45話 変態たちの巣窟

「変な夢だ。」

放送局から、何とかバレずに西園寺と合流した後に無事家に戻ってくるとができて以来。

あのような夢を事あるごとに目撃する。

だが、何の記憶もない。

あの、石板を見たせいなのか…。

『𓍯𓉔𓄿𓇌𓍯𓅱』

目が醒め、ゆっくりと机から伸びをするために起き上がると視界に映ったのは何故か西園寺が目の前でプラカードを広げていた。書かれているのは、なんかの絵。隣の席に彼のだろう初心者向け象形文字と書かれたエジプトのピラミッドの表紙の本がある。何をしてるんだほんとに…。

「…………何してんの?」

「いや、暇だったから象形文字の練習を」

何の為にっというツッコミを何とか抑える。なんだか、突っ込んだら負けな気がする。

「あっそ。んで、何用?」

「今からさ…、行こうと思うんだ。」

「どうした。そんな柄にもなく神妙な顔は…。」

「僕は、椎名さんのファンクラブ会員になろうと思っている。」

椎名天のファンクラブ(非公認)。

彼女が学校の校門を通った瞬間に発足したとかいう都市伝説があるくらい、いつの間にかに出来ていた組織だ。ここの学校だけでなく他の学校の生徒もそれに加入しているらしくその数は数えられないくらいらしい。

「なぜ、それをわざわざ俺に?」

「なんか、その、怖いじゃ「帰るね」ちょっと待ったぁぁ!!」

見切りをつけて、鞄を片手に教室を去ろうとする俺に西園寺は左足に抱きついてきた。

「…重い。」

「そんな、冷たいことを言わないでくれよバディ」

「誰がバディだ。そんなものになった覚えはない。」

「エアグルーヴの3割引。」

「わかった行こう。」





西園寺が向かった先は、旧部室棟だった。

三年前に、新しい部室棟ができて以来立ち入り禁止だったはずだが…。

だが、まぁ誰も寄せ付けないという意味ではここ以外ないだろう。

「ここまで来るとファンクラブというより秘密結社だな。」

「だな。…いくぞ。」

意を決して、部室棟の中へ入る。夕方と言うこともあり、ひっそりと静かな廊下はまるでホラーの一場面の様でもある。

気付かれないように西園寺の服の端を掴む。

いや、怖いわけではない。決っして、絶対に。

だが、奥へと進んでいくと古めかしい錆びついたドアノブのついた扉が現れた。

周りには、等間隔にキャンプで使うようなランプが並べられていてある種、幻想的な雰囲気を備えつつ不気味だった。

薄気味悪い。

ぞくぞくっと背筋に寒いものを感じる。あれ、おかしいな俺って肝試しにきたんだっけ?

確か、西園寺が椎名のファンクラブの入会するためについてきたんだよね?

「ここか…。」

「ほ、本当にここか?新しい方の部室棟と間違えたんじゃない?今なら、戻れるよ。確実に戻れるよ。いっそ、ここから出てもう一度確認しよう。」

「……もしかして、リクは怖いの苦手なのか?」

「ひゃあ、じぇんじぇん!何を言っとるのだね。あれだけ、シャドウとかいう奇怪生命体と戦ってて今更そんなもんこわかねぇーよ。」

自分でも情けなくなるほどの震えていた。寧ろ、ここまできたらさっさと怖いから帰るわと言ってしまえば良いのに、変なプライドがそれを許してくれなかった。

「そうか、すまない。そうだよな、神室陸がその程度で動じないよな。さぁ、行くぞ!」

出来れば、俺の震える声に察して俺だけ帰して欲しかった…。

西園寺のどこから湧いてくるのだという自分への信頼に涙ぐみそうになる。そんな俺を横目に扉と向き合った西園寺は乱雑に扉をノックした。

【今日の合言葉は?】

扉の向こう側から、男子生徒の声がした。

しかし、合言葉か…。そんなものあったのか。

「氷の女王の今日のお召し物は…ハードバンクホークズのパンツ!!」

【よし、通れ。】

えぇぇぇぇ!?!?

あまりの出来事に目を見開く。椎名がホークズの熱狂的なファンなのは知っているがパンツもそれなの!?それ履くの小学生までじゃない!?てか、何でそのことをこいつら知ったんだ。

俺が混乱する間に、扉はひらかれて四人がソファーに座っていた。

「やぁ、ようこそ。椎名天様のファンクラブの聖地……氷の女王の円卓会議へと…。」

アーサー王と円卓の騎士に謝れ。というか、イギリス王国に謝れ。

「…貴方達が、椎名天の円卓四銃士ですね。」

なんだその混ざった名前は?

「まさか、二人も加入とは…。上々、我らの臣下は多ければ多いほど、天様への多大な奉仕へと繋がるのだ。」

ソファーの真ん中に座る眼鏡をかけた子が眼鏡を持ち上げつつ、つぶやく。

「歓迎しよう、西園寺未来くん。僕は、会員ナンバー1、一ノ瀬。彼女を好きになった理由は、僕がこの高校の試験中に消しゴムを忘れていることを気づき、絶望したところ椎名天様が僕に自分の消しゴムを半分に切って渡してくれたからだ。あの底のない慈愛の持ち主に僕は勝手に死ぬまで絶対服従を誓っている。君は、ここ一ヶ月の椎名天がであった男性の36.2%を占める男だ。なんなら、君は彼女に告白をして殴られたそうだね。」

怖い怖い怖い怖い。

え、なんなのこいつらファンクラブの域超えてない?

