっても関係ない」加奈は海斗の顔を見て言う。

「ありがとう、加奈」海斗は嬉しかった。

最初は自分を拒否していた加奈が自分にこんな事を言ってくれるときが来たからだった。

しかし胡桃が言った

「でもその出来事、私が住んでいた町にもあった。」

「どういう事?」海斗が聞く。

「私の住んでいた町でも同じような事件があったの。大火事によって多くの人が負傷した事件が」胡桃は辛そうに言った。

海斗は思いたくないがある事が頭をよぎった。

――まさか兄貴がこの世界に。

それを思うと海斗は怖くなった。



先生が生徒たちにお知らせをする。

それは1週間後の授業で実際に医者として活動している人が話を志に来てくれるというものがあるという事だった。

放課後、海斗は龍人と加奈と帰ろうとした時、そこに胡桃がやってきた。

「私も一緒に帰っていい」胡桃が聞く。

「いいよ」加奈は返答した。

しかし加奈と胡桃は海斗の話を聞いて何が嫌な気分だった。

海斗も同じだった。

まさか兄の天都がこの世界でも同じ事をしているのではないかと考えると。

しかしそれを龍人や湖南などは知るはずもない。

そして4人で帰る。

「今日は眠かったな」龍人はのんきに言う。

「そうだな。今日は良い天気だったからな」海斗もそう返す。

そんな会話をしている一方、ある不気味なマンションであるやり取りがされていた。

「どうやらこいつは今、この病院にいるらしい。そして一週間後に花式高校で講義をするらしい。そこにあんたらが一斉になだれ込んで訴えれば良いだろう」

「待ってくれ、俺の考えていたやつとは違うじゃないか」

「自分で訴えなければ説得力もないだろ。それに俺はそいつの病院から今後の予定まで短期間で調べてやったんだから。それに大人数でやれば問題ないだろ。横断歩道、みんなで渡れば怖くないというし」

依頼者は納得がいかなかったがやる事にした。

1週間後、その医者が学校にやってきた。

そしてその医者は自分の体験や医者としての心得を教えたりする。

加奈と龍人は真剣に聞き海斗は何言っているか分からず胡桃と湖南、楽人、時は話を理解しているようで理解していない感じだった。

その時、教室に六人の青年が苦しみながら入ってきた。

周りの人は動揺する。

「大丈夫か」龍人が側に行き声をかける。

「あいつだ」青年が指をさした。

そこには医者がいた。

「あいつは入院している俺を毎日虐待していた」青年たちは叫びながら抗議する。

みんなその医者を思わず見てしまう。そして困惑する。

先生もあまりの出来事に動揺していた。

「違います、私は…その…」

「あいつは怪我で動けない俺を毎日殴ったり蹴ったりして侮辱した。看護士に言ってもみんな聞いてくれなかった。何故ならみんなあの人を信用しきっていたから。そして俺にあざが出来ないぐらいにうまく調節して暴行した」青年たちは興奮する。

医師は否定するがみんな信用できなかった。

そして医師の話は中断し今日は緊急下校となった。

帰り道、海斗は龍人と加奈にその話をする。

「しかし本当にあの医者がそんな事したのかな」龍人は疑っていた。

「分からない。でも人は見かけによらないからな。だが本当だとしたら大問題だけどな」海斗は返した。

「君たち、花式高校の生徒か」1人の男が話しかけてきた。

それは鉄中椿だった。

彼は海斗と同じ歳だが別学校の制服を着ていた。

「君はどこの高校の人」海斗が聞く。

「優ヶ丘高等学校の者だよ」

「優ヶ丘、聞いた事ない高校だな」海斗は知らなかった。

「これで依頼は達成した。報酬も最近の中では結構良い額を稼いだしな」

「あんたなぜ花式の出来事を知っている」龍人が聞く。

「あれは俺が仕掛けたからだ」椿の言葉に海斗たちは動揺する。

そこに胡桃、時、楽人、湖南がやってきた。

「まぁそもそもはその医者が招いた事だがな」椿はそう言い行ってしまった。

海斗は椿に何が秘密があると睨む。

そして何か感じた。

「あいつ何だ」時が言う。

「分からない、だが危ない奴だと思う」海斗はそう言う。

そしてそれは的中する。


夜、海斗がお風呂から上がりテレビを見るとそこにあるニュースが飛び込んできた。

前回、高校に来て講義を行った医師が逮捕されたというものだった。

あの青年たちの言う事は本当だった。

そしてその医師は他にも余罪があると報道された。

それはまさに医療界の不祥事だった。

翌日、「まさか本当だったなんてね」胡桃は呟く。

「でもよくあの医師が来る場所分かったな」時は関心する。

海斗と龍人、加奈は椿が気になっていた。

「そういえば優ヶ丘高等学校って知っているか」海斗が聞く。

すると湖南が話す。

「優ヶ丘高校はチャレンジスクール第1号の高校だよ。確か不良もいないし、規則も厳しいから問題が少ない学校だけど」

湖南の説明で海斗が興味を持つ。

「なら放課後行ってみないか」楽人が提案する。

「そうだな」気になっていた龍人は賛成する。

そしてみんなも興味を持ったため行く事にした。

放課後、七人は二十分かけて歩いた。

そして優ヶ丘の玄関に着く。

「ここが優ヶ丘か」海斗がそう呟くとそこに椿がやってきた。

「何の用かな」

「あんたこの前の医師について話を聞かせてくれ。あんたは何をした」

「じゃあまずは内に来ると良い」

椿の言葉に海斗は行こうとするが加奈が止める。

「やめたほうがいいよ、何か危ない気がする」加奈は警戒していた。

「平気だって」海斗は言う。

「そうだ。横断歩道みんなで渡れば怖くないというしみんなで行けば大丈夫だよ」龍人は加奈を説得する。

そして七人はその後をついて行く事にした。

着いた先には不気味で今にも幽霊が出そうなマンションだった。

「ここ心霊スポットじゃないか」

「大丈夫だ。心配するな」そう言う海斗だがさすがに警戒心が生まれていた。

7人は警戒しながらもその部屋に入る。

そして椿は7人に飲み物を出す。

「どうだ、不気味だろ」椿は笑顔で話しかける。

「あんたこの前の医師の件について聞かせろ」海斗は攻撃的に聞く。

「良いだろう。まず俺はここで復讐屋として活動している」

「復讐屋?」

「そうだ。復讐屋は依頼者からお金をもらってその恨みを晴らすという仕事だ」

「それって闇商売じゃないの?」加奈が聞く。

「世間から見たらな。だが俺はそんな事全く思っていないし他の闇商売と一緒にするな」椿は加奈の言う事を否定した。椿は続けた。

「そして青年たちから依頼を受けてその医者に復讐をした、まぁしたというよりかは手伝ったといったところだが。まず多くの人の前で威厳をなくしさらし者にするため医師がどこにいるかを調べその結果、花式高校で特別講義をすると分かった。そして依頼者に演技をさせて多くの人の前でその医師の悪事をさらした。そしてそれによって他の被害者たちの憎悪をこみ上げさせそして暴徒化するみたいに被害者を集結させた。この依頼は成功し、俺は依頼者……いや、患者を救った」椿は自分を称賛するように話した。

「お前…」海斗は怒りに震える。

「しかし驚いたな、まさかお前もパラレルトラベラーだったとはな」その言葉に海斗は驚く。

「なぜその事を」

「何故……それは俺もお前と同じパラレルトラベラーだからな」椿は笑顔で言った。

「何だと」海斗は驚く。

「俺は悪魔の力で別世界からこの世界に連れてきてもらった。そして俺はパラレルトラベラーを見抜く能力を身につけた。だがおかしいな。なぜお前は悪魔によって連れてきてもらったのになぜその能力を持っていないんだ」

海斗は分からなかった。

恐らく悪魔に頼めばその能力をくれると考えた。

しかし海斗はその能力はいらないと思った。

全く話を聞かされていない楽人と時は困惑した。

――何言っているんだ

二人は話についてこれなかった。

加奈と龍人、胡桃、湖南は海斗から話を聞かされていたが加奈と龍人、湖南は話を信じていなかったが海斗の真剣な顔を見るともしかしたら本当に別世界から来たんじゃないかと。

「あんた、なぜこんな事する。わざわざ別世界から来てまで何か目的なんだ」海斗は聞く。

「俺は元いた世界では世界が注目する医者だった。しかしある成功する確率が5%以下の手術に失敗した。本当なら責められないはずだが俺が天才医師だったかため期待されていた。だからその分、失敗したら多くの人間が俺を批判した。それはかつて自分が助けた患者も含めて。そして医師免許を剥奪され、医療界から追放された。そして疲れ果てた俺の所に悪魔がやってきた。そして俺はパラレルトラベラーとしてこの世界にやってきた。俺は人の心を救うためこの世界で復讐屋を立ち上げた」

「ふさげるな」海斗は怒りに燃える。

「いくら悪人でもこんな事していいわけない、これじゃまだ復讐が起きるだけじゃないか、そしてそれはただ復讐の連鎖になるだけじゃないか」

「これは医療だ。人の心を救うための治療だ。まぁ俺は闇医者だが」椿は鼻で笑った。

加奈も割って入る。

「違う、こんなの医療でも治療でもない。ただの復讐でしかないよ」加奈は怒りに震えた。

「そうか? 恨みを抱えながら生きて行かなきゃいけない人間がこの治療でその負の心が消えるんだぜ、いいじゃないか。それにストレスが原因で病気になる人間もいるんだぜ。そういう面では俺のやっている事は医療であり治療である」

「それに元を正せば俺に復讐を依頼をさせるほど人を傷付けた腫瘍やウイルスに問題があるだろ」

「ウイルス? 何の事」

「ターゲットの事だ」

椿は加奈を睨み付ける。

「この後患者が来る。今日はここまでだ」椿は七人を帰らせる。

海斗と加奈はとても嫌な気分だった。

しかし加奈が聞いた。

「海斗、パラレルトラベラーって何?」

「別世界から来た人間の事をいう」

「そうか~驚いたな。まさか海斗のいう事本当だったなんて」龍人は驚いていた。

「でも本当か」時は疑っていた。

楽人も信用しきっていなかった。

「そういえば今日はスタープレンス社の社員が集団が大規模組織の詐欺事件で捕まった日だったっけ」海斗はそうつぶやく。

「そんなまさかあんな大企業が」楽人が言ったとき胡桃は声をあげて驚く。

時と湖南は胡桃のスマホをのぞき見するとそこにはスタープレンス社の社員たちが一斉逮捕されたという報道がされた。

さらにその詳細も海斗が言った通りだった。

「お前……本当に……」楽人は言葉を詰まらせる。

そしてみんな海斗が別世界から来たパラレルトラベラーだと信じる。


7人は屋上にいた。

海斗は椿の事を考えていた。

「しかしどうする?」龍人が聞く。

「俺は止めたい。こんな治療を」海斗は言った。

「ところであの人の名前知らないんだけど」加奈が言った。

「彼は鉄中椿よ」湖南が言う。

それは現場でたまたま見た書類から知った事だった。

「よぉ久しぶりだな」7人が振り向くとそこには悪魔がいた。

「お前はこの間の」海斗が言う。

そして龍人たちは警戒する。

「草麦胡桃、君は頑張って生きているから1つ笑顔になれるプレゼントをあげよう。お前が失った大切な人を蘇らせてやろう」

すると悪魔は手から黒い光線を放つ。

するとそれは人の形になった。

それは何と水崎高馬だった。

「高馬……」胡桃は驚く。

「兄貴……」海斗は思わず言葉が出る。

それを聞いた胡桃が海斗を見る。

「こんなことが……」海斗は動揺する。

「それじゃあ」悪魔は消えた。

海斗は思った。

――なぜこんな事が。

「本当に高馬なの?」胡桃は慌てる。

「久しぶりだね、胡桃」

胡桃は大喜びする。

しかし海斗は高馬を見て思った

――この人は自分の知っている兄貴じゃない。この世界の兄貴なんだ。

「凄い……凄すぎる」龍人は思わず呟いた。

それは目の前で非現実的な事が何回も起きたため。

「でも何で悪魔が」海斗は疑問に思った。

「分からないけどでも今はいいんじゃない」加奈はそう返した。

「一旦胡桃は高馬は、自然緑川公園に連れていく。

「胡桃、俺まだ会えて嬉しい」高馬は泣きそうだった。

「私もだよ、高馬」胡桃は笑顔だった。

「でも胡桃が立ち直って嬉しいし友達もたくさんできてよかった」高馬が言った。

「私、色々な人を傷付けたの。自分の目的のために。だから今こうやって友達がたくさん出来て嬉しい」胡桃は笑顔だった。

「自分の行いに気付いて良かったな」高馬も笑顔だった。

その頃、海斗たちは驚いた表情で話しをしていた。

「死者が蘇るなんてあり得るのか」時は混乱していた。

「でも悪魔がいるんだから死者が蘇ってもおかしくはないだろう」龍人が返答する。

海斗は何が嫌な予感がした。

夕方、海斗が帰ろうとした時、加奈が海斗のところにやって来た。

「どうした加奈?」海斗が聞く。

「海斗、高馬さんの事だけど」

「高馬さんって海斗のお兄さんでしょ」

「……そうだ。たださっきの兄貴はこの世界の人だが」

「そうなんだ」

「まぁ別世界とはいえ、また兄貴と再会できてとても嬉しかった」海斗は言った。

「でも俺は疑問に思っている。こんな簡単に命を蘇らせていいのか。いくらあくまでもそんな事してよいのかと思っている」海斗は悪魔に対し疑問に思っていた。

「それは私には分からない。でも胡桃が幸せなら私も嬉しい」最初は胡桃が嫌いだった加奈だったが今では胡桃の事を大事な仲間だと感じていた。

夜、海斗は家の中に入る。

すると暗闇の中に一つの影があった。

「誰だ、お前」

それは天使だった。

「あなたはどうやら悪魔に連れてこられたパラレルトラベラーですね」

「天使?」

――天使もいるんだ。

海斗は心の中で驚いた。

「実はあなたに話があって」しかし海斗は話の途中で天使に聞く。

「さっき悪魔が高馬という人を蘇らせたんだが……」すると天使は一気に表情を変える。

「悪魔の奴、何で事してくれた」天使は怒る。

「どういうことだ」

「天使の世界では死者を蘇らせる事は絶対にしてはいけません。しかしどうやらその悪魔死者を蘇られたようですね」。

「そもそも悪魔って何なんだ?」海斗が聞く。

「教えてあげましょう。私たち天使たちは人間と特に変わらない姿をしており、そしてその世界も人間の世界と特に変わらない世界です。しかし私たちの世界は人間の世界と違い、とても安定しています。何故なら平等な社会ですから。人間はお金のありすぎとなさすぎという差があります。そしてその扱いは真逆となっています。しかし天使の世界には幸福すぎる者はいないが逆に貧困の者もいない、そして食事や住み家は最低限与えられ、選択する権利もあります。そのため今日は肉料理が食べたい、もしくは魚料理が食べたい、さらに高級な料理を食べたい、住む所も一軒家に住みたい、もしくはマンションに住みたいなど何でも希望通りになります。しかしその反面高級とか質素とかそういう概念もありません。お金で食べれるものも住めるところも決まる人間にとっては、まさに楽園と呼べるべき世界でしょう。そして何よりこの世界には人間の世界のように戦争や核兵器製造、災害などがない世界です。そのためこの世界は平和に満ちた人間にとっては理想の世界とも呼べる世界です。そして何よりこの世界は、平和で生きることができる世界を築き上げていこう、という世界共通のキャッチコピーがあります。しかしその一方で人間を救えなかった天使への批判や差別などが問題で人間を救えなかった事は天使の世界では罪であります。人間の世界では罪によっては、社会復帰が出来たり、受け皿が存在しますが天使の世界にはそれがないためその罪によって天使世界から追放され結果、悪魔になってしまう者も少なくないのです。しかし天使たちはこの世界の問題に目を向けないでいるという現実があり、それはまさしく、この平和な世界の闇の部分と呼べるべき所でもあります。天使にも国というものがあり、その問題がない国もありますが私の国はその問題を隠蔽する体質にあります。しかし前にもある人にこの話をした事があります」

「そうなのか」

「じゃ高馬という人はどうするんだ?」海斗が聞くと天使は答えた「残念ながらその死者には消えてもらいます」天使は重い口調で言った。

「そんな……」海斗は戸惑う。

「胡桃に言えない……言えるわけがない」海斗は混乱する。

天使も重い表情だった。

「何で悪魔はそんな事をする」

「さっきも言いましたが使命に失敗した天使は誰にも助けてもらえずその結果、悪魔になります。そして天使世界の中には悪魔たちが集まる組織が存在するのです。それは暗黒界と呼ばれる組織です。悪魔たちは人間世界で悪事を働きその成果を悪魔の最高幹部の大魔神に見てもらうのです。そして大魔神が認めた悪魔は暗黒界に加入する事が出来るのです」

海斗は人生で最大最悪の問題に直面した。

――こんな事胡桃に言えない、でも兄貴をこの世に残す事も出来ない。

海斗は1日中考える。

翌日、海斗が自然緑川公園に行くと胡桃と高馬がいた。

海斗はとても嫌な気分だった。

「どうしたの海斗?」胡桃が笑顔で聞く。

「何でもない」海斗はそう返す。

「遅くなっちゃたけど僕は水崎高馬。よろしくね」高馬は笑顔で挨拶した。

「よろしく」海斗は不思議な気分でありながらも高馬に返答する。

胡桃の方を見るととても笑顔だった。

その笑顔を見るとますます言いづらかった。

「ところで二人はどこで出会ったの?」

「私と高馬は前に同じ町に住んでいてそこで仲良くなってよく遊んでいたの。高馬の方が4歳年上なんだけど」

「胡桃は昔は泣き虫だったけど今、こうやって見ると随分貫禄が出たな」高馬は笑顔で言う。

二人のやり取りが海斗を苦しめる。

同時に海斗にはある感情があった。

別世界の人間とはいえ、海斗にとっては兄だから高馬ともっと話をしたいと思った。

しかし別世界の人間に兄と言っても分からないし気持ち悪がられるだけじゃないかと考えた。それに胡桃と笑顔でやっているところを見ると海斗は遠慮してしまっていた。

翌日、海斗は屋上のベンチに座っていた。

「どうしたの?」そこに加奈と龍人がやってきた。

「別に……」

「何が困っているようだが」龍人が言う。

海斗は黙り込む。

そして海斗は決めた。

「実は……」海斗は加奈と龍人に本当の事を話した。

「そんな……」加奈はショックを受ける。

龍人は黙り込む。

「この事は胡桃と兄貴に黙っていてほしい」。

加奈は表情が曇る。

「待て、兄貴って何の事だ」海斗の兄の事を知らない龍人は聞く。

「高馬という人は俺の兄貴なんだ、この世界の人間なんだが」海斗は龍人に教えたがしかし過去の惨劇に関しては言わなかった。

「そうなのか……でもいつか言わないといけない時が来るんじゃないか?」龍人が言う。

「確かにそうだ。でも……言えるわけがない」海斗の言葉は生気が抜けたようだった。

胡桃と高馬は自然緑川公園で話をしていた。

「しかし今日は良い天気だね」高馬は笑顔で言った。

「そうだね」胡桃も笑顔だった。

胡桃は勇気を出して聞いた。

「高馬、もし俺がこれから別の男と付き合ったらどう思う?」

「うれしいよ」高馬の返答に胡桃は驚く。

まさかうれしいと返ってくると思わなかったため。

「うれしいの?」

「うん。だって胡桃が楽しくしている姿が私は一番好きなの。それに私はもうすぐ死ぬんだし結ばれないのにずっと俺の事を引きずっているよりも他の人と付き合って結婚して胡桃が笑顔で楽しく過ごしている方が俺は好きだ。だから胡桃、俺の事は気にしないで」高馬の言葉に胡桃は涙を堪える。

それを海斗と加奈も陰から見ていた。

「何か俺たちストーカーみたいだな」

「確かにね。でも堂々と見るのもなんか」

その時、そこに悪魔がやってきた。

「悪魔……」海斗が思わず声を上げる。

「海斗」胡桃は気付く。

そして悪魔に警戒する。

加奈は初めて見た悪魔に驚く。

「草麦胡桃、一つ教えておく、死んだ高馬は復活したがもうすぐまだ死ぬ事になる」悪魔は笑う。

――最悪だ。バレちゃった。

海斗は遂にバレてしまったと目を背けた。

胡桃も高馬は驚かなかった。

「水崎高馬、お前を復活させたつもりはない。お前が死んで草麦胡桃が悲しむ姿を見せるためにお前を一時的に蘇らせたんだ」悪魔は笑いながら話す。

「あなた……最低よ」加奈は怒りを抑える。

海斗はショックだった。まさか悪魔がこんなことをするするとは思わなかったため。

「まぁそんな気はしていた」胡桃が言った。

「何?」笑顔だった悪魔は表情を変えた。

「死んだ人間が蘇るなんていう都合の良い話なんてないと思っていた。だから高馬が蘇った時、きっといつかまだ別れの時が来ると私は思っていたわ。だから高馬がまだ死ぬと聞いてもそんなに驚かない」胡桃の言葉に悪魔は予想外という表情をした。

「胡桃、お前は既に気付いていたんだな」

「そうよ、だから高馬と別れる時が来ると前から覚悟していたわ」そう言う割には胡桃は悲しそうだった。

その時、高馬の体が光に包まれはじめた。

「高馬……」胡桃はお別れの時が来たと悟った。

「胡桃、お別れだね」高馬は寂しそうだった。

「胡桃、君と出会えてよかった。こんなうれしい事なんてないよ」

「高馬、私も同じだよ。高馬と出会えたから私はこんな良い人生を送れた」

海斗も思わず話しかける。

「兄貴……すまない、あんたが俺の死んだ兄貴に見えてつい兄貴と言ってしまった」海斗は辛そうだった。

「俺はもっと兄貴と一緒にいたかった。いつかまだ家族みんなで旅行に行きたかった」海斗は涙を流す。

「兄貴じゃないと分かっている。でもそれでも俺にとっては兄貴と再会出来たようでとても嬉しい」海斗は体勢を崩す。

「その思いはきっとお兄さんに届いているよ」高馬は海斗の肩に手をのせる。

海斗は思い出した。

自分が転んで泣いているとき助けてくれた事、宿題が分からないとき優しく教えてくれた事、友達と喧嘩して落ち込んだとき励ましてくれた事、海斗は悲しくなってくる。

――もう二度とこのかけがえのない日々は戻って来ない。

そう考えると海斗は辛かった。

「せめて私の事を忘れないで。たまにでも良いから思い出してくれたら嬉しい」

「そんな事言われなくても忘れるわけないだろ。」

「じゃあね胡桃、弟」高馬は光の粒となって消えた。その光は空を昇り消えていった。

「ありがとう…高馬」

「じゃあな…兄貴」

「ごめんね海斗。私ばかりが高馬を独占して」

「良いんだ。俺の方が悪いんだ。死んでもう二年も経つのに未だに心の中で兄貴の事を消せないでいるんだから」海斗は自分の弱さを責めた。

「私も同じよ。高馬の死を乗り越えていたと思っていたのにまだ心のどこかで高馬が消えないでいた。いつかまだいなくなるのも分かっていたのに…覚悟していたのに…でもやっぱりいなくなるととても悲しい」胡桃は泣きながら話す。

「大切な人を心から完全に消す事なんて出来ないよ。大切な人だからこそ心のどこかに残るものだし、それに心のどこかに大切な人が残っていてもいいじゃない」加奈は言った。

海斗と胡桃は加奈に励まされた。

翌日、海斗は胡桃の事を龍人たちに話した。

「そうなんだ……」湖南は悲しく感じた。

「何でこんな酷い事を」楽人は言う。

時は悪い意味で自分の予違和感が現実になってしまって悲しかった。

加奈は胡桃の側にいた。

「私、高馬の事がずっと好きだったの。でも告白出来ないまま高馬は死んじゃったけどでもまた再会出来て嬉しかった」

「高馬さんはきっと胡桃の側にいるよ。高馬さんも胡桃の事が好きだったと思うし」加奈は笑顔で言った。



「まさか弟がこの世界に来るとは面白いものだな」廃れた廃墟で天都は刀を磨いていた。

「しかし水崎海斗はお前の弟だろ。それでもやるのか?」悪魔が笑顔で聞く。

「たとえ血で繋がった者だろうが邪魔をするならこの刀で切るしかない」天都はいざという時は海斗を傷付ける事も考えていた。

放課後、海斗が加奈を見つける。

すると加奈が男と話していた。

海斗は怖くなる。

――もしかして加奈に恋人がいたのか。

男が去っていくと海斗が加奈に話しかける。

「さっきの人は」

「ただ行きたい所があってその場所を聞かれただけ」

海斗は安心する。

「どうしたの?」加奈は聞く。

海斗は思った。

――ここで加奈に告白するべきかどうかを。1年間ずっと好きだったがずっと言えないでいたし早くしないと誰かに取られてしまう。

海斗は友情にヒビが入る覚悟で告白しようと決意した

そこに時と楽人がやってきた。

「2人とも今帰るの」

「そうだけど」海斗は嫌な感じだった。

「じゃ俺たちも一緒に帰る」楽人が言うとそこに湖南もやってきた。

楽人は湖南が好きだという気持ちは変わっていなかった。

しかしずっとそれを言えずにいた。

「そういえば楽人、不登校の間の単位大丈夫なの」湖南が聞く。

「大丈夫だよ、その分冬休みの特別授業とか出たから」楽人は緊張していた。

「悪いが俺、今日急用があるからすぐ帰る」海斗は自分が嫌になり混乱しながら走って行ってしまう。

海斗は知らない所をただ夢中になって走り続けた。嫌な気持ちを抑えながら。

そして気付くとそこは海神公園だった。

「こんな公園あったんだ」海斗は今まで気が付かなかった。

海斗は告白できない自分に腹が立った。

ずっと好きなのに告白する事が出来ない自分を情けなく感じた。

「俺は……どうしたらいいんだ……俺は……ずっと好きなのに」海斗は泣きそうだった。

その頃、椿は患者と話をしていた。

「この依頼引き受けよう」椿は笑顔で言った。

「ありがとうございます。もう取られたお金なんてどうでもいいです。やつにそれ相当の苦痛を味わらせて下さい」患者は頭を下げながら言う。

「それじゃ早速準備しないとな」椿は席を立つ。

翌日、海斗が屋上に行くとそこに龍人がいた。

「お前もいたのか」海斗が話しかける。

「海斗か」龍人が反応する。

「しかし今日は天気が良いな」龍人は何か不器用に話す。

海斗は不振に感じる。

「何があったか」海斗が聞く。

「いや、何か世の中大変だなと思って」龍人は笑顔で言う。

放課後、海斗が海神公園にいた。

「まさかここでパラレルトラベラーと会うとはな」海斗が振り向くとそこにいたのは泉蓮だった。

蓮はかつてパラレルトラベラーとしてこの世界にやってきた青年だが彼はこの世界に残り続けるという選択をした青年でもあった。

「あんたは」

「俺は泉蓮、お前と同じパラレルトラベラーだ」

「パラレルトラベラー?」

「そうだ、でも俺は元の世界に帰らないからその代わり他のパラレルトラベラーを陰から支えるためにパラレルトラベラーを見分ける力を手に入れた」蓮は説明した。

「帰らないってなんで」海斗は驚く。

「大切な仲間たちがいるからだ。お金では買えない仲間たちが」

「仲間……」

「そうだ。俺はこの世界に来る前、仲間とか恋人とかいらないと思っていた。ただ生活に困らなければ良いとしか考えていなかった。でもこの世界に来て俺は色々な事を学んだ。俺はこの選択に後悔はしていない。元の世界では俺が行方不明になって多くの人に迷惑をかけていると思うがでもそれでも俺はこの世界に残りたいと思った。世界とか関係ない、ただそこに大切な人がいればどこでもいいんだ」蓮の話を聞いて海斗は試しに悩みを言う。

「俺、好きな人がいる。でもずっと告白する事が出来ずにいるんだ、そんな自分が嫌で…」

「俺も君と同じだった。本当は好きなのに自分の気持ちに気付けず分からないでいた。自分の気持ちに正直でそして変わろうとしているお前の方がいいじゃないか、少なくとも俺よりも」

そこに1人の女がやってきた。

それは海野奈美、蓮の恋人だ。

「蓮、遅れてごめん…あなたは」奈美が聞く。

「俺は水崎海斗だ」

「俺の友達だ」蓮がフォローする。

「初めまして海野奈美です」

その美貌に海斗は少し惹かれてしまう。

「あのう…俺、実はパラレルトラベラーです」海斗は普通に言う。

「それ言っちゃうの?」蓮は驚く。

「別に隠す必要はないと思うけど」

海斗と蓮の考えは真逆だった。

「そうなんだ。奇遇だね」奈美は笑顔で返す。

海斗は何となく奈美に聞く。

「俺、どうすれば好きな子から振り向いてもらえるのかな」

「私は分からないけどでもその好きな人を大切にすれば良いと思うよ。ドラマみたいな話なんて必要ない。単純だけどそれが一番良いと私は思う。あなたがその人を大切にすればきっと好きな人はあなたに振り向いてくれるよ」

