62話 R&L
「どおわぁぁ!?」
上空へと落下する感覚は、これで数回目であるが慣れることはない。なんにしたって、この方十六年にわたって地球の引力の中で暮らしてきている。
それに、前にも後ろにも右にも左から重力を感じて耳石がどうにかなってしまいそうだ。すぐさま、重力とは逆方向へと足元にある光線の推進力で調整して釣り合いをとる。
あの唇は、マウンド上から一切の動きはない。
「……レヴィ。あいつに何か、打点はないのか?」
『そうね。理の外とは、言っているけど奴は攻撃が致死へと達したら死ぬわ。まずは、攻撃を当てなければどうしようもない。』
「攻撃…ねぇ。」
ちょうど、地上方向への浮遊感を感じ始めてゆっくりと唇へと視線を向けた。奴へ、何度も近づこうと試行錯誤した結果なんども弾かれている。
それこそ、俺とあの唇が磁石の同じ極の斥力並みに近づけない。
【下へ】
やべッ。
突然、落下のスピードが加速した。青空へと向けられた引力に対抗していたはずの向きが、あの唇の本来あるべき重力の方向へと向いてしまった為にただの爆発的な加速の原動力になってしまった。すぐに逆方向へとブースターを向けたが釣り合う前に地面にぶつかる。
桐生先輩へ通信を繋げる。
「あの!!先輩!?このアーマーの耐久性ってどれくらいっすか!?」
「そうねぇ。多分、そのスピードでぶつかったら…五体満足は…。」
「ちょっとぉぉ!?」
だと思ったよ!!
とりあえず、武装を全て調べる。小型ミサイルに9ミリ。このアーマーの原動力であるエネルギーを使ったブースターのギアチェンジ…これだ。
両手を地上へと向けて手のひらが変形し、ジェットエンジンの小型版のようなお椀型の部品が出現するとそこから、紫に近い淡い火花が散ると反動で上空へと押し上げられた。
視界の左端に映っているものを確認する。
エネルギー残量58%。
桐生先輩曰く、このスーツは、とあるエネルギーをコアとして作られたものでそのエネルギーで超人的なパワーを持つことが出来、飛ぶことが出来るとのこと。
そのエネルギーがさっきので大分、削られてしまった。因みに、さっきので20%は飛んでいる。
「ちっ…。」
舌打ちをして、すぐさま近くの建物の裏へと隠れた。
あれは、多分使えたとしても2回……いや、1回きりだろうな。
「はてさて、どうしたもんかなぁ。…ん?」
誰かの足音。
そっと、倉庫から覗くとグランドのど真ん中を駆ける少女が一人。
リーファだ。
不味い!!
彼女は、あの唇のことを知らないのだろう。
「来るな!!」
腹の奥から、大声を出して静止を命令するが時すでに遅し。彼女が俺の声に反応して動きが止まりかけた瞬間。
【左へ】
いつもの、天の声。
彼女は真横に転けるというより真っ直ぐな状態のままスライドした。
「えぇぇぇ!?どういうことぉぉお!?」
グランドのど真ん中だから、彼女は捕まるものがなく。落下する。
足元のブースターで彼女の元へと向かう。
「?」
意外にも、俺に重力が働くことはなかった。難なく、リーファが落ちてくるであろう地点へと先回りし、腕から剣を出現させてグランドに突き立てる。
「え!?西園寺…あれ?えーっと名前誰だったっけ?……じゃなくて!!ちょちょッッ!?ど、どいてぇぇ!!」
おいこら、自分達のこと秘匿するんじゃなかったのか!俺の名前知ってたら、あんた不味いだろ。若干、呆れつつ彼女を助ける為に落下までの間にできる術を調べる。
「馬鹿野郎!?大人しくしろ!!そのまま落ちていったら結界で焼け死ぬぞ!!」
わちゃわちゃとする彼女の胴を半ば、ラリアット気味にしてキャッチする。
その際、思いっきりグヴェアッッッッと女の子が出したらいけない声がしたがこの程度では死なんだろう。そのまま、例の倉庫へと進路を向ける。その際、倉庫へと向かおうと辿ってきた道を戻ったときリーファによる横方向の重さが無くなった。
すぐさま、唇の方へと視線を向けるが目の前に奴がいた。
範囲は、やつの直線上にあるものじゃないのか?