ただのストーカーじゃね?警察案件じゃない?

ぬるりと蛇のようにソファーの端にいた細身の男子生徒が這うようにして西園寺の背後に回った。

「僕は、会員ナンバー2…二岡。彼女に惚れたのは、プイプイドームで15点もの点差、誰もが諦めているなかで応援団よりも大声をあげて選手を応援した健気な姿に感銘を覚えたからだ。西園寺くん。なかなか、君には我々も危険因子として見ていたのでね。こうして、正規に我々の一員になるというからホッとしたよ。あと、もう少しでストーカーのレッテルを君に貼るところだった。」

なんですか、自分の自己紹介ですか?

「おや、君は資料に載っていないね。さては、遠くで椎名天様を眺めているタイプだな。分かるよ。僕も、そのタチだ。定期的に図書館を遠くから眺めることができるところこら夕日に照らされたあの横顔を拝むのが僕の日課さ…。会員ナンバー3…三田。彼女のことを気にかけてたのは…あの定期的に邪な目で見るたびに向けられるあの人の人でないものとして見る時の瞳が堪らないからだ。」

俺の肩に肘おくな!汚らわしい!!!

一緒にするな!!!

先ほどとは、別の意味で背中に寒いものが止まらない。

怖い。ここ、怖い。

早く逃げたい。西園寺てめぇこのやろう、とんでもねぇところに俺を連れてきやがって!!

「まぁまぁ、三人ともほら〜二人とも固まっちゃっているから。そりゃ、クラスマッチの件でソワソワするのも分かるけど…。」

最後の一人が二岡と三田に離れるように言ってくれてようやく二人は離れた。

よかった。

ここには、秩序があった。

「僕は、会員ナンバー4…四条。彼女のことを推している理由は…僕が昔妄想していたブラコンの妹の姿に非常に酷似していたからだ。」

前言撤回、ここに、秩序はない……こいつが一番ヤベェーやつだ。

え?

存在しない妹を妄想してた?

強烈な四人組に頭の処理がうまくいかない。

ただ、とてつもない恐怖を感じる。正気ではない。

「お、おい。西園寺…会員になるのやめた方が良くないか?」

「何を言ってるんだ。寧ろ、彼らの話を聞いてより一層入りたくなったよ。」

「な、なんでぇ?」

「だって、彼らは椎名天のことが大好きなのは理解できたし、もし会員になったら彼らから僕の知らない椎名天のことを教えてもらえるんだよ?」

「わぁお、すごいポジティブ。」

そういえば、君ってば、椎名にぶん殴られて彼女への恋心に目覚めたんでしたわね。そりゃ、こいつらと気が合いそうだわ。

思春期特有の気持ち悪さがフルスロットルしたような連中に馴染みそうだわ。

「うーん。西園寺じゃない君。名前は?同じ学校の生徒なのは理解できるが…。」

「あ、いや、自分はこいつの連れ添いで来ただけですので…。はい、こいつの会員が終わったらすぐに帰りますから…。」

「おや、そうなのかい。それは、残念だ。同志が増えたと思ったのに…。考え直さない?至極の椎名天のメス声コレクションあるよ?」

三田がいくつかのカセットを俺に勧めてくる。

普通に犯罪だ。

先生方は、何してるんだ。青少年を正しく導くのが仕事なのにコイツらねじ曲がって育ってんぞ。

「はっはっは。結構です。」

さわやかな笑みでお断りする。後で、この部室棟破壊した方がいいぞこれ。

「そうか、残念だ。……それで、西園寺くん。君は、入るのかい?それなら、部外者となる君は帰ってもらうことになるけれど…。」

そういうと、一ノ瀬は俺をじっと見つめてくる。どうやら、さっさと帰れとの指示をされたようだ。無論、応える。

「わかりました。じゃあな、西園寺。約束、忘れるなよ。」

ちゃんとエアグルーヴの割引券のことを確認して、扉を開けてその場からさる。

すぐさま、扉が閉まられる。数歩したら音が聞き取りづらくなるところから防音でもしているのだろうか…。ふと、思い立って聴覚に強化を行使する。それでようやく、扉の中の会話が聞こえてきた。

『あぁ、もちろん。そして、円卓の皆さん…もちろん僕は会員になりますとも…。』

『ふっ、まず初めに現在の我々の目的を話そうではないか…。君は、転校生と聞いたこのクラスマッチのジンクスを知っているのかね?』

『ジンクス?なんだい、それは。』

『あぁ、何かしらの種目でMVPに選ばれるとこの学校ではネックレスが渡されるのだかね。そのネックレスを好きな相手に送ると付き合えるという話だよ。成功率は…なんと100%だ。』



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