奈美は海斗にあるお守りをあげる。

蓮は驚く。

それは三年生の時一緒に遊園地に行ったとき蓮がこっそり買った恋愛成就のキーホルダーだった。

「いいのか」海斗が聞く。

「いいよ。もう必要ないから」奈美は笑顔で海斗に渡す。

奈美の行動に海斗は喜ぶ。

「ありがとう、勇気が出たよ」

「頑張ってね」

海斗は蓮と奈美に別れ帰っていった。

「奈美、そのキーホルダー買っていたのか」

「うん」

蓮は思った。

もしかしたらこのお守りが自分と奈美を結びつけたと。

海斗は何だが勇気が出たような気がした。すぐに告白する事は出来ないが少しずつ変わろうと考えた。

そして海斗たちは2年生になった。



海斗を加奈に告白したいと思っていたがしかしやはり出来ないでいた。

何回も2人っきりになってそのたびに告白しようとしたが告白しようとする直前に無意識に別の話をしてしまうため告白できないでいた。

海斗は1人教室の椅子に座りながら落ち込んでいた。

その時、奈美からもらったキーホルダーを見た。

「何で出来ないんだ」海斗は悲しかった。

しかし前と比べたら呼び出したりするなど全く行動できなかった時期に比べたらまだ良かったし心が癒されるなどキーホルダーの不思議な力に励まされていたようだった。

「どうしたの?」みるとそれは伊藤抗という青年だった。

「別に何でもない」海斗が去ろうとした。

「困っているなら助けてあげるよ」抗は言う。

海斗はしばらく考え話した。

「海斗が加奈の事を好きだと言ってくれないか?」海斗は頼む。

「いいぜ、でもその前に1万円頂戴」

「お金取るのか」

「無料の訳ないだろ」

海斗は考えるが抗ならきっと大丈夫だしよく関わるからと抗に払ってしまう。

その頃、楽人も悩んでいた。

――どうしたら湖南と付き合えるんだろう。

するとそこに同じように抗がやってきた。

そして海斗に言った事と同じことを話す。

「それは本当か?」

「本当だ」

楽人は抗に湖南に代わりに告白してほしいと話した。

「じゃあ15000円払って」

「は? お金取るのか?」

「それほどの事をするんだから」

楽人は迷いながらも海斗と同じようにお金を払う。

「本当にこれでやってくれるんだろうな?」楽人は疑う。

「安心しろ」抗はそう言って去っていった。

翌日、海斗は加奈に話しかける。

加奈はいつも通りだった。

抗の事を聞こうとしたがしかし言うのはやめた。

その頃、楽人も湖南に話しかけるが湖南もいつも通りだった。

それが数日間続いた。

ある日、龍人は屋上で抗と話をしていた。

そこに胡桃もやってきた。

「ねぇ胡桃、何が悩みない」抗は聞く。

「別にないよ」胡桃がそう言うとそこに海斗と楽人がやってきた。

「抗、話してくれたのか?」海斗の発言に楽人は海斗も頼み事をしていたのかと思う。

「まだだよ」抗は笑顔だった。

しかし海斗は焦っていた。

「早く言ってくれ、こっちはずっとドキドキしているんだ」海斗は焦っていた。

早く告白しないと加奈が別の男と付き合ってしまうため。

胡桃は何が不信感を感じていた。

翌日、胡桃は海斗を屋上に呼ぶ。

「どうしたんだ?」海斗はいつもの態度だった。

「あなた抗に何を頼んだの」胡桃が聞く。

「別に」海斗は言えなかった。

「何か怪しいのよ、抗」

「そんなわけないよ、抗は良い奴だ」海斗は信じていた。

「何を頼んだが知らないけど人を疑うのも大事だよ」胡桃は海斗に忠告する。

その時、龍人がやってきた。

「海斗、抗がみんなに責められている」

海斗と胡桃はすぐ教室に行くとたくさんの生徒たちが抗に怒っていた。

横を見ると加奈と湖南がいた。

「これって……」海斗は言葉を失う。

「あいつ、色んな人からお金をだまし取っていたらしい。助けてあげると言って」

海斗は一瞬にして心が壊れる。

―ずっと信頼していたのに何で。

胡桃もその不信に思っていた事が的中した。

その時、海斗は思い出して学校を飛び出す。

龍人たちもついていく。

マンションのドアを叩くとそこに椿が出てきた。

「お前が抗の件は」

「そうだ、患者が来てお金を騙し取られたから復讐してくれと頼まれたんだ」椿は悪びれていなかった。

海斗は椿の胸倉を掴む。

「やめろって、良かったじゃないか俺のおかけでこれ以上被害が出なくて」椿の言葉に海斗は何も言えなかった。

人を救うために人を傷つける椿、誰だろうか人を傷つけるのが嫌な海斗、どちらの正義も間違っていない。

「それなら…それなら俺がお前を治療する」

「どういう意味だ?」

「ドクターが患者を治療するように俺がお前を変えて見せる」海斗の言葉に椿は鼻で笑う。「勝手にしろ」椿は部屋に戻る。

それ以降先生には言われなかったものの抗は詐欺師として誰からも相手にされず最終的に学校を退学する事になった。

彼は数万円のお金のためにすべてを失った。

海斗は抗に問題があるとはいえ悲しい気持ちになった。



胡桃は校庭で考えていた。

これから先、自分は獣医を目指していいのかと。

高馬の件以降ずっと高馬を引きずっていた。

――私、本当に命の現場に命の現場で働いてもいいのかな。

胡桃は不安だった。

「どうした」そこに時がやって来た。

「別に何でもないよ」胡桃は笑顔で返す。

「無理して笑顔にならなくても良いよ。何が心配事か?」

「別に…」胡桃は立ち去った。

帰り道、胡桃が落ち込みながら帰っているとそこに自転車から転倒してケガをしている青年を見つけた。

「大丈夫」胡桃は持っていたハンカチを包帯にして巻いてあげる。

「ありがとう」そうお礼を言うのは谷月千だった。

胡桃は千のバックを拾うと中に警察関係の紙が入っている事に気付く。

「あなた、警察関係の人?」

「いや、警察専門の大学に在籍しているだけで警察ではないよ」

とりあえず胡桃は千を休める場所まで連れて行く。

すると途中でバイクに乗った青年が前に現れる。

それは純崎剛だった。

「千じゃないか」

「剛」千は驚く。

「久しぶりだな」剛は喜ぶ。

胡桃は少し混乱した。

そして自然緑川公園で休む。

剛は薬を塗り処置をする。

「ありがとう、剛」千はお礼を言う。

「あなたも医療関係の人?」胡桃が聞く。

「そうだよ。君も医療関係だね」

剛は包帯の巻き方で胡桃が医療関係の人だと分かった。

「でも良かった無事そうで」胡桃は安心する。

「ありがとう、君のおかけで助かったよ」千は胡桃にお礼を言う。

そこに海斗と時がやってきた。

「どうした」海斗が話しかける。

「うんちょっとね」胡桃が言う。

「君、花式高校の生徒」剛が話しかける。

「そうだけど」

「そうか、この前、蓮という奴と久しぶりに会ったんだけどそこで花式高校の話をしていたんだよ、恋愛の悩みをされたんだがとてもいいやつだったと」

海斗は思った。

――それは間違いなく自分だと、そして彼は蓮の知り合いだと。

「しかし卒業から4ヵ月たつな、いつも一緒に会っていたのに気付けば会う回数も減ったな」剛は写真を取り出す。

海斗が覗き込むとそこには蓮と奈美そして剛と千、その他5人が写っていた。

「この人たち友達?」海斗が聞く。

「そうだ。俺にとって大切な仲間たちだった」剛は振り返る。

海斗も何故が嬉しく感じた。

「じゃ俺は行く」千が剛に言う。

「おう、またな」

千は行く前に胡桃に言った。

「ありがとう、君みたいに優しい人に助けてもらえて良かった」胡桃は嬉しい気持ちになった。

「じゃ俺も帰る」剛は帰っていった。

胡桃が行こうとした時、時は言った。

「胡桃、何があったら相談にのるぜ」

「どうしたの、時」

「龍人と約束したからな。人の役に立つような事をすると」

胡桃は笑顔になった。

翌日、胡桃は昨日と同じように悩んでいた。

するとそこに加奈がやってきた。

「どうしたの?」

「いや、何でもない…」胡桃は下を向いていた。

「加奈、私は獣医になってもいいのかな」胡桃は無意識に話した。

「別に悪い事はないと思うよ。夢を見ることは悪い事じゃないんだし」加奈は本当は励ましたかったがしかし何と言ったら良いか分からなかった。

放課後、胡桃は自然緑川公園で落ち込んでいた。

この嫌な気持ちをどうしたら良いか分からないでいた。

そこに偶然まだ剛がやってきた。

「君昨日の」剛が話しかける。

「あなた昨日の」胡桃は少し驚く。

「どうしたんだ、元気ないようだが」剛が心配する。

胡桃は考えるが剛にも相談してみた。

「そうか、獣医を目指して良いか悩んでいるのか~」剛はなぜが笑顔だった。

「まぁみんなそういう悩みはあるからな、でも大切なのは自分は恐怖を乗り越えられると信じる事だ、そしてそのためには強くなることだ。俺はそんな事しかいえない、でも俺はそれが一番大事な事だと信じているんだ」

それを聞いた胡桃はありきたりだけどでもそれが大切な事だと考えた。

「まぁ俺の仲間たちはみんな君みたいにそれぞれ苦悩していた。恋の問題もあれば恨みの問題などもあった。でもみんなそれを乗り越え栄光を手に入れた。君だって出来るよ」

胡桃はなぜが分からないが元気が出た。

「じゃあな」剛は帰っていく。

しばらくするとそこに千がやって来た。

「良かった。ここにいて。これ返し忘れていた」

千は胡桃にハンカチを返す。

「わざわざありがとう」胡桃は笑顔だった。

「どうした、何が吹っ切れたみたいだけど」

「良い事があってね」

「そうか。それは良かった。君は笑顔が似合う」千は笑顔で言った。

そして千も帰っていく。

「自分を信じる…そうだよね」胡桃はそう呟きながら笑顔になる。

そして胡桃はまだ改めて獣医を目指そうと考えた。


9月

海斗たちが自然緑川公園で話をしているとそこに椿がやってきた

「お前」海斗は怒りがこみ上げた。

「伊藤抗という奴、学校退学したようだな、これでまだ依頼を達成したという事になったか。怖がらなくて良い、別に悪い事はしない。いくら俺が悪魔と契約したからって」椿は悪びれていなかった。

「ふさげるな、全部お前のせいで」海斗は怒り気味に言う。

「全部お前のせいで? 馬鹿な事言うな。俺は同時に多くの人も救ってやったんだ、むしろ正義だろ」椿は反論する。

その時、加奈が言った。

「あなたのやっている事は正義か悪かは分からない。でも私は海斗を信じている」

加奈は海斗の味方をする。

「俺は誰かの無念を晴らし心を華やかにするのが仕事だ。死にそうな人間を救うよりも生きている人間を救う方が俺にとっての正義だ」椿の言葉に海斗たちは呆れる。

そして海斗は無意識に椿の胸倉を掴むが龍人が止める。

しかし加奈が言った。

「あなた最低よ。ドクターだったくせに死にそうな人を救わなくていいなんて」

「たくさんの人を救った俺が1つの命を救えなかっただけで人々は平然と俺を傷つけた。おまけに俺は医師免許を剥奪され医療界から追放され、人々から批判される。よくよく考えたら人間はみんな悪魔だな」椿の言葉を聞いて海斗は思い出した。

父親の亮が手術に失敗しそして多くの人から批判され挙句の果てに兄天都は町を放火しそして多くの人を傷付けた。

そう考えると椿はある意味自分と似ていて天都とも似ていると海斗は感じた。

椿は去っていく。

その頃、どこかの屋上では天都がビルから人々を見ていた。

「まさか襲撃する気か」悪魔が現れて聞く。

「俺も無駄に人を襲ったりはしない。襲うのは人間のクズだけだからな」天都は言った。

「お前も人間のクズじゃないのか?」悪魔は馬鹿にする。

「確かに多くの奴は俺をクズとみるかもしれない。でも俺にとってはこれは正義だ。俺がやらなきゃ誰がやる」天都は刀を見ながら言う。

そんなある日、龍人は海斗を家に呼ぶ。

海斗が龍人と楽しく話をしているとそこに龍人の父親の正樹が帰ってくる。

「初めまして」海斗が挨拶をすると正樹は驚く。

「猛じゃないか」正樹は興奮する。

「え?」海斗は戸惑う。

「父さんこいつは海斗だ」龍人は説明する。

「何だ…やっぱりそうか」正樹は落ち込む。そして落ち着いて話す。

「いや、私にはタケルという息子がいたんだけどタケルは交通事故で死んだんだ。そのタケルは君そっくりでつい驚いてしまった」正樹は説明する。

そして海斗は気付いた。

もしかしてこの世界の自分じゃないかと。

そして正樹は聞いた。

「そういや水崎さんは今高校生?」

「はい、そうです」

「そうか、お父さんは何やっているのかな」

「お父さんは医者をやっています」しかし海斗の表情は良くなかった。

何故なら父親の亮は既に死んでいるため。

「立派だね。たくさんの人の命を救う何て偉いな」正樹は褒めるが海斗の表情は変わらなかった。

龍人はそれが気になった。

翌日、龍人が校庭でバスケをしていると遠くで海斗がいることに気付く。

龍人は昨日の事が気になったため海斗の所に行く。

「海斗も一緒にバスケやろうぜ」龍人は誘うが海斗は断る。

「そうか、しかし海斗のお父さん医者だったとはな、初めて知った」龍人は笑顔で言った。しかし笑顔の龍人に対し海斗は表情が重かった。

龍人は悪い事言ったと思った。

「昨日お前があった父さんは俺の本当の父さんじゃない」海斗は驚く。

「どういう事だ?」海斗は思わず聞く。

「俺の父さんは俺を捨てて出ていった。その後、今のお父さんに育てられたんだ。お父さんには子供がいたらしいんだけど事故で亡くしているんだ。だから俺はお父さんにとっては二人目の子供だけど血は繋がっていないんだ」龍人は悲しそうに言う。

海斗は何も言えなかった。

「でも正直俺は自分を捨てた父さんを憎んでいる。俺は父さんが嫌いだ」龍人は怒っていた。



加奈は手芸部の教室で編み物をしながら考え事をしていた。

そこに胡桃がやってきた。

「何しているの、何が悩みでもあるの」胡桃は笑顔で聞く。

「別に何でもないよ」加奈が立ち去ろうとした時、胡桃は言った。

「あなた海斗が好きなんでしょう、それに龍人の事も」加奈は驚く。

「何で分かったの?」

「だってあなたいつも二人をよく見ているんじゃない」

加奈は動揺する。

「私は応援するよ」

加奈は驚く。

胡桃は続けた。

「あなたから純粋に海斗と龍人が好きという気が伝わってくるのよ。だからその分私はあなたを支えるわ、ドクターが患者を支えるみたいに。それに最初の頃、酷い事ばっかり言ったしそれに楽人は無事だったから良かったけど人によっては自殺をさせたりとかして命を奪っていたかもしれないし」胡桃は反省していた。

加奈は少し感動した。

まさか胡桃からそんな言葉が聞ける日が来るとは思わなかったため。

「2人で何しているんだ」そこに時がやって来た。

「別に」加奈は笑顔で返す。

「そうか、しかし胡桃、やっぱりお前は笑顔が1番だ」時は言った。

胡桃は照れてしまう。

同時にある感情が生まれる。

その頃海斗は校庭で悩んでいた。

そこに龍人がやってきた。

「なぁ海斗、人を好きになるってどういう感情なんだ」

龍人の突然の質問に海斗は困惑する。

「なぜそんな事聞くんだ」

「俺は加奈が好きだ。今まで出会った誰よりも」

海斗は想定外の言葉に言葉が出なかった。

「そうなんだ…」海斗はとりあえず反応した。

「なぁ俺はどうしたら良い?」

海斗は何も言えなかった。

もし自分の提案がきっかけで龍人と加奈が付き合うのが嫌だったからだった。

そして海斗は決めた。

――すぐにでも加奈に告白しよう、じゃないと龍人に奪われてしまう。

海斗はすぐに加奈に電話した。

「もしもし加奈」

「どうしたの」

「今から会えないか」

「ごめん、今日は用事があるの」

「…そうか、分かった」海斗は電話を切った。

――何でよりによって用があるんだろ、いつも一緒にいるのに。

その頃、龍人は自然緑川公園のベンチに座っていた。

龍人は加奈について考えていた。

するとそこにサッカーボールが飛んできた。

「すいません、取ってください」

子供の呼びかけに龍人は蹴る。

しかしそのボールはある男にぶつかる。

「すいません」龍人が謝るとその男はボールを蹴る。

それは上手く子供の所に届く。

龍人がその男の顔を見るとそれは霧島修だった。

「修はプロのサッカー選手で一時期、休業していたが今は復帰していた。

「修」

そこに修の恋人、川上美羽がやってきた。

同時に海斗もやってきた。

海斗は思い出した。

蓮から見せてもらった写真の2人だと。

「もしかして蓮という人の知り合い?」海斗は聞く。

「蓮? もしかして蓮の知り合い」美羽は笑顔になる。

「まぁ知り合いというがなんというか」海斗は返答に困る。

「しかしあんたサッカーやっているのか?」龍人が修に聞く。

「そうだ。俺は結構な経験者だ」

「そうか、サッカーが上手いなんていいね」龍人は笑顔だった。

「しかし蓮の知り合いと会うなんて奇遇だね。蓮元気」美羽は海斗に聞く。

「元気だった。良い人だったし」

「そう」美羽は笑顔になる。

「じゃあ俺は用があるからここで帰る」海斗は龍人たちと別れた。

海斗と別れた後、龍人は修に聞く。

「俺は好きな人がいるんだけど告白出来ないでいる。どうしたら告白出来るのかな」龍人は修が美羽と付き合っているから相談してみた。

「それは…勇気だ。勇気が全てだ。難しいトリックとか無しでとにかく勇気だ」修は不器用に言った。

「勇気…」龍人は呟く。

「そうよ。好きなら好きだと言えば良いのよ」美羽は笑顔で言った。

龍人は元気が出た。

「ありがとう」龍人は元気になり、二人と別れて帰っていった。

夜、海斗は家にいたがしかし落ち着きがなかった。

早く告白したいと思っているからだ。

告白の事ばかり考えていたため夕食もお風呂を忘れていた。

翌日、海斗は体育館で待っているとそこに加奈がやってきた。

「話って何?」

「加奈…言いたい事がある…俺…俺は…加奈が好きだ。だから…俺と付き合ってくれないか」海斗は勇気を出して言った。

「…ごめんなさい」加奈は断った。それは海斗も好きだが龍人も好きだからであった。

「…そうか」海斗はショックを受ける

加奈は黙ってその場を去った。

海斗にとって今まで味わった事のない悲しみだった。

夜、海斗は家の椅子に座りながらずっと落ち込んでいた。

また夕食とお風呂を忘れていた。

翌日の放課後、海斗は校庭のベンチに座っていた。

気力がなかった。

その時そこに龍人がやってきた。

「元気ないようだな」龍人が聞く。

「まぁあな」海斗がその場を立ち去ろうとした。

「加奈に告白したんだろ」龍人が言った。

「何で知っているんだ」海斗は動揺し驚く。

「それをたまたま見ていた奴から聞いた、偶然だが」龍人は暗い口調で言った。

海斗は恥ずかしくなったが口を開いた。

「龍人…俺も加奈が好きだった。それがたとえ龍人だろうが加奈は譲れない」海斗は強気で言った。

「俺だってそうだ。気を使って譲ってもらいたくなんかない、自分の力で加奈を手に入れるのが俺の考えだ」龍人も強気だった。

そこには友であり恋のライバルである二人がいた。

その後、龍人が教室に入りバックを取ろうとした時そこに加奈がいた。

加奈は寂しそうだった。

「なぁ加奈…」龍人が呼ぶ。

「何?」

「俺は本当は高校には何も期待していなかった。中学を卒業したらそのまま就職し、適当に人生を送れば良いなと思っていた。でも加奈と出会って高校が楽しくなったし恋の素晴らしさを知った。俺は…」

「龍人…」加奈は戸惑う。

すると龍人は加奈を抱きしめる。

加奈は混乱する。

龍人は海斗に悪いと思った。

でもそれでも手に入れたい人だった。

そして龍人は加奈から体を離し顔を見る。

「ごめんなさい」加奈は断った。

龍人はショックを受ける。

加奈は教室から出ていく。

それから数日後の夕方、龍人は校庭のベンチに座っていた。

龍人は悔しくて泣きたくなった。

それは恋のライバルが海斗であってそして加奈に振られて龍人の精神はボロボロだったからだ。

そこに修と美羽がやって来た。

「あれ、あなたこの前の」

龍人も驚く。

「元気ないけどどうしたの」美羽が心配する。

龍人は考えるが修と美羽に相談する。

「何かあなたたち見ていると数年前の事を思い出すな」美羽がそう呟く。

「どういうこと」

「私は修が好きだったけどでも私の友達も修が好きだったの。だから友達と争う事になってとても悲しかった」

龍人は驚く。

「俺はどうしたらいいんだ」

「私も分からないわ。でもそれは自分で決めないといけないよ」

龍人は考える。

そして修も話す「世の中は残酷な事がいくらでもある。でもそれを解決するための答えを出すのは常に自分自身だ。まぁ頑張れ。頑張らなければ何も始まらない。プロのサッカー選手だって頑張らなければまずなれる事はないんだし」

龍人はまだ励まされた。

そして修と美羽は帰って行った。



放課後、胡桃はテストに備えて勉強をしていた。

しかしある道具の名前が分からなかった

そこに時が来た。

「何か分からないところあるのか?」

「ちょっとこの道具が分からなくて」

時がそれを見る。

「これはサテンスキー鉗子だ」時は教える。

「ありがとう」胡

その頃、楽人は1人、教室で本を読んでいた。

その日は何となくこの教室で読みたかった。

そこに胡桃がやってきた。楽人は緊張する。

「何しているの」

「いや、別に」楽人は戸惑っていた。

湖南が行こうとした。

「ちょっと待って」楽人が湖南の腕を掴んで止める。

湖南は驚く。

楽人は告白する事に決めた。

「湖南……」

「何」

「いや…その…俺、湖南の事が好きだ、だから…」

「……ごめんなさい」湖南は驚きながら出ていった。

楽人はショックを受ける。

湖南が外に出るとそこに椿がやってきた。

湖南は動揺したようだった

「何の用」湖南が警戒する。

「ある依頼者からの依頼が来た。そのターゲットは浅木卓三という男だ」

湖南は驚く。

それはかつて自分が好きだった先輩との間を壊した男だった。

湖南は中学生の頃は吹奏楽部に所属していてそこで先輩と出会った。湖南はその先輩に一目惚れをした。その先輩は性格も優しく湖南の中でその先輩の思いがどんどん膨れ上がった。しかしそんな時に同じクラスの卓三が湖南にストーカーを始めた。湖南は最初は気にしていなかったが次第に卓三のストーカーも悪化し次第に湖南の中で恐怖心が生まれそして怯えるようになった。やがて湖南がその先輩が好きだった事を知った卓三はその先輩に嫌がらせを始めた。そしてその中で先輩は自分が嫌がらせされるのは湖南が自分の事を好きなのか原因だと知った。そして湖南の事を思ってとはいえ、自分から何も言わず吹奏楽部を退部し湖南を避けるようになった。湖南は苦しかった。自分のせいで先輩を傷付けてしまって。そしてその事が原因で湖南は人を好きになる事に対して恐れるようになった。それは湖南にとってトラウマの出来事だった。

