月が綺麗ですね。「ええ……本当に綺麗ね。月なんて出ていないけど」

アレン

月が綺麗ですね。「ええ……本当に綺麗ね。月なんて出ていないけど」

ほんのりとあたたかくなり、桜が咲き始める今日この頃。


いつもこの季節になると、あの日のことを思い出す。


もう、何年も昔の話だ。


甘くて、苦い。


青春時代の大切な思い出だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


はぁ、卒業か。


少し前までは楽しみだったはずの卒業式が、今では憂鬱で仕方がない。


少しでも早く大人になりたかったはずなのに、今では少しでも長く学生のままでいたいと思っている。


「おはよう」


「お、おはよう!!」


「どうしたの? そんなに驚いて」


「な、何でもない」


「そう」 くすくす


彼女と、もっと一緒にいたい。


彼女とは一年のころからクラスメイトで、仲のいい友達だった。


かわいいとは思っていたけど、恋愛感情はなかった。


何がきっかけで好きになったか、そんなのわからない。


でも気が付けば、彼女の虜になっていた。


彼女と目が合うだけで緊張し、話していると鼓動が激しくなる。


苦しいけど心地いい、そんな不思議な感覚だった。


そして、そんな関係を崩したくなかった。


彼女のことを好きになればなるほど、今の関係が終わってしまうのが怖くて告白なんてできないでいた。


現状を維持したい、そんな意志を無視して時間は平等に進み続ける。


気が付けば、今日は卒業式……


「あ、あのさ」


「どうしたの?」


「今日式が終わったら、屋上にきて」


「え?」


「待ってるから」


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こつん、こつん、こつん


ガチャ


来た。


心臓が、走った後かのように激しく鼓動する。


手足の震えが止まらない。


落ち着け。


大丈夫だ。


「あ、あの!」


「なぁ~に」


「月が綺麗ですね」


ど、どうだ。


決まった。


あ、あれ?


反応が……


「ぷぷっ! ええ……本当に綺麗ね。月なんて出ていないけど」


「え、えっと。だから……」


ど、どうしよう。


もしかして、やらかした?


「ふふふ、あなたって、思っていたよりロマンチストだったのね」


「いや、えっと、その……」


「そんなに慌てなくてもいいじゃない。ええ……そうね」



『私死んでもいいわ』


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「あなた~……外なんて眺めて感傷に浸って。私がご飯の準備してたのに、いい御身分ね」


「ごめんごめん。ただ、あの時のことを思い出しててね」


「あの時?」


「卒業式、学校の屋上でさ。ちょうどこの時期だったろう?」


「ああ、思い出したわ。とつぜんあなたが、月が綺麗だなんて言い出して……」


「キャラじゃなかったことぐらいわかってるよ。あの時は、ああいうのが正解だと思ったんだよ」


「でも、それ以上に。せっかく私が『私死んでもいいわ』って言ってあげたのに、あなたなんて言ったか覚えてる?」


「勘弁してくれ」


「死ぬな!! ですって。あの時は笑い過ぎで、本当に死ぬかと思ったわ」

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月が綺麗ですね。「ええ……本当に綺麗ね。月なんて出ていないけど」 アレン @aren_novel_No100

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