記憶②

 魔族の男の胸から剣を抜いた。今回もぎりぎりだった。今しがた打倒した敵の体も自分の体も大小さまざまな傷がついている。勝ったのは自分だったが、自分の方が血まみれの度合いで言えば上だろう。なんら誇れることではないのが悲しい。


 立っているのも辛かったので横になった。戦いの余波であちらこちらが崩れたり吹き飛んだりしている。今横になっているここも比較的少ないものの瓦礫やら何やらが多く体にくい込んできて痛い。


 顔を横に向けるとそんな吹き飛んだ壁の穴から外が見えた。未だ戦いは続いていて、人と魔物で下の土が見えないほどだった。そんな中を緑の筋が何本も走っていく。そこから感じられる魔力には覚えがある。


 ステラ・ツァディーという女騎士の魔力だった。直接の面識はない。関係性で言えば、緑翠弓ウィンなんて名前を付けた弓を渡した相手、それだけ。魔族によって祖国を滅ぼされ、魔族への復讐を胸に幼いころから戦場を渡り続けていると聞いた。彼女の弓の腕前は相当なものであったので、より良い武器を与えれば更なる戦果を上げられるだろうという方針故に、僕が作った11のアーティファクトのうちの一つであったそれが与えられることになった。


 そんな彼女の名であるステラという単語は聞き覚えがあった。確か星という意味だったはずだ。こちらではどういう意味なのだろうかと気になったので、堅物執事に聞いたことがあった。こちらでも同じく星という意味だそうだ。今では遠くなった故郷との共通点が見つかって少し嬉しく思った記憶がある。


 また、緑の線が走った。あれが、夜空をかけていれば流れ星のように見えたのだろうが、今流れていってるのは戦場。あれが一つ通れば敵の命が失われ、味方の命が救われる。それがあの弓についている力。必ず敵に当たる。その射線上に味方がいればそれを矢がかわして敵に向かっていく。いいことのはずだ。少なくとも人側にとっては。


 あの弓がただのお飾りになる日が早く来いと、あの流れ星に向かって願った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そして、あの日に巻き戻る 桐弦 京 @MK62fgmn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