湖南がそんな事を考えている中、椿は話していた。

「調べたらお前もその知り合いと同じように恨んでもいるようだな…どうだ? 復讐屋の俺と一緒に復讐しないか」椿は湖南を誘う。

「ふさげないで」湖南は断る。

「でも憎んでいるんだろ。ならやろうじゃないか。これは医療なんだから」

「確かに憎いわ、でも…」

「それなら明日俺の仕事を見ると良い。ちょうと良い患者がくるから」

湖南は気になった。

そして見ることに決めた。

翌日、七人は集まる。すると海斗は椿の話をする。

「あいつ最近復讐しているのかな」海斗は疑問を言う。

「しているでしょう」加奈は嫌な感じで言った。

湖南は言えなかった。

まさか今日、椿の現場を見に行くとは。

「湖南、元気ないようだな」時が心配する。

「大丈夫よ」

湖南はそう言うが龍人は何が嫌なものを感じた。

放課後、湖南は椿の部屋にいた。

「お前は俺の助手という設定とする。話の最中に文句を言うな、文句は患者が帰ってから言え、それが約束だ」

「うん」

2人が待っているとそこに50代の男性がやってくる。

湖南は驚く。

それは大手芸能事務所の社長だったからだ。

「ところで依頼の内容は?」

「実はある男性アーティストが私の事務所の評判を下げたんだ。なのでその人に復讐してほしい」患者は怒っていた。

「それは引き受けられませんね」椿は拒否した。

「何でですか」患者は驚いて怒鳴る。

「だってそれはそもそもあなたの会社に問題があったんじゃないですか。それはあなたが起こした問題であり、つまりただの逆恨みでしかない」椿は冷静に答える。

「私は大手芸能事務所の社長だぞ、お金ならいくらでも払うぞ」患者は引き下がらない。

「お金の問題じゃない、そんな逆恨みのための復讐に手を貸す気はない」椿も引き下がらない。

男性は納得がいかないようだった。

「たかが闇医者のくせに戸籍情報もない不気味な奴にここまで言われるとは」

「私は天才医師だ、でも今は復讐屋だが」椿は反論する。

「私は怒りや憎しみ、悲しみに包まれた人の心のケアをするのが私の仕事であり、そしてその患者が幸せを取り戻すのが私の役目です」椿は冷静に話した。

それを見た湖南はある事を思う

――椿は本当に人を救いたいと思っている。やり方は悪くても本当は優しい人なんだ。

「もういい」患者は帰っていった。

「椿、あなたは…」湖南が話しかける。

「俺は人を救いたいという気持ちはドクターの時と変わっていない」

「それは素晴らしいよ、でもこんな事したってまだ新しい復讐を生むだけだよ」それは海斗が言っていた事と同じだった。

「お前に関係ないだろ」椿は湖南に目を合わせないで言った。

しかし湖南は椿を変えたいと思った。

そして椿の姿を見て湖南は恋をする。



学校では緊急処置法の授業をしていた。

生徒たちが真剣にやっている中、楽人は湖南の事があって授業に集中できないでいた。

「楽人、大丈夫?」胡桃が作業をしながら話しかける。

「大丈夫だ」楽人はそう言うが心は悲しかった。

湖南の思いも知らずに楽人はその後も湖南に告白するが受け入れてもらえないでいた。

「何で駄目なんだよ」楽人は屋上で落ち込む。

そこに時がやってきた。

「どうした」時が心配する。

「別に」楽人は去ろうとする。

「もし悩んでいるならいつでも相談になるぜ」

「どうしたんだよ」楽人は笑顔で言う。

「何か分からないがつい言葉が出た」

「世の中うまく行く事ばかりじゃない、時に諦めて前に進まないといけない時もある」時のセリフに楽人は動揺する。

――もしかして俺が湖南の事が好きなのばれているのか。

「ありがとう」楽人は動揺しながらその場を去っていった。

楽人は心の中で焦っていた。

翌日、楽人が手芸部の教室に入ると湖南がいた。

楽人は勇気を出して湖南に聞いた。

「何で駄目なんだ」

「私…好きな人がいるの」

「それって誰?」楽人は思わず声をあげて聞いた。

「………椿、」湖南は下を向いて答えた。

楽人は驚く。

そして感情的になる。

「あいつは危険な奴なんだぞ、復讐を医療と例える奴なんだぞ」

「それでも私は椿が好き、それに…椿は…本当は優しい人だと思う」

楽人は呆れてしまう。

「そんな事…認めないぞ」

そこに海斗と龍人、加奈がやってきた。

「どうしたの?」

加奈は聞くが2人は何も答えない。

気まずい雰囲気だった。

その頃、胡桃はウサギ小屋で新たに飼われたウサギを見ていた。

「またここにいたのか」時がやって来た。

「何だ時か」胡桃は言う。

しかし嬉しかった。

「しかしウサギもいいものだな」

「しかし高校生活も半年を過ぎたね」

「そうだな。来年は受験か。胡桃は獣医になるんだっけ」

「うん」

「頑張れよ」

胡桃は胸がときめく。

放課後、楽人は椿の住んでいるマンションに行くと丁度椿が出てきた。

「何が依頼かな」椿は笑顔で聞く。

「…湖南がお前の事が好きらしい」楽人は勝手に言ってしまう。

「そうか、俺を好きになるとは面白いな」

「二度とあいつの前に姿を現すな」楽人は感情的に訴えた。

「拒否する。俺は誰かに縛られる事が嫌いなものだから」椿は楽人の発言を拒否した。

「やっぱり人間は悪魔だな。どこが不気味なだけで人を拒否するんだから」椿は楽人を挑発するように言った。

楽人は無言でその場を去った。

翌日、胡桃が屋上で休んでいるとそこに湖南がきた。

湖南は落ち込んでいた。

「何があったの」胡桃は心配する。

「うん…でも別に大したことじゃないから」湖南は言えなかった。

まさか椿を好きになったと言えるわけがなかったため。

その頃椿は湖南の事を考えていた。

椿も湖南に対し何が特別な思いが生まれていた。

手術に失敗してからみんな自分から離れていきずっと孤独だった。

そんな自分に手を差し伸べてくれる人はいなかった。

しかしそんな自分を好きになってくれる人がいることに椿は意外性を感じた。

そこでインターホンが鳴った。

ドアをあげるとそこには湖南がいた。

「何の用かな?」

「何かここに来たくなっちゃって」

「もしかして俺に協力したくなったか」椿は笑顔で聞く。

「協力は出来ない。椿、もう悪ぶるのやめよう」湖南は悲しそうに言う。

「別に悪ぶっていない」椿の表情が変わる。

「そういえば昨日楽人がきた。お前に近づくなと言われたんだが」

それを聞いた湖南は驚く。

しかし椿は話した。

「一つ聞きたいがなぜお前は俺を受け入れたんだ。こんな悪魔のような俺を」

「あなたは悪魔なんかじゃない、もしあなたを悪魔だという人間がいても私はそれを否定し続けるから」

それを聞いた椿は動揺する。

突然、湖南は椿にキスをする。

椿は困惑して固まってしまうが椿は無意識に湖南を抱きしめる。

「…俺は…俺はお前の事を好きになっていた」椿は気付いた。

最初は興味がなかったが気付けば自分も湖南を好きになっていた。

それは全て失いずっと孤独だったからこそ湖南を好きになった。

湖南はうれしく感じる。

しばらく二人は離れなかった。


楽人は新年になったばかりなのにもやもやしていた。

自分は湖南が好きだがしかしその湖南はよりによって椿が好き、楽人はそれが気に食わなかった。

そこに時がやってくる。

「新年なのになんだ、その表情は」

「別に良いだろ」楽人は嫌な感じだった。

そこに湖南がやってきた。

「楽人…」湖南は一瞬視線をそらす。

お互い気まずそうだった。

「どうしたんだ」時が言う。

「別に…」楽人が言うと湖南の電話が鳴った。

それは卓三からだった。

湖南は思わずスマホを投げ捨てる。

「湖南、どうした」楽人が言う。

湖南は震えていた。

時がスマホを拾って見てみるとそこには夜、湖南が歩いている後ろ姿を撮影した写真だった。

「これは…」楽人も覗く

「これってまさか」2人はすぐにストーカーだと分かった。

さらにメールを見るとそこにはもし自分と付き合わなければ殺すと書いてあった。

二人は思わず湖南を見る。

湖南は下を向く。

「湖南、お前ストーカーされていたのか?」楽人は聞く。

「うん、1年の12月までされていた。でもそれ以降来なくなったから諦めたかと思っていた」

それは悪夢の再来だった。

そこに海斗と加奈、龍人、胡桃がやってきた。

「どうしたの?」胡桃が聞く。

楽人はストーカーの件を話す。

「これはまずいやつじゃないか」海斗が言う。

「どうするの」加奈が聞く。

「とりあえず警察に言った方が良いかも」龍人は提案する。

放課後、楽人は湖南と一緒に帰る。楽人は湖南が心配だった。

それは付き合うためではなく本当に心配だった。

「湖南、大丈夫?」楽人が聞く。

「大丈夫よ」

そこに時もやってきた。

「お前だけじゃ危ないかもしれない。俺も一緒に行ってやる」

「ありがとう、時」

楽人は嬉しかった。

心強い人が来たため。

そして三人で警察署に行くため歩いているとき何となく上を見るとそこにはマンションの上から卓三が覗いていた。

湖南は恐怖に陥る。

そして楽人と時も警戒する。

――何でここに来るのか分かったんだ。

時はすぐに卓三の所に走っていく。

そして湖南と楽人もついて行く。

時が部屋の前に行くと卓三は屋上に逃げていく。

時たちも追いかけていく。

そして三人が屋上に着くとそこには卓三がいた。

「久しぶりだね、湖南」卓三は笑顔で言う。

「卓三…」湖南は恐れる。

「お前、何でこんなことをする」楽人は怒る。

「湖南は俺のものだ。だから俺が湖南を手に入れる。君たちは邪魔ものだ」卓三は無邪気だった。

それがまだ恐怖を増加させた。

「お前、相当危ないようだな」時は警戒する。

「俺からしたらお前らの方が危ない」卓三は狂っていた。

「湖南、俺の所に来い、俺ならお前を幸せに出来る。こんな奴と一緒にいるよりも」卓三は笑顔で近づく。

湖南は後ずさりする。

しかし卓三はそのまま屋上から出ていった。

「あいつ一体…」楽人は思わず呟く。

翌日、湖南が家に帰っているとそこに再び卓三がやってきた。

「あなた…」湖南は恐れる

卓三は言った。

「湖南、一つ話がある」それは後の騒動の始まりだった。


翌日、海神公園に海斗たちが集まっていた。

しかし湖南と加奈はいなかった。

「今日は女一人なのか」胡桃はそう呟く。

「そうだな」海斗が返答するとそこに卓三が現れた。

「お前…」楽人と時は驚く。

「皆さんお揃いで」その言葉に楽人と時は警戒した。

「君は」初対面の龍人は聞く。

そして卓三が話始めた。

「君たちに一つ報告がある。俺は新しい恋人を手に入れた。そしてその女は君たちを裏切り捨てるらしい」

するとそこに湖南がやってきた。

海斗たちは目を疑う。

「俺の新しい恋人、湖南だ」

湖南は下を向いていた。

その言葉に5人は言葉を失う。

「裏切るとはどういう事だ」龍人は怒りに燃える。

「彼女は君たちがいらなくなったんだ。そして俺だけが側にいれば良いという結論に至った。だから彼女は君たちを捨てたんだ」

それを聞いた楽人と時は自分たちを責めた。

卓三は自分たちの考えていた以上に危険な奴だと改めて思わされた。

「何で…何が気に食わなかったの」胡桃は湖南に聞く。

しかし湖南は黙っていた。

「ふさげるな。友達を裏切って捨てる事は簡単だが取り戻すのは難しい、お前はそれでいいのか」海斗は怒る。

その時、卓三は気付いた。

「お前、パラレルトラベラーだな」

その言葉に湖南も含めた6人は思わず驚いてしまう。

「なぜそれを」

「実は俺は悪魔と契約をしこれからパラレルトラベラーとして別世界に行く事に決めている」

卓三はパラレルトラベラーになろうとしていた。

そして同じパラレルトラベラーを見抜く力は前もって手に入れた能力だった。

「悪魔がお前に力を貸したのか?」海斗は暗い表情で言った。

胡桃を傷付けたが今こうやって楽しく過ごしているのは全て悪魔のおかけ。

それなのにその悪魔が今度は危険な卓三と絡んでいて海斗は複雑だった。

そして卓三は湖南を連れて行ってしまった。

6人は悲しい気分になる。

「何で湖南があんなストーカーといるんだろ、絶対におかしい」楽人は怒る。

「何がどうなってんだよ」龍人は分からないでいた。

しかし時は何が不信感を抱いていた。

――なぜ警察署行くとき、マンションから自分たちを待ち受けていたんだ。それもまるで分っていたかのように。

「何とかして湖南を取り戻そう」海斗が言った。

「そうね」胡桃は返答した。。

「……もしかしたら湖南、何が脅迫されているかも」時が考えていた事を話した。

「脅迫? どんな」胡桃が聞く。

「それは分からないがそんな気がする」

「まさか…」龍人は思いついた。

「奴が悪魔と契約しパラレルトラベラーとして別世界に行こうとしているならもしかしたら…湖南を別世界に連れて行こうとしているのかもしれない。悪魔ならそれも可能だろうし」龍人のひらめきで海斗は「そうだ、それだ」と気付いた。

もし別世界に湖南を連れていけば湖南を助け出すことは出来ない。

その時、海斗はある考えを思いついた「椿に協力を頼もう」

「何であいつの力を貸りなきゃいけないんだろ」楽人は拒否した。

「でも今、あいつは復讐屋として活動している。復讐屋なら相手の情報を入手するぐらいたやすいだろ」海斗は楽人を説得する。

「それに今はいがみ合っている場合じゃない。早くしないと湖南に何が起きるかもしれない」海斗は続けて言う。

天気が曇ってきた。

その暗い空の下で楽人はしばらく考える。

「分かった。椿が切り札なら椿にに力を貸してもらおう」楽人は決めた。

早速、海斗たちは椿のマンションに行く。

そしてインターホンを鳴らすとそこに椿が出てきた。

「椿、依頼がある」海斗は言う。

「お前たちが依頼をするとは珍しいな」椿は笑顔だった。

そして海斗たちは部屋に入る。

「ところで依頼とは何かな」

その時海斗たちは気付いた。

――ストーカーの名前が分からない。

海斗たちは言葉が詰まる。

しかし時は思い出した。

湖南が卓三と再会したときに卓三とつぶやいていた事を。

「卓三だ」時は駄目もとで言ってみる。

「いや、下の名前だけじゃ分からないよ」

龍人は時に言うが椿はすぐに気付いた。。

「そいつは浅木卓三だな」

「何で知っているんだ」楽人が聞く。

「ちょうど浅木卓三への復讐の依頼が来ていたからな、だがなぜそいつの事を知りたい」

「湖南が卓三に連れ去られた。本人はそれを望んだ事らしいがでも何が脅されている気がして」それを聞いた椿は表情を変える。

「分かった。情報を教える」椿は協力する事に決めた。

「本当か?」

「あぁ」

「ありがとう」海斗は喜ぶ。まさかこんなにもあっさり協力してくれると思わなかったため。

「お金はいくらだ」海斗が聞くと「無料で良い」と椿は答えた。

「本当か?」海斗は驚き喜ぶ。楽人は何が不信感を抱く。

椿は自分が集めた卓三の情報を海斗たちに見せる。

「これは…」

「卓三の過去を調べた所、色々な事が分かった。卓三は小中学校の成績が優秀で将来を期待されていたがしかし卓三は元々危険な人物でもあったらしい。自分が欲しいと思ったものはどんな手を使っても手に入れようと考えている人物のようだ。そのため周りの人間も卓三に恐れていた。」さすがの椿も卓三にはかなり警戒していた。

「とりあえずやつの家は分かっている。行ってくる」椿が行こうとした時「待て」と楽人が言う。

「俺にも行かせろ」楽人が言う。

「これは俺の仕事だ。お前たちは待っていろ」

「俺も湖南を助けたい。それに万が一何があったとき二人いたら安心だろ」楽人は椿を説得する。

「…まぁ良いだろう。多い方が安全だろうし」椿は許可した。

「なら俺も行かせてもらおう」時も言う。

「分かった、良いだろう」椿は時も許可した。

「なら俺も行く」海斗も行くと言う。

そして龍人と胡桃も同じだった。

椿は何も言わなかった。

しかし海斗たちには好きにしろというように見えた。

そして6人は卓三の元に向かう。

その頃、湖南は卓三の家にいた。

そこには加奈が両手を縛られて囚われていた。

卓三は加奈を誘拐していた。

そしてそれを脅しの道具にし湖南を脅していた。

そして湖南は卓三の家に監禁されていた。

「もうやめて」湖南が言う。

「湖南、君の事が好きなんだ。愛しているんだ。だから復讐屋と付き合っているのを見て俺は気に食わなかった」卓三は笑顔で言う。

あの時、湖南が椿とキスをするのを偶然窓から見ていたようだった。

それを初めて知った加奈は驚く。

「あの復讐屋に頼んで湖南の友達を潰そうと頼んだが奴は拒否した。同情できる所がないしただ一方的な恨みのために復讐をする気はないと」卓三は言った。

「貸すわけないでしょう」湖南は下を向いて呟いた。

「何?」それを聞いた卓三が反応する。

「椿はやり方は間違っているけど本当は心優しい人なのよ。そんな椿があなたに力を貸すわけないでしょう」湖南は言った。

卓三は今にも怒りそうだった。

「湖南…椿と付き合っていたの?」加奈は聞く。

「…付き合ってはいない。でも椿の事は好きだよ」

卓三はさらに腹を立てる。

その時、ピンポンが連打で鳴った。

「うるさいな、誰だ」卓三がドアを開けると海斗たちが突っ込んできた。

楽人と時はすぐに卓三を拘束した。

「大丈夫? ていうより何で加奈が…」海斗は驚く。

それを見た卓三は「くそぉー」と悔しがる

思っていたよりも遥かに早く見つかったのだから。

「警察に通報する?」胡桃が聞く。

卓三は笑い出した。

「何が面白い?」楽人が怒る。

「俺を警察に通報しても無駄だ。何故なら俺は悪魔と契約した。そして俺は悪魔に別世界に連れていってもらう事になっている」卓三は笑いが止まらなかった。

「俺は…俺はずっと湖南の事が好きだった、なのに湖南は復讐屋の事を愛していた。俺はそれが憎い、憎いんだよ」するとそこに悪魔がやってきた。

それを見た加奈たちは警戒する。

「悪魔、俺を別世界に…」

「残念だがお前には興味がなくなった。この世界で生きろ」悪魔は笑顔で言った。

「何だよそれ、俺たち約束したじゃないか」

「お前の姿を見て考えが変わったんだよ。女を捕まえるために女を餌に脅しをかけるお前を見て面白みがなくなった」

「ふさげるな。もし俺を別世界に連れていってくれなきゃ俺は監禁罪で警察に捕まるかもしれないんだぞ」卓三は叫ぶ。

「この世界で生きろ」悪魔はそう言い残し消えた。

卓三はショックを受ける。

そして龍人を押して外に逃げ出す。

海斗たちは追いかける。

そして卓三は廃れた工場に入ろうとした時、卓三は走るのをやめる。

そして海斗たちが卓三のところにたどり着くとそこで海斗たちはあるものを目撃する。

卓三の前にいたのは水崎天都、海斗の兄がいた。

手には刀を持っていた。

「兄貴…」

加奈たちも思わず海斗の顔を見る。

「久しぶりだな、海斗、まさかこの世界に来るとはな」天都は言った。

「もしかしたら思ったけどまさか兄貴がパラレルトラベラーだったなんて。どおりで警察が大掛かりで捜しても見つからないわけだ」海斗はショックのあまり自分が言った事も分からなかった。

「卓三、お前には失望した。お前には何の感情もない。病院で気の行くまま休め」天都が刀を上に掲げる。

「危ない」時が飛び出す。

そして天都は刀を振り下ろす。

そして何回も切りつける。

時は卓三を庇って刀で切られた。

時の背中から血が流れる。

そして時は倒れこむ。

「時!」胡桃は叫ぶ。

海斗たちはすぐに時に駆け寄る。

「ガムテープないか?」海斗が聞く。

「セロテープならある」加奈が言う。

そして海斗と龍人はすぐに時の背中につける。

「でも感染とか大丈夫なの?」胡桃が聞く。

「今は血が流れにくくすることを優先しないと」海斗が言う。

当然だが刀で切られた場合の対処を教えてもらった事がないため海斗たちはひらめきだけで対処する。

「いや、そんなんじゃ駄目だ」

椿はある液体の薬を出して時の背中につける。

するとその液体は皮膚みたいになる。

「当たり前だが刀で切られた場合の対処法は習った事がない。だがこの薬があれば少し血を止められる」椿は時を処置しながら話す。

湖南はすぐに救急車に追放する。

それを天都は見ていた。

卓三は恐怖に陥る。

「貴様」

楽人は天斗に向かおうとするが湖南が止める。

天都が去る姿を海斗は悔しそうに見ていた。

卓三は絶望する。


時は救急車で運ばれる。

海斗と椿は付き添いとして救急車に乗る。

そして外で待っているとそこに加奈たちが駆け付けた。

時の容態は危険な状況だった。

「あいつ絶対に許さない」楽人は怒って出ていこうとする。

「どこに行く」龍人が聞く。

「あいつをぶっ潰すんだ。時を傷付けた復讐として」楽人は怒鳴るように言う。

「今は落ち着きなさい。今行ってもあなたに何が出来るの? ただ死ぬだけかもしれないのよ」胡桃も説得する。

「それでも俺は」

楽人が言うと湖南は楽人にビンタする。

「あなたは時よりも復讐が大事なの?」湖南は怒る。

「時が切られたとき、海斗や龍人は時の処置をしていたのにあなたはそれよりも男の方に向かっていって…あなたにとって時は仲間じゃないの? 時は私を卓三から助けるために一緒に行動してくれたりしてくれたのに」湖南は涙を流しながら言う。

「あなたは椿を否定しているけど私からしたらあなたより椿の方がまともだよ」

楽人は黙り込む。

そこにドクターがやって来た。

「内臓を深く損傷しています。この病院で手術出来るドクターは現在いません。なので緊急で光島からヘリでドクターがやってきます。そのドクターは難しい手術を幾度もこなしています。しかし問題なのはこの手術も出来るかです。今までこんな事例、ほとんどなかったもので」

それを聞いた加奈たちは絶望する。

しかし海斗は驚いた。

何故なら光島は自分が生まれた故郷であったため。

そして海斗はあるひらめきを思いつく。

「椿、お前は凄腕ドクターだったな」

「そうだが」

「それなら時の手術をやってくれ」海斗は椿に頼む。

龍人たちは驚く。

「何言っている。俺は無免許医だぞ。闇医者の俺が手術をやらせてと言ったって出来るわけないだろ」椿は怒る。

「いや、ちゃんと合法の方法でやる」海斗の言葉に椿や加奈たちは興味を持つ。

「天使」海斗が呼ぶとそこに天使がやって来た。

「どうしましたか?」

「天使、頼みがある。今から光島からドクターが来るんだがそのドクターに椿を取り憑かせる事は出来ないか?」海斗が聞く。

「そうか。そのドクターに取り憑けば椿は無免許医ではなくちゃんとした医師になるのか」

龍人は気付いた。

「いいでしょう。少しの間なら」天使は言った。

「椿、それならいいだろ」海斗が言う。

「だが俺は…」

「私は信じるよ。椿の事を。椿ならきっと時を救ってくれると」湖南は言う。

「……分かった。やってやる」

楽人はそのやり取りを黙って見ていた。

しかし椿にとってもこの手術は難しい手術であって成功率も低いと感じていた。

そして光島からドクターがやって来た。

そして椿の体から精神が抜けてそのドクターに取り憑く。

ドクターは海斗たちのところに来て言った「必ずこの手術を成功させます」海斗はこのドクターの精神は椿のものだと気付いた。

「お願いしまう」海斗は気付かないふりをして頭を下げる。

そして椿は手術室に入る。

そして真夜中、早速手術が始まる。

周りの医師たちも緊張していた。

まず麻酔師が時に麻酔をかけ眠らせた。

そして椿はメスで時の体を切る。

免許剥奪されてから久しぶりの手術だったため椿は非常に緊張していた。

しかしかつて救えなかった命の罪滅ぼしとして今度は救いたいと思っていた。

手術の結果を海斗たちは廊下で待っていた。

楽人は湖南を見ると時を思い出した。

椿は慎重に手術をしていく。

周りの医師たちも緊張しながら見守る。

椿は怖がった。

血は大量に溢れ出ないだろうか、本当にこれであっているのだろうか、突然死んでしまったらどうしたらいいんだ、椿の頭の中に不吉なものがよぎる。

しかしそれでも椿は自分に大丈夫だと言い聞かせながら手術を進めていく。

海斗たちが待っているとランプが消えた。

そしてそこに椿が取り憑いたドクターが出てきた。

「どうですか?」海斗が聞く。

「手術は成功しました。後は彼が目覚めれば大丈夫です」

海斗たちは安心する。

そしてドクターから椿が抜ける。

「先生、今日の手術、とても素晴らしかったです」医師たちは褒める。

「私も不思議だよ。何か謎の力に導かれてというかなんかよく分からない力が働いて」椿に取り憑かれたドクターは不思議に思っていた。

翌日の朝、安心した海斗たちは時の病室で眠っていた。

しかし楽人は窓を見ていた。

そして自分の愚かさが嫌になっていた。


お昼になっても時はまだ目覚めていなかった。

そして楽人も苦悩していた。

湖南がが椿の事を好きだと分かっていてもやっぱり湖南の事を諦めきれないでいた。

楽人はどこかの小さな公園に行く。

その表情は落ち込んでいた。

「俺はどうしたら良いんだ」楽人が小さな公園で思わず大声を上げる。

それを海斗も遠くから偶然見ていた。

「楽人…」海斗は楽人が何が苦悩していると感じた。

そして海斗も心を傷めていた。

自分の兄貴が自分の仲間を傷付けて危うく命を奪おうとした事を考えると海斗は悲しかった。

「どうした?」

海斗が振り返るとそこに湖田鎧と雪中月美がやってきた。

「あなたたちは?」海斗は驚く。

それは剛から見せてもらった写真の中に写っていた人物で蓮の仲間だった。

「君、どっかであったっけ?」鎧は戸惑う。

「さっきの叫び声って」月美が聞く。

「俺の仲間です。すいません」海斗は代わりに謝る。

すると鎧は楽人の方に行く。

「どうしたんだ、何があったか?」鎧が聞く。

「別に何でもない、ただ叫んだだけだ」

「なんかそんなようには見えないが」

そして海斗と月美も近づく。

「何に悩んでいるのか分からないが湖南がお前を叩いたのはお前を思っての事だと思うぞ」海斗が楽人に言う。

「違う、俺は湖南が許せない」

「どういう事だ」

「湖南は椿の事を受け入れている。その考えが俺は気に食わない」楽人は怒っていた。

海斗は何も言えなかった。

「何だが分からんないがお前の考えで彼女を縛るようなことは良くないな」鎧は言う。

「でもそいつは」楽人は反論しようとする。

「彼女さんには彼女さんの考えがあるんだよ、逆にあなたの考えが正しいというわけでもないと思う」月美は楽人の話そうとしたところで言った。

「…」楽人は黙り込む。

「でも彼女を思う気持ちは悪くない事だ」鎧は楽人を励ます。

楽人はどうしたら良いか分からないでいた。

「ここまで思えるなら彼女さんを受け入れる事も出来るんじゃないの」月美は話す。

そして二人は去っていった。

その頃、時の側には胡桃がいた。

胡桃は時の手を握る。

胡桃は分からなかった。

なぜ自分の命を犠牲にしかけてまで卓三を救おうとしたのか。

そこに加奈が病室に入って来た。

胡桃は時の手を離す。

「時、まだ目を覚めないのね」加奈は心配していた。

「大丈夫、時はきっと目を覚ますよ」胡桃は加奈を励ます。

そこに海斗と楽人が入って来た。

楽人は時を見て言った。

「時は俺や湖南の事を気にかけてくれていた。そして悪党の卓三も自分の身を犠牲にしてまで助けた。それなのに俺は湖南の意思を無視しようとしたり海斗や龍人が時の処置をしている中、自分はあいつに向かっていこうとした。俺は情けない」

「でもお前はちゃんと気付いたじゃないか」海斗は楽人に言う。

楽人は顔を上げて海斗を見る。

「確かにお前には問題点もあった。でもお前の人を思う気持ちは間違っていない。ただちょっと暴走しただけだ」海斗は笑顔で言った。

そのとき、時は目を覚ました。

「時!」海斗は声を上げる。

「俺は生きているのか」時は小さい声ながら言う。

海斗たちは安心する。

そして海斗からの電話で湖南も自然緑川公園でそれを知った。

湖南は安心する。

「目を覚ましたのか」椿が聞く。

「うん」

「そうか」

「ありがとう椿」湖南は笑顔でお礼を言った。

夕方、楽人がお昼にいた公園のベンチに座っているとそこに鎧と月美がまだやって来た。

「まだ会ったな」鎧が笑顔で言う。

「ありがとう、お前のおかけで俺は自分の事に気づく事が出来た」

「さっきよりも良い表情になったね」月美が言う。

「仲間を大事にしろよ」鎧は楽人に言った。

「分かってる」

そして楽人は鎧と月美と別れた。

楽人は笑顔に久しぶりに笑顔になれた。

数日後、時の退院日、海斗たち7人は病院から出る。

海斗たちが笑顔で帰っているとそこに卓三がやって来た。

海斗たちは警戒する。

「今まですみませんでした」卓三は頭を下げて謝る。

海斗たちは黙り込む。

「あなたもきっと変われるはず。だから前を向いて生きて」湖南は優しく言う。

「俺は変わります。なので俺を警察に…」

「その必要はない。お前が変わろうとするならそれでいい」時は卓三が話している途中で言った。

「ありがとうございます」卓三は決意した。

――自分は変わる。

卓三は去っていった。

海斗達の姿をマンションの屋上から天都が見ていた。

「やれやれ元ドクターに手術させなくても治療してやったのにな」

天都は最初から時を殺すつもりはなかった。

後で時を治療しようとしていたのだった。


海斗が公園で休んでいた。

――この世界に入れるのも後、1年なのか。

海斗は切なく感じた。

するとそこに悪魔がやってきた。

「どうだ。この世界は、楽しいか?」

「お前、こんな好き勝手にやりやがって…」

海斗は悪魔の胸倉を掴もうとするが悪魔は透けて掴めなかった。

「俺は悪魔だ。だから人間如きが俺を掴む事は出来ない」悪魔は馬鹿にした感じで言う。

「どうだ、この世界は楽しいか?」

「あぁ、確かに楽しい。だからいつか帰らなきゃいけないと考えるととても辛い」海斗は胸が痛かった。

「兄貴をこの世界に連れてきたのもお前か」

「勿論だ。俺が天都を連れてきた。そして本当ならお前には他のパラレルトラベラーを見抜く能力を手に入れる事が出来るはずだったがお前にはそれがないだろ。それは天斗がこの世界にお前が来た事を知ってお前の能力の分を自分に渡すよう言ったんだ。だからお前にはその能力がないんだ」

「なぜそんなことを」

「能力を倍にすればその分能力も向上する」悪魔は笑顔だった。

「残念だよ。お前にはこの世界に連れてきてくれて感謝していたのに。俺は悲しいよ」海斗の言葉にも悪魔は無表情だった。

「別にお前を喜ばせるためにやったわけじゃない」

そこにある人がやってきた。それは天使だった。

「悪魔、この青年をこの世界に連れてくるなんて」天使は怒る。

「天使…貴様」悪魔も同じように怒る。

「悪魔、パラレルワールドの人間をこの世界に連れてくるのは違法行為だ」

「だからどうした。どうせ悪魔なんだから違法とかそんな法律、俺には関係ない。俺はただ暗黒界の一員になれればそれで良いと考えている」悪魔は天使に言う。

「お前を救済したいと思っているやつはたくさんいる。実際に悪魔を救済する施設も出来ているだろ」天使は大声で悪魔に言う。

「今頃、俺を救済したいとか言うな。天使の俺を今まで迫害し悪魔に変えたのは誰のせいだ」

悪魔はそう言い去っていく

海斗は天使に聞いた。

「さっき悪魔が天使の俺をと言っていたがどういう事だ」

「彼は元々は天使でしたがしかしある事をきっかけに悪魔になってしまった者なのです。しかし彼はなぜ悪魔を続けるんでしょうか。今はその救済が行われているのに」

天使の何気ない発言に海斗は興味を持つ。

海斗は天使に詳しい話を聞かせてほしいと言った。

「天使の使命はその人を、もしも、の世界に連れていきそしてその世界を体験させるという役割がありその人を幸福にするのが使命です。しかしそれに失敗した天使は周りの天使から迫害を受けそして最終的に悪魔になってしまう天使も少なくないのです。天使の世界にはそういう現状があります」

「じゃああの悪魔は」

「…かつて彼はある青年をもしもの世界に連れて行きましたがしかしその指名に失敗しその青年は心の深い傷を負ってしまったのです。その結果、彼は周りから批判され最終的に悪魔になった天使です」

それを聞いた海斗は言葉が出なかった。

「そして私はその悪魔を救いたいと思っているのですが彼はそれを拒否しているのです」

「あんたに聞きたい。悪魔は一体何がしたいんだ」海斗は聞いた。

天使は重い口調で答える。

「悪魔の目的は危険人物を別世界に送り込み悪事を働かせ人間関係や社会にダメージを与えるのが目的です。そしてたとえ人その間が捕まってもいずれ元の帰るので罰せられないのです」天使の説明を聞いて海斗は驚く。

「しかしなぜあの悪魔は君をこの世界に連れてきたのでしょうか? 君には悪というものを感じないのでこの世界に連れてきても無駄な気がするのですが」天使は疑問に思う。

海斗も分からなかった。

しかしある事が頭に浮かんだ。

――もしかしたら悪魔は天使に戻りたいんじゃないのか。

海斗は決めた。

「俺が悪魔を説得する」海斗の言葉に天使は否定する。

「悪魔は人間をはるかに超える強い奴なんですよ、止める事なんて…」

「それでも止める。これ以上人を傷つけさせて良いわけがない。それに兄貴も止めないと」

翌日、海斗が手芸部の教室に入るとそこには加奈たちがいた。

海斗は落ち込んでいた。

「どうしたの、海斗」加奈は声をかける。

「いや、何でもない」

「海斗、この前の男って一体」龍人が恐る恐る聞く。

海斗は考えるが正直に言う。

「あいつは俺の兄貴だ」

それを聞いた加奈たちは暗い表情になる。

「俺の家族は光島で暮らしていたけど父さんの不祥事がきっかけで島の人たちから批判や嫌がらせを受けた。そして兄貴は俺が暮らしていた光島で多くの人を傷つけた。それを正義と言って」海斗は辛かった。

「時、すまなかった。俺が兄貴の闇に気付く事が出来なくて。もし俺が気付くことが出来たらこんな事にならなかったのに」海斗は時に謝る。

「お前のせいじゃない。お前は何も悪くない」

「私も同じよ。お兄さんがどんな人物であっても海斗である事は変わらないよ」加奈も言った。

海斗はありがたく思った。

夕方、海斗たちは下校中、自然緑川公園を通ると海斗たちの目の前に天都が現れた。

「兄貴…」海斗は言う。

そして加奈たちは警戒する。

「兄貴、もうやめてくれ。こんな悲劇繰り返さないでくれ」

「これは必要な悲劇だ。悲劇を起こして平和を作る、それが俺の正義だ」

「違う。こんなの正義なんかじゃない。家族や訪花さんとかを犠牲にして得た平和なんて俺は認めない」

「海斗、お前には分からない。同じ悲劇を二度と起こさないためにはどうしたら良いか。それは一度目に悲しすぎる悲劇の結末を生めば良い」天都は無表情だった。

「どういう事だ」

「かつて俺たちの父親は医療ミスを犯し光島の人々から批判や嫌がらせを受けただろ。これから先、まだどこかで俺たちと同じ状況に陥る人は出てくるだろう。そしたら俺たちと同じ思いをする事になるはずだ。だから光島の惨劇を起こした。それが教訓になれば二度と同じ悲劇は起きないだろうから」天都は涼しげな表情で言った。

