過ぎ去りし夏

てると

すっかり蝉が鳴かなくなって

すっかり蝉が鳴かなくなって、夏の初めあれだけうるさかった鳴き声も、今は恋しい。

この八方塞がりに思える今も、遠くの蝉の声に心を傾けるように、いつかは懐かしみ感慨に耽る時がやって来るのだろうか。

窓の外を見やる。

橙色の空が窓の水滴を煌めかせる。

今日は山へスケッチをしに行こうと前日から決めていたが、雨が降り雷も鳴っていたので行けなかった。

雨がやみ、陽光が差し込んできたときにはもう夕方であった。

ふと窓の横の棚に立てられた皿に目が行く。

知人に貰った海外旅行のお土産だ。

あれだけ熱心に人生のステージを高めることを説いていた彼は、肺を患って以降メール一つ来ないけれど、農村の実家では元気にやっているだろうか。

窓の外でカラスが帰っていく。

腹が減ったので、飯を食うことにした。

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過ぎ去りし夏 てると @aichi_the_east

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