41話 白い炎が
私が、あの人に会ったのは今から何年前のことになるのだろうか…。
生まれたときから、私は一人だった。物心ついた頃から寺子屋で坊主の元で順風な生活を送れていた。坊主が言うには、私はとある大きな戦で笹尾山に転がっているところを見つけたところを保護したそうだ。そこには、多くの私と同じ境遇の親がいない子供たちがわんさかいた。今思えば、あの坊主はなんとま物好きなやつだ。
その中で私は、姉妹のように仲の良かったと呼べるだけの存在がいた。
それだけで幸せだった。
血は繋がってはいないがそれでも家族と呼べる者がいたことが彼女だけがいれば何もいらない。
だけど……。そんなある日、私は彼女に裏切られた。
決して、許すことは出来ない大きな過ちを彼女は犯した。
とある流行病に罹患したときのこと。流行病は他人にうつるからと坊主が寺子屋から少し離れた高い場所に隔離した。
私はたまらなく暇で怒られるのを承知で隔離地から抜け出した。寺子屋に侵入して彼女に会おうとしたとき、たまたま彼女と知らない子が仲良く私に見せたことのないような笑みを浮かべて話していた。
なんだ…その笑みは、そんな顔私に一度も見せたことはなかっただろ。
あの笑顔を見たら…私と一緒にいたときの笑顔は偽りだったのだろうか、哀れみの笑みだったのか?
勝手に家族のように思っていた私を哀れと心の底から嘲笑していたのか?
腹の中から煮えたぎるような感情があふれてくる。
染まる黒く蠢く何かが、私に囁いた。
「可愛いお嬢さん。その心は酷く醜く美しい。さあ、もっと恨め、憎しめ…もっと黒く、染まれ、染まれ、染まれ」
私の前に現れた方こそが、我が主アズラエル様だ。
「私の血と闇を分け与えよう。そして、その心のままに暴れなさい」
その日、私は…全てを破壊した。
◇
上やら、下やら左やらから、刃は迫ってきた。
空気を切り裂いて、僕を穿つためだけに直進する二つの浮かぶ剣は、もはや自律式の誘導ミサイルのようだった。だが、実際はそうではない。
刹那の間に魔方陣を回るように展開するニクスを視界に捉える。彼女は交響曲の指揮者よろしく両手を複雑に交差させたり、広げたりしていた。それに呼応するように迫る二つの剣が切先が方向転換する。対して、勅使河原さんと西園寺を追跡する剣は急な方向転換をせずただ、ついていくだけ。彼女が自由自在に剣を操縦できるのは2本のみ…他は自動追跡なのだろう。
しかし、先ほどの言葉といい狙いは僕だ。
「おりゃぁあ!!」
タイミングを合わせて、迫る剣を払う。しかし、剣は力なく堕ちる事はなく再び剣のつかにジェット機能があるとでもいうのか神速の速さで切り刻みにきた。
俺も、何度も剣で受け流し、撃ち落とし、かわす。
「行け、黒狗!」
不意にニクスが魔方陣を展開すると僕目掛けて闇を纏う四足動物を模したシャドウを召喚するとジグザグに襲いかかる。完全に剣を払って動作が止まっている状態でだ。
「がッッ!」
咄嗟に身を捻り、襲いかかるシャドウをかわしたつもりだったが鋭い爪が俺の背中を刻んだ。
金切声が迷宮に響く。
「ぐっっつ!?」
鎧越しに喰らったが、鎧と皮膚が擦れ合って背中に熱く垂れるものがあった。
「ちっ…仕留め損なったか…。」
「へへっ、生憎悪運はすごいんでね?」
笑みを浮かべて、ニクスを睨みつけるが視界が少々朧げだ。限界が近かった。
(不味いかも…。)
「大丈夫か?」
西園寺が僕の隣に現れて肩を貸してくれて後ろへと後退した。勅使河原さんも同じく体制を整えるために彼に続く。
「確かに、君の言う通りなかなか手強い敵だな。特にあの浮かぶ剣は厄介極まりない。」
「うん。だけど、剣にも種類がある。君たちを襲っていた剣は恐らく自動式だけど僕を襲っていた二つの剣はニクスの腕の動きが全く同期していた。」
「なるほど……妙に貴方が苦戦したたのは其のせいだったのね…。でも、どうするの?私たちは剣の対処で骨が折れる。……援軍もいつ来るか分からないわ。」
冷静に勅使河原さんは状況を整理する。確かに、彼女の言う通りいくらアビゲイル様が援軍を早く送ったとしてもそれでも時間は掛かるだろう。
「………ん?」
突然、西園寺が頭部に左手を触れた。
「なっ……生きてたのか…。よかった。」
「どうしたんだい?」
「先ほどまで、連絡がなかったがリク…仲間と繋がった。今、ニクスを射線上に捉えているそうだ。」
それを伝えると何やら、リクへと報告を開始した。
よかった。なら、一安心だ。もし、彼に何かあったらと思うと…。いや、それよりも今はニクスだ。どうやって、時間稼ぎを…。
「………分かった。お前を信じる。おい、赤い光の御子、これ。」
思考に身を任せようとしていたところ、西園寺は僕は一つのイヤホンのようなものを渡してきた。
少しだけ頭部の部分を開けて耳に入れる。
『聞こえるか?光の御子さんや。』
あぁ、彼だ。
「聞こえる。何かようかい?」
『確認したいことがある。彼女の手の動きと剣の動きの関連性についてだ。』
「?」
◇
「………戦ってるなぁ。」
「呑気なものね。」
「いや、ここで見てろって言ったのお前だろ?」
謎の触手生物をぶちのめしたあと、あたりを散策しているとニクスと対峙する西園寺と湊たちをスコープ越しに目視した。