「じゃあ私のいた町で起きた惨劇も」胡桃が聞く。

「あれも俺がやった。あの町は1つの家族を迫害しそして精神的に深く傷つけた。だから悲劇を起こしておけば2度と同じ悲劇は起きないだろうからな」

それを聞いた胡桃は悲しくなる。

そして海斗は怒りに震える。

「兄貴…やっぱり俺はあんたの考えに賛同出来ない。むしろあんたの考えを潰したい。こんな身勝手な正義なんて。それに俺は絶対に許さない事がある。それは兄貴の…俺の家族を…訪花さんを傷付けたあんたを絶対に許さない」

天都は背を向けた。

そして手に持った刀を見つめる。

「悪魔は俺に希望をくれた。生きる事への意味を失った俺にこの刀をくれた。俺は悪魔に感謝している。だから俺は自分の信じる正義を貫くだけだ」天都は言った。

「海斗、お前は父親が好きか?」

「何でそんな事聞く」

「お前は知らないんだ。何も。ただ知る必要はない。今頃知っても意味などないからな」天都はそう言い残し去っていった。

海斗は悲しかった。

龍人はそれをただ見ているしか出来なかった。



海斗が屋上に行くとそこには龍人がいた。

「海斗か」龍人は言う。

海斗は龍人の隣に行く。

「悪魔って何なんだろう」海斗は分からないでいた。

「でも悪魔も俺たちと同じ生命体の一つだろ。俺たちが相手が何を考えているのか分からないように悪魔が何を考えているかなんて分からないのも当然だ」

その時、龍人は苦しみだす。

そして口から血を吐き出す。

「龍人!」海斗は驚く。

「大丈夫だ、いずれこうなるとは思わなかった」龍人はそんな気がしていた。

「龍人…」そこに加奈がやってきた。

「龍人!」加奈も驚く。

「慌てるな、俺はもう覚悟しているんだ」龍人は加奈にも言う。

そして龍人は立ち上がる。

「俺は…悪魔病だ」

「悪魔病…なんだそれ」海斗が聞く。

「悪魔病って…」加奈は知っていた。

「父さんから聞かされていた。でもその数週間後に俺を捨てて出ていったけど」

加奈は驚く。それは龍人が父親に捨てられていた事を知らなかったため

「俺は疑っている。きっと父さんが俺にマキシウムへタンを飲ませたと。それで俺を殺そうとしていると」龍人は苦しそうに言う。

「そんな事ないよ。だってお父さんじゃないの」加奈は龍人の言葉を否定する。

「じゃあ、俺の父さんの何を知っているんだ?」龍人は反論する。

「それは…」加奈は何も言えなかった。

「…俺は近いうちに死ぬ事になる」

「そんな…」海斗は体制を崩す。

「冗談じゃない、何でそんな簡単に死ぬだなんて冷静に言えるんだろ」海斗は怒る。

「じゃどうすればよいんだよ。どうすれば死なずに済むんだろ」龍人も背を向けて反論する。

「分からない。俺はまだドクターじゃないから。でもだからって死ぬだなんて簡単に言うな」海斗はさっきより怒る。

「やめて、2人とも」加奈は仲裁に入る。その顔は涙で濡れていた。

二人は落ち着く。

そして龍人は屋上から出ていった。

「加奈、悪魔病って何だ?」海斗は顔を下に向けて聞く。

「海斗はこの時間軸で生まれていないから知らないかもしれないけどこの世界では誰もが知っているぐらいの有名な話があるの。今から十五年前、日本で震度七の大地震が発生してそれで日本は壊滅的な被害を受けたの。その時にネットでは素人が独学で開発した根拠のない薬が売買された。それがマキシウムへタンだった。その薬を飲むと疲れや精神的不安が取り除かれ健康的な体になるというものだった。勿論そんな効果は全くないし本来なら絶対買ってはいけないような薬だったがその時の日本は壊滅的な被害を受けていたからそれで苦しんでいた人の中にはそんな薬を買ってしまった人もたくさんいた。そして多くの人がそれを飲んでしまった。後にその薬は危険な薬品で作られたものが判明してその薬を飲んだ人には大きな障害を追ってしまった。仮にその時は健康面に問題がなくてもその後にその症状が現れたりする。その後、その製品を開発した人は罰せられ、ネット環境が大きく見直された。悪魔病の名前の由来はネットの闇が生んだ悪魔のような商品だから悪魔病と名付けられた」

「じゃ龍人は」

「龍人はそれを飲まされていたと思われる。いつ飲まされたかは正確に分からないけどでもその症状が今になって現れ始めたと思う」

「その薬品の名前って」海斗が聞く。

「マキシウムへタンよ」加奈が答える。

「知らないな、そんな薬品」

それもそのはずこの薬品は海斗の世界には存在しない薬品であるため。

「この事は胡桃たちには内緒にしよう」海斗が提案する。

「でも…」加奈は迷う。

「胡桃たちに言ったら傷つくと思う」海斗は加奈を説得する。

「での龍人は死ぬんだよ」加奈が言うと海斗は怒る。

「俺は信じない、龍人が死ぬ事なんて。だから諦めるな、最後まで信じろ」海斗は加奈に言う。

加奈は泣き出してしまう。海斗は加奈に抱きつく。

「信じよう、まだ希望はある」海斗は加奈を励ます。

希望を信じようとは言ったもののどうしたら良いか海斗は分からなかった。

しかしそれでもそう言うしかなかった。

「海斗、本当の事を言っても良い?」

「何だ」

「私、本当は海斗の事が好きなの、でも海斗と同じぐらい龍人も好きなの」加奈は勇気を出して言った。

海斗は驚く。

自分の胸のところで加奈がそう言ったため海斗の心臓の鼓動が早くなる。

「加奈…」海斗は無意識に言った。

その時、海斗は気付いた。

――自分はいつか別世界に帰らないといけない。もし自分と加奈が付き合ってもいつか加奈とは別れなければいけないしそうすると加奈を悲しませる事になるかもしれない。

海斗の中で一気に悲しみがこみ上げてきた。

しかしだからといって加奈を龍人にも渡したくなかった。

それほど海斗は加奈が好きだった。

海斗は迷う。

加奈を傷付けても手に入れるかそれとも龍人に渡してしまうか海斗はパラレルトラベラーの切なさを今までにないぐらい感じた。



この時期、海斗たちにとって高校生活最後の文化祭が近づいていた。

胡桃と時以外の海斗たちは手芸部からも展示する事に決めていた。

製作作品は88星座の刺繍を繋げた巨大カーテンだった。

そして良い作品を作るため海斗は部員ではない胡桃と時にも頼んみ文化祭が終わるまでの間、手芸部で海斗たちに協力する事にしていた。

夕方、胡桃が帰ろうとしたとき玄関のところに時がいた。

胡桃は時の側に近づく

「何しているの」

「いや~今からどこに行こうか考えているんだ」

「サボってないで家で作品制作しなさいよ」

「いいじゃないか。明日は土曜日なんだから」

胡桃と時は笑顔で会話をする。

「そういえばもうすぐ文化祭だね」

「気が早いだよ。まだ二週間あるぞ」

「そういえば作品の方、家でもやっている?」胡桃が聞く。

「勿論やっているぜ。しかし胡桃も良いアイデア出してくれたな。星座だなんて」時は褒める。

「じゃあ俺は行く」時が帰ろうとした。

「……待って」胡桃が止める。

「どうした」時が振り返る。

「…やっぱり何でもない」胡桃は寂しそうに言った。

「そうか、じゃあな」時は行く。

胡桃は心が痛かった。

いつまでたっても告白に踏みとどめなくて。

胡桃が一人帰っていると洋服屋でマフラーを見つける。

「もうすぐ冬か」胡桃が呟くとある考えを思いつく。

――時にマフラーをプレゼントしよう。

翌日、胡桃は手芸部の教室に行くと湖南が作業をしていた。

「作ったわよ」胡桃は12個の星座の作品を持ってきた。

「凄い。思っていたよりも早かったね」湖南は驚く。

「昨日、徹夜したからね、それより湖南、まだ残っているならやってあげるわよ」胡桃は疲れた表情で言う。

「どうしたの? 大丈夫」湖南は心配になった。

「大丈夫よ。後は海斗と龍人、時が自分の分を作れば完成だから」

「じゃあ湖南、一つお願いがあるんだけど」

胡桃は湖南にマフラーの作り方を教えてほしいと頼んだ。

「だから星座の方を早く終わらせたのね」

「そうよ」

「分かった。教えてあげる」湖南は快く引き受けた。

そして湖南は胡桃にマフラーの作り方を教える。

胡桃は不器用ながらもやっていく。

そして家でもマフラーを作っていく。

何度も間違え何度も出来るか不安になるがそれでも頑張って作業していく。

そして湖南も出来る限り胡桃の作ったマフラーを確認する。

そして文化祭一週間前、海斗と加奈、龍人が帰っているとそこに天都がやって来た。

「兄貴…」

「しかしあの復讐屋、今兵庫県にいるのか」天都は笑顔で言った。

「なぜ分かる」

「前にお前のパラレルトラベラーを見抜く能力の分を俺がもらったと言っただろ。俺はその能力が倍になった分、日本のどこにパラレルトラベラーがいるかを見抜く事出来るようになったからだ」

「兄貴、こんな事してもただ悲しみが生まれるだけじゃないか。悲劇をなくすために悲しみを作っていいわけがない」海斗は涙を堪える。

「何で兄貴はあんなに優しかったのにここまで冷酷になってしまったんだよ」海斗は悲しかった。

「光島での出来事を思い出すと俺は毎回思う事がある。人間は悪魔だと。理由があるとはいえ、罪のない家族を自分たちは傷付けているのにそんな自分たちの事を悪だと気付いていないんだから。まぁどうせ自分たちのやっている事は悪なのに正義だと勘違いしているんだろうけど」天都は涼しげな表情で言った。

「あなたも変わらないでしょう」加奈が言った。

「何」天都は思わず加奈を見る。

「その人たちはそれを正義だと信じてやっているならあなただって人を傷付ける事を正義だと思ってやっているじゃない」加奈は天都を見つめる。

天都は動揺する。

「あんたはいいじゃないか。まだ家族がいて。俺なんて家族はいないんだから」龍人は寂しそうに言った。

「…そんな説得で俺が変わると思うな」天都は消えた。

海斗は加奈と龍人が話に割って入ってきて驚いた。

二人ともありがとう」海斗は言う。

「別にただこれ以上誰かを傷付けさせたくないし」龍人は言う。

そこに悪魔が現れた。

「お前…」海斗は前と同じように警戒する。

「電龍人、お前に一つ良いものを見せてやる」

悪魔は手から光線を出す。

それは立体映像に変わる。

そこに映っていたのは龍人の父親の眠っている姿だった。

「これは…」龍人が驚くがみんなも驚く。

さらに父親の側にやってきたのは椿だった。

「椿!」加奈が驚く。

「一体これは…」海斗は思わず呟く。

龍人は驚いた。

そして考えた。

父親と椿には何が関係があると。

その頃、胡桃は家でマフラーを作っていた。

胡桃は時の事を考えながらマフラーを作っていく。

そして数日後、胡桃はマフラーを完成させた。

そして追加で湖南に手袋の作り方も教えてもらい手袋も完成させた。

時のサイズに合うか分からなかったが胡桃は勘で作った。

――後は時に渡すだけだ。

胡桃は明日を楽しみにする。

翌日、胡桃が登校すると玄関のところに時が立っていた。

「時」胡桃が言うと時が気付く。

「胡桃」

「時、渡したいものがあるんだけど」胡桃はバックを探すがマフラーを忘れた。

――しまった。

何でいつも忘れ物しないのにこんなときに忘れちゃったの。

胡桃はショックを受ける。

「どうした」

「家に忘れちゃった。明日持ってくる」

「よぉ二人とも」そこに楽人がやって来た。

「楽人…」胡桃はせっかく二人きりだったのにとちょっと心の中で楽人に怒る。

そして昼休み、胡桃が手芸分教室に行くと湖南が作品の仕上げとしていて88星座の作品を繋げていた。

「もうすぐ完成だね」胡桃が言う。

「そうだね」湖南は笑顔だった。

「湖南、ありがとう。おかけでマフラーと手袋完成したよ」胡桃は笑顔で言った。

「おめでとう」湖南は笑顔で返した。

「私も手伝うよ」胡桃も湖南と一緒に仕上げをする。

そして放課後、胡桃が帰ろうとした時、そこに時がやって来た。

「胡桃、一緒に帰ろう」時が誘う

「え?」胡桃は一瞬ドキッとなる。

「いいよ」胡桃は笑顔になる。

そして二人は一緒に帰る。

胡桃は緊張していた。

「もうすぐ文化祭だな」時が言う。

「そうだね…湖南が昼休み作品の最後の仕上げをしていたよ」胡桃が言うと二人の前に天都が現れる。

「あなた…」胡桃は怒りがこみ上げる。

「安心しろ。お前を切ったりはしない」天都は言うが胡桃は警戒する。

「でもお前たち二人は入学して当初、悪事を働いていたようだな」

「確かに俺は力に溺れて人を傷付けた。でも今は違う。俺は自分の過ちに気付いて罪滅ぼしをしている」

「そのようには見えないな。前回はお前は卓三を庇って切られたが生還した。しかし今回はお前の悪のために切る。二人まとめてな」天都は刀を手に持つ。

「俺は傷付いても良い。でも胡桃だけは傷付けるな」時の言葉に胡桃は胸がときめく。

天都が刀を持って向かって来た。

時は胡桃を抱きしめ天都に背を向ける

胡桃は固まってしまう。

天都が切ろうとした。

「その人たちはそれを正義だと信じてやっているならあなただって人を傷付ける事を正義だと思ってやっているじゃない」

「あんたはいいじゃないか。まだ家族がいて。俺なんて家族はいないんだから」

天都の動きが止まる。

時は振り返る。

そして刀を下に下ろす。

天都は無言で消えた。

「良かった…」時は安心する。

そして体を離そうとしたとき突然胡桃は時にキスをした。

時は胡桃にキスをされながら驚く。

そして胡桃は顔を離す。

「私、時の事がずっと好きだった。もしよかったら私と付き合ってくれない」胡桃は下を向きながら告白した。

「……いいぜ」時は返答した。

胡桃は思わず顔を上げる。

「いいの?」胡桃は確認する。

「勿論だ。胡桃の笑顔好きだし」時は笑顔で言った。

「ありがとう」胡桃は笑顔になる。

そして二人は手を繋いで帰っていった。

文化祭当日、多くの人が海斗たちの作品を見ていた。

そして海斗たちも遠くからその作品を見ていた。

「良い作品に仕上がったな」楽人が言う。

「そうだね」加奈が返答する。

「湖南、仕上げありがとな」海斗がお礼を言う。

「私だけじゃないよ。胡桃も手伝ってくれたのよ」

「そうか、胡桃もありがとう」海斗は胡桃にもお礼を言った。

そして文化祭が終わり八人は帰ろうとしたとき、時が忘れ物を取りに教室に戻る。

教室に入った時は忘れたマフラーを見つけた。

それは胡桃がくれたマフラーだった。

時は海斗たちのところに走って向かう。



この世界にある青年がやってきた。

「久しぶりだな。まだ帰ってくるとは思わなかった」

二週間後、海斗たちはマンションに行きインターホンを鳴らすとそこに椿がドアを開けた。

「久しぶりだな、どうしたのかな」椿は笑顔だった。

「お前」龍人は襲い掛かろうとするが時が止める。

「お前に聞きたい事がある。本当は前から聞きたかったがお前2週間ずっといなかったから」龍人が言うと椿は7人を部屋に入れる。

「何の用だ?」

「お前に聞きたい。お前は龍人の父親と何か関係があると知ったんだが」龍人が言うと椿は表情を変える。

「悪魔から聞いたか」椿は悟った。

「椿、何があったか俺からも教えてくれ」

「断る」椿は拒否した。

「そこを何とか教えてくれ。龍人の父親は龍人を捨てて出ていったんだ。だから父親の事を聞けばなぜ龍人の父親が龍人を捨てて出ていった理由も分かるかもしれないし」海斗は頼み込む。

「教える気はない」椿は態度を変えなかった。

「それはどうしても教えられない理由があるからなのか」楽人が言った。

「お前たちには関係ない」

そして海斗たちはマンションから出てきた。

「椿は何で龍人のお父さんの事を教えてくれないのかしら」胡桃は疑問に思う。

「もしかして何が言えない理由でもあるのか」楽人は思う。

「言えない理由って何?」

「それは分からない。でももしかしたら龍人の父親を傷付けたとか」

「椿はそんな事しない」湖南は楽人の言う事を拒否する。

「でもあいつは復讐屋だぞ。それならやりかねないだよ」

「でも椿は時を救ってくれたじゃないの」

「でも…すまない」楽人は思い出した。

湖南の言う事を無視してはいけないと。

楽人は危うくまだ同じ事を繰り返しそうになった。

「二人とも」加奈が宥める。

二人は龍人の前で父親の悪い話をしてしまったと思った。

「別にいいよ。父さんは恨みの念しかないし」

「でも本当に恨んでいるならわざわざ自分を捨てた父親の事なんか知りたいとなんか思わないんじゃないのか?」海斗は龍人に聞く。

「俺が知りたいのはなぜ俺を捨てたかだ。それを知る事が出来ればもう用はない」龍人は怒り気味に言う。

椿も暗い表情をしていた。

同時にある依頼の準備をする。

そしてある計画を立てる。

海斗は加奈と龍人と一緒に帰る。

「父親の事はまだ明日椿の所に行こう」海斗が言う。

「別に俺は父親の事なんて思っていない。俺を捨てた親なんだから」龍人はさっきと同じ事を言う。

龍人は父親を憎んでいた。

「でもその割に父親が死んだと知ったとき、動揺していたじゃないの」加奈が反論する。

「それは……」龍人は言葉が出なかった。

翌日、海斗たちは椿に呼ばれて部屋に入る。

海斗は椿が龍人の父親の話をする気になったと思った。

しかしこの後椿の話は意外なものだった。

「お前たちを呼んだのは良い仕事があるから呼んだ」椿の話に海斗たちは警戒する。

「良い仕事ってなんだ」

すると椿はホワイトボートに指さす。

見るとそこには奈美の名前が書かれていた・

「今回のターゲットは海野奈美だ。彼女への復讐が今回の依頼だ」

「ふさげるな! 彼女は俺に勇気をくれた人だ。そんな事出来るわけないだろ。それに彼女には大切な恋人がいる。その人を悲しませたくない」海斗は奈美からもらったキーホルダーを握りしめ怒る。

「そうか、まさかお前ウイルスと知り合いだったとはな。まぁもし成功すればお前たちにもちゃんと報酬を渡してやるよ。それにお前たちにも俺のやっている事をやれば少しは俺の正義も理解できるんじゃないかと思ってな。まぁその割には今頃になってしまったが」

「やっぱりお前最低だな。時を助けてくれたとき、少しはお前を見直したがでも俺は馬鹿だったし甘すぎた」楽人が椿を見直した事に後悔した。

「椿…もうやめよう」湖南が言う。

「これは俺の正義だ。俺は自分の正義を貫くだけだ」

湖南は悲しく感じた。

海斗たちは怒りながら部屋を出ていく。

そして自然緑川公園に集まる。

「一体どうすればいいんだ」海斗は呟く。

加奈たちもどうしたら良いか分からなかった。

「でも椿にとってはそれが正義なんだろうけどでもこんな事していいはずがない」龍人が言う。

「お前か、海崎海斗というパラレルトラベラーは」

7人が振り向くとそこに氷崎大我がやってきた。

「君は…」海斗は聞く。

「俺もお前と同じパラレルトラベラーだ。一度元の世界に帰還したが奈美への復讐を知って奈美を守るために再びこの世界にやってきた」

「再びってじゃあ君は一度元の世界に帰っているという事か」海斗が聞く。

「そうだ。奈美は誰かに復讐をされるような悪い事はしない。それに奈美の事を大事に思っている恋人や仲間がいる。その人たちを悲しませないために俺は奈美を守る」大我の言葉に海斗は心強く感じた。

海斗は大我に椿の事について詳しく話す。

「話は分かった。俺に考えがある」

「考えって何?」海斗が聞く。

その頃椿はある計画を実行しようとした。

それは優ヶ丘高校に奈美が犯罪者であるという紙を大量に張り付けてそれを公にしようという考えだった。

しかし椿の中には何が迷いがあった。

海斗は大我に言った。

「椿は確かに復讐屋をやっている。でもあいつはそれを正義であり、医療であると言っている。だが根は悪い奴ではないと思うんだ。それに椿のおかけで危うく死にかけた命を救ってくれた事もあった。だから俺はあいつを悪だと思いたくない」

「そうか。そいつの言う事も分からなくない。でもそれがたとえ正義でも守りたいものは守る」

そしてその日の夜、椿は優ヶ丘に侵入しそして紙を貼っていく。

さらにスプレーで書こうとした。

「もうやめてもらおうか」海斗と加奈、大我がやってきた。

「今のは動画で撮影させてもらった。これを警察に届ければお前も捕まるだろう」大我は言う。

「よく分かったな。でもまさかパラレルトラベラーに止められるとはな」椿は特に驚いていなかった。

「この学校は俺にとっては故郷だ。お前のような騙された奴に汚されてたまるか」大我は言う。

「騙された? どういう事だ」

「天使がお前の事を見ていた。そしてお前がある依頼者と契約を交わしたと聞いている。だがその依頼者は天使によればかつて蓮や奈美がある仲間の恋人を守るために戦った相手だ。お前はただ逆恨みをしているやつと契約をしただけだ」

それを聞いた椿は驚く。

「そんなはずがない、俺が間違えるだなんて」

椿は思い出した。

かつて医療ミスを犯し患者を死なせてしまった事を。

そして今、間違って罪のない人を傷付けそうになった事を。

「もうやめよう。人を救う方法はまだ他にあるはずだ。それにお前を思っている人だっているじゃないか」海斗は椿を説得する。

椿は湖南の事が頭をよぎる。

自分が復讐屋だと知ってもそれでも自分を思ってくれたのが湖南だった。

椿にとっては湖南は大切な人でありずっと一緒にいたいと思った人でもあった。

それなのに人を傷付けたら湖南は悲しむだけではないか。

椿は黙ってその場を去っていく。

「悲しいものだな」大我は呟く。

「あいつは一人ぼっちだと思う。やり方は悪いがずっと一人で人を救うために動いていた」海斗は言った。

そして大我は思った。まるで昔の自分を見ているようだと

大我が歩き出す。

「どこへ行く」海斗が聞く。

「俺はしばらくこの世界で過ごす。もう戻る事はないかもしれないから思う存分この世界で過ごす事にする」大我はそう言い去っていった。



天都は考えていた。

なぜあのとき、胡桃と時を切る事が出来なかったのか、そしてなぜ加奈と龍人の言葉に心が揺らいだのか。

翌日、海斗たちは誤飲をした場合の対処法の授業をしていた。

龍人は海斗と胡桃と一緒に人形を使って実践をするが龍人は力が入っていないようだった。

それを海斗と胡桃も感じていたが敢えて触れなかった。

椿は部屋の角で寝ていた。

昨日の事で疲れていた。

するとインターホンが鳴った。

あげるとそこには海斗がいた。

「依頼かな」椿は馬鹿にしたように笑顔で聞く。

「話がある」

海斗は椿を自然緑川公園に連れて行くとそこには加奈たちがいた。

湖南は心配そうだった。

龍人は椿を見るなりすぐに聞く。

「お前、俺の父さんの事を聞かせろ」

「またか」椿は面倒くさそうだった。

「椿、頼むから龍人に教えてあげて」湖南も頼む。

椿は考える。

そして決めた。

「まぁそろそろ教えてやるか」椿は話始める。

「お前は知らないと思うがお前の両親がどのように出会い、どのようにお前と過ごしてきたか」

龍人の父親の電雄吾は医療の仕事をしていてその仕事先で出会った民子と仲良くなりやがて交際を始めた。

雄吾は無口だが優しい性格で民子の事をいつも大事に思っていた。

だが照れ臭い性格のためありがとうと言われるのが苦手だった。

しかし民子も雄吾の事を大事に思っていた。

そして2人は2年の交際を後、結婚した。

そして半年後、民子は妊娠をする。

雄吾は喜ぶ。

そして雄吾をどのように育てていこうか毎日考えていた。

スポーツをやらせる、音楽をやらせる、英会話をやらせる

雄吾は子供に何をやらせようか雄吾にとってはその悩みが楽しみの一つでもあった。

ある日、雄吾は民子に子供の話をする。

「なぁ民子、もし男の子だったら名前は龍人にしないか?」雄吾は民子に提案する。

「龍人」

「そうだ。なんかかっこいいし強い子に育ちそうじゃないか」

「じゃあ龍人にしましょう」民子は笑顔で賛成した。

2人は喜びに溢れていた。

そして雄吾は神社に行く。

神社で御賽銭にお金を入れて心の中で願う。

――子供が無事大きくなりますように。そして誰からも愛されるような人間になりますように。

そして10ケ月、民子は病院で龍人を出産した。

2人は人生で最高の喜びを味わう。

――これからどんな幸せが待っているのか。

雄吾は幸せだった。

しかし龍人が2歳の時、突然不幸はやってきた。

龍人が生まれてすぐ日本で史上最大の大地震が起こった。そして原子力発電所が破壊され、多くの人がその放射線を浴びた。しかし雄吾たち家族はその近くには住んでいないため問題はなかった。だがその時に不安に駆られてしまった民子はネットで売られていた素人が作った根拠のない薬を購入しそれを飲んでしまった。

それが後にマキシウムへタンと呼ばれる事になる薬品だった。

そしてそれを幼い龍人にも飲ませてしまった。

それを知った雄吾は激怒する。

「こんな物を俺たちの息子に飲ませるなんて」雄吾は呆れてしまった。

龍人には特に異変はなかった。

その時、まだ巨大地震が起きた。雄吾は龍人を抱きしめて民子と逃げるがしかし民子が途中で崩れた建物の下敷きになってしまった。

「民子!」雄吾は瓦礫を持ち上げようとするが持ち上がらない。

その時、民子は言った。

「私を置いて逃げて」

「出来るわけないだろ」雄吾は拒否する。

「龍人だけでも助けて。私にとって龍人は本当の命だから」民子は必死に訴える。

雄吾は考える。

しかしすぐに決断した。

「民子……すまない」雄吾は龍人を抱いて走り出す。

「生きて…」民子は言う。

そして民子のいたところは洪水で湖のようになった。

雄吾はショックのあまり泣き出す。

――すまない民子、お前を救ってあげる事が出来なくて。

雄吾は自分を責めた。

しかし雄吾は民子が命より大事にしていた龍人を守る事を決意する。

それからというもの雄吾は医療の仕事をしながら男で一人で龍人を育てる。

そして龍人が5歳になったある日、雄吾の所に上司がやってきた。

雄吾はその上司を家の中に入れる。

そして上司はある話をする。

「電、ある研究機関が悪魔病の薬を治療するためのワクチンを開発する事に決定した」

雄吾は分からなかった。

なぜ医療の現場にいながら自分はそれを知らないんだど。

「悪魔病って何ですか?」雄吾は不思議そうに聞いてみる。

「君は前に自分の息子が危険な薬品であるマキシウムへタンを飲んだと話した事があっただろ」

「確かに前に話した事があります」

「実は君の息子が飲んだ薬がかなり危険なものである事が分かった」

「どういう事ですか?」雄吾は思わず身を乗り出す。

「君の息子が飲んだ薬と同じ薬を飲んだ人たちが最近、次々と重い病気になっているんだ。中には死者も出ている」上司は言った。

「そんな…でも息子がマキシウムへタンを飲んだのは三年も前で」

「その薬の一番怖いところは長い年月をかけて徐々に病が姿を現していく事だ」

「それじゃ」

「君の息子はいつ異変が起きてもおかしくない。もしかしたら明日にでも」上司は重い口調で話した。

「そんな」雄吾はショックを受ける。

「でもそんな病気、医療の現場では聞いた事がないんですけど」

「それは医療界のトップしか知らない極秘情報だからな。まだ確信を持てないまま医療現場で話すわけにもいかないだろう。それに今はネットとかコミュニティーサイトが普及している。そんな確信もない事が噂として広まったら混乱を招く恐れもある。だからなるべくこの情報は極秘にするよう言われているんだ。そこで君に話があって来た。ぜひ私と共に悪魔病の研究をしてワクチンの開発しよう」上司は提案する。

「私が研究に参加してもいいのですか?」雄吾は疑問を言う。

何故なら地位としては特に上でもないのにそんな自分をなぜ研究に参加させるのか疑問に思った。

「君は常に真面目だし努力家だ。仕事と家庭を両立している君を上の者はみんな尊敬している。そんな君にはまだ悪魔病の事を良く知らないと思う。しかし君ならきっと勉強して研究してくれると信じているきっと努力してくれると思っているから今回特別に君を研究チームに入れるという話が来たんだ。やってくれるか」

