第5話

 サルーパで宿屋の修理を終えたアルドたちは、合成鬼竜に乗ってパルシファル宮殿へと向かおうとしていた。

「こんな見た目で怖いかもしれないけど、俺の仲間なんだ」

「漢の中の漢の艦……合成鬼竜Zだ」

 サルビアはアルドの後ろに隠れながらも合成鬼竜との挨拶を交わす。

「ぜっと……さん……?」

「む……合成鬼竜Zだが……まあいい。好きに呼べ」

「相変わらず鬼竜は女の子に甘いよなぁ」

「フン……それで、どこへ運べばいいのだ?」

「パルシファル宮殿に向かってくれ。でも、この子と少し話したいから、ゆっくりで構わないよ」

「よし、それでは出発しよう」

 合成鬼竜の掛け声とともに艦全体が動き出した。アルドにしがみついていたサルビアも、艦体が安定すると徐々に落ち着きを取り戻し、その様子を見てアルドはサルビアの父とした話を聞かせた。

「お父さん、謝ってたよ。サルビアに迷惑かけてすまないって」

 未だ父の人物像をうまく捉えきれていないサルビアは、泣くでもなく、笑うでもなく、どこか申し訳なさそうな顔をして、空を見つめながらその言葉を黙って聞いていた。

「あ、そ、それとな!もう一つ大事な話があって、これは前向きな話として聞いてもらえると思うんだ」

 サルビアが不思議そうに顔を覗き込むと、アルドは優しく微笑んで語り始めた。

「サルビアの名前について。お父さんとお母さんがなんでその名前を付けたか、聞いたことあるか?」

 彼女は黙って首を横に振った。

「サルビアって、ラトルの近くによくある花の名前なんだって。君のお父さんとお母さんが出会った頃、お父さんは元気がなかったらしくて、それで元気づけるためにお母さんが毎日その花を見せてくれたんだって言ってた。二人を繋いだ大切な花の名前を君の名前にしようって、お父さんとお母さんが二人で決めたんだって」

 サルーパで泣きじゃくっていた時のそれとは違う小さな粒が、ひとつ、またひとつとサルビアの目からこぼれては風に流されていった。



 それからしばらく、ゆっくりと空の旅は続き、その間に合成鬼竜はサルビアからの質問攻めにあっていた。

「ぜっとさんはどうして喋れるんですか?」

「俺は次元戦艦という、合成人間に作られた特別な艦で……」

などと答えていると、また別の質問で

「ぜっとさんはどこまで行けるんですか?」

と聞かれ、ついには、

「ぜっとさんは未来から来たんですか?」

そう迫られてしまい、合成鬼竜はなす術なく時間移動のことまでサルビアに説明してしまう始末であった。

「おいおい……」

 アルドもそうは言ったものの、初めて見る生き生きとしたサルビアのことを止められはしなかった。

「まあ、元気が出てきて何よりか……」

 合成鬼竜への質問が一通り終わると、今度はアルドにその番が回ってきた。

「アルドさんは、どうしてこんなに優しくしてくれるんですか……?」

「次は俺か……そうだな……」

 アルドはベガの森にいたサルビアに、かつての妹の面影を見ていた。

「サルビアが妹に似てると思ったんだ。俺と妹はすごく小さい頃に家族とはぐれてしまって、森で二人きりでいるところを爺ちゃんに拾われて、育ててもらった。両親と離れ離れになった妹とサルビアが重なって、どうしても放っておけなかったんだ」

「……私、いつか、アルドさんの妹さんに会ってみたいです……」

「ああ!話をしたらきっと妹も会いたがると思うよ」

 すると、徐々に合成鬼竜の速度が落ち始めた。

「そろそろ到着だ」

 その言葉を聞いてアルドは甲板から移動し、降りる準備を始めた。

「よし、サルビア、そろそろ行こうか」

「はい……!」

 そう返事をしたが、サルビアは一度引き返し、合成鬼竜に小さな声で話しかけた。

「どうした」

「ぜっとさんって、今と未来を行ったり来たりできるんですよね?」

「ああ、さっき話した通りだが」

「あの、お願いがあるんです。私が将来、大人になって一人前になったら、またここに会いに来て欲しいんです」

「ふむ、女の子に礼儀正しくお願いされたら嫌とは言えない漢の中の漢の艦、それがこの俺だが、大人になったら、というのでは曖昧で難しい……そうだな、今からちょうど十年後というのはどうだ」

「十年後……わかりました……!約束です」

「おーい、サルビア、行くぞー?」

 アルドの知らない約束を胸に、彼女は元気よく返事をした。

「はいっ!」




 それからしばらくして、アルドは合成鬼竜の甲板に戻ってきた。

「早かったな」

「ああ、昔オリバーの世話になってたって魔工士のおじさんが優しそうな人で、すんなり話が通ってよかったよ。サルビアは、しばらくその人と魔法教室の世話になることになった。初めはすごく緊張してたけど、あの子ならきっと大丈夫だ」

「そうか。ところでアルド、お前がいない間にこちらも一つ要件を済ませてきた。手紙が届いているぞ」

 合成鬼竜がそう言うと、いつも艦内にいる合成人間のクルーがそれをアルドの元へ持ってきた。

「手紙?誰から……」

 封を開けたアルドは目を丸くしながらその中身を読んだ。




 アルドさん、お久しぶりです。と言っても、この手紙がアルドさんの元に届くのは、もしかしたら、あの頃の私と別れてすぐあとかもしれませんね。

 今は、あれから十年が経ちました。私はもう立派に一人前の魔法使いとして、そして魔工士としても認められるようになりました。私がここまでやってこられたのは、おじいちゃんや、お父さんとお母さん、そして、あの時私を止めてくれたアルドさんのお陰です。

 けれど、今でもまだ、時々お父さんとのことで迷ったり、悩んだりすることがあります。おじいちゃんが言っていた通り、これは、これから先もずっとついて回るのかもしれません。

 私の方がひどいとか、お父さんの方が悪いとか、そんな答えの出ないことを考えていると、また進むべき道を見失ってしまいそうになるから、目標を決めました。

 今の私の夢は、植物学者になることです。これから旅に出て、いつか世界中の植物を調べて、私の知識と魔法で世界中の人たちを、世界中の家族を幸せにしてあげることが、私の夢です。

 ちなみに、最初の滞在先はラトルです!そしてもちろん、私の研究対象第一号は――







「サルビア」


おわり

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サルビア おなか @onaka_23

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