37話 放送局の構造って迷路みたいだよね その1

「う……」

仰向けに倒れた状態で目が醒めた。

確か……ドア開けた瞬間に白い光で包まれて…。

「はっ!?っってぇー」

体を起こして、あたりを見渡す。無理に体を起こしたせいか頭痛がした。

放送局に来る前に西園寺から支給された武器の入ったスーツケースが視界に入って乱雑に掴み手に取る。

どうやら、放送局の何処かの廊下…だろう。

人の気配がして横を見ると西園寺がスーツケースを持ったまま倒れ込んでいた。何があっても、武器は離さないところは流石だな。

しっかりと呼吸していて、ただ寝ているようだった。

それ以外には人の気配は感じられない。一緒にドアから突撃しようとしていた他の三人は見当たらない。別の場所にいるのだろうか…。

「にしても、なんで…こんな所に…。」

『ドアに転移の魔術があった。』

「転移?と言うことはあれか、罠?」

『恐らく。今回ばかりは、私の責任ね。もっと早く気づけたはずだった。ごめんなさい。』

随分と責任を感じているらしい。いつも、そんな健気だったら可愛いんだけどな。

『……ッ!シャドウの反応よ。』

「危ねぇ。寝たままだったら、寝てる間にやられる所だった。って、西園寺起こさないと…。」

未だに、お眠の西園寺の肩を激しく揺さぶって起きるのを促すと呻き声を上げながら目を覚ました。

「う…うぅ。何が起きたんだ。」

「わかんねぇ。でも、敵が来てる。まずはあれをなんとかしてからだ。」

ちょうどその頃に、廊下の先の方から唸り声をあげて猪の形をした闇の塊が出現した。

「……みたいだね。スーツケースは?」

「あるよ。そっちは?」

「無論、何があっても離さないさ。」

スーツケースのボタンを押すと右腕から上半身、最後に下半身と金属がまるで意思があるように西園寺の全身を覆っていった。

前回よりも、修繕が重ねられたのかスリムになっているような見た目になっていた。西園寺が変身するのを横目に俺もスーツケースのボタンを押す。

話は、作戦会議中のことだ。日本政府は今回自国の戦力だけのシャドウ討伐。失敗するわけには行かないと戦闘員全員分に対シャドウを目的とした特殊な武器を支給する運びになったそうだ。

開いたスーツケースの中には、大きな狙撃銃と予備の弾倉がいつくかあった。

「…………あのさ、西園寺。」

「なんだい?」

「貰っといてなんなんだけど、この室内で狙撃銃はどうなん?」

室内戦闘に不向きすぎる。考えもなしに渡しやがったな。

「うーん。……基本、僕の援護用に作られたと思うから……いいのでは?」

「そうか?」

……確かに、彼を援護すると言うことを考えると正しい。いや、しかし…ここ室内ぞ?

もっと…その…なかったのか?

「それにしても、意外だ。」

「何がだ?」

「君は、どちらかと言うと前に出張って戦うと言った性格じゃないと思っていたんだけど…。」

「そうか?」

確かに、言われてみれば……寧ろ援護射撃万歳だな。いつの間にか前で戦う前提になっていた。変にあの変身した時の感覚で話してしまったようだ。

それはともかくとして、試しに狙ってみよう。話はそれからだ。

狙撃銃の槓桿を引いて、次弾装填を行いスコープのレティクルに捉えて狙いを定めて引き金を引く。同時に肩に程よく強い衝撃。

銃声が響き、数メートル先のシャドウの頭に命中した。

「……近いとは言え、一発で仕留めるか!凄い、その技術……一体どこで…。」

西園寺が度肝を抜かれたような顔を浮かべていた。まさか、当たるとは思っていなかったのだろう。

まぁ、俺も当たると思わなかった。

再び、槓桿を引いて空薬莢を排出する。床に小気味良い金属音が鳴る。

「ふっ、帰りに寄ったゲーセンで磨いた腕を舐めるでない。」

(ふっ決まった。)