「もちろんです。必ずワクチンを作って龍人を救わないと」雄吾は慌てながら言った。

そして翌日、雄吾は家を出る。

しかしいつもは行く前に挨拶をする雄吾だがこの日はそのワクチンの事で頭がいっぱいだったため挨拶を忘れていた。

龍人はそれを不思議に思う。

雄吾は決めていた。

――絶対に龍人には悪魔病である事を黙っていなければ。

雄吾は待ち合わせ場所に行く途中そこで突然、悪魔が現れる。

「お前は誰だ?」雄吾は警戒する。

そして悪魔は言う。

「お前を悪魔病の治療が進んでいる世界に連れて行ってやる」

「悪魔病が進んだ世界」雄吾は思った。

――それなら別世界に行けば早くワクチンを開発することが出来るし、龍人は勿論、他の人たちも救えるじゃないか。

雄吾に希望が見えた。

「お願いだ。俺を別世界に連れて行ってくれ」

それを聞いた悪魔は雄吾をパラレルトラベラーとしてその世界に行れて行こうとするが「その前に一つやりたい事がある」雄吾は言った。

そして雄吾はある人の元に行く。

それは今の龍人の父親の正樹の所だった。

雄吾のとっては親友であり長い付き合いであった。

そして正樹には猛という子供がいたが病気で亡くなっていた。

居間で雄吾は話した。

「ワクチン開発に集中したいからいきなりで悪いが龍人の面倒を見てくれないか?」

「それは良いがしかし子供を連れていく事は出来ないのか?」正樹は聞く。

「それは……」正樹は言えなかった。

まさか悪魔の力で別世界に行くだなんて。

さらにいえば別世界がどんなところが分からないのに龍人をその世界に連れていって危険な目にあわせたら天国にいる民子を悲しませるだけだ。

「ワクチン開発をする研究所は田舎なんだ。龍人を連れていけば友達もできないだろうし独りぼっちにさせてしまうと思うんだ。本当はもっと前から言いたかったが当日になっても言えなかった」雄吾は嘘を言った。

雄吾は正樹に家の鍵を渡す。

「龍人君には別れの挨拶をしたのか?」

「していない」

「していないって自分の子どもだろ」正樹は驚く。

「正樹に言っても泣かれると思うし、恨まれるだろうから」雄吾は言い訳が下手だった。

本当は悪魔に30分以内に用を済ませるよう言われていた。

そして龍人に挨拶をする時間はなかった。

「龍人を頼んだ」雄吾は走って出ていった。

そして龍人は悪魔の所にたどり着く。

「悪魔、別世界に連れていっていってくれ」

そして悪魔は手から黒い光線を出し雄吾は別世界にたどり着く。

そこは研究所だった。

その時2人の男が入ってきた。

「誰だ!」それは当時小学生三年生だった椿とその父親の雅夫と出会った。

雅夫は悪魔病治療の第一人者だった。

「あなたが悪魔病を研究している人ですか」雄吾は興奮する。

「そうだが」雅夫は不審者を見る目で雄吾を見る。

雄吾は龍人が悪魔病である事を雅夫に話す。

「そうか、自分の子供が悪魔病か」

「龍人を助けたいが私の世界には悪魔病を治すワクチンはありません。しかし亡くなった妻に託された息子なので何としても助けたいです」雄吾は顔を下に向けて悲しそうに話す。

「……なら一緒に研究しよう。君、医師免許持っているようだし」雅夫の言葉に雄吾は顔を上げる。

「いいのですか」雄吾は聞き返す。

「あなたと同じドクターであり、子供を持つ父親です。それに悪魔病で子供を亡くして悲しむ親をたくさん見てきた。だからあなたの気持ちも分からなくもないです」雅夫は言った。

「ありがとうございます」雄吾は感謝する。

「所で君はどこからこの研究室に入って来たんだ」雅夫が聞く。

「その~」雄吾は何と言ったら良いか分からなかった。

「まぁいいか、そんな事」雅夫は笑顔だった。

「怖くないのですか?」

「別に、何か分からないけどあなたからは特に悪いものは感じないから大丈夫だと思っている」

そして雄吾と雅夫は一緒にワクチンの開発をする。椿も小学生ながらその手伝いをしていた。

二人は一緒に研究していく内に仲良くなりワクチン開発もどんどん進んでいった。

お互い父親であり子供を思う者同士だったからこそ絆が生まれた。

そして雄吾は休みの日は椿と公園で遊んであげたり遊園地に連れて行ってあげたりした。

雄吾にとってはどこから来たか分からない自分を受け入れてくれた雅夫のため出来るだけ椿の面倒も見てあげていた。

そして椿も雄吾の事を父親のように思うようになった。

しかし二年がたったある日雅夫は突然倒れ帰らぬ人になった。

雄吾は悲しんだ。

自分に希望をくれて自分を助けてくれた人が突然亡くなり辛かった。

そして椿も父親を失い悲しかった。

将来、医療の道に進む事に決めていた椿にとって初めて死と向き合った。

雄吾はすぐに立ち直りワクチンの開発を行う。

そして雅夫に変わって椿を育てていく事を決意する。

父親の死を乗り越え雄吾と一緒に手伝う。

そして6年後、17歳になった椿は医師免許を取得した。

椿は喜ぶ。

雄吾は不思議な気分だった。

この世界では高校生でも難易度の高い試験に合格すれば医師免許を取得する事が出来る。そして病院が認めれば手術も可能だった。

椿は高校生でありながら高校に通う傍ら依頼があれば病院で手術をしていた。

そして椿は外科医になり難しい手術も成功させていきいつしか凄腕ドクターと呼ばれるまでになった。

しかしさらに二年がたったある日、雄吾に末期癌が見つかってしまう。

「頼む、お前の優れた器用さで俺を手術してくれ」雄吾は必死に訴える。

「でもこの手術はとても難しい」椿は迷う。

「俺はワクチンを開発し、龍人を救いたい。後一歩なんだ。もうすぐワクチンが開発する。だから頼む」雄吾は必死に訴える。

「……でも」雄吾は迷った。

自分にとっては父親のような存在であり父親の雅夫がいなくなった後、自分を育ててくれた雄吾、そんな雄吾を助けたいと思うがしかしもし手術に失敗すれば雄吾を死なせてしまう事になる。

「お前以上の腕前のドクターなんてこの世界どこを探してもいない。お前にならたとえ殺されても良い。お前の父親のおかけで俺は諦めず希望を掴めたんだ」

「…俺は出来ない」椿は断った。

その後、椿は別の手術の依頼を引き受ける。

それは成功確率5%の手術だった。

椿は手術をするがしかしその手術は難しく失敗に終わってしまった。

椿はその後、多くの人から批判され医師免許を剥奪された。

椿は屋上で落ち込んでいた。

そこに雄吾がやってきた。

「すまない、俺が無茶な頼みをしたせいでお前に心の乱れをつくってしまって」雄吾は土下座をして謝る。

椿は辛かった。

「俺のせいだ。俺は一人の人間を手にかけてしまった。俺のせいで」椿は自分を責めた。

「そんな事ない。お前は殺したんじゃない。ただ救えなかっただけだ。もし世界中の奴がお前を責めても俺はお前の味方だ。それに元はと言えば俺が原因だ。俺がお前を通してその患者を殺したんだ」雄吾は椿に言った。

「なせそこまで。血は繋がっていないのに」椿が聞く。

「血が繋がっているとかそんなの関係ない。俺からしたらお前は息子のようなものだ。俺の息子と同じぐらい大事なものだ」

雄吾にとっては龍人も椿も同じぐらい大事な子供だった。

雄吾は屋上から出ていく。

しばらくして椿が玄関に行くとそこに悪魔が現れた。

「お前、人間が憎いようだな」悪魔は笑顔で聞く。

「お前は」椿は思わず腰が抜ける。

「お前を楽しい世界に連れて行ってやるよ。お前がまた立ち上がれる世界に」それを聞いた椿は悪魔に希望を抱く。

そして悪魔の力でこの世界にやってきた。

「それがお前たちの知りたかった真実だ」椿は悲しそうに全て話した。

「じゃ父さんは俺を救うために俺の前からいなくなったってことか」

「そういう事だ」椿の話を聞いて龍人は動揺する。

自分を捨てたと思っていた父親は本当は自分を救うために別世界でワクチンの開発をしていた。そして同時に椿の父親として一緒に暮らしていた。

「父さんは言っていた。俺には龍人という大事な息子がいる。その息子を救うために一日でも一秒でも早くワクチンを開発したい。そして出来たらいつか龍人と酒を飲んで、話をして、そして龍人の結婚式に出たいと」椿は雄吾が言っていた事を話した。

「父さんが…」龍人は泣きそうになる。

その時、龍人は突然倒れる。

「龍人!」海斗は呼びかける。

「悪魔病の症状が現れ始めたか」椿が言う。

「どうしたらいいの」胡桃が聞く。

「大丈夫だ…ちょっと眠くなっただけだから」龍人は心配かけないように言う。

しかし病状は悪化していた。

椿はある方法を思いつく。



「一度、俺のマンションに連れていく」椿は言う。

「どうする気だ」時が聞く。

「俺の部屋で対処する」椿は答える。

そして八人はマンションに行きそして龍人をベッドに寝かせる。

「どう対処するんだ」海斗が聞く。

すると椿は悪魔を呼んだ。

すると悪魔がやってきた。

「何の用だ」

「悪魔、龍人の悪魔病を俺の体の中に移植しろ」

椿は臓器移植の手術の事を思い出しその原理で自分と龍人の内臓を取り替える事を考えた。

「何言っている。そんな事したらお前が悪魔病になるじゃないか」海斗は怒る。

「だがその代わり龍人は助かる」

「俺は嫌だ。お前を殺して俺が生きるなんて」龍人は拒否する。

「お前…自分が死ぬんだぞ。それなのに自分を命を捨ててまで龍人を助けるのか?」海斗は悲しそうに言う。

「俺は命を守りたいだけだ。それにこれは罪滅ぼしになるかもしれない」

椿はずっと自分が死なせてしまった患者に罪悪感を感じていた。

「でも椿が死ぬなんて私は嫌だ。それに……それにお父さんはそんな事望んでいないよ」湖南は椿の胸にくっつき涙を流す。

その姿を楽人は黙って見ていた。

椿は少し沈黙する。

「…悪魔頼む!」椿は怒鳴るように言う。

「良いだろう」悪魔は不思議な力で龍人と椿の内臓を瞬間的に入れ替えた。

すると龍人は一気に病状が回復する。

そして椿は突然苦しみだす

「お前、何で」龍人は思わず呟く。

「悪魔、続いてお願いだ。俺を元の世界に戻してくれ」椿は頼む。

椿には考えがあった。

「俺は自分の世界に帰還しそこで開発されたワクチンを服用して治す」椿は7人に言った。

「でも治るの?」湖南は聞く。

「絶対ではない、治らないかもしれない。その場合は死ぬ」椿は暗い口調で言う。

「そんな」湖南は崩れ落ちる。

椿は元の世界に行こうとするが苦しそうだった。

「俺が行く」海斗は椿の肩に手をのせる。

「お前はここで休んでいろ」海斗の言葉に椿は戸惑う。

「なら俺も行く。元々は俺の問題だったんだから」龍人も言う。

「天使!」海斗が呼ぶ。

そこに天使がやってきた。

悪魔は不機嫌になり消えていった。

「久しぶりですね。海斗さん、何の用ですか?」

海斗は天使に提案する。

「頼みがある。椿の世界に行かせてくれないか? どうしても手に入れたいものがある」

「それは何ですか?」天使が聞く。

「悪魔病を治す薬だ。椿の世界にしかない薬なんだ」海斗は訴える。

天使は考える。

「本当は駄目ですが今回は特別に許可します。ただし一度に送り込めるのは三名だけです。そして条件としてあちらの世界に同じ自分が存在しない事も条件です。まだ持ち込めるものは一種類一つだけでそれが駄目だった場合は諦めてください。まだ手に入れてもその世界には1日はいてもらう事になります。なのでどんなに早くワクチンを手に入れても明日までは戻れないと思ってください」天使は条件を話した。

天使は目を閉じた。

しばらくすると目を開いた。

「どうやら海斗さんと加奈さん、龍人さんはその世界には存在しないので行く事が出来ます」

「なら行こうぜ」海斗の言葉に龍人は頷いた。

「私も行かせて」加奈も言った。

「分かった。一緒に行こう」

「頼んだぞ」時は言う。

「分かっている。胡桃、湖南、楽人、時、椿の事を頼んだぞ」海斗は言った。

そして天使は手から虹色の光線を放ち三人は別世界に飛ぶ。

3人が目を覚ますとそこはドラックストアだった。

――何でここなんだ。

3人は思う。

「とりあえず薬を探そう」龍人が言う

「これ」加奈が指をさす。

見るとそれは悪魔病のワクチンが商品棚に売られていた。

3人は思った。

――こんなにあっさり見つかるものなんだ。

そして三人はそのワクチンを購入し任務を達成した。

「まさかこんなにも早く見つかると思わなかったな」海斗は思った事を口にした。

「でも明日までは戻れないんでしょ」加奈は言った。

「一日とはいえ、その一日で病状が大きく変わらなければ良いんだが」

龍人は呟くと3人の横を1人の男が通る。

龍人は驚く。

「父さん?」

男は龍人の父親の雄吾だった

「龍人? 龍人なのか」雄吾は振り向いて驚く。

雄吾は龍人の側に来る。

「龍人、すまなかった。勝手にいなくなって」雄吾は龍人の肩に手をのせ下を向きながら言った。

「父さん、俺を救うためにこの世界に来ていたんだろ」龍人は震えていた。

「そうだ。でも何でお前がそんなことを」

「椿から聞いた。椿は悪魔の力で俺の世界に来ているんだ」

「そうか、椿は無事だったか」雄吾は安心する。

あの後、椿が帰ってこなかったため雄吾は警察に失踪届を出していた。

しかしそれでも椿が戻って来なかったため椿は死んだとされていた。

雄吾は悲しかった。龍人とも別れ、雅夫を失い、その息子の椿も守れなかった。

雄吾は自分が憎かった。

2人の姿を見て海斗と加奈も感動する。

3人は雄吾の家に案内される。

それは雅夫が生前住んでいた家で椿がいなくなった後は1人で暮らしていた。

龍人は学校の事や友達の事を雄吾に話す。

龍人が楽しくやっている事を知った雄吾は笑顔だった。

「水崎君、火高さん、息子は迷惑をかけていないでしょうか」雄吾が2人に聞く。

「いや、そんな事ないです。むしろ龍人からは色々助けてもらっています」海斗は言う。

「龍人、良い友達を持ったな」雄吾は嬉しかった。

「今日は泊まっていきなさい。外は寒いと思うし高校生にホテル代は高いと思うし」

「ありがとうございます」加奈はお礼を言う。

そして3人は泊めてもらう事になった。

夜、龍人が外に出るとそこには雄吾がいた。

「龍人、起きていたのか」

「眠れなくて」

「そうか、しかしまだお前と再会できるとは思わなかったな」

「しかし椿が生きていてよかった」

龍人は言えなかった。まさか自分を庇って椿が苦しんでいるだなんて。

そして龍人は雄吾に癌の事も聞きたかったがしかし怖くて聞けなかった。

翌日、海斗たち三人と雄吾が待っているとそこに天使がやってきた。

雄吾は驚く。

それは悪魔は見た事があっても天使を見るのは初めてだったから。

「3人を元の世界に戻します」

「天使、頼む、俺も元の世界に戻してくれ」雄吾は頭を下げる。

海斗たちはそれを見る。

「良いでしょう。というよりそもそもあなたはこの世界にいてはいけないのでどっちにしろ元の世界には連れていきますよ」

雄吾は喜ぶ。

「龍人、お前が良いなら元の世界に戻ったらまだ一緒に暮らそう。普通の家族のように長く暮らせるかは分からないけど」

「勿論いいよ、父さん」龍人は笑顔で言った。

雄吾は笑顔になる。

そして海斗と加奈も笑顔になった。

そして天使は手から虹色の光線を放つ。

4人が目を覚ますとそこは椿の部屋だった。

「海斗」時が驚く。

「その人は?」楽人が聞く。

「俺の父さんだ」龍人が説明する。

椿は容態が悪化していた。

「父さん……なぜ」椿は驚く。

「椿、どうした? 何があったか?」雄吾は心配する。

海斗はすぐに椿に薬を飲ませようとしたが雄吾が気付いた。

「これは…もう薬じゃ治らない」

「どういう事ですか」湖南が聞く。

「ここまで悪化していたらいくら椿の世界の技術でも治らない。でもなぜ椿が悪魔病に」雄吾は戸惑う。

「俺のせいなんだ」龍人は気まずそうに説明する。

「そうか、そういう事だったのか」雄吾はショックを受ける。

その時、雄吾は悪魔を呼ぶ。

「どうした」また悪魔が現れた。

「悪魔、椿の悪魔病を俺に移してくれ」雄吾は頼む。

8人は驚く。

「何、言っているんだ。そんな事したら父さんが死ぬじゃないか」椿は拒否する。

「お前だって俺と同じ事をしているじゃないか」雄吾は反論する。

「それなら俺がまだ悪魔病になれば良いじゃないか。元々は俺の病気なんだから」龍人は言う。

「龍人、お前は俺の息子だ。自分の命よりも大事な命だ。母さんも自分にとって龍人は本当の命だと言っていた。椿、お前とは血は繋がっていないがお前の父親のおかけで俺は希望を持てた。ワクチンを開発し、前よりも悪魔病で苦しむ人たちを減らすことが出来た。俺にとっては椿も俺の子供のようなものだ。だからお前たちを死なせるわけにはいかない。これは雅夫への恩返しだ。それに俺は癌だ。もう長くない。今更悪魔病になっても問題ない。龍人、椿、お前たちを守れるのなら俺にとってはそれが幸福だ」雄吾は激しく言う。

「父さん…」龍人は悲しそうだった。

「悪魔、頼んだ」雄吾は叫ぶ。

悪魔はその願いを聞き、椿の病気を雄吾に移す。

椿は楽になり、雄吾は苦しみだす。

「父さん」龍人が側による。

椿も側に行く。

「良かった。2人が元気そうで」雄吾は苦しそうだった。

龍人は涙を流す。

椿は背を向ける。

しかし椿は涙を流していた。

その後、龍人は雄吾と一緒に暮らす事になる。

そして2週間後龍人の父親の雄吾は亡くなった。

その後、お葬式が行われ雄吾の墓が建てられた。

数日後、「父さん、最後は笑顔だった」龍人は嬉しく思った。

最後はもがきながら死ぬと思っていたが意外と雄吾は元気に死んでいった。

「そうか、お前の父さん良い人だったじゃないか」海斗は言った。

椿は雄吾のお墓参りをする。

椿は雄吾に誓った。

――俺は人を傷付けない方法で人を救う。

椿は復讐屋をやめる決意をした。



雄吾との再会から1週間後、龍人は屋上で手芸の作業をしているとそこに加奈がやって来た。

「龍人、いたんだ」

「加奈」龍人は言う。

「もうすぐ卒業だね」加奈が寂しそうに言う。

「まぁまだ二ヶ月あるけどでももうすぐと言ったらもうすぐか」龍人は納得した。

龍人は二人きりで緊張していた。

「加奈…」

「何」加奈が聞くと龍人は加奈の頬を掴む。

そして龍人は加奈の唇にキスをする。

加奈は頭が真っ白になる。

そこに海斗がやって来た。

そして加奈と龍人のキスを見てしまう。

「海斗」加奈と龍人は驚く。

三人は気まずくなる。

するとそこに天都がやって来た。

「兄貴」海斗は警戒し、加奈と龍人の前に立つ。

「海斗、お前はどうやらもうすぐこの世界からいなくなるようだな」

「そうだ。だが兄貴、俺は戻の世界に戻る前に兄貴と決着をつける。必ず兄貴を止める」海斗の言葉に天都は笑い出す。

「海斗、俺はお前に止められたりはしない。それに俺はこの刀を持っている。その気になればお前を切る事も容易い」

そこに胡桃と湖南、楽人、時がやって来た。

「お前」時は警戒する。

楽人は胡桃と湖南を後ろに隠す。

天都は笑うのをやめ刀を手に持つ。

「海斗、お前も俺と共に正義を貫こう」天都は提案する。

「断る」海斗は即答だった。

「兄貴、悲劇で平和を実現しても結局兄貴は憎まれるだけじゃないのか?」

「そんな事は分かっている上でやっている。俺はもう家族の元に戻る事は出来ないしそれにもう後戻りは出来ない。海斗、俺は前にお前に父親は好きか? と聞いた事があっただろ」

「それがどうした」

「何で父さんは一度だけの医療ミスであんなにも叩かれたか知っているか?」

「どういう事だ」

「父さんは医療ミスなんか犯していなかった。あるドクターを庇っただけなんだ」

それを聞いた海斗は大きく動揺する。そして加奈たちにも衝撃が走る。

「どういう事だ。父さんが医療ミスを犯していないって」海斗は思わず聞く。

「父さんが庇ったドクターは医療ミスを犯したがそのドクターには家族がいてその娘は来年受験が迫っていた。それを知った父さんはそのドクターを庇った。そして俺はそれを知った。そして同時に憎しみが沸いてきた。さらに言えばそのドクターの娘が井波訪花、俺の彼女だった」天都は辛そうだった。

「訪花さんの父さんが…」海斗は驚いた。ただでさえ父親の亮が医療ミスを庇っていたという真実だけでも驚きなのにさらにその庇った相手が自分が姉のように慕っていた訪花だったから。

「そして俺は自分の正義に気付いた。そしてあの惨劇を生んだ。彼女を傷付けたのは父さんが庇ったとはいえ、俺たちが受けた痛みを味わらせるためだ」天都は笑いながら言う。

それを見た海斗は言った。

「兄貴、心から笑っているように見えないんだが」

それを聞いた天都は笑うのをやめる。

「確かに兄貴は父さんを責めたりしたけどでもそれでも俺たちを支えてくれたじゃないか。兄貴が俺や柚子を支えてくれたから俺たちは最後まで絶望せずに生きる事が出来たんだ」

天都は戸惑う。

「黙れ。お前に何が分かる」天都は刀を向ける。しかしその刀は震えていた。

「本当は兄貴、後悔しているんじゃないのか。本当は今やっている事を正義なのか疑問に感じているんじゃないのか?」

「これは正義だ。悲劇を起こして悲劇を止める。俺はその信念のために悪魔に魂を売った」

「俺は思う。人間は未来が分からない。未来が分かれば悲劇は起きないかもしれない。何故ならその結果、傷つくと分かっているんだから。でも未来が分からないから人は誰かを傷付け憎んだり悲しんだりする。そしてその過ちを反省し二度とその悲劇を起こさないようにする。だから悲劇を起きれば二度と悲劇が起きないようにする。兄貴の言っている事は間違っていないところもある。でもわざと悲劇を起こす必要なんてない。悲劇を起こさなくてもそれを止める手段なら他にあると思う」海斗は必死に訴える。

天都は黙って聞いている。そして加奈たちも真剣医聞いている。

「俺はもう後戻りが…」

「出来るさ。過去は変えられない。でもこれ以上人を傷付けないで済むはずだ」海斗は天都の側に寄って説得する。

そのとき、天都は遠くである光景を目撃する。

「復讐屋のマンションに訪花がいる」

「訪花さんが」海斗は驚く。

「勘違いしているかもしれないが訪花と言ってもこの世界の人間だ。死んだ訪花が生き返ったわけじゃない」天都はそう言うと海斗たちの前から消えた。

「訪花さんが」海斗はそう呟くとすぐに屋上を出て走り出す。

「私たちも行こう」加奈が言った。

その頃、椿は訪花をソファーに寝かせていた。

訪花は悪魔病が悪化していて危険な状態だった。

「私の命はどうでも良い。それより私の依頼を…」訪花は苦しんでいた。

椿は焦っていた。

どうしたら悪魔病を治せるのか椿は考えていた。

そこに突然、天都が現れた。

「訪花!」天都は声を出す。

「誰ですか?」訪花は怯える。

訪花はこの世界の訪花であって亡くなった訪花ではないと天都は分かっていたがしかし何故が再会した気分になって嬉しく感じた。

「お前、何をしに来た」椿は警戒する。

天都は思わず涙を流す。

それを見た椿は黙り込む。

そこに海斗たちがやって来た。

海斗たちは天都の姿を黙って見ていた。

天都の頭の中でなぜ今の自分がこうなってしまったかという出来事が蘇る。

ある日の夜、天都が階段を降りると亮が電話で話をしていた。

「安心しろ。そのうち収まる。それにお前には訪花さんがいるだろ。来年受験なのにお前が手術失敗したって言ったら訪花さんはずっと志望していた大学に入る事が出来ないだろ」それを聞いた天都は全てを悟った。

――医療ミスをしたのは父さんじゃなかった。訪花の父親だった。

天都の中で一気に怒りがこみ上げた。

――俺たちは父さんのために今までこんな思いをしていたのか。父さんの優しさのために俺たち家族は巻き込まれていたのか。

天都は怒りに震えた。

天都はずっとドクターになる事を夢見て毎日勉強をしていた。しかし父親が医療ミスをした以上自分はもうドクターになる事は出来ないと考えた。さらにいえば自分から離れていった仲間たちもいた。そして自分たちはこれから先まるで犯罪者の子供のように見られて生きていかなければならないかもしれない。父親の亮の行動が天都たちの人生を左右されるかもしれないと考えると天都は悲しくなった。

そして天都は多くの人から必要以上の批判をされ苦しむ中である考えが生まれた。

――人はなぜ悪人と血が繋がっているだけで悪い事をしていない人間までここまで傷付けるのか。必要なまでの批判をしている人間たちは自分たちのやっている事も悪であると思わないのか、どうしたら平和な世界を作れるのか。

それを考えに考えそして答えが出た。

――痛みを味わらせれば痛みはなくなる。

つまり悲劇が起きれば悲劇は繰り返されない、それが世界の平和を作る第一歩だと天都は結論付けた。

そこに大魔神自らやって来た。

「お前、随分面白い闇を持っているな」大魔神は笑う。

「俺もここまで疲れてしまったようだな」しかし天都はそれが現実だという認識はあった。だが大魔神を見ても何も違和感を感じなくなってしまった。

「悪魔、俺は悲劇で平和を作る。だから俺に力を貸せ」天都は寝ぼけているような感じだった。

「面白い、気に入った」大魔神は天都に刀と毒が入った瓶を渡した。

「早速始めよう。平和な世界の開拓を」天都はもう悪魔のようになっていた。

天都は自分のやってしまった事に気付き悔やむ。

そしてなぜ自分はあんなに好きだった訪花を手にかけてしまったのだろうかと考えた。

「海斗…俺は間違っていた。自分の信じた正義はただの悪でしかなかった」天都は海斗に謝る。

「兄貴は確かに多くの人を傷付けた。この刀で。でも兄貴は俺の仲間の命を奪いかけたけどでもそれでも人の命は奪っていない。兄貴は命の重さを分かっていたんだろ。だから傷付ける事はしても命は奪わなかったんだろ」海斗は涙を流して言う。

「兄貴のした事を俺は許さない。いくら家族や訪花さんが生きていても兄貴がやった事は許されない。でもそれでも俺は兄貴を見捨てない。何故なら家族だからだ」海斗は叫ぶ。

「それに兄貴も悪いが社会も悪い。命なんて絶対に救える保証なんてないんだから。ドクターは神じゃない。だから救える命もあれば救えない命だってある」

「海斗…お前は立派だ。少なくとも俺なんかよりも」

「兄貴だって立派だ。やり方は間違っているとはいえ、同じ悲劇を二度と起こさないように一人で頑張っていたんだから」海斗は天都を褒める。

天都は立ち上がりそしてポケットから注射器を取り出す。

そして自分に打ち込む。

「兄貴、それは」海斗は驚く。

「この注射器は悪魔が独自に開発したものだ。遺体にこの注射の針を刺してその死体の残像エネルギーを採取するそしてその注射の針を病人に打ち込めばその病人の病気が治るらしい」天都は説明する。

「兄貴、まさか」海斗は気付いた。

「俺の全てのエネルギーを訪花、君に注入する」天都が言うと訪花は怖がる。

何故ならその注射器を見た事がなかったため。

「安心しろ。すぐに良くする」天都は訪花に無理やり注射を注入する。

訪花は最初は恐怖に怯えていたもののすぐに回復した。

「嘘みたい」訪花はあまりの出来事に驚く。

安心した天都は天都は倒れこむ。

「兄貴!」海斗は天都の上半身を持ち上げる。

「海斗、この注射は悪魔が開発したものだがでも人間の持つ資源でも開発が可能だ。それとこれを」天都は海斗に粉が入った瓶とその説明書を渡す。

「これは?」海斗が聞く。

「悪魔病のワクチンだ。もし手遅れの状態になってもこれを飲めば70パーセントの確率で助かるものだ」

天都は前に海斗が別世界で購入した薬を見つめる。

「恐らくあの薬よりも効果はあると思う」

「でもこんなのどうやって」

「俺は暗黒界で人間の持つ全ての材料や資源を混ぜたりしてワクチンを開発していた。そして自分の体を人体実験にして俺はそのワクチンをたくさん飲んだ。ときに吐いたり危ないときでは死にそうになったときもあった。でもそれを何百回と繰り返してこのワクチンを開発させた」

