40話 第二ラウンド戦
「wow」
惨状を見た俺は引き気味にこの一言。
ランサーと途中まで蟹野郎と戦ってはいたがのだが、他のシャドウも参戦してどちゃんこ騒ぎとなって離れ離れになってしまい仕方なく辺りを散策したら荒れ放題になっていた。
「あら〜、アサシン。生きてたの〜。死んでるって賭けたのになぁ。今は財布ないから、後で五万やる。ふふー。女の勘は当たるものなのにねー。」
満面の笑顔で俺を迎えたのは、コードネーム『ランサー』とだった。なお、彼女の足元はドチャクソに荒らされており、綺麗好きが見たら、即失神不可避のような状態であるが…。
てか、俺が生きてるか死んでるかで何賭けてんだ。
そして、特に目を引くのが粉々に殻を割られた泡を吹いているでっかいカニ。恐らく、シャドウなのだろうが、身が詰まってそうだしあれだけでかいと蟹味噌いっぱいありそうだな。なんて、現実逃避してみる。
「最近、事後処理ばっかで溜まってたから、仕方ないわよね〜。」
「はぁー。この後、俺たちの代わりに事後処理担当になった奴らはかわいそうだな。」
「でも、全然知らないやつよりそれなりに交流のある人の事後処理の方が楽よ。直ぐに文句言えるだから。」
まるで、光の御子の後片付けに不満があるような言い分だ。だが、わからなくもない。
「……あんたはどう思うんだ?」
「何のこと?」
「あの《光の御子》とかいう奴らだ。」
政府は、シャドウを自分たちの力だけで何とかしようとしているが今回で改めて分かった。
だいぶ、手に余る。
このレベルのシャドウがわんさか居たらそりゃ光の御子がいかに規模のデカい精鋭の軍団であるか、想像に固くない。相変わらず、政治家という奴は現実主義と言葉を並べつつも常に理想しか語っていない。
その内、対シャドウ兵器の小隊をそれぞれ60小隊近く作り、光の御子に頼らずシャドウ討伐に向かわせるとか馬鹿なんじゃねーか?
今のところ、あの女と坊ちゃんしかまともな戦力がいない。
「そうねぇ。まぁ、お互い現状維持でいいんじゃない?」
「まぁ、そう思うよな。」
戦場では戦力は一人でも多く居た方がいい。なんなら、同じシャドウを倒して人を救うと言う目標ならそれが正しいしそれ以外ないはずだ。
(あーあ、めんどくせぇな。)
◇
「ふふっ飛んで火に入る夏の虫とは、このことを指すのかしら。」
コツコツとヒール音と共に闇から現れたのはボーリング場での戦闘以来のニクスだった。
「また、会ったわね。あら、今日はあの子とは一緒じゃないの?いいご身分ね可愛い子をローテーションで楽しめるなんて」
「今日は、あの子はお休みでね。」
「おい、そこの赤い光の御子!!可愛い子をローテーションって羨ましいな!!」
まるで糾弾するように西園寺が僕に人差し指を突き出した。
「ちょっと、あなた黙りなさい。」
「んんんっ!!」
「…………」
背後で、騒ぐ西園寺を勅使河原さんが筆で縄を書くと縄という文字が現れた。それが紐状になるとそのままぐるぐる巻きに彼の口を塞いだ。
その…西音寺。羨ましいとか言うけど、結構大変なんだよ。特に、リーファなんて僕が帰って他の光の御子と戦ってたなんて言ったら怒りそうだし。なかなか女心っていうのが男には分からないみたいだから…。
「行くよ。準備はいい?」
「ええ、正直幹部と戦うことになるとは思わなかったけど…アビゲイル様が援軍を送ってくれるまでは耐え忍ぶって感じでいいのかしら?」
勅使河原さんが確認するように僕に話すと腰から大きな巻物のような物を取り出した。今までは、空中に書いていたが本来はアレに書くのだろうか…。
「うん。彼女は強い。しかも,ここは彼女のテリトリー。さっきのトラップみたいなものがあたりに張り巡らされてると思っていい。」
僕が頷くと背後から縄を解いた西音寺が横に立ち、右手から鋭利なナイフを構える。なんだか、電子音が隣で聞こえるとこちらに顔を向ける。
「ちなみに、スキャンをしたけど今のところはこれといった罠はない。思う存分暴れていたと思うが?」
「なら、君を信じよう。」
右に全体重をかけて重心を前に持っていき、前へと蹴り出した。最大出力にするためなら炎を放出させて戦闘機のアフターバーナーよろしくのスピードでニクスへと迫る。
「はっや!?」
「………ほう、亜音速レベルか…。」
視界が一瞬で移り変わっていく。
瞬きをする間にニクスに近距離へと迫ると焔の剣で一閃。無論、これで決着となるとは思ってはいない。しかし、一応。あの西園寺に見せつけておきたかったこれが光の御子の力だ…と。
剣先がニクスの首を捉えそうになったその刹那、彼女の姿は消えた。
さて、どこに飛んだ?
