48話 宣戦布告
「僕は、クラスマッチの野球でキャプテンを務めさせてもらうことになった湊だ。これから、よろしく頼む!」
「「おぉ」」
本来ならば、授業時間である朝の9時にクラスマッチで野球を選んだ俺たちは校庭にやってきていた。
この学校のクラスマッチは練習が2日ほどあって、そこから一日に4チームが三試合を行ってトーナメントで勝ったものが優勝と言ったもの。
実にシンプル。
「湊が仲間ってだけで、俺たちのチームが勝つ未来しか見えないよな〜。」
「そうだな。いくら、ピッチャーは出来ないにしてもバッターとして出れるだけでアドバンテージだよな。」
周りのクラスメイトの雑談が聞こえてくる。確かに、湊はゲームルール上投手としての登板はないものの指名打者として使われる。
だが、彼はバッティングも良い。というか、大体の高校のエースはバッティングも良いんだが…。他のクラスの人間には可哀想だ。
そんなことを思いながら、湊がチームのスタメンを発表していた。スタメンに関しては、先に皇に投手以外なら大丈夫だぞと言っていたのでどこになるか箱を開けてみなければわからない。
あれだけ、避けていた野球もクラスマッチとかいう軽めのものだとワクワクする。
「ピッチャーは皇、キャッチャーは神室のバッテリーだよろしく頼む!!」
そうか、投手は皇か…。確かに、元々捕手だから肩は強いしな。
…………。
「……………ん?」
聞き間違いだろうか、捕手は俺?
「という訳だ。よろしく頼むぜリク!」
いきなり肩を掴んだのは皇だった。
「てめぇ、このやろう。話が違うじゃねぇーか。」
「しょうがないじゃん。俺の爆速ストレートを取れるの多分いないぞこのクラス。」
「田中は?」
「アイツ、ドッチボール行った。」
「おぅ。」
「そして、皆のもの心して聞けぇぇい。話によれば、このクラスマッチのMVPに渡されるものには例の曰く付きのペンダントがある!そして、MVPは優勝したクラスの人間が優先されるという…つまり、わかってるな?」
皇は、すぐに他のクラスメイトたちへそんなことを話す。
どうやら、昨日聞いた話というのは本当だったらしい。なぜ、自分だけそれを知らないのかという調べると悲しいことになりそうだ。
だが、大半の生徒はそれに喜ぶような様子は見られなかった。
それもそうだ。
そんな大層なものがあったとして、それが優勝クラスの中から選ばれるという話ならば…。
このクラスでは、湊が確実で手に入れる。
それがなんとなくわかっている彼らにとっては、頑張っても…という感じだ。
しかし、その様子に笑みを浮かべたとは皇だった。
怪しいと目を細めると湊に何か紙を渡してどこかへと行かせるとクラスメイトを集めた。
「なんだよ。」
「このクラスは湊を出し抜くほどの実力出せないと取れないのってほぼ、無理ゲーだぞ?」
「ちなみに、MVPが選考される際にクラスマッチの競技と同じ部活をしている人間は排除されるって話…しってる?」
「「え?」」
皇の言葉に全ての生徒が電撃が走ったように固まった。何度も反芻して、理解すると全員が雄叫びを上げた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?やってやるぞぉぉぁ」
「うをぉぉぁぁぁぁぉぉぉぁぁ!!これで可能性がみえてきたぜぇぇぇえ!!」
このクラスちょろすぎないと知能が下がったのではないかと危惧するぐらい叫ぶ人たちを呆れた目で見る。
やる気は、あるのは良いけどまず実力が無いと選ばれないよ。
「全く、皇よ。そんな情報どっから取り出したの。」
「嘘に決まってるじゃん…。」
「………」
いい性格してやがる。真顔で当たり前のように言い放ったぞこいつ。
確かに、やる気の理由がないとはいえ…。
「お前、もし今回MVPが湊になったら、どうするつもりなんだ。クラスメイトから場合によっては殺されるぞ。」
「安心しろ。MVPは取れるが、確実に取れるかと言われたら無理があるんだ。友禅からの情報では、優先順位がある。投手、内野手、外野手、捕手っていうな。そして、湊のような指名打者は最後の最後ってわけ。つまりは、決勝でサヨナラとかやらないと取れないわけだ。」
……今、すんごいフラグが立った気がする。
「な、なるほど。……それで、お前が投手ってわけか…。誰か、上げたいやつでもいるの?」