「兄貴」

「これが俺の罪滅ぼしだ。こんな程度で罪滅ぼしになるか分からないけど」天都は苦しそうだった。

「兄貴、ありがとう」海斗は涙を流しながらお礼を言う。

天都はゆっくり目を閉じる。

そして動かなくなる。

「兄貴? おい兄貴…兄貴!」海斗は気付いた。

天都は亡くなったと。

「兄貴、今までありがとう」海斗は涙が溢れた。

それを見ていた加奈たちも言葉が出なかった。

その後、天都は天使によって元の世界に運ばれた。

そして海斗の世界では天都の遺体が見つかり大ニュースとなる。

しかしその後、監察医が遺体を解剖するが死因は分からなかった。

数日後の夕方、海斗は龍人と屋上にいた。

「兄貴は俺が説得する前から自分のやっている事が本当に正しいのかどうか疑問を抱いていたんだと思う。でももう後戻りは出来ないと考えたんだと思う。でもそれならせめて罪滅ぼしとしてワクチンを開発したんじゃないかと俺は思っている」海斗は自分の考えを話した。

「海斗の兄は自分の正義と悪事の間にいたんだと思う」龍人は言う。

「兄貴が命をかけて開発したワクチン。絶対に無駄にしない」海斗は天都からワクチンを見て言う。

「でも良かった。最後は元の兄貴に戻って」海斗の言葉を聞いて龍人は笑顔になる。

海斗は屋上から降りて家に帰ろうとすると教室に加奈がいた。

「加奈…」海斗は話しかける。

「加奈、龍人に告白してくれ」海斗が言った。

「え?」加奈は戸惑う。

海斗にはある思いがあった。


雄吾が亡くなって一ヶ月、世間はクリスマスムードだった。

湖南は海神公園で編み物をしていた。

それを遠くから楽人と時が見ていた。

「湖南…」楽人は悲しそうだった。

「お前、余程湖南が好きなんだな」

「な、何言ってんだろ」楽人は慌てる。

「隠す必要なんてない。もうバレバレなんだよ」

楽人は動揺する。

「あの編み物、椿にだろうな」楽人は悲しそうに呟く。

楽人は辛かった。

ずっと好きだった人なのに結局結ばれる事が難しい。

「でも湖南はお前が自分の事を思っていた事は分かっている。湖南はお前に感謝していた」

「どういう事だ?」楽人が聞く。

それは時が湖南と屋上にいた時だった。

「卓三の問題解決したな」時が言う。

「うん、時、ありがとね、私の事を思ってくれていて」

「別に大したことはしていない。それに楽人はお前の事をとても思っていた」

「うん。楽人は私の事をいつも思ってくれていて嬉しかった。私にとって楽人は大事な人よ。今度、何がお礼をしないと」湖南は笑顔で言った。

「そうか、湖南が」楽人は笑顔になった。

「湖南の幸せを思うなら湖南を見守ってあげよう」時の言葉に楽人は決意した。

――湖南を見守っていく。そして湖南を諦める。

湖南はマフラーが出来上がった。

そしてマンションに行く。

インターホンを鳴らすとそこには椿がいた。

「どうした」

「椿、これクリスマスプレゼント」湖南は椿に手編みのマフラーを渡す。

椿は受け取る。

椿は笑顔だった。

そして椿は湖南を抱きしめる。

「お前のおかけで俺は変われた。ありがとう湖南」椿は湖南の耳元で呟く。

湖南は泣きそうだった。

椿は湖南に顔をあわせるとキスをした。

1度目とは違い、2度目はお互いが好きになっての上だった。



卒業式まで残り一ヶ月。海斗と龍人は屋上にいた。

「もうすぐ卒業か…」龍人はそう呟く。

「龍人、加奈は諦める」海斗は笑顔で言った。

「どういう事だ、もしかして同情か?」

「同情のわけないだろ。俺はもうすぐこの世界から消える。だから今、加奈と付き合ってもすぐにいなくなるから加奈を悲しませる事になる」

「海斗…加奈はお前と付き合わなくてもきっと悲しむよ」龍人は泣きそうだった。

「…だから龍人、もし加奈と付き合えたら加奈を幸せにしてやってくれよ」そう言う海斗だが本当はとても辛かった。しかし加奈も龍人が好きだとは敢えて言わなかった。

「分かっている」龍人も辛かった。

すると海斗の体から光の粉が出てくる。

「海斗」龍人は驚く。

「卒業式まで入れないのか」海斗は笑顔で呟く。

「行くんだな」龍人は聞く。

「そのようだな。でも最後に加奈たちに会いたかった。ちゃんと別れの挨拶をしたかった」海斗は涙を堪える。

「ありがとう、さようなら」

「加奈をよろしくな」海斗は光の粒子になって消えていった。

屋上には龍人一人になった。

そして目が覚めると海斗は部屋の勉強椅子に座っていた。

「夢だったのか」

しかし海斗の手首には加奈が教室でくれた手作りの腕輪があった。

海斗は悲しくて泣いてしまう。

最後に加奈たちと別れの挨拶が出来ず。

「そんな…海斗が帰っちゃたの」

龍人から話を聞いた加奈たちはショックを受ける。

加奈は手で顔を覆って涙を流す。

「最後に別れの挨拶したかったな」時が呟いた。

龍人たちはとても辛かった。

海斗がいなくなって一週間、加奈たちはずっと落ち込んだままでいた。

ある日、加奈は自然緑川公園のベンチに座っているとそこに龍人がやって来た。

「龍人…」加奈は元気がなかった。

「加奈、俺は海斗に言われた。加奈を幸せにしてくれと」

龍人の言葉に加奈は龍人を見つめる。

「加奈、俺は今でも加奈に対する想いは変わらない。加奈の事が好きだ。だから加奈。俺と付き合ってくれないか」

「……お願いします」

龍人は驚く。

そして一気に喜びがこみ上げる。

「ありがとう加奈」

龍人は加奈を抱きしめる。

加奈も龍人の背中に手を置く。

「俺は絶対に加奈を幸せにする。後悔させたりなんかしない」龍人は加奈の耳元で言う。

加奈は嬉しかった。

そして2人は体を離す。

龍人は加奈の手を握る。

そして2人は帰っていった。


湖南が椿のマンションの前に行くと女の怒鳴り声が聞こえた。

湖南は驚きドアを開ける。

すると鍵はかかっていなかった。

湖南が部屋に入るとそこで訪花が椿と揉めている姿を見る。

「何で私の依頼を引き受けてくれないの」

「俺はもう復讐屋をやめた。だから依頼を引き受けるつもりはない。勿論、お前だけじゃない。他の奴が来ても依頼を引き受けるつもりはない」

「患者が苦しんでいるのにそれを助けてくれないの」

「俺は自分のやっている事に疑問を持ち始めていた。最初はそれを正義であり医療であると思っていた。でも俺は気付いた。たとえ復讐を果たしてもまだ新しい復讐が生まれる。そしてそれを繰り返していくだけのだたの無限ループでしかない。それに俺はただ純粋に誰かを傷付けて誰かを救うのではなく誰も傷つけないで人を救う方が良いと思った」椿は自分の考えを言った。

「もういい」訪花は湖南を突き飛ばし出ていった。

「椿…」

「怖がらせてしまったようだな。すまない」

「あの人、前に海斗のお兄さんが命を捨てて助けてくれた人でしょ」

「そうだ。ただ元々は俺に依頼をするために訪れた。そこでも揉めているときに彼女は突然苦しみだした」椿は湖南に説明しながら机の書類などを片付ける。

「掃除しているの?」

「そうだ。新しい一歩を踏み出すために」椿は今までの依頼などの書類に目を通し振り返る。

そしてシュレッターにかけていく。

暗い部屋に光がさすような感じだった。

「そういえば海斗はどうしている」椿は知らなかった。

「……元気にしているよ」湖南は嘘をつく。

「そうか。湖南、俺はもうすぐ元の世界に帰る」椿の言葉に湖南は悲しく感じる。

いつか別れのときが来るとは思っていたけどでもいざそうなるととても辛く感じた。

そこに訪花が戻って来た。

忘れ物をしたからだった。

訪花が行こうとしたときそこに加奈と龍人もやってきた。

「あんたこの間の」龍人が話しかける。

訪花は無視して行こうとした。

「待って」湖南が呼び止める。

「何?」

「あなたは椿にどんな依頼をしてもらおうとしているの?」

「あるドクターへの復讐よ」訪花は答えた。

「どういう事?」

「私のお父さんは体調が悪くて病院に行ったの。でもドクターからは風邪と診察されて薬を渡された。お父さんは薬を毎日飲んだけどそれでも体調は良くならなくて別の病院に行ったら癌だったの。それももしあのとき風邪と診察したドクターがすぐに見つけていれば早期発見で治す事が出来たのかもしれなかったのに」訪花は辛そうに話した。

「だから私はそのドクターに復讐したい。命を奪わないまでもせめて医師免許剥奪ぐらいはさせたい」訪花は復讐に燃えていた。

「そんな事してもお父さんは喜ばないんじゃないの?」湖南が呟く。

「何言っているの? これはお父さんのための敵討ちだしそれを果たせばお父さんは喜んでくれる」訪花は湖南に怒鳴るように言う。

「そんな事してもお父さん喜ばないと思うよ」加奈が話に割って入る。

「お父さんが望んでいる事はあなたが幸せである事なんじゃない。お父さんは自分のためにあなたが敵討ちするよりも幸せに暮らしてくれる方を望んでいると私は思う。お父さんの心は分からないけど」加奈は訴える。

訪花は考える。

そして無言で部屋から出ていった。

加奈は悲しくなる。

湖南もソファーに座って顔を下す。

翌日、湖南が訪花の事を考えているとそこに楽人がやって来た。

「どうしたんだ」楽人は笑顔で話しかける。

「何でもない」湖南は屋上から出ていこうとするが楽人は言った。

「湖南、もし悩み事があるなら相談にのってあげる。とはいっても俺に何が出来るが分からないけど」

「ありがとう、楽人」湖南は笑顔になる。

「湖南、俺は最初は椿が気に食わなかった。復讐屋を正義とか医療とか言って悪びれている様子もなくて俺は嫌だった。でも椿は時の命を救ってくれてそして龍人の代わりに自分を犠牲にしようとした。手術に関しては俺は免許を持っていないから出来ないがでも龍人に関しては自分を犠牲にしてまで誰かを救おうとするその考えは凄いと思った。俺だったらそんな事出来ないと思う」

湖南は楽人の話を聞いて思わず笑った。

「そうかな? 楽人もいざとなったら自分を犠牲にしそうなタイプに見えるけど」放課後、胡桃はウサギ小屋の側にいた。

そしてウサギを見ていた。

「まだウサギを見ていたのか」そこに時がやって来た。

「うん。もうすぐこの子たちとも会えなくなっちゃうな。そしてみんなとも」胡桃は寂しそうだった。

時は胡桃を後ろから抱きしめる。

胡桃は心臓がドキドキする。しかし付き合う前ほどではなかった。

「まだ会えるさ。俺たちは同じ世界にいるんだから」時は胡桃の耳元で言った。

そして時は胡桃から体を離した。

「馬鹿だと思うかもしれないが俺は信じている。また海斗といつか再会出来ると」

「馬鹿じゃないよ。私だって信じているしそれに加奈たちだって」胡桃も同じだった。

椿が部屋の片づけをしているとインターホンが鳴った。

そしてドアを開けると加奈と龍人、湖南がいた。

「どうした」

「ちょっとここに行きたくなって」加奈は笑顔で言う。

「そうか」その時、外から悲鳴が聞こえた。

椿が窓から覗くと多くの人が椿のマンションに多くの人が注目していた。

しかしその視線は椿の部屋の上だった。

椿は気付いた。

誰かが自殺をしようとしていると。

そして椿はすぐに部屋を飛び出し屋上に向かう。

「何があったのか」龍人と加奈、湖南も椿の後をついて行く。

そして4人が屋上に行くと訪花が屋上のギリギリのところにいた。

訪花は飛び降り自殺をしようとしていた。

「やめろ!」椿は叫ぶ。

「私はもう生きる事が嫌になったの。だから私は死ぬ事に決めたの」訪花は精神的に疲れているようだった。

「そんな事してもお父さんは喜ばないよ。あなたを思ってくれている人はいるんじゃないの」湖南は必死に説得する。

「お父さんもいないしお母さんももう亡くなっている。私は1人だしもう生きる意味もない」湖南の説得も訪花には届かない。

多くの人が屋上を見上げている中、そこに胡桃と楽人、時がやって来た。

「あれって」楽人が驚く。

「まずいじゃない」胡桃はどうするか考える。

訪花は飛び降りようとした。

「ふさげないで」加奈は叫ぶ。

「今のあなたがいるのは自分を犠牲にしてあなたを救ってくれた人がいるからじゃないの」加奈は思い出す。

あのとき天都が自分の命を犠牲にして訪花を救った事を。

それは天都にとっては罪滅ぼしのためだったがしかしそれでも訪花を救った事には変わりない。

「もしあなたが自殺して死んだと知ったら海斗は絶対に怒るよ。自分の兄がくれた命を無駄にしたんだから」加奈は大声で叫ぶ。

訪花に迷いが出る。

「俺の父さんは最近亡くなった。最後は笑顔だったけどでも父さんは色々と未練を残して死んでいった。父さんは言っていた。死ぬまでに俺と酒を飲んだり、俺の結婚式に出たいと。でも結局それは叶わず死んでしまった。生きたくても生きれない人がたくさんいるのにあんたは何でその命を無駄にする。1人ぼっちは確かに悲しいと思う。でもあんたはまだ生きている。未来を信じ自分を信じればあんたは1人ぼっちじゃなくなるはずだ」龍人も説得する。

訪花は考える。そして決めた。

「もう一度生きてみる。頑張って」訪花は自殺をやめる事にした。

加奈たちは安心する。

そして訪花が戻ろうとしたとき、足を滑らせそのまま地上に転落してしまう。

訪花が消えた姿を見た加奈たちはすぐに訪花のいた場所から地上を覗く。

すると訪花は胡桃と楽人、時たちが用意していた頑丈な布のおかけで無事だった。

加奈たちは今度こそ安心した。

――海斗、お兄さんの命、無駄にせずに済んだよ。

加奈は心の中で言った。

夕方、「ありがとう3人のおかけで助かったよ」龍人は胡桃たちにお礼を言う。

「当たり前の事をしただけだよ」胡桃は笑顔で返答した。

「みんなで協力して助ける事が出来たね」加奈の言葉に龍人たちは笑顔になる。

それを遠くから椿が見ていた。

椿は思った。

もしもっと早く自分のやっている事に気付けば海斗たちとも良い関係を築けたんじゃないかと考えた。

それを思うと椿は切なくなる。

その後、訪花は病院に運ばれたが軽症で済んだ。

卒業式前日、加奈は教室で最後の手芸をしていた。

そこに龍人がやって来た。

「いよいよ明日卒業だな」龍人は話しかけた。

「そうだね」しかし加奈は元気がなかった。海斗との別れからまだ立ち直れないでいた。

その頃、楽人と時は椿のマンションの部屋にいた。

「椿、俺は馬鹿だった。お前をただの復讐屋と見ていたがでもお前は誰よりも勇気があって誰よりも優しかった。俺は湖南を諦める」楽人はずっと思っていた事を言った。

「俺はお前たちと出会った事で変わる事が出来た。俺の闇の中に光を灯してくれた。湖南は俺にとって大切な女であり、愛する女だ。俺は湖南を忘れない」

それを聞いて楽人と時は笑顔になる。

「時、ありがとな、俺と湖南のために」楽人は時に感謝の言葉を伝える。

「当たり前の事をしただけだ。お前も湖南も仲間だからな。それに龍人と出会ったばかりの頃の約束も守れたし」

時にとってこれは高校生活最初の頃の行いを正すための罪滅ぼしでもあった。


卒業式当日、生徒たちは体育館に入っていく。

加奈も入ろうとした。

「加奈」声が聞こえた。

振り向くと龍人がやって来た。

「いよいよ今日で卒業だな」龍人は笑顔で言う。

「そうだね」加奈も笑顔で言うがしかし心は痛かった。

そして卒業式が始まった。

泣いている生徒たちもちらほらいた。

加奈たちはそれぞれ今までの事を思い出していた。

ときに傷つきときに泣いたりもしたけどでも楽しい思い出もたくさんあった。

加奈は自然と笑顔になった。

そして卒業式が終わりみんな校庭に集まる。

みんな笑顔だった。

しかし加奈は虚しさを感じていた。

何故なら海斗がいないからだ。

龍人たちも同じことを思っていたがしかし口には出さなかった。

そのとき龍人は海斗が消える数日前にくれた巾着袋の中を開けてみる。

加奈たちも注目する。

中に入っていたのは毛糸で作った星座のお守りだった。

「海斗…」加奈は笑顔になりながらも泣きそうだった。

「運命的な出会いだったね」胡桃は振り返る。

「まだいつか会えるかな」楽人がそう言うとまだ会えると信じている。

「会えるさ、いつかきっと」時は励ます。

「たとえ目に見えなくでも俺たちには見えない絆があるんだから」龍人は笑顔だった。

湖南はお守りを握りしめる。

そしてまだいつか海斗と会いたいと心の中で思う。

「ありがとう…海斗」

そして7人は椿の元に行くと椿は玄関前にいた。

その時、椿の体から光の粒子になっていく。

「椿…」龍人は思わず言葉が出る。

「元の世界に帰るときが来たか」椿はそう呟く。

「ありがとう、椿」龍人はお礼を言う。

「別に…そもそも父さんのおかけで」

「いや、それでもうれしかった」龍人は笑顔だった。

「俺はお前たちに気付かせてもらった。もう一度復讐ではない方法で人を救う方法を考える」

「椿…私…」湖南は悲しそうだった。

「湖南、お前のおかけで俺は変わろうと思った。もう一度立ち直る、今度は良い方向に」

「さようなら」湖南は涙を堪えていた。

そして椿は消え元の世界に帰っていった。

「ありがとう…椿」湖南は涙を流す。


海斗が元の世界に帰還して1年が経った。

海斗は少しずつ立ち直ってはいたがしかし最後に別れの挨拶をする事が出来ずとても悲しかった。

そしていつか別れるときが来るとはいえ加奈の事をまだ引きずっていた。

海斗にとっては加奈は死んではいないが生きてもいないまるで植物人間の恋人の気分だった。

海斗はあの後、浪人して来年また行きたい大学を受験する事に決めていた。

海斗が街を歩いていると肩がぶつかってしまう。

振り返って「すみません」と謝る。

そこには加奈がいた。

しかし自分の知っている加奈ではなくこの世界の人間だった。

海斗は驚く。

そしてまだ加奈と再会できたことに対して心の中で喜ぶ。

「あのう…もしよかったら名前を教えてもらえませんか」海斗は慌てながら聞く。

「…加奈ですけど」

「そうなんだ」海斗は笑顔になる。

「すいません。美人だったからつい思わず声をかけてしまいました」海斗は加奈に謝りながらも褒める。

「ありがとうございます」加奈は笑顔になる。

そして加奈は去っていった。

――まさかこの世界でまだ加奈と再会出来るなんて。

海斗はとても嬉しかった。

そして2週間後、海斗は受験勉強のため図書館の中に入る。

そして席に座り勉強独具を出す。

ふと前を見るとそこには加奈がいた.

「君は」海斗は声を上げる。

「あなたこの間の」加奈も驚く。

2人はまた再会した。

「君、今年受験生なの?」海斗が聞く。

「違うよ。今年受験したけど落ちてまた来年受け直す事にしたの」加奈も浪人だった。

「奇遇だな。俺も浪人なんだよ」海斗が言うと加奈は驚く。

「ちょっといいかな。この問題分からないんだけど」加奈が海斗に聞く。

海斗は加奈の教科書を覗く。

「あぁこれはこうやるんだよ」海斗は加奈に教える。

「ありがとう」加奈は喜ぶ。

別世界の加奈とはいえ、まだ笑顔を見る事が出来て海斗は嬉しかった。

そしてこの日をきっかけに海斗は加奈とよく会うようになった。

付き合ってはいないものの一緒に勉強をしたり遊びに行ったりするなどしていく内にお互い相手の事を意識し始める。

そしてある日、海斗と加奈は公園のベンチに座りながら話をする。

すると加奈は聞いてきた。

「海斗は将来、何になりたいの」

「俺は将来、ドクターになりたいと思っている」

「そうなんだ。何でドクターになりたいの?」

海斗は別世界の事を思い出しながら話した。

「俺の仲間の中にドクターになりたいと夢を見ていた人がいたんだ。そしてあるドクターと出会ってそしてその人と関わっていく内に俺も誰かを救えるようなドクターになりたいと思ったんだ」海斗は話している内に涙が出そうになった。

しかし涙を堪える。

「加奈の夢は何だ?」海斗が逆に聞く。

「私は将来、看護婦になって多くの人を支える人になりたいと思っているわ」

「そうか。何で看護婦になりたいの?」海斗が聞く。

「私は高校生のとき、交通事故にあって3年間昏睡状態で眠っていたの。だから私には高校生活の思い出とか青春とかはないの」加奈は笑顔で話すが海斗は心が痛かった。

「加奈に高校生活の思い出や青春がないならこれから一緒に作っていこうぜ。形は違うかもしれないけどでもそれでも一緒に思い出を作っていこう」海斗は加奈の目を見て話す。

「海斗…」加奈は嬉しく思った。

「そういえば私、たぶん昏睡状態のときに見た夢なんだけど周りが何が騒がしい事になっていてふと見るとそこに泣き叫んでいる男性がいたの。何があってそれで悔しそうに泣いていたんの」それを聞いた海斗はあまりの事混乱しそして動揺する。

――あのときの少女は加奈だったんだ。

海斗は既に夢の中で加奈と出会っていた。

1度目は夢の中、2度目は別世界、3度目はこの世界、海斗にとって二回出会ったのが三回出会ったのが分からなかった。

しかし海斗は嬉しかった。

そして夕方になり加奈は帰っていった。

海斗が帰ろうとしたときそこに天使がやって来た。


卒業式から1年後、龍人達は久しぶりにみんなで集まっていた。

場所は龍人の家だった。

「大学生活は楽しいか?」龍人が聞く。

「楽しいよ。友達もいて」加奈は答えた。

「でも勉強大変だし本当に私医療の道行けるかな」胡桃は不安だった。

「行けるさ胡桃なら」

「そうだ。まだ1年しか経ってないじゃん」

時と楽人は励ます。

「いつか医療の世界で偶然一緒に仕事をするときがくるかもしれないね」湖南は笑顔だった。

「みんな」海斗の声が聞こえた。

「また幻か」龍人は笑顔で言う。

「いや、違う」楽人は言う。

龍人がある方向を見る窓の向こうに海斗の姿がそこにはあった。

「海斗…海斗!」加奈は思わず声を上げて窓を上げて駆け寄る。

「まだ会えたな。加奈」海斗は嬉しかった。

「海斗」加奈は嬉しいあまり泣いてしまう。

「海斗!」みんなも駆け寄る。

「海斗、まだいつかお前と会えると信じていたぜ」時は喜んだ。

時の信じていた事は現実となった。

「まだ海斗と会えて嬉しい」楽人は笑顔だった。

「海斗、1年以上ぶりだね」胡桃も笑顔だった。

「まだ海斗の声が聞けて嬉しい」湖南は泣きそうだった。

「久しぶりだな。時、楽人、胡桃、湖南。俺もまだ会えて嬉しい。元気そうで安心した」海斗は笑顔だった。

「ごめん。勝手にいなくなってしまって。本当は最後に別れの挨拶をしたかったけどでも突然消えてしまって言えなかったんだ」海斗はみんなに謝る。

「良いんだよ。そんな事」時は海斗の肩に腕をのせながら言う。

「海斗、まさかまだ世界を超えて再会できるとは思わなかった」龍人は嬉しかった。

「俺も驚いた。突然天使が現れて悪い終わり方をさせてしまった俺を思って特別に来ることが出来たんだ」

「海斗、相変わらず元気そうだね」加奈は話しかけた。

「加奈、綺麗になったね」海斗は加奈を褒める。

「海斗もかっこよくなったね」加奈も海斗を褒める。

そして海斗は思い出した。

初めてこの世界にやって来てそして屋上で初めて3人で話をした事。

そのときは加奈は自分を嫌がっていたが今は自分が帰って来た事を喜んでくれている。

「3日間だけだが天使にこの世界にいて良いと言われているんだ」

海斗の言葉を聞いてみんな喜ぶ。

「じゃあ後でみんなで楽しく話をしようぜ」楽人が言った。

するとそこに光が現れる。

そして光が消えるとそこにいたのは椿だった。

「椿…」湖南は驚く。

実は天使は海斗を別世界に再び送り込んだ後、椿も特別にこの世界に再び送りこんでいた。

「椿!」海斗たちは椿との再会に喜ぶ。

「まだお前たちと再会できるとはな」椿は嬉しかった。

湖南は椿の胸元に顔を当てて涙を流す。

「おかえり」

「ただいま」

湖南と椿は無意識に言葉が出た。

「そういえばお前何で白衣なんだ」楽人が聞く。

「そういえばそうだな」時もそれに触れる。

「俺はドクターに戻る事が出来た」椿は言った。

それを聞いた海斗たちは驚きそして喜ぶ。

「あの後、椿は病院側から成功確率が低い手術の依頼が来た。本当は無免許医にやらせるのは違法行為だがしかし今回はとても難しい手術で出来る人が俺以外いなかったため手術をした。そしてその手術が成功した事をきっかけに国から特例処置とても難しい手術を担当する重難専門医という新しい立場で活動する事が許可された」

「良かった。本当に良かった」湖南は安心する。

そして龍人たちのやり取りを海斗は笑顔で見る。

今日、海斗の心の中にあった悲しみや痛みが消えた人なった。

それは病気が治るような感覚であった。

そして3日後、海斗は元の世界に帰還した。

「おかえり」加奈が笑顔で迎えた。

加奈は海斗がパラレルトラベラーである事を信じていた。

「ただいま」

「どうだった」加奈が聞く。

「同窓会みたいでよかった」海斗は笑顔だった。

「夢の中でも良いからまだ会えたら良いな」海斗はそう言うが寂しくなかった。

それはまだいつか会えると信じているから。


             完



   セカンドカラフルスピンオフA


あらすじ

水崎天都を主人公とした作品。天都と判の正義がぶつかる物語である。


登場人物


水崎天都

この話の主人公。光島の出来事をきっかけに悲劇による正義を信じ行動する。


柊澤判

悪性を持つ人間を殺す事を正義だと信じ行動している。冷酷で残虐な性格の持ち主である。


高橋舞

この話のヒロイン。利理の自殺にショックを受け、警察や善方企業を憎んでいる。


高橋利理

舞の妹。善方企業によるパワハラで自殺した女性である。




光島での惨劇の後、天都は大魔神の力で別世界にやって来た。

「ここか、別世界というのは」

天都はビルから人々を見ていた。

「この世界でお前がやりたい正義を叶えろ」大魔神は笑顔で言った。

天都は刀を持つ。

そして元いた世界での憎しみが蘇る。

「なぜお前は人を殺さなかった?」大魔神が聞く。

「あいつらをただ殺すだけじゃつまらないだろう。生きたままトラウマを植え付けて自分たちがやった事に後悔させないとな」天都は光島の住人を憎んでいた。

そして街を歩いてみる。

その街は自分のいた世界と大して変わらなかった。

その時、悲鳴が聞こえた。

天都がそこに行くと多くの人が集まっていた。

「救急車はまたかよ」

「どうする? どうやって処置したら良いんだ」

その時、まだ1人倒れた。

人々は振り返ると同時に走って逃げる。

しかし次々と彼らは倒れて血を流す。

そこには刀を持った柊澤判がいた。

その刀は血で濡れていた。

転んで倒れる人を判は刀で切る。

天都はその現場をただ見ていた。

そしてやる事をやった判はその場を去っていった。

天都の前は血の海となっていた。

切られながらも意識があった人もいた。

「助けてくれ…」男は天都に助けを求めた。

天都は気付いた。

その男は光島で自分を批判していた男にそっくりだった事を。

天都は殺したら駄目だと分かっていたが憎しみがあったため持っていた刀でとどめをさそうとした。

しかし迷った。

周りを見るとその血の中で多くの人が苦しんでいた。

そこに救急車がやって来た。

隊員たちはその現場を見てゾッとした。

それは今まで見たことがないほどの惨劇の現場となっていたため。

翌日、この事はニュースとなって報道されていた。

天都はそれをビルの大型テレビで見ていた。

天都が外を歩いているとそこに葬式をやっている寺を見つけた。

そしてその前で泣いている高橋舞がいた。

「どうした?」天都が聞く。

「何でもありません」しかし舞は泣いていた。

天都は気になったがその場を離れようとした。

「キャー」寺の中から悲鳴が聞こえた。

2人が中に入ると廊下で人が倒れていた。

その背中には刀で切られた跡があった。

舞は恐怖に陥る。

天都が視点を変えると葬式の写真は舞に似た女性だった。

「早く救急車を」葬式で参加者は慌てていた。

舞は外で落ち着きを取り戻そうとしているが怯えていた。

天都は側にいてあげる。

「あの女、お前の妹か?」

「…そうよ。私の妹よ。利理というの。利理はある会社で働いていたけどでもその会社でパワハラを受けていたの。警察にも被害届を出していたけど警察は無能だった。いつまで経っても調査しようとせずそしてその間にパワハラも悪化したの。そして利理は自殺した」

