46話 副生徒会長、参戦

「この学校にそんなジンクスがあったとは…。」

丸々の木の下で告白したら、生涯付き添うみたいなものは物語の中だけと思っていたが…。

まぁ、どうせ湊か椎名がそんな物を掻っ攫うだろう。

自分には、関係のない代物だ。

西園寺をあの魔境へと置いて、さっさと旧部室棟から出てすぐの中庭のところまで来た。

夕日が照らす校舎には、何人かが慌ただしくうろちょろしていた。この時間にうろちょろしているのはそろそろ始まるクラスマッチに備えて生徒会やら実行委員会やらだろう。

若干、旧部室棟から出てくるところを見られていないかと不安になったが彼らは一々、中庭にいる人を見るほど暇ではないはずだ。

「ん?」

中庭を横断して、家路に着こうと考えていると視界の端に黒髪が靡いた。

すらりとした長身の女子生徒。凛とした佇まいで中庭のベンチに座っていた。どうやら、本を読んでいた。

その人物を俺は、よく知っていた。

「あ、やべ、副生徒会長だ…」

「あら、何が『やべ』…なのかしら?神室陸クン。」

声が漏れてしまっていたのか、靡く髪を手で押さえて微笑みを向けてきた。さながら、銃口を向けてきたような迫力があるのは彼女の生まれが理由しているに違いない。

桐生未那。

俺たちの一学年上の先輩だ。

椎名と同じように成績優秀で面倒見も良く数々の生徒の悩みを解決していたりするという欠点というのは何処へやら、それ故に多くの生徒が尊敬してやまない人なのだ。

そして、聖女という名が彼女につけられた。

ちなみに脱ぐと思った以上に巨乳であるということを皇から聞かされていたためにコンマ数秒だけ目がいった。

「い、いいえ〜。その〜何も…ん?」

なんで、この人は、俺の名前を知っているのだろうか。無論、自分は桐生未那のことを知っている。それは、彼女が副生徒会長であることとこの学校で彼女にしたい人とかいう男子同士のしょうもないクソのような話で椎名の次に名前が出る人物であるからだ。

だが、彼女が俺を知っている理由がわからない。

「ふふ、いい反応ね。嫌いじゃないわよ、神室陸クン。」

すっと、ベンチから立ち上がってやってくると前屈みになって俺を覗くようにして見てきた。

胸元からチラリと現れる白いものを捉えて直ぐに手を逸らす。

皇の情報が本当だったことをそこはかとなく知る。

「話を戻すけど…何してたの?」

「いえ、その…本当に何もなくて…。」

「そう?…私の目には、立ち入り禁止区域である旧部室棟に侵入してたって言ってるけど?」

どうやら、誤魔化した方が負けのイベントだったらしい。

「……あの、いつから見てました?」

「君が昼寝をしていたところからかな?」

意地悪い笑みを浮かべて、先輩はコロコロと笑った。自分がよく学校の式典などで見たり、皇から聞いていたキャラと若干のズレがある。

厳格厳粛な性格と思っていたが、意外と話しやすいひとだ。

「……じゃあ、西園寺がいることも?」

「えぇ、なんなら、話の内容も聞いちゃった。天ちゃんのファンクラブに入るってね。彼に気に入られるなんて、意外と面倒見が良いのね君。天ちゃんの言ってた通りの人ね。」

なるほど、椎名が俺のことを彼女に話していたのか…。しかし、一体何を話したんだか…。

「あぁ、そういえば放送局ではお疲れ様。お陰で、例の怪電波による謎の放送は止まったわよ。」

「あぁ、そうですか何よりです。……え?」

あまりにも自然にいうもんだから、つい普通に答えてしまった。

何故、俺が放送局にいたことを知っているのか…。無意識に、ペンダントの位置を確認する。人に化けたシャドウ?いや、レヴィは俺はスーツのお陰もあり、そうそうバレないと言ったではないか…。ということは、まさか政府の人?

頭が混乱しそうになる自分をよそに彼女は俺を見て微笑んでいた。

「安心して…私は、同業者よ。」

「同業者?」

「あら、西園寺くんから聞いてないかしら?全く、一般人を巻き込んでおいて説明すらしてないなんて…。」

呆れるようにため息をつく先輩。

「その先輩は同業者ってことは、特戦群ってことですか?」

「そういうことになるわ。そして、私は彼の上司よ。」

となると、待ち構えていたのは西園寺に用があるのか?

「じゃあ、西園寺を呼んできましょうか?」

恐らく、未だに魔の巣窟にて儀式を受けているであろう西園寺がいる方向を指さす。

「いや、私は君に用があるんだ。ちょっと、時間をもらうけど…いい?」

そういうと、先ほど座っていたベンチに腰を下ろして、促すように空いたところをポンポンと叩く。

「し、失礼します。」

ベンチは二人ようだとしても、近いのでちょっと端の方に腰をかけた。

あたりを見ると成る程、このベンチは周りの木のおかげもあって校舎の死角となっていた。ここにベンチがあるのは、中庭に降りないと分からない。

重要な話をするのにはうってつけだ。

「もっと、近づいてもいいのよ?」

「い、いえ、その、大丈夫です…。」

「そう、つれないわね。こりゃ、天ちゃんも大変だ。まず、君に確認しておきたいんだけどね…、シャドウとの戦いに恐怖はないの?」

真剣な目に変わった。俺を試すように瞳を俺へと向ける。先程は、銃口を向けられた感覚だったがこの目は違う。

まるで、子供に何かを諭すような目だ。

「怖いですよ。そりゃ、前のやつだって訳のわからん攻撃を食らったりとしましたし…。」

「だったら、どうしてシャドウを西園寺くんと一緒に討伐しているのかしら?無論、組織の人間としては、戦力が増えることに越したことはない。けれどね、私個人として、普通の人ならば逃げ出すわよ。あんなものを相手にするのは…。」