右…左………後ろ………上か!!
すぐさま、重心を今度は左に傾けて、大地を蹴り左へと跳ぶ。
予想通り、ニクスが雷球を僕がさっきまでいた場所に放っていた。爆発がして破片が武装にぶつかる感覚を覚える。同時に、黒い影がニクスの前に現れた。
「隙あり」
西園寺だ。足元から放出させれたエネルギーで僕の高出力よりも同…少し劣る勢いで迫っていたのだ。右手を突き出して格納された小さなミサイルのような物を射出する。
「ないわよ!!」
「ちっ……」
しかし、放たれた小型ミサイルは彼女の防御の魔方陣によって防がれた。
「どいて!二人とも!!」
「西園寺!避けろ!!」
「むっ」
勅使河原さんの声と共に背後から何やら魔力の流れを感じた。
お互い離れるように跳ぶと勅使河原さんが苦無と膨大に書かれた巻物を広げていた。僕らが彼女の直線上から離れるのを確認する。
「喰らえ!!」
そう叫ぶと巻物から本物の苦無が滝のように放たれた。面に放たれた行手を阻み、確実に相手を串刺しにせんと意思のあるように苦無はニクスへと迫る。
刹那。
彼女は西園寺の攻撃を防いだ魔方陣に魔力を注ぎ込み、それは全ての勅使河原さんの苦無を防げるほど拡大した。
雨のように降り注ぐ苦無と障壁で停止した。
「…………すまん。決めきれなかった。流石に攻撃中は隙があると思ったが…」
西園寺が下がって僕の隣に立つ。
「いや、彼女は同時に何個もの魔方陣を展開して同時進行で処理することができる。こっちも、情報を渡していなかったからな。仕方がない。…それとさっきのミサイルみたいなのはまだ撃てる?」
「すまない。あれは一発しか撃てないやつだ。」
「そうか。」
クソっ、あれほどの火力が有ればそれなりに彼女にダメージを与えることが出来ただろう。本当に、情報を共有していなかったことを強く悔やむ。
「作戦会議は終わり?」
ニクスはいくつもの魔方陣を展開して、ジリジリと僕らの距離を詰め始める。確認するように剣を強く握って間合いを読む。
「じゃあ、私の番ね。」
背後の魔方陣から3つの剣が出現し、彼女を守るように回りながら浮いた。ボーリング場ではあれは見せなかった…ということはここからが本気ということなのだろうか…。
「浮く剣……か。カッコいい。今度は第七機関にお願いしてみようかな。」
ボソボソとつぶやく西園寺は左手で顎をさすりながらつぶやいていた。余裕があるのはいいことだがもう少し緊張感とか持って欲しい。
でも、カッコいいのは認めよう。あれだよね。
持ち主が剣を自由自在に操作するやつだよね。なんか、漫画とかで手練れのボスやら伝説の師匠とかが使ってそう。
「安心して、赤い御子。貴方だけは殺しはしないわ。アズラエル様からの命令でね。」
ニクスが指を鳴らすと剣先が下に向いて浮いていた剣たちが一斉にその切っ先を僕らへと、そして、先程の勅使河原さんの苦無のように降り注いだ。しかも、こちらへと真っ直ぐに掛かってくきて、ようやく気づいたのだが一つ一つの剣は二メートルほどあって当たれば即死だ。
何が殺しはしないだ!?
慌てて、かわしていった。
「アッハハハハハ!!踊れ踊れ!!」
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