63話 改めましてR&L 状況開始!!

「あぁ、どうしようぅぅ。」


視界の端で、うずくまるリーファへどうしたものかと考えながら唇の範囲を整理していた。

勝手な俺の予想だが唇があると言うことは、他の部位もこの結界内に存在するのではないか?

もし、その仮説があっていれば俺は唇が中心になって放射状に赤外線センサーのようなものがある筈だ。


「絶対に私…怒られるし……。これだよ…ちょっと自信がつき始めたらこれだよ。」


なんか呻いている彼女を救った際、唇が確かに直線上にあったのに確実に重力から逃れられたということは、あの場所に目の直線上に障害物が存在したと言うことになる。

倉庫の端から、剣を突き立てて盛り上がった地面がある場所に目を向ける。

もし、目があるとしたらちょうどあの場所が死角になる場所。

センサーか、しかもこれで敵の位置情報を速やかに且つ、広範囲に把握したい筈だ。

………上だな。

倉庫の裏に攻撃が行かないことを考えると離れた場所から見ているということだろう。

目線を高くして、見渡す。

そういえば、リーファは何故来る途中まで重力攻撃を受けなかったのだろうか…。


「校舎……。」


校舎が死角になっていたんじゃないか?だとするならば、目の位置は校舎よりも奥の場所。

そこで、今の条件を基に改めて見渡す。


「………あれか?」


あれでリーファが一瞬重力攻撃がなかった場所をもう一度調整してみると校舎の屋上に出っぱったものがある。

雨水タンクだ。

もし、あれが死角になっているのであれば…。


「旧部室棟か…。」


確か、リーファがあそこでは湊ともう一人の光の御子が的と戦っていると言ってた。

それに、一ノ瀬が

そこに本当に目があったなら、湊達がそっちを潰したほうがおとりなどせず楽で済むのだが…。

だが、その前にウダウダ言ってる奴をなんとかしなくてはいけない。


「しかも、よりによって……友達にバレるとか…。」

「よく言うわ。名前忘れてたくせに。」


何が友達か。

料理を教えて、それなりに親しくなった気ではいたし湊のことの相談にも応じたから流石に名前くらいは覚えてくれているだろうと思っていたのに名前を一瞬忘れるだなんて…。

いや、もしかしたら忘れてたほうが彼女的には光の御子を秘匿できていたのではないか?

そうだ。

彼女は俺が神室陸という名前であることを途中で思い出してしまったが故に自分の名前を晒してしまった。

なんだか、申し訳ね…って何言ってんだ。

そもそも、人の名前を忘れてんじゃねーよ。名前を覚えて且つ、秘匿しろよ。


「う……でも、しょうがないでしょ。毎回、あなたの顔を見るといっつも名前が霞んじゃうんだもん。」

「言い訳にしては、もう少し考えたもんにしろ。……で、落ち込んでるとこ悪いけど生徒救うのに手伝って欲しい。」


俺の声に彼女は、振り払うように大きく頷いて、顔を見る。恐ろしいほど、切り替えが早い。


「まず、…旧部室棟にいるお仲間と連絡を取れるか?」

「無理よ。連絡しようにも、妨害が発生してる。」

「じゃあ、なんで現在の情報を把握してる?」

「それは、一回使い切りの通信が可能なものがあったからよ。」

「左様か…。ってことは、旧部室棟に行くか…。君のお仲間が目と戦っているのかは分からないがそれが勝つまで待機か…。」


正直、あとは光の御子に丸投げでも構わない気がしなくもない。椎名のことも気になるがあれの実力は知っているつもりだ。

だが、リーファは。


「行きましょう。」

「……でしょうね。」


即決だ。

まぁ、何となくじっとするような人ではない。こう言うのは、無理に待機させると何を仕出かすかわかったものではない。


「桐生先輩。取り敢えず、あの唇の付近の生徒の安全の確保をお願いしてもいいですか?」

「えぇ、桐生家の名の下に誰一人も見捨てません。……まぁ、西園寺はわからないけど」

「いや、西園寺も救ってやってくださいよ。」


冗談めいた。いや、冗談か?

多少、不安を残すが流石に同僚を見捨てはしないだろう。彼女が残るなら、大丈夫だろう。

問題はどうやって行くかだが、これに関しては仮説の立証も含めて考えてある。


「おい、リーファ。俺の合図で校舎まで突っ込む。分かったか?」

「りょ、了解。……でも、その仲間にリーファってバレたことを知られたくないので…。一応、『バレット』という名称で呼んでくれると助かるのだけど…。」

「わかった、バレット。」


そんな名前とかあったのか?

