第4話 後日談 ―― 時の忘れ物亭 ――

 後日、次元の狭間の時の忘れ物亭にて。休憩するアルドにレンリが話しかける。

「あら。アルド。こんなところにいたのね。探したわ」

「レンリじゃないか。どうしたんだ?」

「ロゼッタさんから聞いてないの? 今後のことについて話そうと思っていたんだけど」

 アルドは訝しんで腕を組んだ。

「聞いてないな……なんのことだ?」

「ねこねこフェスティバルで私もサテラ・スタジアムの警備とかを手伝ったのよ」

「ああ。そういえば来てくれてたんだな。助かったよ」

「だからその見返りにアルドを次の企画に貸して貰うって約束をロゼッタさんとしてたのよ」

「えっ、そうなのか! そんなの何も聞いてないぞ!」

 ロゼッタのやつ、勝手にそんな約束を取りつけていたのか。

「ってことで、さっそく準備の話なんだけど会場はサテラ・スタジアムでいいとして、リィカちゃんにも手伝って欲しいし……また仲間も集めたいのよね。今のところ、シュゼットちゃん、アナベルさんと一緒に企画を練ってるんだけど」

「えっと、なんの企画なんだ?」

「もちろん、世界甘味フェスティバルよ! 古今東西の甘味を集めた夢の祭典! これを開く代わりってことで今回協力したんだから! ってことでアルド、幻の甘味の入手やいろんな人の説得、よろしくね! 私もエルジオンの低カロリースイーツの老舗に話を通してくるから!」

 レンリはアプリを開いてなにやら操作を始めた。

「えっ? やるのは決定なのか?」

 話し込む二人の間にいつの間にかやってきたハーディが割り込むように口を挟んできた。

「やるもやらねェも自由だが、やらないとおめェが困ったことになると思うぜ、アルド」

「ハーディ! 困ったことってどういうことだ?」

「今回、サテラ・スタジアムを借りるための資金は、おめェの借金なのさ。その金、回収させてもらうぜ」

「オレが? どういうことだ?」

「サテラ・スタジアムを借りるための書類にちゃんとサインをしたのよな? あれはおめェが俺に個人的に借金するって契約書だったのさ。その金を使って俺は代理でサテラ・スタジアムを借りた」

 アルドは、祭りの準備の時にロゼッタに連れられてオークションハウスでハーディと会ったときのことを思い出した。そのとき確かにハーディに言われるがままにサインをしてしまった。

「……ああっ! 騙したな!」

「おいおい、そんな目で見んなよ。契約書をよく読まずにサインしたのは、おめェさんだぜアルド。だが助け船も用意してある。次の企画に協力するなら今回の借金はチャラにしてやるぜ」

「なんでチャラに?」

「利益になるからさ。今回の企画のチケットも闇ルートで好事家に高く売れた。次の企画も絶対に儲かる。臓器売って金を作るか、次の企画に協力して借金をチャラにするか、好きに決めな」

「ハーディ。あなたと協力するのは主義に反するけれど、今回は利害が一致しているようね」

「光栄だな、お嬢ちゃん」

 ハーディとレンリは固く握手を交わした。

「そ、そんな……」

 驚愕し後ずさるアルドの元に甘味フェスティバルの噂を聞きつけたアザミ――みたらし団子が大好きなサムライの女の子――が駆け寄ってきた。

「アルドどのーっ、大好き! 大好きでござる! 拙者、みたらしだんごが大好きでござるぅう! アルド殿が危険な幻獣を討伐してまで幻のみたらしだんごを再現してくれるだなんて恐悦至極に存じまするぅう!」

 アザミが錯乱状態になってる! しかも幻の幻獣を討伐することに!?

「いや、ちょっと待ってくれアザミ。なにか誤解が……」

 更に後ずさるアルドの元にシュゼット――エルジオンに暮らすスイーツ大好きな思春期真っ盛りのゴスロリ少女――までもが走りよってきた。

「闇のプリンセス、魔界の力を纏いしわたくし降臨! 甘味ある所にわたくしあり! 素晴らしき祭典にするべく世界に力を解き放ちますわ!」

「いや、だからシュゼット、オレは……」

 シュゼットから謎の魔力が闇の炎のごとく立ち昇った。問答無用の勢いだった。

 さらにはどこからともなく胡散臭い風貌の武器ブローカーの男、ユーインまでもがやってきた。

「甘味祭りと来たからには、行きつけの酒場のおやじのフルコースも出店しなきゃだな! ってことで説得は頼んだぜアルド!」

「オレがそのおやじを説得するのか!?」

「というわけで、第一回、古今東西甘味フェスティバル開催決定ね!」

 甘党たちが一致団結して拳を天に突き上げる。

「オレの話も聞いてくれーっ」

 それから甘党たちは笑顔で企画の今後について夢中で語らい、アルドの叫びは次元の彼方に消えた。


 - Quest Complete -


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ねこ好きたちの夢祭典 みぃ。 @mii280

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