「いないけど、出来た時ように取っとこうかなって。別に、優勝した当日にあげなくてもいけるっしょ三年間の間に例の木の下で渡せばいいし。」
「左様か。」
なんだか、意外だった。
皇は、二次元に生きるという言葉が似合う趣味をしている。そんな彼が三次元のイベントにに興味を持つなんて…。
「まぁ、最悪『マジカル・ナナミ』のカスミちゃんに渡すわ。」
違った、平常運転だったわ。二次元キャラに渡そうとしていた。
うん、いいと思う。
「お、湊が帰ってきた。んじゃ、さっさと練習に行きますか…。俺たちは部のマウンドで練習だから行こうぜリク!」
「はいはい。」
皇の言う通り、帰ってきた湊がクラスメイトたちと合流してそれぞれの守備の場所を説明していた。
話を聞くと、彼は野球部。練習はこの時間せずにクラスメイトたちの指導を重点的にするらしい。
これが野球部がいるクラスのアドバンテージだ。最も、他の学年にも野球部がいるのだが、殆どの部生は部活で野球ずくしなためそれをクラスマッチまでとなる。
それなのに、わざわざ野球にあたり湊の野球好きの熱は中々。最も、光の御子の仕事で野球部に来れていないから野球がしたら無いだけなのかもしれないが…。
すると、湊たちが練習している場所に他のクラスが集まってきた。
「ん?なんか、揉め始めたぞ。」
「え?は?なんで、他のクラスが来てんだ?確か、この時間はうちの筈だけど…。…チッ、シャーねー、ちょっと、行くわ。」
舌打ちを鳴らして、皇が早足で向う。どうしようかと悩んだが、見慣れた顔がいて気になってすぐに跡をつけていった。
◇
「おい!この時間は、俺らが取ってんだけど!!」
「知らんよ。グラウンドはみんなのものでしょ。」
近づくと一触即発の様相であった。
一瞬で、帰ろうかと悩む。
やってきたのはどうやら、隣のクラスだ。そして、その先頭にいたのは…一ノ瀬だった。
椎名天大好きファンクラブ会員一号。
どうやら、彼は野球を選んでいたらしい。待てよとじっくりとメンバーを見ると昨日目撃したあの巣窟の住人が全員参戦していた。
「やぁ、君は行かないのか?」
「何やってんだよお前は…。」
聴き慣れてしまった声がして、振り返るとグラブを持つ西園寺が真横に立っていた。
「昨日、同志に頼まれてね。」
確かに、彼らはMVPの話をしていたなと思い出す。作戦会議でこの流れになったのだろう。
「あれ?お前、あのクラスじゃないだろ?」
「あぁ、たまたま学校が僕のクラスを間違えたらしいんだ。」
なるほど…。そこまでするか?
世の中のこと大抵のことは、でからと言わんばかりの笑顔だ。このタイプの人間は、下々の苦労を知らない。
「だけど、なんで野球なんだ?他にも取れそうなのあるだろう…バスケットとか…。」
「彼らがMVPを手に入れるには、必ず壁となる障害があるってね。それが……湊海という存在なのだよ。」
最後出すの効いた声で湊の名前を呼ぶところ、彼に恨みを持っているのかと言いたいほどだ。
「……あやつ、椎名さんと幼馴染とかいうふざけた経歴を持っているそうだ。女三人を手玉に取っておきながら…。」
握るてから、血が滲んでいた。
女の妬みはもちろんのこと恐ろしいが、男の妬みほど怖いものはない。暴力が飛んでくるので…。
「あの、俺も幼馴染だけど…。」
「君は、別だ。なんたって、いい人だ。我が心の友だ。そう言うわけで、我々は彼をMVPを取らせないように行動しているのだ。」
それにしても、他にもある練習場所で揉めると言うのはなんだかダサい。
「どうでも良いけど、あんまり先生沙汰にはしないでくれよ。」
「安心したまえ。引き際は、知っているだろう。それより、シャドウの話だ。新たな、仲間が加わった。」
「この学校の副会長の人?」
「おや?」
「昨日、俺に会いにきた。あれが上司になるのか?」
正直、自分と同い年の人間が部隊を持つのは、どうかと思う。最も、高校生が自衛隊の特殊部隊にいる時点でおかしいのだが…。
「まぁ、お家っと言うやつだ。元々、退魔の家の人間だからね。詳しくは、彼女に聞くと良い。まぁ、そう言うわけだ。」
「分かったよ。ところで、対戦相手になるわけだが…ポジションは?」
「僕はピッチャーになったよ。」
「そりゃ大変だな。経験は?」
「一度、軽く投げて…150は超えたよ。」
「そっか……は?」
あまりにも軽く言うもんだから、流した。
150!?