いや、そういえば椎名には、『氷の女王』って呼ばれていたな。あの気に食わない野郎も『雷電』とか名前があった。似たようなものだろう。

そんな事を考えながら、狙いを校舎の真上に定めていた。


雨水タンクを爆破させることで、発生した煙は目潰しになっただろう。


「行こうか。」

「アイサー。」


改めましてR&L 状況開始と行きましょうか。





「うぉぁぁぁああらぁ!!!」


灼熱の炎が弾けて、シャドウを焼き尽くす。

戦闘開始から数分が経ったが未だに突破口が導かないでいた。

触手を焼くもののすぐに再生。

これの繰り返しだ。

とある神話に準えて、切り口を燃やしても再生する。

これは、不死の類とでも言うのか…。


「全然、効いてそうにないけど!?」


悲鳴のような勅使河原さんの声。彼女は校舎側のベランダから巻物に描いた槍を放っているが悉く命中しているにも関わらずシャドウは怯むことはない。寧ろ、ただただ怒りを買ってしまい執拗に触手に追いかけられていた。

すぐさま、飛んで迫っていた触手を燃ゆる剣で振り払う。


「ごめん、助かった。」

「構わないよ。それより、どうする?」

「……正直、猫の手も借りたいところね。弱い攻撃は効かないし、再生能力がある。並のシャドウじゃないわ。正直、あの前戦った幹部より強いんじゃない?」


彼女の言う通りだ。

シャドウの動きは、高度なものだった。

触手を散開させてほぼ全方向から向かってきて的確に僕らの死角になりうる場所から優先的に攻撃するのだ。しかも、なんとか切り落として前に集中出来るようにしたとしても優先的に触手を死角に補給する。また、時折わざと見せるような自爆じみた特攻をしてくるものだから余計に意識が狭くなってしまい、死角が広がってしまう。

見た目は、ドロドロとした塊だが知能があるし、自分の自傷にも躊躇いがない。

正直、体力の消耗がひどい。気でも揺らいだら直ぐに捕まってしまうから余計にだ。

それに、意識が守りに行ってしまうから更に攻撃が弱いものになってしまう。

悪循環だ。

あまり、持久戦には持ち込ませたくないのだが、向こうが持久戦に向かわせている。

かと言って、まだ敵がいるかもしれないのに全力を出すわけにも…。

あぁ、こんな時にリクが居てくれたらという甘えを口に出しそうになる。

だが、彼は今頃グラウンドに現れた敵の相手をしているはず。それに、いつまでも光の御子でない彼に頼るわけには行かない。

そうだ。 

今、この場にはみんながいる。


「どうするの?」

「…… 【白炎疾刃】を使おう。」

「!?一発しか、使えないんじゃないの?」

「そうだ。でも、あの火力なら。」


確実に屠ることができるだろう。

幹部さえも焼き尽くした聖なる炎。それは、目の前の闇の塊のような化け物にも有効なはずだ。

懸念があるとしたら、少しの時間を要する。


「……分かったわ。私が時間を稼ぐ。」

「助かる。」


彼女は、目配せで下がるように指示した。その合図に僕はバックステップで下がりつつ、剣に魔力を集中する。無論、シャドウも何か察したのだろう。触手を散開させ、僕へと狙いを定める。


「させないわよ。」


空を切り裂くような怒号と共に触手は、現れた漆黒の虎によって次々と切り落とされた。僕は、横目で彼女を…勅使河原を見る。

彼女には、大きな巻物から見事な絵を完成させていた。

今度は、龍だ。

巻物から、出現した途端に暴れまくって僕へと迫っていた触手を我が物顔で捕食し始めた。

いや、そう見えるだけでひたすら噛みちぎっていた。

虎と龍が、思うがままに暴れ舞う光景は、正に圧巻であった。

虎龍図を描いた人物は、この姿を夢想して描いたのかもしれないとふと思った。

これで、時間を稼げる。

灼熱の炎が頬を焦がす。

真っ赤に染まった炎が、次第に白く輝きを放つ。

これは、闇をも払う…闇を消し去る聖なる灯火である。

足を強く踏み込み、狙いを定める。

一発だけだ。

この一発でこいつを屠るんだ。

視界の端で、虎と龍が見逃した触手が迫り来る。

まだ。

まだだ!

極限までに魔力を高密度に…、万が一なんてことがないように…。

迫る触手をバックステップで避け続け、隙間を見つけつつそこへと突っ込んで奴との距離を徐々に詰める。

背後は、勅使河原が埋めてくれる。

そして、ほぼ100%の火力が放てる間際までたどり着いた。


「いけ!!湊!!」

「ああ!!」


白く輝く火の色は、青白く変色していた。

最早、稲妻にも似たその光は、瞬間僕は目を引き寄せられた。思わず、ぶらりと震えたここまで魔力を高密度に集中したことがなかったし。

でも、これが僕の全力。

全て、これなら結界ごとぶち破れるであろう。


「………白ッッ」

「……素晴らしい。これで条件…その一解除だ。」


その時、罪人が沙汰を食らった時のような…。

そんな声が僕を止めた。


「へ?」


真横に人がいた。

ハット帽を被った足長の青年だ。


「……『見よ、絶えず体を震わせ、蹄を蹴たてる気高き白亜の馬を……。冠は我が頭にあり、弓は我が左手にあり、矢は我が右手にあり。』」


彼は、両手を広げて天へと歌うように…見上げ仰け反ると一瞬だけ僕の顔を見た。


「さぁ、目覚めろ。【】。」



その言葉を耳にした時、意識が泥の中に沈んだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る