でも、たまたまってダサいからそれなりにっぽく言った後悔はない。

「あらあら、虫の罠をかけたつもりだったけど……もっとタチの悪いのが引っかかったわね。あなた達で二人と三人目ね。」

ハイヒールの踵がコツコツと奏でた。

廊下から現れたのは豪奢なドレスの女性。しっかし、なかなか際どい格好をしてらっしゃる。

『アズラエルの幹部…』

レヴィの声に鋭さがでる。

『あれが…か……。』

「胸が…でかいな。神室。」

「………西園寺、それわざわざ口にする必要ある?」

「……………ない。」

「だよな。…黙ってろ。」

変なことを口にする西園寺に多少イラついたが思考を巡らせる。

さて、どうしたものか…あのコートの姿になりたい気持ちが強いが西園寺がいる。初めは、彼の援護に回った方がいいだろう。その後、隙を見て離脱し変身してあのシャドウを狩る…のがいいのか?

いや、しかし敵の強さも測れてないのに彼を一人にするという時間があるのは中々に危険な気もする。

「ところで、僕らは二人目と三人目っと言ったが…一人目はどこにいる?」

「あぁ、コイツのこと?」

「な!?」

無造作にニクスは何か黒い影のようなものを俺たちに向けてきた。それは、あの時一緒にいた隊員の生首だった…。絶命してまもないのか首元から垂れる血からは湯気のようなものが見てとれた。

「はは……」

自分の声とは思えないほどの力ない引き攣った笑い。

そうだ。

シャドウは、普通の人間からしたら殺戮者でしか無いんだった。いままでは、光の御子だから攻撃を防げたんだ。

そうだよな。俺も、殺されかけたんだから…。

「……貴様…。」

くぐもった西園寺の声が漏れる。

その声色から、彼が煮えたぎるほどの怒りを抱えているのが分かる。だが、こんな時こそ、冷静にならなければならない。

「そもそも、先に手を出したのはあなた達よ。…くそっ、あのボウリング場であった光の御子を誘い込むための罠なのにそれをする前に光の御子でもない奴らが来るだなんて…誤算だわ。」

「おい、西園寺。」

「なんだ…。」

「仇打ちしたい気持ちはよく分かる。だが、落ち着け…。」

「自分は、これ以上ないほど落ち着いているが?」

だめだ、こりゃ。そんな鼻息荒くして冷静だはもう、冷静な状態では無い。

「先ずは、体制を整えよう。あいつは恐らく彼と俺たちしか見ていないみたいだ。他の二人と合流した方がいいだろう。」

西園寺にしか、聞こえないように注意しながら音量を調整する。流石に、幹部相手に二人だけで対応するのは厳しいだろう。下手に強引にすると嫌な未来が見える。それこそ、絶命した彼のように…。

「……分かった。それじゃ、僕が目眩しをするかはその間にッッ!!目と耳を塞いで!!!」

西園寺はアーマーの腕の部分から五センチほどの大きさの丸い玉を放出した。俺はそれが閃光弾だとすぐに察すると両手を耳に当てて口を開け、目を強く瞑った。ニクスの前にそれがばら撒かれると閃光と爆音が響き瞑った視界が真っ赤に染まる。そして、直ぐに西園寺の指示どうり走ってその場から撤退した。