何故、彼女らがいるのか甚だ不思議であるがシャドウいるところに光の御子あり…つまりは、彼らは人に害を及ぼすシャドウの存在を把握すると110番した警察官の如くやってくる。時間の問題だとは、思っていたが中々速すぎる気はしなくもない。
はてまて、出し抜こうとしているのは政府陣営だけじゃなかったということだろうか…。
「だけど……ニクス相手に中々苦戦してるな。」
「そりゃそうよ。相手はアズラエルに直接力を分け与えられた幹部なのだから…。でも、その割には弱すぎる気もしなくもないわ。」
「うそ、あれで弱いの?」
しかも、過ぎるって…。
「あれくらいなら、貴方なら倒せなくもないわよ。」
「でも、戦っちゃだめなんでしょ?」
「そうね。あまり、敵に貴方の力を見せるわけにはいかないからね。変に力を見せつけて戦って勝ったとしてもアズラエルは対策を講じて負けるなんてことになったら嫌だし。」
「……なるほど。」
慎重深いと言うべきか…、それとも臆病というべきか…。中々どうして、レヴィさんは撤退している。無論、そこまでしないとアズラエルとやらに勝てないと言っているようなものだ。
あぁ、それでか…
「…それで、サポートってことか…。」
「どうしたの?」
「いや、お前があくまでサポートって言った理由がなんとなくわかったからな。」
「そう、気づくのが遅すぎるわ。」
「………んじゃ、まずはあのニクスさんがどんな風に操縦しているか見てみるか…。」
スコープを踊るように剣を避けている湊からニクスへと変更する。魔方陣で見づらいが動きはわかる。
「さて……、動きの法則性を見つけるのは得意なんだ…。」
◇
「作戦会議は終わったかしら?」
浮かぶ剣の切先を僕らへと向けてニクスは余裕の笑みを浮かべていた。
「あぁ、待たせてすまない。…それにしても、よく待ってくれたね。」
「ふふっ、いくら貴方たちが策を練ろうが全て無駄よ。」
『はい、そこで全てを見通すような目をする。そうだな、顎を出して鼻で笑え。』
耳に嵌めたイヤホンから、長年疎遠だった親友の声が聞こえた。
「……さて、それはどうかな?」
僕は、指示通り彼女へ見下ろすような目を向ける。
「へぇ……うざったいわね!!」
両手を勢いよく広げるとニクスは僕へ2本の剣を放った。
『右のをアルファ、左のをベータと改める。アルファは一度上に上昇…上から叩くぞ。ベータは左の仲間へ向かう。』
「了解!」
イヤホンごしに聞かされたのは、ニクスの剣の攻略方法だった。どうやら、彼は僕らの戦いを遠くから観察してニクスの手で剣を操縦しているのをしってどういう手の動きで剣を動かしているのかわかったという。初めは、そんな馬鹿な。だけど、やるだけやってみようと思い。
彼の指示通りに動くことに賛同した。
そして、それは彼の仮説が本物であることがわかった。
右の剣は突如として、上へと上昇したと思うと波のように下降してぼくを穿ちにやってきた。左の方は確かに僕を無視して通り過ぎていく。
「ははっ…。」
彼のいう通りになりそうだ。
だが、まずは目の前の剣だ。迫る剣を燃え上がる剣で撃ち落とす。
「………ふんッ、たかが積極的に前に出てるだけじゃない。これでおしまいよ。」
ニクスがだるそうに溜息を吐く。
『ベータの行き先が変更…君の背後だ。3、2、1…今だ!!』
「どりゃぁぁ!」
「な!?」
初めて、ニクスが目を見開いて驚いた顔をした。その顔はあり得ない状況をみたそれだ。
「くっ!?行け!!」
ニクスは彼女を守るように浮いていた他の剣を一斉に僕へと放つ。
「させん。」
「ふん。」
だが、その剣たちは西園寺と勅使河原によって塞がれた。
「自動のやつは俺たちが抑える。行け!赤いの!!」
「分かった!」
彼らの横を駆け抜ける。
「馬鹿な!?何故だ……何故動きがわかる。いや、わかるはずがない…。いくら、お前が…ぐっ!?」
ニクスが焦って、操縦が雑になった剣で僕を攻撃しようとするが…。
『アルファお前の左下。…ベータ…お前どこいくねん。堕としたアルファが下からお前の臀部ぶっさすように来るぞ。ベータ……だめだこの子…壁に突き刺さっちゃってる。』
適切なリクの指示で全て僕の剣によっていなされた。
「馬鹿な……馬鹿な、馬鹿な」
僕とニクスの距離は確実に狭まっていた。ここまでの距離ならば…仕留められる。
アルファをいつもよりも強い勢いで吹き飛ばすと魔力を剣へと集中させた。紅蓮の灼熱の炎が剣を覆う。今までの火とはレベルが違う火力…これなら行けるはずだ。
真っ赤から次第に白く、輝く眩いほどのこの世全てを闇を光の炎。
「【白炎疾刃】ッッ!!!」
空間を伝い…白き炎がニクスへと迫る。
「なっ……」
ニクスが白き炎へと爆裂の魔術、雷撃の魔術、冷凍の魔術……ありとあらゆる魔術を行使してその勢いを止めようとするも炎はそれらを全て炭となっていく。
「無駄だよ。僕のアビゲイル様に与えられた力…『聖なる炎』は全ての闇を屠る最強の炎だ。」
これ使うと魔力が一気になくなるから一回しか出来ないけどね…。
「嘘でしょ…ありえない。私はアズラエル様に力を与えられた選ばれしものなのに!?何故…何故!?くそ…くそ…くそがぁぁあ!!??」
まるで半狂乱で我を無くして絶叫する。
もう、彼女は燃え尽くされるのみしかない。
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