目を見開く俺に、西園寺が目を丸くしていた。
「そんな、驚くことはないだろう?ほら、最近だって、160キロ投げる高校生もいるんだから…。」
そりゃ、いないことはないが…。
高校生で150キロ投げると言うことは、プロへの片道切符を手に入れたようなものだ。どんな、学校でもその情報を手に入れたらスカウトの人間が現れにやってくるくらい。
それをこの男は、まるで当たり前のように…。
才能というものは、理不尽だ。
「……まぁ、いっか、西園寺だしな…。」
「なんだいそれは。」
「いや、なんでもない。対戦、楽しみにしておく。そろそろ、湊やら、皇やらの手伝いしなくちゃな。お前も、あまりに妨害が酷くなったら止めろよ?」
「安心してくれ、同志たちはそれなりに道徳があるとは思う。」
自信なさげじゃねぇーか。
のっそりとギャーギャー言い合う地獄へと向かう。湊と皇がどうやら、仲裁をしているようだ。
喧嘩しているのは、最初に煽った一ノ瀬とクラスメイト達。
「ちょ、ちゃんと確認してよ。いきなり、来て、予約なんてないなんて…」
「確認も何も、証明してもらわないとー。このグラウンドは私たちが独占して使うのでっていう紙くらいー。そもそも、この言い合いも時間の無駄でしょさっさと一緒に練習しましょうよー。考慮してくださいよー。」
話し方にイラつく。しかも、一緒に同じ場所を使おうというあたり始めても妨害するのかなと思わなくもない。
「だったら、テメェらが考慮して、他の方使えば良いだろうが!?」
仲裁に入っていたはずの皇が参戦してしまった。余計にややこしくなりそうだ。
足を止めて、再び西園寺の場所へと戻る。
ここは、観戦が最適格である。
「口が悪いなぁ。あ、君、するめくんだろ?ラノベとか、いかがわしいイラストが描かれたもんばっか見てるからそんな口調になるんじゃないのー。絵の女なんかばっか見て気持ち悪い。」
あ…。
「……………」
「本当に、あれ書いてるのは犯罪者予備軍作るから、捕まった方がいいよな?」
「それな。それな。」
何故か、勝ち誇ったように顔をする大好きクラブの連中。さっきのは、俺も苛立った。
「………話は、終わったか?」
「あ?」
皇は、それはそれは人の良い笑顔を浮かべていた。それを見て、一ノ瀬とその仲間がゾッと青ざめた。
「君さぁ、確か、椎名天のファンクラブの人でしょ?良いのかなぁ。そんなこと言っちゃってさー。」
手を後ろに組んで、ゆらゆらと一ノ瀬の周りを歩く。
「な、なんだよ。」
「いやいや、まぁ、俺のことを馬鹿にするのも、名前をするめって言うのは別に気にしてないんだわ。よく、部活で三振とかするとよくヤジられっからよ。だけど、オメェ、ラノベのファンを侮辱したよなぁ。ラノベの作者を侮辱したよなぁ。」
怒りというのには、二つのタイプがある。
直ぐカッとなって衝動的に怒るタイプ。
ゆっくりと衝動的な感情を抑えた上で静かに怒るタイプ。
皇誠は、後者であった。
だが、後者には怒りを抑えきれない時があるそれが現状の皇であった。
「君の立場…分かっていってるの?」
「は?何が言いたい?」
「自覚なし…しょうがない。説明してやっか、君はファンクラブに入ってるんでしょ?」
「あぁ、そうさ!僕は、椎名天のファン第一号さ。」
「そうかいそうかい。つまり、さっき、ラノベの作者は犯罪者予備軍を作る。捕まった方がいいって…椎名天のファンが言ったってことでいいな?」
「え?」
「よし、この噂を流そうか、椎名さんには悪いがあの人が作ったファンがそう言ってたんだからよ。あの人、変に有名だしすぐ特定されるかもな。」
「はぁ?お、お前何言ってるのか分かってるのか?そもそも、彼女は関係ないだろ!?そりゃ、さっきのは流石に言いすぎたかなって思ったけど…。」
「言葉に責任を持て!!人のこと貶しといて、何がさっきのいい過ぎたかな、だ?だったら、最初から貶すな。そして、椎名のファンクラブを自称してるなら、少しは椎名さんのことを考えて行動しろ。あの人に迷惑だ!!お前たちが食堂やら、教室やらで変に大勢で屯するせいで文句の行き先が全部椎名に行ってんだぞ?なんでかって?お前たちが椎名ファンクラブを名乗ってるからだ。何が、彼女は関係ないだ。彼女の名前を使っておいて、彼女の名誉落としておいて何様だ。椎名のファンでそれを公言してるのなら、ちょっとは周りの目を椎名のことを考えて行動しやがれこのストーカー未遂どもがッ!?そうだなぁ、俺たちが勝ったら、お前のクラスにいる奴ら全員椎名天に関わるな話そうともするな見ようともするな。………はースッキリした。お前たち、もう、こいつらに関わんな。さっさと湊と練習してこい。俺は、リクと投球練習してっから…。あとは、湊よろしく。」
言うだけ言うと、皇が俺の方へとやってきた。
「………どうしよう。柄にもなく、言いまくったわ。………あの、宗教集団に喧嘩売っちまった。どうしよう。殺されるんかな…。」
「おい、さっきまでの迫力どこいった。もし、そんときは一緒に戦ってやんよ。お前は、何一つも悪いことはしちゃいない。それに、今の一ノ瀬の顔みた?」
「怖くて見られない。」
「悍ましいほど、怖がってるよ。効果ありまくりだな。」
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