38話 放送局の構造って迷路みたいだよね その2

「ごめん、待たせたね!」

「……。遅い!」

放送局の付近にて、空間から謎の光と共に僕は転移した。緊急の呼び出しをアビゲイル様から受け取ったのだ。

内容は、勅使河原さんが放送局でシャドウの気配を感じ取った。そして、そこには特戦群の姿があったという。

(あの時、彼が家から出たのはこのためだったのだろう。)

やはり、付けるべきだったか。深田と佐倉からリクはシャドウ相手に毅然として戦っていたという話を聞いているから大丈夫だと思うが、心配は心配だ。彼は光の御子ではないのだから…。見つけ次第、この放送局から逃してあげないと。

「何を突っ立っているの?行くわよ。」

「わかった。」

僕らは、放送局のドアの前に立つとお互いそれぞれ変身道具を手にする。

「準備はいい?」

「いつでも…。」

はじめての彼女とのシャドウの討伐。いつも一緒にやっていたリーファがいないと少し寂しくはあるがこれも光の御子のため。そして、僕の世界を守るため。我儘は言ってられない。

「「変身!!」」




「ふんッッ!」

初めに仕掛けたのは、ニクスだった。展開した魔方陣から出現した雷撃と火炎の球体。しかし、弾道は単調で真っ直ぐにしかやってこない。俺は左に西園寺は右に避ける。

その際、一瞬だけニクスと目があったがすぐさま彼女は視線を西園寺だけに戻した。

無視ってことは、俺は取るに足らないということだろうか…。それとも、まず確実にフル装備の彼を潰したいのか…。

こちらとしては、接近戦になる事を避けたいから助かるな。

横目で西園寺を見てみると彼は軽く手すりに飛び移り、アーマーの足裏からの光線の放出と共に飛躍して一瞬で彼女の目の前にたどり着く。

素早い速度で右の剣らしきもので彼女の首元目掛けて斬りつけた。速攻で決めるつもりなようだ。

「甘いわ!」

ニクスは怒号と共に手元に小さな魔方陣から生成されるとそのまま盾のように彼の剣を受け止めた。見る限り彼女の攻撃、防御はあの魔方陣を軸にしたものであるようだ。

「硬った!?」

展開された魔方陣とナイフの衝突音は鈍く。まるで、板チョコよろしくパキッと折れてしまった。

跳ね返りの衝撃が彼の腕に伝わったのか苦虫を潰したような顔をする。

折れた剣が翻る。

まさか、折れるとは思いもなかっただろう彼は体制を崩す……が、機転をきかせたのか西園寺は寧ろその魔方陣との衝突のエネルギーと右足から放出される光線の勢いで回転すると空中で翻るナイフの折れた面を爪先に合わせてそのまま蹴った。

「甘いのは貴女だ。」

「なッッ!?…グッッッ!!」

遠心力のまま蹴るように彼女の首元に刃が斧を斜めに叩き込むようにして走る。その速度は俺の認識できる速度からはかけ離れているほどだった。

避けようがない。

慌てたような表情で、ニクスは片方の腕で盾の魔方陣を咄嗟に展開させてこれを防いだ。しかし、無理に守る体制になって吹き飛ばされた。それを見逃さずに西園寺は出力を上げてニクスを下へと叩き落とした。

(なんだあの動き。正直、湊よりえぐいぞ。)

『そうね。あのアーマーのお陰とはいえ、光の御子ですらないのにあの動き。…尋常じゃないわ。彼…本当に人間?』

感心したようにレヴィからの声が聞こえた。確かに、人が持っているような反応速度じゃない。特にすぐさま、次の攻撃へとつながる発想力。

天才の極みだ。

すぐさま、彼女の落下を計算して、やってくるであろう脳天にレティクルを合わせて引き金を引き爆音と共に弾丸が放たれる。白金の鏃はそのまま真っ直ぐと突き進み脳天を吹き飛ばすかと思ったが彼女が腕をこちら側に手を伸ばすと彼女の目の前で弾丸は止まり、空中にひびが入った。

「あ?」

『遠くからの攻撃ように透明な盾を展開していたのね。随分と用意がいいこと。』

レヴィの説明を聞いていると次第に、ひびは広がっていきくと真っ白な盾のような形が浮かび上がった。レヴィのいう透明な盾とはあれのことだろう。

瞬きを二、三すると小さな破片となって割れたガラスのように下へとなだれ落ちた。なるほど、俺への警戒が薄すぎると思ったらそういうことか。

だから、初めに俺ではなく彼を、西園寺だけに集中していたのだろう。彼女にとって遠隔攻撃は屁でもない。だが、接近戦は苦手であるということだ。

これは上々。

「……やるじゃない。」

真っ赤な唇を舐めて自分を下へと叩き落とした西園寺と俺を睨みつける。

「それにしても、何故…あなた達はここが分かったのかしら。気を使った筈なのだけれど。」

「あの放送を流しておいて、気を使ったつもりなのか?」

「あの放送?何のこと?」

西園寺が呆れたように言うのをニクスは怪訝な顔を浮かべた。演技…というわけでは無いように思える。彼女では無いのか?