舞は怒りに燃えていた。

天都は舞に興味を持った。

「会社の名前を教えろ」

「善方企業よ」

天都は舞が自分と重なって見えた。

そしてなぜが舞を助けたくなった。

それはかつて医療に関わろうとしたからこその思いだった。

夕方、天都は善方企業の前に来ていた。

その頃、社員たちは利理の件について話をしていた。

「しかし彼女も余計な事をしてくれたな」

「第一彼女はメンタルが弱すぎるんだよ。あれぐらいで自分で死ぬなんてな」

「彼女の事は忘れましょう」

社員が笑っていると突然窓ガラスが割れて何者かが飛び出した。

それは判だった。

判は刀を取り出す。

社員たちは悲鳴をあげながら逃げようとするが天都は社員の肩に刀を投げつけ社員の1人の肩を切る。

社員は肩に怪我をする。

そこに天都がやって来た。

「お前か、この世界に来た刀を持ったパラレルトラベラーというのは」判が聞く。

「そうだ。お前もそうか」

「俺はパラレルトラベラーではない。ただ悪魔から力を貸してもらっているだけだ」

判は天都とは事情は違っていた。

「お前、人を殺そうとしているのか」天都は怒った。

その隙に社員達は逃げていく。

「光島で虐殺をしたお前が言える事か」

「なぜそれを」

「悪魔から聞いているんだよ。お前は悲劇を起こして悲劇をなくすと考えているようだな」判は笑顔だった。

「そうだが…」

「俺は悪性を持った人間をこの世から消す事が正義だと思っている。これも医療の1つだ」

「それは違う!」

「いいや、同じだ。この世にある悪人と言う名の腫瘍を消すのが治療だ」

天都は気付いた。

舞は判に依頼しの会社に殴り込みに来たと。

そして判は窓を割って出ていった。

天都は不快に気持ちになった。

翌日、善方企業が報道された。

天都が待っているとそこに舞がやって来た。

舞は笑顔だった。

「何、笑っている?」

「あの人がやってくれたからよ。とても嬉しい。今度はその命を奪ってくれると信じているわ」舞の笑顔に天都は背筋が凍った。

天都は意見をしたかったが光島でやった事を考えると自分も言える立場ではないと考えた。

「何か分からないがお前を助けたい」天都の言葉に舞は振り返る。

「俺は多くの人をこの刀で傷付けた」

「あなたも判と同じ…」舞は驚く。

「俺の父親は医者だった。でも手術に失敗し多くの人から批判された。俺の家族はボロボロだった。その後、父親が俺の彼女の父親を庇った事を知った俺は憎しみがこみ上げ光島で惨劇を起こした。まぁ死者はいないが。俺とお前は人間の悪性によって殺された者同士だ」

それを聞いた舞は何も言えなかった。

「俺は光島でしてしまったを後悔している。悪い奴とはいえあんな事しなければ良かったと思っている」天都は言った。

「だから君にも同じ事をしてほしくないと俺は思っている」

その時、ビルのモニターのテレビであるニュースが流れた。

それは伴が警察を人質にしている映像だった。

天都は驚く。

しかし舞は笑顔だった。

警察は伴を囲むが伴は笑っていた。

「お前の目的は何だ」

「俺の目的は警察への復讐だ」

伴は人質の警察を突飛ばしそして切って殺害する。

天都たちが着くとそこには多くの警察官が伴を取り押さえようとしていた。

しかし伴は人間ではあり得ないような動きで警察たちを交わし挑発する。

1人の警察官が伴を掴んだ時、伴は消えた。

その瞬間、舞は血を吹き出し倒れる。

「おい………待てよ……何で」天都は崩れ落ちる。

「この女は妹の殺害に加担した女だ」伴は言った。

「どういう事だ」

「舞と理々は元々仲が悪かった。そんな2人は同じ会社に就職するが同時に互いにライバル心を抱いていた。その後、利理は会社でパワハラを受けた。利理は我慢するが出来ずそして俺に殺害を依頼した。会社と無能な警察そして自分のパワハラに加担した舞の殺害を頼んだんだ」

それを聞いた天都は戦慄した。

そして混乱する。

「でも舞もお前に依頼していたと聞いている」

「舞も利理ほどではないが利理が死んだ後、今度は自分がパワハラを受けた。そして舞も俺に依頼した。つまり会社や警察は二人の人間に頼まれ殺された」

天都は動揺する。

「しかし舞の唯一の誤算は利理が自分の殺害も依頼されている事を知らなかった」

判はそのまま去っていった。

天都は心がおかしくなりそうになった。

自分が助けようとしていた舞は利理を自殺に陥れた人間だった。

そして舞の死体を眺める。

天都は無言でその場を離れた。

夜、天都はビル屋上に悲しく感じた。

――舞が悲しそうに泣いている姿は一体何だったんだ。もしかして悲劇のヒロインを演じていたのか。

天都は混乱した。

そこに判がやって来た。

判は刀を持っていた。

「なぜお前、人を殺した」天都は正気を失っていた。

「これは治療だからな。価値のない命を俺はこの世から切り離す切除手術だ」

「貴様!」

「お前だってやっている事は同じじゃないか」

「俺は殺してはいない。ただ傷付けただけだ」

「殺したも傷つけたも同じ事なんだよ」

天都は何も言えなかった。

「お前に1つ教えよう……人間は悪魔なんだよ」

それを聞いた天都は考えた。

光島での出来事、善方企業のパワハラ、舞の悪性、天都は気付いた。

――人は悪魔だ。悲劇をなくすには傷をつける事が必要だ。

その時、判は毒の瓶を手に持つ。

それを判は飲んでいく。

天都は止めなかった。静かに見ていた。

「最後にひと暴れ出来て良かったぜ」判は笑顔だった。

すると判は苦しみ出す。

「お前が俺の正義を引き継いでくれそうだな」

それはまるで天都がいつか自分のように人の命を奪う事を予言するようだった。

そして自ら屋上から飛び降りる。

天都は興味がなかったため判を見ずその場を去った。

翌日、判の事はニュースとなった。

天都は警察が利理からパワハラ被害を受けていると相談されたのに取り合ってもらえずさらには会社側の肩を持つなどあまりにも警察が腐っていた事を大魔神から知らされた。

「どうだ。この世界は」大魔神が聞く。

「飽きたな。それにこの世界は不快だ。別世界に連れて行ってくれ」天都は大魔神に頼む。

「警察はやらないのか?」

「既にやって来た。舞と利理の怨念の手紙を代わりに書いて置いといた」

警察署では警察官たちが血だらけで倒れていた。

そこには手紙が置いてあった。

後にこの事はニュースとなりそしてこの連続して起こった惨劇は高橋姉妹による呪いとして世間を震え上がらせた。

天都は刀を見つめる。

「俺は馬鹿だった。光島でやってしまった事を後悔してしまうとはな」

一度は罪悪感を抱いた天都だったがその考えが間違いであると考えた。

むしろ自分の正義は正しいと確信した。

そして大魔神は手から光線を放つ。

天都は気付くと別世界にいた。

それは後に海斗がやってくる加奈達のいる世界だった。

「それじゃあ 改めて医療を始めようか」天都は笑顔で刀を持って歩き出した。

後悔や罪悪感、怒りを吹っ切り天都は新たな冒険に歩み出す。










         セカンドカラフルスピンオフT


あらすじ

鉄中椿を主人公とした作品。椿と湖南の初デートを描いた作品で同時に椿の過去を描いた話でもある。


登場人物


鉄中椿

この話の主人公。復讐屋という活動をしているが心優しい青年で湖南を大事に思っている。


風凪湖南

椿と恋仲の少女。椿を心から愛している少女である。


火高加奈 電龍人 草麦胡桃 光楽人 空川時

湖南の仲間。



海斗が消えて2週間、湖南は椿の部屋にいた。

湖南は椿のために料理を作っていた。

椿は部屋の掃除をしていた。

椿は何となく湖南を見た。椿にとって湖南は一緒にいると心が癒える相手であった。

付き合ってはいないものの湖南と恋人ぐらいの関係であったため椿にとって湖南は彼女といえる相手が分からなかった。

「椿…俺はいつかこの世界から消える事となる。だから消える前に湖南とどこがデートに行きたい」椿は勇気を出して言った。

「いいよ。どこ行く?」湖南は笑顔だった。

椿は勢いに任せたため全く考えていなかった。

とりあえず2人は考える事にした。

夜、椿がコンビニからマンションに帰っているとあるポスターを見つけた。

それは横浜旅行の応募ポスターだった。

椿は横浜出身であり横浜に帰りたくなっていたところだった。

椿は思いついた。

湖南とのデートスポットを横浜にすると。

翌日、湖南が自然緑川公園で待っているとそこに椿がやって来た。

そして横浜の話をする。

「いいね。私も行きたいと思っていたところだよ」湖南は笑顔だった。

「じゃあ来週の日曜日に横浜に行こう」

「うん」

湖南の笑顔を見て椿は嬉しくなった。

このまま湖南とずっと一緒にいたいとまで思うようになった。

「湖南、俺は人を愛するという事を知らなかった。俺はもう人を愛せないと思っていた。でも湖南と出会って俺は人を愛せるようになった。ありがとう」椿は照れ臭かった。

湖南は嬉しかった。

そして別れたくないという思いが強くなった。

湖南が家に戻る途中、電話が掛かって来た。

それは楽人からだった。

「湖南、来週の日曜日にみんなでどこか遊びに行こうと話しているんだけどどうだ?」

「ごめん。その日は用事があるの」

「そうか。分かった」楽人は電話を切った。

楽人はショックだった。

「湖南、いけないらしい」

それを聞いた龍人と加奈、胡桃、時は残念に思う。

「じゃあ5人で楽しむか、横浜」時は言う。

「そうだね。でも楽しみだね」胡桃は楽しみだった。

しかし加奈は海斗と別れた事がショックでまだ落ち込んでいた。

龍人は今の加奈を見ているのが辛かった。

今、横浜はブームとなっていてテレビでも取り上げられるなど今話題のスポットだった。

土曜日の夜、椿との初デートに湖南は楽しみだった。

湖南は明日の服を選ぶ。

そして机に座ると7人で撮った集合写真が目に入った。

湖南も加奈と同じように海斗と別れて辛かった。

しかしそれでも前向きに乗り越えようとしていた。

その頃、椿は夜空を見ていた。

椿はこの世界に来たばかりの頃を振り返る。

初めてこの世界に来た時、椿は精神的にボロボロだった。

なるべく人と関わらない生活を送る事を椿は望んでいた。

椿は街を歩くが疲れ切っていったため途中で倒れる。

そして寝てしまう。

目を覚ますとそこは部屋だった。

「ここは…」

「目を覚ましたか」そこに1人の男がやって来た。

それは真神仁という30代の青年だった。

「あんたは?」

「私はここで復讐屋をやっている」

「復讐屋?」椿が思わず聞く。

「そうだ。私は元々医者だった。だが人に傷付けられ精神的な痛みを味わった人間を救いたいと思い医者をやめ復讐屋として社会に貢献する事を決意した。これは薬では治す事が出来ない医療だと思ったからな」

それを聞いた椿は興味を持った。

「俺も元々ドクターだった。だが手術に失敗して医師免許を剥奪された。俺は今まで多くの命を救ってきたというのに」

「そうか……そんな事が……それなら君も復讐屋をやってみたらどうだ?」仁は椿を誘う。

椿は考える。

「ちょうど明日、ある復讐をやるところだ。良かったら見学しろ」

椿はさらに考える。

翌日、ある結婚式が行われようとしていた。

多くの人が式場に入る中、仁と椿もスーツを着て式場の前に行く。

そして仁と椿は待っていた依頼者の男性と共に式の中に入っていく。

本来、受け付けで招待状を渡さなければいけないが仁と依頼者の男性は追加で呼ばれたと適当に嘘を言い中に侵入する。

会場には多くの人が座っていた。

椿はこれから仁が何をしようとしているが想像も出来なかった。

そして式が始まった。

式は順調に進み、婿と嫁のスピーチで両親は涙を流し感動的な空気となっていた。

椿は黙って見ていた。

「それでは最後にビデオレターを見て式を閉めましょう」司会が言いそして映像が流れた。

すると複数のモザイクがかかった女性が椅子で話をしていた。

「私はお嫁さんに毎日いじめられていました」

「トイレの上からホースで水を駆けて笑っていました」

「弁当に虫を入れられました」

「妊娠しているという嘘を流されました」

それを聞いた会場はざわめき婿は動揺する。

嫁は青ざめていた。

「話が違うじゃないか」婿の父親は激怒する。

「お婿さんと結婚するのはお婿さんのお父さんの財産目当てだと思います。今まで付き合っていた元彼もお金を持っていた人ばかりです。そして都合が悪くなるとすぐに捨ててきたという話も聞きました」そんな音声が流れた。

父親はさらに激怒した。

そして関係者が止めに入る。

そして両親同時で喧嘩を始めた。

婿は呆れて会場から出ていき勝手に帰ってしまった。

会場は修羅場とかした。

椿はそれを見て驚く。

「どうですか?」

「素晴らしい。ありがとうございます」男性は喜んだ。

そして式が終わり仁と椿は会場から出てきた。

「どうだ。俺の医療は?」

「医療?」

「そうだ。形は違うが人の心を救う復讐も医療の1つだ」

それを聞いた椿はこんな自分でも人を救う事が出来るかもしれないと感じた。

何より自分を批判した人たちの事を考えると憎しみがこみ上げた。

そして椿は復讐屋をする事を決意した。

その後、仁から復讐のやり方などを教えてもらいすぐに復讐屋として活動を始めた。

その後は仁とは会っていなかった。

翌日、椿が駅で待っているとそこに湖南がやって来た。

「お待たせ」湖南は笑顔だった。

「じゃあ行こうか」

2人は電車に乗り込む。

椿は緊張していた。湖南とはいつも一緒にいるのになぜが胸がドキドキしていた。

しばらくすると横浜に着いた。

早速椿は地図を取り出す。

「最初にどこ行く?」椿が聞く。

「赤レンガ倉庫に行きたい」湖南は言う。

「分かった。行こう」

そして2人は赤レンガ倉庫に向かう。

すると湖南は照れながら椿の手を繋ぐ。

椿は驚く。

「そういえば椿と手を繋いだ事なかったよね」湖南は照れながら言う。

椿は余計に緊張するがしかし嬉しかった。

そして2人は赤レンガ倉庫にやって来た。

「かっこいいね」湖南は笑顔で言う。

椿もその見た目に魅了されていた。

「私、いつかこういうところに住みたい」

「頑張れば住めるんじゃないか」

湖南の笑顔を見て椿も嬉しくなった。

次に2人は日本丸メモリアルパークにやって来た。

「随分凄い船だな」

「そうだね」湖南は写真を撮る。

そして角度を変えながら何度も写真を撮っていく。

椿は昔、雄吾と一緒に船に乗った事を思い出した。

とても楽しかった。

それを思い出した椿はまだこうやって誰かと一緒に旅行が出来て嬉しく感じた。

そして2人は山下公園にやって来た。

既にたくさんの人がいたがその公園は空気がおいしくて椿はすぐに気に入った。

2人は手を繋ぎながら歩いて行く。

――公園でのデートも悪くないな。

椿がそう考えていると湖南のところに猫がやって来た。

湖南はしゃがみこみ笑顔で猫に触る。

椿はその姿にドキッとした。

それは湖南の美しさに改めて気付かされた感じだった。

椿は楽人がなぜ湖南に恋をしたのが改めて分かった気がした。

そして2人は次に水族館に行くとそこには幻想的な風景が広がっていた。

椿は何が話したかったが何を話したら良いか分からなかった。

「あの海亀綺麗だね」湖南が話しかけた。

「そうだな」

「神秘的だね、アトランティスもこんな感じだったのかな」

湖南の発言に椿は面白く感じた。

そして湖南とずっと一緒にいたいと思うようになった。

そして2人が歩いているとお土産屋を見つけた。

「海斗たちのお土産を買ってもいい?」湖南が聞く。

「良いぞ」

椿に待ってもらいながら湖南がお土産を選んでいるとイルカのキーホルダーを見つけた。

湖南は菓子と加奈たちに1人1つキーホルダーを買ってあげる。

しかし海斗がいると勘違いして間違って8個手に取ってしまう。

「そうだった。海斗はもういないんだ」湖南は寂しかった。

そして2人は帰るため駅に向かう。

「今日は楽しかったね」湖南は笑顔だった。

椿は勇気を出して言った。

「湖南、俺がもし別世界に帰っていっても俺は湖南の事を忘れない。ありきたりな言葉だけどでも湖南にだけは忘れられたくない」

椿の言葉に湖南は涙を浮かべる。

「……忘れるわけないじゃん」湖南は悲しかった。

海斗と別れ椿もいなくなる事が辛かった。

椿は湖南の肩に手をのせる。

そして椿は湖南にキスをしようとした。

「湖南!」

そこに加奈たちがやってくる。

「みんな!」湖南は驚き慌てる。

「2人も来てたの?」胡桃は驚きながら聞く。

「凄い偶然だね」加奈も驚いた。

椿は少し残念に感じるがしかしこの偶然に少し嬉しく感じた。

「今から帰るなら一緒に帰ろう」時が提案する。

「…まぁいいだろう」椿は返事した。

そして椿と湖南は加奈たちと一緒に帰っていった。

数日後、椿が部屋にいるとインターホンが鳴った。

開けるとそこには湖南がいた。

「椿、明日みんなで海行くけど良かったら行かない?」湖南が誘う。

「良いぜ、あいつらとも何が思い出は作っときたいし」椿は返事した。

この世界に来たときは椿はボロボロだったがしかし今では明るい未来を手に入れたようだった。
















          セカンドエンディング&トゥルーエンディング



概要

『セカンドエンディング』と『トゥルーエンディング』のクロスオーバー作品。

2作品のキャラクター達が協力して大魔王に立ち向かう話であり、また海斗がなぜこの世界に連れて行かれたかの謎などが明らかになる。


登場人物


水崎海人

火高加奈

電龍人

草麦胡桃

風凪湖南

光楽人

空川時

鉄中椿


泉蓮

純崎剛

海野奈美

谷月千

川上美羽

霧島修

雪中月美

湖田鎧

氷崎大我


天使

魔王

水崎天都

雨中大地


赤切李音 青牧南 黒坂羽馬 黄緑獅子 銀河蠍 桃岸鳳凰



学校の屋上で雨中大地という青年が暗い表情をしていた。

大地は去年高校受験に失敗し浪人が決定してしまった。

大地は辛かった。

みんなと同じタイミングで大学に進学する事が出来ず。

そして今年も駄目なような気がしていた。

大地は全てが嫌になった。


海斗は屋上のベンチで横になって寝ていた。

そこに加奈がやってきた。

「疲れたの?」加奈が聞く。

「あぁ久しぶりの体育だったからな」海斗は疲れながら言った。

「今日は良い天気だね」加奈が何となく言う。

「加奈…俺…」海斗は加奈が好きだった。

しかしいつか別世界に戻ると考えると海斗は付き合っていいのか分からなかった。

そこに龍人がやってきた。

「どうした2人とも、元気なさそうで」龍人は笑顔だった。

「別に」

「今からボーリング行かない?」と龍人が誘う。

「…まぁ行くか」海斗は疲れながらも行く事にした。

加奈も一緒に行く事にした。

しかし海斗は思った。

この三角関係の中で行くという違和感を変に感じた。

「胡桃たちも誘おう」気まずい海斗は提案した。

「分かった」龍人が言うと海斗はすぐに電話をかけた。

「分かった。じゃあ自然緑川公園で待ち合わせな」海斗は電話を切った。

「胡桃たち行くそうだ」

「分かった」

海斗は安心した。

3人は胡桃達と会うため海神公園に行くとそこにやさぐれた感じで座っている青年を見つけた。

それは大地だった

海斗が話しかけようとした時、目の前に1人の青年がやって来た。

それは湖田鎧だった。

「大丈夫か?」鎧が心配する。

「余計なお世話だよ。どっか行って」大地は自暴自棄になっていた

そこに胡桃と湖南、楽人、時がやって来た。

胡桃たちは大地に注目する。

「あんた、前の」楽人が気付く。

「お前、この間の」鎧は笑顔になった。

そして海斗たちにも気付いた。

「お前もいたのか」鎧は再会に喜んだ。

「何だが分からないけど俺に関わらないでくれ」

大地がその場から離れようとした時、海斗が言った。

「もしかして受験に落ちたか?」

「…何でその事を」大地は驚く。

「何かそんな気がしたんだ」

「……そうだ」

「え? 本当に」海斗は当たった事に思わず喜んだが「ごめん」とすぐに謝る。

「でも何で分かったんだ」大地が聞く。

「俺も受験に…いや、何となくだ」海斗はパラレルトラベラーが関係するため紛らわしいと思って話すのをやめた。

「俺はもうどこの高校も入れないんだ。どうせ今年も駄目なんだ」

「諦めちゃ駄目だ。諦めたら何も手に入らないぞ」海斗は大地を励ます。

しかし大地は希望を抱けなかった。

「実に面白い。その話、気に入った」

海斗たちが振り返るとそこには紫の服をきた男がいた。

それは魔王だった。

「お前は…」海斗は戦慄した。

そして何が言い知れぬ恐怖を感じた。

「まさかここにパラレルトラベラーがいるとはな。そうだお前たちにプレゼントを渡そう」魔王は手から赤黒い光線を出す。

そしてそれを受けた海斗たち7人と鎧、大地は光線を食らい眠ってしまう。

「悪夢の中で楽しめ」魔王は消えた。

しばらくすると湖南は起き上がった。

「今のは」

湖南が周りを見ると海斗たちはいなかった。

湖南はどうしたら良いか分からなかった。

しかし危険を感じたためすぐに椿のマンションに行く。

そしてインターホンを鳴らすと椿が出てきた。

「どうした?」

「椿、大変よ、みんなが魔王に消されちゃった」湖南は慌てる。

椿は冗談かと思ったがしかし悪魔の事を考えると湖南の話は本当だと思えた。



海斗たちが目を覚ますとそこは暗闇の世界のようだった。

それは自分たちの住んでいる町を暗闇が包んだような光景だった。

「ここは…」

「もしかして悪夢?」時が呟くととみんな怖くなる。

「鎧!」

鎧が振り向くとそこには蓮と剛、奈美、美羽、修がいた。

「みんな」鎧は驚く。

「あんたこの間の」海斗と龍人は気付き同時に言った。

「また会ったね、」美羽が龍人に言う。

「元気そうだな」修は笑顔で龍人の肩を叩く。

「元気で良かった」奈美が笑顔で言う。

「元気ですよ…いや、今は元気じゃないんだ。こんな事になっているんだから」海斗はすぐに今の状況を思い出す。

「まだみんなと会えて嬉しいよ」鎧は喜ぶ。

「確かに久しぶりの再会だけどでも一体ここは?」

鎧の言葉に対し楽人が疑問を言った。

「悪夢らしい」蓮が言うと海斗たちは凍り付く。

海斗たちは思わず周りを見渡す。

「周りを見ても出口はないぞ」

修の言葉に海斗たちは凍り付く。

大地は海斗たちと出会った事に後悔する。

蓮はさらに話した。

「今日、久しぶりにみんなで会う約束をして俺と剛、奈美は先に海神公園で会ったんだがそこで魔王が現れて俺たちは悪夢に閉じ込められた。そしてしばらくここを彷徨っているとそこで美羽と修と合流したんだ」

「私と修も蓮たちのところに行く途中で魔王の光線を受けて悪夢の中にやって来の」美羽が蓮の話の後に話した。

「どうしたら良いんだ」海斗が落ち込みながら考える。

「まぁ良いんじゃん」大地の言葉に海斗たちは思わず振り返る。

「だって現実に帰ったって何にもないんだから」

大地は正気を失っていた。

美羽が怒ろうとしたが修が止める。

すると奈美がある事に気付く。

「そういえば千と月美は?」

「言われてみればいないな」修が返答する。

「でもきっと助かるし現実世界にも楽しい事はあるはずよ」と加奈が慰める。

「ないよ。というよりどうせ死ぬんだから」大地は座りながら言う。

海斗たちは何も言えなかった。

その頃、湖南と椿はどうするか考えながら自然緑川公園に向かう。

「随分大変な事になったな」椿は不安に感じていた。

湖南も心配だった。

「ここにいたか」2人が振り返るとそこに大我がやって来た。

「お前、この間の」椿は驚く。

「天使から話を聞いた。今、魔王がこの世界に来て蓮たちを悪魔に引きずりこんだと聞いている」

「でも何か目的なの?」湖南が大我に聞く。

「分からない。だが安心しろ。天使から弱点を聞いている。でもその前にまだいる仲間を呼びに行く」

「仲間?」椿が呟く。

「仲間が増えるのは心強いね」

「どうせ人間だろ。人間が増えても魔王に敵うとは思わないがな」

「そんな事ない。大事なのは諦めない心、信じる心だよ」湖南は椿の目を見つめる。

「安心しろ。頼もしい仲間だ」大我も椿に言った。

そして湖南と椿は大我と共にあるところに向かう。

その頃、千が駅の近くで待っているとそこに月美がやって来た。

「ごめん、遅れて」月美は謝る。

「いや、別にいいよ」千が答える。

「見つけたぞ千、月美」

振り返ると大我と湖南、椿がいた。

「大我…」千と月美はあまりの出来事に驚きの表情をする。

「久しぶりだな。というよりお前達付き合っていたのか?」

「まぁあな、というよりお前、何でここに」

「お前たちに話がある」

そして近くの公園で大我は千と月美に湖南と椿を紹介しそして今起きている事を説明する。

「蓮たちは大丈夫なのか?」千は慌てる。

「分からない」大我は答えた。

そこに天使が現れた。

天使を見たことがない湖南は驚く。

「大変な事になってしまいました」天使は表情を曇らせる。

「どうしたら良いんだ」千が聞く。

「悪夢から助けるにはある方法があります。それは北山と西山、そして悪夢の世界の東山にある笛を手に入れてそれを吹くことです」天使は説明した。

「それなら2つに分かれて行こう」月美は提案する。

そして話し合いの結果、千と月美、椿は北山に向かい、大我と湖南は西山に向かう事に決まった。

早速、椿と千、月美は北山に向かう。

「しかしまさか大我とまだ会えるなんて思わなかった」

「俺もだ」

千と月美が会話をしている中、椿は無言で歩いていた。

「そういえばお前名前まだ聞いていなかったな」千が椿に言う。

「別に言う必要はないだろ」

「でもあなたの名前知りたいし」月美は椿の顔を見る。

「……椿だ」椿は答えた。

「お前の仲間も悪夢に閉じ込められているんだろ。一緒に助けよう」

「あいつらは仲間じゃない。成り行きで巻き込まれているだけだ」椿は否定した。

「それなら何で一緒に来ている」

「俺は元ドクターだからな。何か身体に異常が起きた人を見ると自然に体が動くんだよ」

「ドクターか。そういえば剛もドクターだったな」千は思い出した。

「ならそいつに言っとけ。ドクターなんで最悪な仕事だからやめとけと」

「あなた何でそんな」月美も思わず聞く。

「俺はドクターだったから分かる。人間は悪魔だと身をもって学んだからな」

千と月美は椿に何が重いものがあると感じた。

「お前に何があったか分からないがお前は過去を乗り越えようとしていないだけじゃないのか」

千の言葉に椿は腹を立てた。

「お前に何が分かる。俺はあの地獄を味わったんだぞ」

「どんな地獄が知らないがいつまでも人を拒否しても何も変わらないぞ」

「今は言い争っている場合じゃないよ」月美は2人を宥める。

そして再び歩き出す。

――早く帰りたい。

椿は千と月美が嫌になっていた。

その頃、湖南と大我は西山の道路を歩いていた。

湖南は海斗たちが心配だった。

「蓮たちが側にいるから大丈夫だ」大我は湖南を励ます。

「所で椿という奴、あいつ何で復讐屋なんかやっているんだ」

「……椿は人を笑顔にしたいのよ。今はやり方を間違えているだけでいつかそれに気付いてくれると信じている」

「お前、あいつの事好きだろ」

湖南は慌てる。

「私は……」

「あいつ見ていると何か俺と重なるところがあるなと思う」

大我の言葉に湖南は思わず顔を見る。

「見つけようぜ。まだ蓮たちと会うために」

千たちは歩いて探すが中々見つからない。

月美が段差を登ろうとした時、足を滑らせて怪我をする。

月美は痛がると椿はすぐに月美の側に行き包帯を巻いて手当てをする。

「これで大丈夫だろう」

「ありがとう」

椿が立ち上がる。

「お前、ドクターは悪いものだというくせにドクターらしい事をするんだな」

「癖なんだよ」

しかし月美は笑顔になった。

千は月美を腕を肩にのせる。

「これなら大丈夫だろ」

「ありがとう」

3人は歩き出す。

しばらく歩いていると月美は椿に言った。

「あなた優しいんだね」

それを聞いた椿は湖南の言葉を思いだす。

「……早く行くぞ」椿は照れ臭かった。

「おう」千と月美は笑顔になった。

その頃、海斗たちは悪夢から抜けるため歩いているとそこに天使が現れた。

「天使!」海斗と蓮は同時に言った。

そして天使を初めて見る加奈たちは驚く。

「今、あなたたちを救うため現実世界にいる5人が動いています」

「5人って」美羽が言う。

「恐らく2人は千と月美じゃないのか」と修は言う。

「それなら残りの2人は湖南と椿だけど後1人は?」胡桃が疑問を言った。

「椿が本当に助けてくれるのか?」

楽人はこの前の件もあって椿にまた不信感を抱いていた。

「あいつなら助けてくれるだろう」時は椿を信じていた。

すると天使は口を開いた。

「そこであなたたちにもやってもらいたい事があります。それはこの世界にある東山に向かってください。そこに笛があります。その笛を見つければこの世界から抜け出す事が出来ます。その東山はあそこです」天使は指を指し消えていった。