初めて俺が、西園寺…特戦群と連む理由はレヴィのカケラ集めのためだった。

俺は、彼女に命を救われた。

その後に、シャドウと光の御子の存在を知って湊と椎名が戦ってたことを知った。

前の放送局では、湊と一緒に戦った。

西園寺は、俺と共に戦ってくれと懇願してくれた。

その中で、俺は初めて神室陸として認められたような気がした。

それだけで、俺は満たされたような感覚になった。だから、先輩が俺のことを心配してくれているのはありがたいがこのポジションから離れたくはない。

それが今、西園寺と共にいる理由だ。

だが、それではこのポジションを守れない。

言い訳をしよう。

そうだな…湊ならなんていうかな?

「でも、目の前で誰かが襲われていると知った以上。それを見て見ぬふりができないんです。」

これだ。

彼ならこういうに違いない。

「そう。なら、私からは何も言いません。では、これから上司と部下としての話に変わります。どうも、この県では例の工場での戦いを機に特にシャドウが活発化しているからね。無論、だからといって他の場所にもシャドウが出現するけど…。」

業務連絡のように言葉を並べる先輩は、完全に俺のことを一般人として認識していなかった。

「それ故に、戦闘員を動かすことになったの。ランサーとアサシンは続投で西園寺と私…そして、西園寺くん激推しの貴方ね。これからは、私をリーダーとした部隊に再編されるの。ことを伝えたくてね。これから、宜しく。」

「は、はぁ…宜しくお願いします。」

手を差し伸べてきた彼女の手を握る。

「後、先輩ってのは、すぐに私のことだって分からないからこれから、私のことはミナ先輩と呼ぶように。……天ちゃんに怒られるかもだけど…。」

ててててっててってー。

桐生未那が仲間になった。

言ってる場合じゃないな。最後に関しては、何故、椎名の名前が出てきたのか疑念が残る。

「あ、そうそう。副生徒会長として、立ち入り禁止に出向いた件の話もしなくちゃね。」

先程のシリアスな彼女はどこはやら、意地悪な顔、再び。

「え…その、見逃してくれるのでは?」

「そんな訳ないでしょ。学校のルールを破った貴方には、きっつぅーいお叱りを受けるべきでありますからね。」

ひどいことを笑顔でいう姿は、さながら悪魔だ。

良い性格をお持ちのようだ。

「とはいっても、先生に告げ口みたいなことはしませんよ。そうですね…。最近、生徒会の仕事で男手が足りないのです。故に、今回のことを貸しにして、私が連絡したら手伝いに来てください。これ、私の連絡先です。絶対に入れてくださいね。もし、入れなかったら明日校長室に呼び出しですから⭐︎それじゃあ、次のシャドウ討伐or呼び出すまで、私は、クラスマッチの準備等々で忙しいから。バイバイ陸くん。またね!」

「は、はい。」

そして、嵐のような過ぎ去った、ミナ先輩。

誰もいなくなった中庭に取り残された俺は、取り敢えず帰るかと学校の校門へと向かっていった。

この学校は、やはり異常なのではないのか?

知っているだけで…まず、光の御子が6名ほどいて、特戦群とかいうシャドウを倒す部隊の戦闘員が2名在籍する。

うん、少々都合が良すぎる気もしなくもない。

それとも、彼女がいっていた。この県で特にシャドウが活発なことも理由になっているのだろうか…。

「本当に貴方は、人を集めるわね。」

「嫌味か?」

「いいえ、褒めたのよ。ここまで、役者を手元に置けるなんて…、もしかして、貴方って害虫ホイホイみたいに匂いでも付けてるの?」

「例えに悪意しか、感じねぇーよ。」

いつの間にかに、ペンダントから飛び出していたのか…、レヴィが先程先輩が座っていたところに腰をかけていた。

「てか、勝手に外に出ていいのか?一応、先輩といいお前と接触した西園寺も、光の御子の奴らもこの学校にいるんだぞ?」

「でも、ここは死角よ。バレたところで記憶を消せばいいし。」

「さらりと怖いこと言うな。……聞きたいことがある。」

「何よ。」

「レイジって誰だ?」

「アーマーの名前よ。」

変な間は、なんだったのだろう。彼女にとって、何かしらの意味があるとは思うが話す気はないようだ。

確かに、ゲイリーという男は俺の目を見てそういった。まるで俺の名前がそうであるように…と言うことは前の持ち主なのか?

あの夢と関係があるのだろうか…。

「石板の解析に疲れたわ。貴方には、枕になる権限を与える。」

「お、おい!」

突然、レヴィは転がるように俺の膝に頭を乗せてきた。そのまま、寝る体勢になる。

いきなりの出来事に何もできずにただ、彼女に膝枕をしている状態だ。

遅れて、すぅすぅと寝息が聞こえる。相当疲れたのだろうか、即座に睡眠に入った。

「……えぇ。」

さっさと家に帰ろうとしていたが、どうにも帰れそうでない。かと言って、起こしても目覚めが悪くて機嫌が悪くなってもこまる。

色々考えに考えた末に出した答えは、そのままにしておくことだった。





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