疑念が湧いたまま、俺は桐生先輩の元へ向けた。
「あ、あのー。」
「なんだ?」
「何だじゃないわよ!!助けてくれたこと非常にありがたいけど!もうちょっとなかったの?腹にラリアット喰らったんだけど!!??」
ギャーギャーと喚くリーファによって、左右に揺れる。酔いはしないが、うざったいから投げ捨てたい。
「うるせぇーな。エアバックみたいなのあったけど、出したら視界が見えなりそうだったし。君多分、タフでしょ。」
実際、術を調べている時にエアバックのようなものがあった。しかし、使用した場合。体全体から点火して比較的柔らかいものが出てくるのだがそうした場合、完全に前が見えなくなると注意書きされていた。
ならば、そんな危険なことする必要はないのだ。
ちょっと、俺の名前を忘れていたということや部屋を汚したことや部屋を勝手に物色しようとしたことを根に持っているわけではない。
本当だ。
僕は嘘を言わない。
「あっそーー!」
拗ねたのか、口を尖らせて尺取虫のように捻って腕の中から抜け出して倉庫の裏へと隠れた。
そこには、札を数枚手にした桐生先輩が準備をしていた。
「わーお、呪術師?」
「どちらかというと陰陽道なんだけどね。まぁ、いっか。それで?どうだった?楽しかった?」
「楽しめるか!こちとら、死にかけたんだ。……多分、本体がどっかにあるぞ。」
これは正直、勘に近い。
だが、さっきリーファの重さが消えた時は確かに唇の視界には入っていたはずだ。
それは、つまり、そこも死角だったということだ。わざとそんなブラフをかますようなものには見えないし。
「ちょっと、かむ……わたしにも情報共有してよ。」
むすっと、頬を膨らませたリーファ。そして、俺は見逃さなかったぞ。カムロンっと言おうとしてただろ。
さっきから、ボロがすごい。よくそれで、今まで隠してこれたな。
「はいはい。それじゃ、お前も現状の報告してくれねぇか?まず、戦力は?」
「今、光の御子は体育館と旧部室棟でそれぞれシャドウと戦闘中よ。」
「数は?」
「体育館に3人、旧部室棟に2人。」
俺が知る限り、この学校には光の御子は目視で確認したのは、確か7人居たはずだ。他の二人は、どこにいった?
引っかかるところは、幾つかあるが他の生徒は体育館で休ませているという話で少し安心した。
「それじゃ、私たちの番ね。さっきの奴は、仮称リップンと名付けましょう。奴は、おそらく対象の一つに対して指定された方向へと重力を働かせることで近づかせないようにしている。でも、それ以外には攻撃は見当たらないわね。ちなみに、下手に遠距離からの攻撃はやめておいた方がいいわ。やつの周りには、倒れた生徒達がたくさんいるの。」
彼女のいう通り、西園寺をはじめグラウンド場にはそれぞれ野球をしていた連中が倒れ込んでいる。だが、そこで気づいた。ギャラリー達の姿がなかった。
「あ、ちなみなギリギリまで他の生徒はこっちに隠しているわ。」
そういうと彼女は顎で隣の倉庫を指す。そこには、生徒達が市場の魚よろしく並んでいた。
恐らく、俺があの唇の範囲を探っている間に避難させたのだろう。しかも、よく見ると結界のようなものが貼られているので流れた攻撃が当たってもある程度は大丈夫なようにしてあった。
「となると、助けるのは大体20人くらいか。」
「どうするのかむ…おっっほん…誰かが、囮になっている間に助けなくちゃね?」
またかよ。
こっちの皆もなってくれ、毎回聞こえなかったフリをするのも辛いんだ。
「あぁ、囮は俺がする。その間、任せていいか?」
「ええ、もちろん。泥舟に乗ったつもりで!」
「沈むからそれ。大船、大船。」
不安だ。
「助けたら、合図を送ってくれ。」
「分かったわ!ふっふー。私たち、R & L がコテンパンにしてあげる!!!」
「……RとL?」
俺は、彼女が自分の秘密を思い出させようと自分でも無理があると思いつつアホ面を作ってみせる。
「そんなの決まってるでしょ。リクのRとリーファのLよ。」
だめだこりゃ。俺の努力は、一瞬で水の泡とあいなった。
「…………」
「…………」
長い間。
彼女の顔が次第に冷や汗が浮かび始めてきた。ようやく気づき始めたか、この阿呆。
「えっと…その…ワタシハ、り、リー・ファンファンイウ中国人留学生アル。」
裾をくっつけて、チャイナ風を装うリーファさん。
「無理無理無理無理ぃ。流石に無理があるって…。」
爆速で手を振った。
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