「それなら行こうじゃないか」剛が言う。

「俺は別にどうでもいいけど」大地が言った。

「でもこの世界から抜け出さないと」

「どうせ死ぬんだからどうでも良い」大地はやけになっていた。

「でもあなたは生きているじゃない」胡桃は、励ます。

大地は下を向いていた。

「あんたは、こんな状況に陥った事がないからそう言えるんだ」

大地は自暴自棄になっていた。

時は大地の側に行き胸ぐらを掴む。

「待てよ」楽人が止めようとするが修が止める。

「命を簡単に諦めるな。俺は一度死にかけたけどでも気絶する直前まで俺は死なないと自分に言い聞かせた。お前も簡単に死ぬなんて言うな」時は手を離す。

龍人も側に行く。

「お前、友達や家族、恋人は?」

「いるけど」

「平和にやっているか?」

「やっているけど」

「お前、いいじゃん。友達も家族がいるなんて幸せじゃないか。死ぬならせめて別れの挨拶ぐらいしようぜ。そうしないと未練が残るだけだぜ」龍人は遠回しに生きろと言っているようだった。

胡桃は大地の肩を掴む。

「みんなあなたに生きてほしいと思っているよ」

龍人、胡桃、時の姿を遠くから海人たちは見ていた。

「あいつら中々立派じゃん」剛は楽人に言った。

「そうだな。あいつらがあそこまで成長していたなんて」

「負けちゃ駄目だよ。彼らを越えないと」美羽は笑顔で楽人に言う。

「千たちも頑張っている。俺たちも頑張らないと」修の言葉に海人たちは頷いた。

その頃、椿、千、月美は休憩をしていた。

「しかしどこにあるんだ」千は呟いた。

「本当にあるのだろうか」椿はそう思い始めた。

「きっとあるよ。だから頑張ろう」月美は千と椿を励ました。

「そうだな」千は笑顔になった。

椿は千と月美を見て何が羨ましく感じた。

それは何の壁もなく千と月美が触れ合っている姿を見たからだった。

そして3人は再び歩き始めた。

山を登っていると月美がお地蔵を見つけ何か気になった。

月美はお地蔵の側にいき周りを見て触ってみる。

お地蔵の足元を掘ってみると何か見つけた。

とってみるとそれは笛だった。

「あったよ」月美は喜ぶ。

「でかしたな月美」千も喜ぶ。

椿は表情を変えなかった。

「お前も喜べ」

千はそう言うが椿は忘れていた喜びを分かち合うという事を思い出した。

「俺は早くこの任務を終わらせたいんだよ。早く行くぞ」椿は再び歩き始めた。

しかし千と月美は椿は強がっているように見えて面白く感じた。

千は再び月美を肩にのせて歩き始めた。

「何か不思議な気分だな。まさか月美とこうやって付き合うなんて」

「私も同じだよ。高校生の頃はそんな事考えていなかったし」

2人がそんな会話をしていると椿は高校生活の事を振り返る。

最初は楽しかったがしかし手術の失敗をきっかけに一気にみんなが離れていきそして孤独になった。

高校は卒業したものの椿は辛かった。

「そうか、分かった。俺たちも必ず見つけるから後で合流しよう」大我は電話をきった。

「千たちが見つけた。俺たちも早く見つけよう」

「そうだね」

大我と湖南が川の近くを歩いていた。

「1つ聞いて良い?」湖南が言う。

「何だ?」

「蓮さんたちってどんな人?」湖南が聞く。

「あいつらはそれぞれ試練を乗り越える強さを持った奴らだ。俺が助けた事もあったがあいつらが俺を助けてくれた事もあった。もし蓮たちと出会わなかったら俺はずっと過去に縛られているだけだったと思う」

大我の話を聞いて湖南は笑顔になった。

「良い友達を持ったね」湖南は笑顔になった。

「椿ともいつか良い仲になれたら良いな」

それを聞いた湖南は嬉しく感じた。

千と月美、椿は待ち合わせ場所の海神公園にやって来た。

「俺たちも手伝いに行かないか?」千は提案する。

「待っていればいいだよ」椿は言った。

月美はベンチに座る。

「これで大我たちが来れば解決するよね」月美は少し不安だった。

「大丈夫だ」千は月美を励ます。

椿は聞いた。

「お前ら付き合っているのか?」

「そうだ。本当は今日、蓮たちに報告する予定だった」千は返答した。

「お前は付き合っている人いないのか?」千が逆に聞いた。

椿は黙り込む。

「…付き合っている人はいない。ただ好きな人はいる。その人はこんな俺を思ってくれている。その姿を見て俺は湖南を好きになった」

椿はうっかり湖南の名前を挙げた事に気付いた。

そして恥ずかしくなった。

それを聞いた千と月美は笑顔になった。

「でもあなたの事を思ってくれているのなんか分かる気がする」月美は笑顔だった。

「なぜそう思う」

「あなたはとんがっているけど優しいから」

「…そうか」椿は照れ臭かった。

「お前もいつまでも悪ぶってないで素直になれ。未来に進め」

椿は黙ってその場を離れた。

「月美、問題が解決したら今度デートをしようぜ」

「そうだね。でも今もうデートしている感じだけど」

2人は笑顔になった。

その頃、海斗たちは東山に向かって歩いていた。

そこは荒れた大地で不気味だった。

大地は時たちに説得されたがまだ心を開けていなかった。

「絆が深まったようだね」

海斗たちが魔王かと思い振り返るとそこには海斗の妹の柚子がいた。

「柚子!」海斗は驚く。

「久しぶりだね」

しかし海斗は気付いた。

「お前、柚子じゃないな」海斗は見抜いた。

「俺は柚子じゃない。柚子に化けているだけだ」柚子は笑い出す。

海斗は嫌な気持ちになる。

「お前、俺たちをここに閉じ込めて何をする気だ」蓮が聞く。

「俺の目的はお前たちの不安な心をこの世界が吸収しそしてエネルギーにする」

それを聞いた海斗と蓮は嫌な気持ちになった。

そしてこれは自分に対する侮辱に感じた。

「それでも俺たちは負けたりなんかしない」剛は反論する。

「無理だよ」大地は柚子の側に行く。

「俺を殺してくれ」大地は頼む。

「お前、何言っているんだ」楽人が怒る。

「いいだろう」柚子は大地の体に入り込もうとする。

「危ない」時が行こうとするが奈美が時をはねのけて大地を庇う。

そして柚子から戻った魔王に奈美は取り憑かれてしまう。

「奈美!」蓮は叫ぶ。

「彼女の体は乗っ取った」奈美が話し始めた。

「奈美?」蓮は混乱する。

「いや、これは奈美じゃない」修が指摘した。

奈美は話し始めた。

それは現実世界にいる千、月美、椿、大我、湖南にもテレパシーで伝わった。

「彼女の体を奪い取った。返してほしければ現実世界にいる5人も悪夢に来い。さもないと彼女の命はない」

柚子は笑いながら奈美と消えていった。

「奈美!」蓮は叫び崩れる。

そして蓮は怒り大地を殴った。

大地は倒れる。

「お前のせいで奈美は」蓮は感情的になる。

時と楽人は蓮を抑え込むが剛と美羽、修、鎧も蓮と同じだった。

「大地、お前に同情は出来ない。何故ならお前のせいで奈美が」鎧も怒る。

「落ち着いて」と美羽が止める。

加奈と龍人、胡桃は何を言ったら良いか分からなかった。

「そんなに死にたいならとっとと死ねば良い」蓮は怒り狂っていた。

「ちょっとそれは言いすぎよ」加奈は反論するが龍人が宥める。

その頃、現実世界にいる者たちは蓮たちの状況を天使から知った。

「蓮、今かなり感情的になっている。そんなに死にたいならとっとと死ねば良いとも言っているらしい」

千は自分でそう言いながらも蓮がまさかそんな事言うとは思わず驚いていた。

それを聞いた椿は表情を変えた。

「良くないな。死ねと言うのは絶対に使っちゃいけない言葉というのにな」

「お前、ドクターだからな」

「俺は彼女を傷付けようとした。せめて御詫びの印として」

椿の言葉を聞いた千と月美は復讐屋のターゲットにされていたと察した。

「俺に考えがある」椿は言った。

海斗たちは立ち止まったままだった。

「一体どうしたらいいんだ」剛は呟いた。

「分からない。でも奈美を助けないと」美羽は必死に考える。

大地は気まずかったため遠くの岩場の陰に隠れて休んでいた。

「大丈夫?」加奈が心配する。

横には龍人もいた。

「俺、死ねと言われたよ」

「でもあの人の言う事も分からなくない。恋人を連れ去られたんだから。でもそれなら御詫びとして頑張らないと」龍人は励ます。

「あなた死にたいのに死ねと言われて傷ついているという事はあなた本当は生きたいんじゃないの?」加奈が指摘した。

大地は考える。

自分は確かに死にたい。

でもなぜ拒否したのか。

大地は考える。

そして再び海斗たちは歩き出した。

大地は気まずかった。

「頑張っているね。海斗たち」上から天都と悪魔が見ていた。

悪魔は不機嫌だった。

「あの魔王、大嫌いなんだよ」悪魔は魔王と仲が悪かった。

天都は面白く感じた。

その頃、千と月美、椿はどうするか考えていた。

奈美の命が危ないがしかし悪夢に行っても返してもらえる保証はない。

その時、椿は思いついた。

「天使」椿が呼ぶとそこに天使がやって来た。

「どうしましたか?」

「天使、頼みがある」

その頃、大我と湖南は山を歩きながらどうするか考えていた。

「必ず奈美を助ける」大我は焦っていた。

湖南もそれは分かっていた。

その時、谷を見つけた。

すると1つ綺麗な四角の箱を見つけた。

「これは」大我は箱を開けてみるとそこに光が現れた。

そして立体映像が流れた。

そこには雄吾が写っていた。

大我と湖南は驚く。

雄吾は龍人の父親であり椿の父親でもあるがこの時、まだ椿から話を聞かされていなかったため湖南は知らなかった。

雄吾は言った。

「これは俺と雅夫が開発した医療品だ。かつて魔神は人間に悪夢を見せてその人間を眠り病にしようとした。それを天使から知った俺と雅夫は悪魔病のワクチンを開発を一時中断しそして天使と協力してこれを完成させた。しかし大魔神に奪われないようにこれを3つに分けて別々のところに置いた。もし何があった時これを使え」映像は終わった。

中には笛が入っていた。

大我は笛を手に取る。

「湖南、俺はどうしたら良いか分からない。奈美を助けたい。だがもし俺たちが悪夢に行けば奈美どころが蓮たちも助けられないかもしれない。この笛もあっちの世界で使えるか分からないし」大我は暗い表情で言った。

「分からないのは当たり前だよ。むしろ自分たちの仲間たちのためもあるとはいえ海斗たちも助けようとしてくれているんだから」湖南は大我を励ます。

「でも私は絶対に助けたい。海斗や加奈、龍人、胡桃、楽人、時と会うために」

湖南の言葉を聞いて大我は元気が出た。

すると電話が掛かって来た。

それは千からだった。

「何だと。そんな事をして生きて帰れるのか」

「俺と月美は椿を信じている。それにあいつは元ドクターだ。きっと助けてくれる」

千の言葉は強かった。

「なら俺も行く」大我は椿の作戦に協力する。

海斗たちは歩きながら探すが中々見つからない。

蓮は落ち込んでいた。

剛たちはそれを見守る事しか出来なかった。

大地は嫌になった。

その時、崖を見つけた。

大地は嫌になった。

「もう駄目なんだよ」大地は感情的になった。

「何言ってんの?」美羽が怒る。

「あいつら未知の存在なんだぞ、人間がかなうわけないじゃん」

「お前、本当にムカつく奴だな」蓮は奈美の事もあって怒りが溜まっていた。

「落ち着け」修は蓮に囁く。

「ねぇもう諦めよう。別に生きてだって良い事ないじゃん」

その時、美羽は大地をビンタした。

「あなたを助けるために現実世界で頑張っている人たちがいるのよ」美羽は怒った。

加奈も大地の側に行く。

「生きる事は大変な事よ。辛いし悲しい事だってある。私もそう言う事たくさんあったから。でもあなたは悪いものしか見ていないから何も見えないのよ。生きる希望を見つければ人は幸せになれる。だから一緒に見つけよう」加奈は大地に訴えかける。

海斗は側に行く。

「俺だって」海斗は手を差し伸べる。

「大地は辛いんだ。でもそれでも前に進む。何故ならそこに光があると信じているからだ」

海斗は加奈と龍人の事もあったからこそ言えた事だった。

大地は迷う。

「揉めている場合じゃないと思うよ。まぁ悪夢なんて普通の人間は行かないから仕方ないけれど

振り返ると水崎天都がいた。

「兄貴」海斗たちは警戒する。

「兄貴? もしかして海斗のお兄さんなのか?」剛が聞く。

しかし楽人は剛に小さな声で事情を話す。

「海斗、魔王にお前を暗黒界に連れてこいと言われた。だから来い」

海斗は拒否しようと考えたがしかしある事を考えた。

――もしついて行けば奈美さんを助けられるかもしれない。

「駄目、行っちゃ」加奈が海斗を止める。

「加奈」海斗が見ると加奈は海斗を見つめていた。

「もしついて行けば奈美さんに合わせてくれるか?」海斗が聞く。

「合わせてやってもいい」

海斗は考えるが加奈は海斗の腕を掴んでいた。

「なら俺も行く」龍人が言った。

「でも…危険かもしれないぞ」

「何でお前が行くのに俺は駄目なんだ」龍人が聞く。

「それなら私も行く」加奈も言った。

海斗は考える。加奈と龍人を危険な目に遭わせたくない。

「……分かった。一緒に行こう」海斗は決意した。

「駄目、行っちゃ」胡桃は反対するが時は胡桃の肩に手をのせる。

「海斗と加奈、龍人ならきっと大丈夫だ」

「…でも」

「俺は3人を信じる。一緒にやって来た仲間だからな」楽人は笑顔で言う。

胡桃は考える。

「海斗、必ず戻ってきて」胡桃が言う。

「俺はお前を信じる。だから絶対に帰ってこい」楽人も言った。

「海斗、加奈、龍人、元の世界に戻ったらボーリング行こうぜ」時は笑顔だった。

「……絶対に帰ってくる。2人を連れて」海斗は涙を浮かべる。みんなが自分を思ってくれてる事が嬉しかった。

蓮は海斗のところに行く。

「海斗、俺も…」蓮は自分も行きたかったが正気を失っていた。

「あなたは胡桃たちと行動してくれ」海斗は今の蓮を連れて行くのは危ないと考えた。

「安心しろ。俺が奈美さんを助ける。だから胡桃たちを頼んだ」海斗は笑顔で言う。

「分かった。胡桃たちは俺たちが見守る」

海斗と蓮は握手する。

「良い度胸じゃないか。さすが俺の弟だ」天都は海斗を褒める。

そして海斗たちは天都と共に暗黒界に向かって歩いて行く。

そして消えた。

胡桃たちは少し不安だった。

蓮、剛、美羽、修、鎧もそれを見守る。そして高校時代の自分たちと重ねた。

「何でそこまでするんだ。怖いはずなのに」大地が聞く。

「それがあいつらなんだよ」修が言った。

「私たちも前に進もう」美羽の言葉で蓮たちは再び歩き始めた。

椿は天使と共に悪夢にやって来た。

そして椿は天使の案内で暗黒界に向かう。

海斗たち3人と天都は暗黒界の建物の中に入った。

中は暗くろうそくの光が当たりを照らしていた。

海斗たち3人は警戒した。

すると奥の方で奈美を見つけた。

「奈美さん!」海斗が行こうとする。

「止まれ」魔王が止めた。

海斗は思わず止まった。

「水崎海斗、お前に1つ知らない真実を教えてやろう」

蓮たちはひたすら歩いていた。

しかし中々笛が見つからないでいた。

――本当にあるのだろうか。

全員が不安に思っていると「あれ!」と剛が指さす。

そこには不自然な四角の岩があった。

不審に思った蓮たちはすぐにそこに行き調べてみるとの箱のように蓋が開いた。

すると中には笛が入っていた。

そこに天使が現れた。

「おめでとうございます。現実世界でも2つその笛が見つかりました。これを吹けばあなたたちは元の世界に戻れます」天使は喜んだ。

しかし蓮たちは海斗と加奈、龍人と奈美の事があって不安だった。

一方、魔王は海斗に真実を告げた。。

「海斗、お前がこの世界に来た理由、それはお前が天都と同じ存在になるんじゃないかと期待されたからだ」

「どういう事だ?」海斗が聞く。

加奈と龍人は思わず海斗を見る。

天都は奈美の顎を触る。

奈美は怯えていた。

「海斗、俺は過去の出来事をきっかけに心に闇が生まれた。それを見た魔王は俺を気に入った。そしてお前も俺と同じかと思ってこの世界に連れてきた。本当だったら憎しみが増幅して結果、俺と同じ道を歩むと思っていたがしかしお前が他の仲間たちと出会ったことで闇の心は薄くなりやがてはなくなった。魔王は残念に思ったんだ」

海斗は思い出した。

この世界に来る前の自分は未来に希望抱けないでいた。

もうこの世界で生きたくないと思っていた。

しかし加奈や龍人たちと出会った事でその闇の心は消えていた。

「お前は俺と違って心が闇に染まらなかった。羨ましいな。なぜ俺と海斗は同じ境遇でありながらこんなにも現状が違うんだろう」天都は笑顔だった。

しかし海斗は気付いた。

何が天都に悲しさがあるという事を。

そこに椿がやって来た。

「椿、何で」海斗たち3人は驚く。

「海野奈美を救うためだ」椿は奈美を見つめる。

魔王は奈美に取り憑く。

奈美の目は赤くなる。

海斗は奈美に近づく。

「奈美さん、目を覚ましてください」

しかし奈美は海斗をビンタする。

海斗は倒れこむ。

椿は海斗の側に行く。

奈美が目を覚ますとそこは真っ暗で紫の光だけがあった。

奈美が怯えているとそこに椿がいた。

「海野奈美、元の世界に戻ってこい」

「私はもう駄目だよ」奈美は絶望に支配されていた。

「何言っている。お前を思ってくれている人はたくさんいるじゃないか」椿は奈美の肩を掴む。

「蓮さんたちが待っている。だから戻れ」海斗は何回も奈美に殴られながらも奈美に近づく。

奈美がビンタしようとした時、龍人が海斗の前に立ち手を掴む。

「お願いだ。目を覚ましてくれ。奈美さんは俺に勇気をくれたじゃないか。あなたの光は蓮さんたちの心を照らす太陽なんだ」海斗は叫ぶ。

しかし奈美は龍人を突き飛ばす。

龍人は倒れこむ。

加奈は2人の側に行く。

3人のところに奈美が歩いてくる。

「加奈、お前は下がってろ」龍人が言う。

「でも」

「俺は加奈を傷付けさせたくない」

海斗はそう言ってまだ奈美を掴む。

椿も疲れながらも奈美に訴える。

「俺は千や月美に約束した。お前を連れて戻ってくると。お前は幸せじゃないか。精神の中でも外からでもお前を呼びかけてくれる人がいて」

奈美は何も言わなかった。

「今、お前がいる場所は俺の心の中のようだ」椿は呟いた。

奈美は興味を持つ。

「俺が説得するのもおかしいが俺はずっと闇を抱えて生きていた。でも俺の心に光を灯してくれたやつらがいた」

奈美は表情を変えた。

「俺は久しぶりに心が晴れやかになった。千や月美の事は最初は嫌だった。でも月美の笑顔を見るとなぜが嬉しくなった。何故だが分からなかった。でも分かった。人を救った時、みんな笑顔で俺にお礼を言ってくれた。それはドクターとして活動していたからこそ思った事だ」

その時、大我も椿と奈美の元にやって来た。

「お前…」

「椿、俺も協力する」

そして大我は奈美を抱きしめた。

椿はそれを見守る。

「奈美、俺が三途の川を彷徨っていた時、奈美は俺を助けてくれた。だから今度は俺がお前を助ける」

その時、奈美は思い出した。

剛と初めて出会った日の事、大我と手を繋いで走ったクリスマス、蓮に抱きしめられた事、

奈美は涙を流す。

「帰ろう…お前の帰る場所に」

その時、3人の前に光がやって来た。

海斗と龍人はボロボロだった。

すると奈美は動きを止めた。

海斗も思わず見る。

「奈美さん、俺はあなたがくれたお守りがあったから俺は加奈に好きだという事が出来た。今は龍人と三角関係になっているがでもそれでも俺は嬉しかった。俺は加奈が大好きだ。どんな女よりも。勇気をくれたあなたに感謝している」海斗は叫ぶ。

加奈と龍人は海斗を見つめる。

海斗はしゃがみこむ。

加奈は海斗の側に行く。

「海斗、ありがとう」加奈は涙を浮かべた。

龍人は2人を見守る。

その時、海斗と加奈、龍人の体が光に包まれた。

現実世界ではそれぞれ千と湖南が笛を吹いていた。

それを月美と湖南は見ていた。

悪夢でも蓮がその笛を吹いていた。

加奈は奈美に触った。

すると奈美も光に包まれた。

そして蓮たちの体も光に包まれそして気付くと現実世界のどこかの荒地にいた。

「戻った」蓮は言った。

「でも海斗たちは…」胡桃が悲しむと「みんな」と声が聞こえた。

振り返るとそこには奈美の肩を乗せた海斗と加奈、龍人、椿がやって来た。

「海斗!」胡桃たちは笑顔で走りだす。

海斗と龍人はボロボロで倒れこむが無事だった。

胡桃は海斗と龍人の傷を拭く。

「帰ってきたぜ」海斗は笑顔だった。

「良かった」時は嬉しく感じた。

「信じてたぜ」楽人は海斗の肩を叩く。

「海斗、かっこよかったぜ」龍人は安心した表情で言った。

「お前もな」海斗は笑顔になった。

そこに千、月美がやって来た。

「千、月美!」蓮たちは叫ぶ。

「大丈夫か?」千が話しかける。

「あのぐらいで死ぬわけないだろう」椿は疲れていた。

月美は笑顔になった。

疲れきった奈美は椿の元に行く。

「ありがとう」奈美はお礼を言った。

「別に…」

蓮は奈美を抱きしめた。

そして奈美も蓮を抱きしめた。

そこに湖南と大我もやって来た。

「大我!」千と月美以外の蓮たちは驚く。

「久しぶりだな」

「やっぱり会えたな」蓮は嬉しかった。

「嬉しい。とても嬉しい」奈美は感動した。

剛は見守る。

美羽と修、鎧は笑顔になった。

「無事でよかった」大我は安心した。

楽人は湖南の側に行く。

「良かった。湖南が無事で」楽人は安心のあまり後ろに倒れそうになるが時が後ろから抑える。

大地はその姿を見る。

そして仲間の素晴らしさを感じた。

するとそこに魔王は物凄いスピートで椿を捕まえた。

椿は疲労で抵抗出来なかった。

「残念だがここまでだな」魔王は笑顔だった。

「椿!」千が向かおうとするが海斗が止める。

「俺が人間如きに負けるわけないだろ! 彼女を救えたのは俺が手加減しただけだ」

「俺もここで死ぬようだな」椿は覚悟していた。

魔王はずっと笑っていた。

「椿!」湖南が叫ぶが龍人と楽人が止める。

「お前達人間がどう足掻こうが俺には勝てない。たとえパラレルトラベラーであってもな」

――もう救えないのか……

海斗達と蓮達は辛そうだった。

大笑いする魔王だったがその時突然無表情になり倒れこむ。

魔王は思わず後ろを振り返る。

そこには刀を持つ天都がいた。

海斗達と蓮達は思わず注目する。

「貴様……何のつもりだ」

「普通に考えてみろ。いくら悪魔に魂を売った俺でも弟を簡単に渡すと思うのか?」

天都は憎たらしい顔で言った。

魔王は悔しそうだった。

「……俺はまだ負けていないからな!! 人間ともに負けるわけがない!!」

魔王は叫びながら消えていった。

「兄貴…どういうつもりだ」海斗や蓮達は天都に注目した。

「俺は悪人しか傷付けない人間だからな。海斗、お前は俺のようになるなよ。俺は俺で

しか生きられないんだからな」天都は笑顔だった。

月美は思わず駆け寄る。

「月美!」剛が止めようとするが千が止める。

「何だ、まだ用か?」天都は月美を見る。

「私にも兄がいたから分かる。あなたは本当は今の自分のしている事に疑問を持っているんじゃないの?」月美は言った。

「なぜそう思う?」

「だってあなたは弟思いの人に見えるから」

月美の言葉に天都は考える。

蓮も天都の側に寄る。

「君の事は良く分からないけどでも君は孤独なんじゃないのか? 昔の俺にも似ている気がして」

天都は剛や奈美、千、美羽、修、鎧、大我を見る。

「お前は人を信用できるのか?」

「全ての人は信頼できない。でも少なくとも仲間達は信用しているし君も誰かを信用出来ればこの悲しみを消せるんじゃないのか?」

「くだらないな。そういう綺麗事」

天都は消えていった。

海斗は悲しくなる。

「安心しろ。蓮の言葉はきっと届いている」

大我の言葉に海斗は少し心が癒えた。

そして夜、全員、海神公園に集まる。

「ありがとう、海斗」奈美は海斗にもお礼を言う。

「いいんだ。俺も奈美さんに勇気をもらったんだから」海斗は笑顔になった。

龍人は加奈に手当を受けていた。

龍人は海斗を見る。

「あいつ、強いよな」龍人は悔しかった。

「龍人もかっこよかったよ」加奈は笑顔だった。

「そうよ、だから海斗に負けちゃ駄目だよ」美羽は笑顔で龍人の肩を叩く。

龍人は痛がる。

椿は立ち去ろうとする。

「どこへ行く?」楽人は呼び止める。

「疲れたんだよ。だから早く戻って休む」

椿が歩き出そうとした。

「待って」

千と月美は椿の側に行く。

「ありがとう」月美はお礼を言う。

「お前はやっぱりドクターだったな」

椿は背を向けて言った。

「千、月美、お前たちと出会った事で心の中にあった闇が消えた。感謝する」

椿は去っていった。

千と月美は笑顔になった。

蓮は大地の側に行く。

「さっきはすまなかった」蓮は大地に謝る。

「いいんだよ。俺が悪いんだし。それに俺、さっきみんなの姿見てまた立ち上がりたくなったよ」大地は笑顔になった。

そして大地は去っていった。

海斗たちは大地を見送る。

夜中、千と月美は一緒に帰る。

「良かったね」

「そうだな」

「まだ椿と会えるかな」月美が聞く。

「会えるさ。まだいつか」千は笑顔で言った。

千は月美の肩を掴み正面に向ける。

「月美、キスして良いか」

「うん」

千は月美にキスをする。

そして抱きしめる。

しばらくすると千は体を離す。

「月美、俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」千が告白した。

「…お願いします」月美は笑顔になった。

2人は笑顔になった。


エピローグ

そして高校に合格するために勉強を始めた。

高校に合格すると信じて。

大地は海斗たちに感謝していた。

海斗と加奈、龍人、胡桃、楽人、時は屋上にいた。

「しかし今回は大変だったな」楽人が振り返る。

「でも良かったじゃん。大地が立ち直って」

「それにちゃんと海斗たちも帰って来たんだし」

胡桃と時は笑顔で言う。

海斗は笑顔になる。

「でも本当に海斗と龍人が無事でよかった」加奈は安心した表情だった。

海斗は加奈が自分を思ってくれていて嬉しかった。

「じゃあ今度みんなでどこか行こうか?」龍人が提案する。

「良いねそれ」加奈たちは喜んだ。

それを見た海斗は思った。

加奈と龍人とは三角関係だがしかし加奈や龍人たちがいる花式高校に来てよかったと。

湖南は椿の部屋にいた。

椿は写真を見ていた。

「思い出しているの?」

「別に」椿は強がった表情だった。

椿は17人で撮った写真を机に置く。

椿は千と月美の事を考える。

蓮たちは海神公園にいた。

「じゃあな。みんな」大我が悲しそうだった。

「またいつかな」蓮は言った。

剛と鎧は笑顔だった。

奈美と月美は涙を浮かべていた。

千と美羽、修も寂しそうだった。

「まだいつか会えるよな」千が聞く。

「会えるさ。こうやってまだ会えたんだから」大我は言った。

「またな」大我は光の粒子になって再び元の世界に帰っていった。

「さようなら、大我」奈美は思わず呟いて泣いてしまう。

「まだ会えるじゃないか。ただちょっと時間がかかるだけで」剛は奈美を励ます。

「まだ会えて良かったね」

「そうだな」

千と月美は笑顔になった。

「2人とも付き合っているの?」鎧が聞く。

蓮たちは思わず2人を見る。

「そうだ。俺と月美は付き合っている」

それを聞いた蓮たちは驚いた。

「でもそんな気がしていたな」修は感じていた。

そんな会話をしていると奈美は笑顔になった。

「やっぱり奈美は笑顔が1番だ」蓮は奈美の顔を見て言った。

「ありがとう」奈美から悲しい表情は完全になくなった。

海神公園は同窓会のようだった。

「天使の言う通りの人だったね」

後ろから李音と羽馬、獅子、蠍、鳳凰、南が蓮達を見ていた。

「思っていたより強者だったな」羽馬は言った。

「まぁ俺にはどうでもいいけどな」獅子は空を見上げる。

「まぁ面白い奴らだ」「俺もお前と同じ感想だ」

蠍の言葉に鳳凰が返答した

南は大人しく見守る。

そして6人はその場を離れた。

夕方、海斗は蓮からもらった写真を見ていた。

海斗は笑顔になった。

そして仲間の素晴らしさを改めて学んだ。


                   完












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セカンドエンディング 崎本奏 @hureimuaisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る