「………まぁ、いいわ。光の御子では、ないけれどそれなりに楽しめそうで安心したわ。久々に本気を見せましょう。」

「それは何より。だか、出来ればお手柔らかにお願いしたい。」

「ふふっ、後でゆっくり深く深く痛みつけるように可愛がってあげる。でも…そうね、メインディッシュは後からにしましょうか…。まずは、前菜から…。」

ニクスは俺をまずはお前だと言わんばかりにと一点に見つめる。それは、蛇のような蛙の動きを固めてしまう瞳。 

いや、敵を狙い澄ました大鷲だろうか。ぞっと体の毛が立つのを感じる。これが殺気とかいうやつだろうか。

「さっきも言ったけれど、ここは私の庭。アズラエル様からの命令を達成するための最高の迷宮。その予行練習にはちょうどいいわ。【迷宮顕現ラブュレントゥース】」

彼女が苛烈に叫ぶと俺の床が空港のムービングサイドウォークのように動いた。いや、動いているというより視界の景色が新幹線の窓から見えるように目まぐるしく変わっていく。

放送局の至る所が可動した。手すりはどこかへ閉まっていき、窓は無機質な石の壁で覆われていく。ありえないことが目の前で起きていた。

ただの放送局だった空間は一瞬にして、石だらけの迷宮と化したのだ。

ゆっくりとあたりを見渡す。西園寺の姿は見当たらない。

「なにがどうなってんの?これ……」

「……幻影系統の魔術ね。まさか、工房までの域に仕立て上げるとは、流石幹部というところかしら。」

宝石のアクセサリーからレヴィがそのまま出てきた。何かを調べるように床や壁の石を手でなぞる。

「いいのか?出ても。」

「構わないわ。あなたも早くスーツを着なさい。……流石に幹部レベルだから私も手伝うわ。」

たが、それより何個か聞きたいことがいくつかある。

「ところでこれは何なんだ?今まで、こんなことするシャドウは居なかった筈なんだが?」

「そうね。恐らく、ニクスというあの女はシャドウになる前はアズラエルの幹部は魔術師ということよ。」

「は?」

「そのままの意味よ。この空間は魔術師にとってアトリエのようなもの様々な魔術を作り出したり魔術道具を作成するための空間。言わば、その魔術師にとって外部から隔絶された異界。私も貴方の家の地下に作っているわ。」

「ほう………おいちょっと待て、お前俺の家に何をしたんだ!?」

「…あ、やっべ。」

「…………。まぁ、その話は後にして…。レヴィは取り敢えず、魔術師でおーけ?」

「そうなるわ。」

「てことは、光の御子ってやつら全員魔術師になるのか?」

「定義的には…。でも、彼らは元からその力を持っては居ない。光の御子の主人とかいう存在から与えられた力をふるっているに過ぎないから、魔術師ではなく魔術使用者という言いかたが正しいわ。」

「なんか、めんどくさいな。」

「否定はしない。でも、色々とあるのよ。そこについては、後々説明していくわ。それより、来るわね。」

レヴィの声が鋭くなると廊下の先の先から、真っ黒な闇が訪れた。荒れ狂うように迫る闇はあの配信者を引っ張っていったやつに違いない。触手の塊というか…うわっ、なんかヌメヌメしてそう。これあれだろ、光の御子の痴女みたいな格好してるやつが相手するやつだろが…。

「変身。」

呟き、体を覆うは黒い外套。

「こい、ヒヒイロカネ。」

銀色の液体が一瞬にして、一振りの太刀へと姿を変えた。

刹那、目の前に闇が広がる。

「…速いな。」

即座にその場から、飛び退る。闇の触手は意外と鉄のように硬いのか石の床をアイスのように抉りとっていた。そして、空中で後ろへ下がる俺へ数本の触手が槍のように先端が鋭くなっていく。

それを俺は無言のまま、さらに跳躍して迫る触手を払うように太刀で斬り放った。

確かな、手応えを感じると触手は両断されて、ふわっと床に舞い落ちる。

「流石ね。私の作った空気の塊に気付くだなんて。」

「あんだけ、わかりやすく。エネルギーの塊みたいなのがあったら気付くわ。」

どうやら、本当に彼女は討伐を手伝うらしい。さっき、蹴って飛んだのはレヴィが作ってくれたものだった。空気を圧縮して物質にしたもの。なんと、言葉を具現すればいいのか分からないが魔術とはそういうものなのだろう。分からん。

だが、出来れば一緒にあの触手の化け物倒した効率的だと思うんだが…ふと、振り向いてチラリと目を向ける。

どこからか、取り出した豪奢なテーブルと椅子に座って優雅にカップに紅茶の入ったティーポットをティーカップに注いでいるのが見えた。

「手伝うんちゃうんかい!!!」

思わずツッコミが出て、舌打ちをする。

彼女にわかるように苛立たせて、改めてなんかうねうねしてるシャドウへと目を向ける。

まぁ、そういえば幹部には手を貸すと言ったけど普通のシャドウは俺だけで倒せってことだろうか。だとしても、お茶飲んどる場合か!っと言いたい気持ちも多々ある。いや、気持ちしかない。まぁ、幹部相手をぶっ倒すのにはいい予行練習にはなるかな?

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