マヤについて

マヤについて記しておこうと思う。


それは美しい。しかし同時に自らを恥ずかしくさせる。紙切れのようなヴィーナスが涙を拭う。


世界の地質の象牙質にきんと触れた時のように、端正な輪郭をした愛のかたちが起立している。


全てを失ったあとの指先が恐れを持ちながらそっと触れると、どこからか、たゆたうように声がかかる。


女は男になり、男は女になる。そこでは性はたじろぎをも覚えぬままに、魔法にかかって入り交じる。それこそが良いとされる。


見えてる。動いてる。ただ笑っただけ。

テーパードの人生がここにはあるのかもしらん。


人は願う。死ぬ時はいっそ、あの草むらの尊く暖かい「辺り」にぽんと身を投げ出すときの、その動きのようにと。


民は願う。持ちうる罪が消える時、灰になって、あのその愛おしい川の流れに還ってゆきたいと。


そしてあの星が飛行機だとは知らずに、祈り続けるのである。そしてそれも間違いなく私たちの時間なのであった。


抱きしめても抱きしめてもそれは、私たちの時間なのであった。(男は女に噛み付いた)


(男は女に噛み付いたままで)雨のように静かにしていることだ。

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マヤについて 滝雄然 @grn_ch

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