第2話 操る者、従わざる得ない者
2020年1月19日、政府のシンクタンクである中酷工程院院士である鐘南山氏率いる専門家が、研究所のある武漢市の現状視察にやってきた。そこで医師たちの事情聴取から、1月7日に外科手術した趙軍事が術後、原因不明の肺炎に罹り、1月11日に亡くなった事実を知る。その病原菌こそが、新型コロナウイルスだった。
鐘南山氏一行はその事実を知り、急ぎ北京に引き返し中央に報告、始めて周近併は新型ウイルスの現状を知り、1月20日に「重要指示」を発布。
報告を怠った武漢市の周先旺市長を直様、逮捕。同時に世界からの忠酷批判の拡散を恐れて、世界保健機関(WHO)の専門家委員会のディディエ・フサン委員長と会い、都合のいいデータを渡し、彼の目を凝視し、手を強く握った。
フサン委員長はそれが何を意味しているか、手に取るように分かった。その結果、世界保健機関(WHO)は24日、感染が国際的に拡大し緊急の対応が必要な場合に出される「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を人から人への感染が確認されていないことから、「現時点で国際的なレベルでの緊急事態にはなっていないと判断し、今はその時ではなく、緊急事態とみなすには早すぎる」と見送った。
その報告書は、中酷の思惑が盛り込まれたデタラメなものだった。フサン委員長からすれば、宣言で国際的緊張を発起させる恐れと、国際的やり取りで明らかな改竄・捏造などあり得ないと言う思い込みも絡み合い、まんまと騙される結果となった。
その時。既に分かっているだけで、趙軍事の手術や治療に当たった14人の医師や看護師が新型コロナウイルス肺炎に感染していた。従来の予防対策を取っていた医師、看護師の感染だ。とは言っても、中共高官と無関係の施設の現実は、物資不足、対応策のなさは当たり前。それも、院内感染を広めた可能性だと考えられた。鐘南山氏一行はその事実をありのまま周近併に報告した。
ここで明らかなのは、この時点で周近併は、WHOへの報告とは違い、人から人への感染事実を知っていた、と言うことだ。
趙軍事の行動追跡から武漢市の華南海鮮市場で感染したと考えられた。しかし、聴取から医師、看護師たちは華南海鮮市場に行っていない事が判明。では、なぜ、感染したのか?答えは簡単だった。趙軍事からの感染だった。
周近併は、それを知りつつ、人から人感染を隠蔽した。
中酷人らしい振る舞いだ。後先考えず動き、辻褄が合わず、迷走する。
周近併の迷走は武漢市の周先旺市長の迷走に酷似している。周先旺市長は新型コロナウイルスに関してインタビューを受けた際、「共和病院の脳外科がこの患者に対して入院前に新型コロナウイルスに感染しているか否かを確認しなかったのがいけないのだ」と語っている。これを受けて武漢政府は、人から人感染はないとして「十分にコントロール出来ている」と偽装工作し、ばれれば共和病院の対応のまずさが原因だと開き直り、責任逃れに必死な姿は中酷人の気質を象徴していた。
さらに、周先旺市長は19日に万家宴という人が集まる大宴会を開いていたことを突かれ、あれは昔からの庶民の慣習なので執り行った、と答えている。どこの国の役人も自分への評価が優先し、被災地、被害者より宴会を選ぶ神経のなさは似たり寄ったりで嘆かわしいものだ。
WHO(世界保健機関)は1月1月30日夜に緊急の委員会を開いた。その結果、テドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言をせざるを得なくなった。
テドロス事務局長は記者会見で、「感染が中国以外にほかの国でも拡大する恐れがあると判断して宣言を出した」と語り、次の5点を強調した。
(1)貿易や人の移動の制限は勧告しない
(2)医療体制が不十分な国々を支援する
(3)ワクチンや治療法、診断方法の開発を促進する
(4)風評や誤った情報の拡散に対策を採る
(5)患者感染者の病理データを共有する、と。
WHOは緊急事態の宣言を見送る一方で、テドロス事務局長がわざわざ中酷を訪問。本来、事務方とのやり取りが通常であるのに対し、何故か、今回は、周近併国家主席らととの密談の形式を取った。
テドロス事務局長は、中酷から巨額インフラ投資を受けるエチオピアの元保健相・外相であり、感染当事国と向き合い『公衆衛生上の緊急事態』に対処する司令塔には不適格であると疑われても仕方がない。事実、周近併は28日、北京を訪問したテドロスに『WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる』と語った。要は、緊急事態宣言を見送るのは勿論、余計なこと言うな、言えば分かるな、と周近併がテドロスに圧力を掛けたと疑われても反論の余地はない。
その結果、テドロスは『WHOは科学と事実に基づいて判断する』と応じたものの『中酷政府が揺るぎない政治的決意を示し、迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する』と賞賛し、的外れな発言を行うものとなった。
テドロスを突き動かすのは、祖国のエチオピアが中酷が推奨する巨大経済圏構想『一帯一路』のモデル国家とされる一方、膨大な債務にも苦しんでいたからだ。
国際機関のトップとして最も重要なものは権力、利権に屈しない中立性。弱みを握られた事務局長だからこそ、判断ミス、感染拡大に拍車を掛けたとも言えなくない。
アメリカのカード大統領は、いち早く動いた。
中酷全土への渡航警戒レベルを最も高い「禁止」に引き上げ、さらに過去14日以内に中酷に滞在した外国人の入国を2月2日から拒否。事実上の中酷人の出入国の拒否を表明した。嘘つき中酷と揶揄するカード大統領らしい、大胆な対応だった。他国も警戒を高め、中酷との間で出入国の制限を行う国は、60ヶ国以上に及んだ。
日本は、腰が引けているように世界からは見えた。被害を未然に防ぐのは重要だ。しかし、対策を強化すれば誤った情報が流れ、差別も生まれ、風評被害のような新たな被害を引き起こす。日本には明治から平成まで続いてきた旧伝染病予防法と同法に基づいた隔離重点のハンセン病(らい病)対策の失敗が重くのし掛かっていたのだ。
2019年4月某日、一人の男が武漢天河国際空港に降り立った。男の名は、ムハメド・アルサガ、イスラエルの諜報組織モサドの一員だ。
ムハメドは、中酷の細菌兵器の特定を命じられ、中酷科学学院武漢病毒研究所周辺を隈なく調査した。研究所は、機密性の高い建物だけに容易には侵入できないでいた。そこで出入りする人物を尾行し、それぞれの会話を収集し、可能性を精査した。
ムハメドは、情報集の為、研究所近くにある酒場に入り浸っていた。そこは、研究所の清掃員がよく出入りする場所だった。清掃員たちの愚痴をつぶさに記録し、親密になるための情報と方法を模索していた。
ターゲットは、決まった。清掃員を束ねる王李清掃長だ。
中酷には明確なカースト制度が現存していた。研究員からしたら清掃員はゴミ。給与、待遇は言うまでもなく天と地、いや、宇宙と地下。不満や嫉妬の巣窟だった。ウイルスはバイ菌。そこで好んで働こうとする者はいなかった。それだけに働く者たちの結束は固く、縁故関係の巣窟ともなっていた。ムハメドは、匠に王李清掃長に近づき、親交を深めていった。
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