「逃すわけないじゃない……。」

背後からニクスの苛立った声が聞こえた。

クネクネとした、廊下は走ってるだけで障害物リレーしているみたいだ。

先に大きな扉が見えた。大きな広間に出る扉だろう。西園寺が飛び膝蹴りをかましながら扉を破壊して前へと進む。この放送局には申し訳ないがこっちも必死なんだ許せ。

「な!?」

先に広間についたはずの西園寺から驚愕の声が聞こえて足を止める。扉の前には確かに背後にいるはずのニクスが仁王立ちしていた。慌てて、西園寺がバックして俺の横に立つ。

「ここは、既に私の拠点。ありとあらゆる場所を把握しているし、思い通りに操れる。貴方達は蜘蛛の巣に絡まった哀れな羽虫よ…」

彼女は、流れるように細い腕を上げると魔法陣を数個展開した。もう、逃げられないと判断したのか、西園寺はアーマーの右腕から剣のような鋭利な刃が出現して構える。

俺もライフルに次弾を装填し、腰に取り付けられた銃剣を取り出して、取り付けた。最悪、接近されたらこれでなんとかしよう。無いよりはマシだ。

「仕方がない。行くよ、神室くん。……もしもの時は直ぐに僕を置いて撤退するんだ。」

「あぁ、元からそのつもりだ。」

「……ちゃんと、無理だと思ったら撤退だからね?」

「……」





「………見てしまった」

私は、地元の放送局の駐車場の柱からひっそりと顔だけを出していた。

話は少し前に遡る。長い時間、創作活動……に勤しんでしまったためにコンビニ弁当で夕食を済ませて帰路に着こうとしていたら視界の中に放送局の駐車場に一際ごつい車が見え、入って行ったのだ。

初めは、そこまで気にかけはしなかった。しかし、一瞬だけ放送局から微弱な魔力が感じ取れたのだ。

それが気になって、危険ではあるがその車の跡をつけると中から出てきたのは武装した自衛隊の姿。光の御子の存在は放送局からは感じ取れてはいない。普通なら、彼らは私たちの戦闘が終わった後にやってきて事後処理や残った雑魚のシャドウの殲滅をするはずなのに見る限りシャドウをこれから倒しにやってきたという雰囲気だ。

なぜ?っと思っていると転移魔術が発動されて自衛隊の人たちは一瞬で消えてしまった。

とりあえず、彼らを救わないと…。ポケットからペンダントを取り出し胸に近づけようとした瞬間、閃いた。

「………待てよ、これ…アビゲイル様に報告して援軍をよこせって言ったら…湊海との初の共同作業になるのでは?」




「あらぁ。蟹ね。」

「蟹だな。」

目の前に現れた大きな蟹に俺たちはそんなことを呟いた。

蟹だ。……でっかい蟹だ。

シャドウだろう……しかし、あの配信者をどうこうしたような奴にも俺たちを違う場所に飛ばしたというような奴でもない。あるとすれば、そいつの配下…と言ったところか。

しかし、坊ちゃんと坊ちゃんのお気に入りの方が心配だ。彼らは若すぎる。

無論、若者特有の勢いと豪胆さは認めるが引き際というのをまだ知らないでいる。早めに合流がしたいが連絡が取れない。変な電波で妨害されていると考えられる。

「でも、倒すべき対象であるのは間違いないし。さっさと狩りましょうか?」

彼女は、そういうと支給されたスーツケースから死神が持っていそうな大きな鎌を取り出した。その鋭利な刃はゾッとするほど魅惑的で月を浴びてより一層美しい。

これで首を刈られたら、さぞかし楽に死ねるであろう。

「……お前なんかにそんな悪趣味な武器を持たせる政府は何を考えているのだか…。」

「あらぁ〜、私の武器にケチをつけるの??」 

彼女は俺のコードネームを口にして、相変わらず何を考えているのかわからない笑みをこぼす。

「何もそこまで行ってない。確かにお前のいうとうりだ。俺たちに降ったのは我々だけでのシャドウ討伐。さっさと倒してわかれた奴らと合流をしよう。」

今は、それが最善策だ。

心配事も全て振り捨てて、スーツケースから二丁の拳銃を取り出した。彼女に比べたら、随分と貧相な武器に思えるが下手に近接は彼女のような脳筋に任せるとしよう。むしろ、こっちの方が慣れ親しんでいる。

「それじゃぁ、はーい。シャドウくん……死んで☆」

軽い口調とともにランサーは跳躍すると鎌を大きく振りかぶった。 



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