39話 放送局の構造って迷路みたいだよね その3
「………いきなり洞窟みたいになったかと思ったら男と幼女の光の御子が現れるとは…」
僕らが放送局の中に入るとそこには石の世界が広がっていた。どう考えても、放送局ではない。
幻影か、或いは転移で違う場所に飛ばされたのか…。だが、目の前にいる僕と同じような鎧を身につけた彼、西園寺を見る限り恐らくこの場の何処かにリクがいるのだろう。
「驚いたな。こんなにも早いとは…。」
ぼそっと僕らを見てそんなことを彼は呟く。前回、杉山さんが言ったように性能確認が目的で僕らを出し抜いてシャドウを討伐したのだろう。しかし、放送局をここまでにするということは、幹部レベルのシャドウがいるのかもしれない。後でアビゲイル様に報告しなくちゃ。
「確か、ボウリング場以来だね。自衛隊の人。」
「…彼は光の御子ではないの?」
眉を顰めた勅使河原さんが僕の脇腹をこづいて聞いてきた。
「あぁ、雷電さんが言うには日本政府が作った対シャドウ用の兵器らしい。」
こっそり、勅使河原さんに西園寺に聞こえないくらいの声の大きさで説明する。それにしても、何故彼は一人だけなのか…。まさか…いや、そんなはずはない。
「おや、あの時の光の御子の方でしたか…。」
「ええ、もう安心してください。あとは、我々に任せて貴方がたは早急に避難を。」
「いえ、光の御子だけに負担を強いるわけにはいきません。それに何人かと合流が出来ていませんので」
…何人かと合流できていない?
もし、リクに何かあったらどうするつもりなのか…。
「それならば、尚更我々にお任せを、皆さんを助けてシャドウも倒します。……行こう。」
苛立ちでらしくなく、僕は彼を睨みつけて勅使河原さんに促す。雑な足運びで真っ暗な石畳の道を進もうとする。
「ちょっとまった!」
突然、西園寺は僕の肩を掴み後ろに転げさした。想像以上の強さ。横に大きな身体を石床に叩きつけられごつんという音が閑かな空間に響き渡り、勅使河原が必死に笑いをこらえる。その時に、少し変な音が混じって聞こえた。まるで、何かが切れるような。
変な間に気恥ずかしくなり。僕はすぐに立ち上がると西園寺の首根を掴む。
「いや、待って…うぐッ」
その様子を見て爆笑寸前であろう勅使河原さんは手に両手を当て悶絶し始める。そんなに笑うことかなぁ!?
「何をするだ君は!!」
「痛い、痛い。下見て下。」
「下?」
指で石床を指しているのを見るとなにもなかった。
「なにもないじゃないか!」
「足元の床を見て、その石、スイッチみたいに少し浮いてるだろう。」
指摘され、もう一度床を見やる。
確かに、僅かであるが西園寺が指して居た石は他の石と違い浮き上がっていた。
さらによく見ると真新しい石にも見える。今見てみれば分かり易すぎる仕掛けだ。
何故気づかなかったか、首をひねる。
「なんでわかんなかったんだろう。」
「恐らく、いきなりこの暗い場所に来たせいで感覚が変になってたんでしょう。ところでそろそろ息したいんで手解いてくれないか?」
「あ、すまん。」
「ぷはぁー。……このアーマースーツは…僕が作ったわけでは無いが先程のトラップのようなものを見つけることだってできる。」
「何が言いたいの?」
勅使河原さんが両腕を前に組み、目を細める。それに何故か西園寺は震えていた。何というか、何かに必死に堪えつつ一言、口にした。一体、なにに耐えているのか…いや、喜んでる?
「僕は使える。」
掴む手を解くと彼は真っ直ぐな瞳で僕にそう言い切った。
「危険だ。たしかに、そのアーマーは有能だと思うが君はただの人だ。認められ」
「………分かった。同行を許しましょう。」
ないと言い切る前に、勅使河原さんが間に割って入った。
「な!?何を言って!」
「あの罠に引っかかりそうになるくらいの私たちよ。彼の言うようにそれを見分けれる存在がいれば心強いこと、この上ない。それとも何?これから、この迷宮みたいなところにある罠を貴方が全て無効化してくれるの?」
「ぐっ……。」
彼女の言う通りだ。
「………わかったよ。……それで、何人と合流が出来ていないんだい?」
「いや、合流に関しては一人だけだ。他は大丈夫。かむ……僕の相棒だ。敵のシャドウ…ニクスといったか…。意外としぶとい彼女との戦闘中、攻撃か何かで放送局がこんな迷宮のようになってしまった。その時にはぐれてね。彼の力なら問題は無いと思うのだが…。心配は心配だ。」
心配になるくらいだったら、彼をシャドウの戦場に呼ばないでもらいたい。西園寺に怒鳴りつけたくなるのを抑えて、落ち着かせるために一つ呼吸する。
それに、ニクスがここに……彼女は杉山さんとの戦闘で圧倒的な力を僕に見せていた。そんな彼女と戦っているだなんて思ったより西園寺のアーマーの力は侮れないのかもしれない。
「そうか。なら、急がなくちゃ。」
「あぁ、実は光の御子と一緒に戦えるなんて光栄だ。僕は西園寺未来。」
その割には、光の御子よりも先にシャドウを倒そうとしているが?眉を顰めつつ、彼の出した腕を掴み、応じた。
「それでは、未来。よろしく頼む。」
仕掛けの石に注意しながら西園寺は前に進む。勅使河原さんも石を踏まないように端を歩く。僕もも大股で石を乗り越える。その時、カコンッと何かが落ちる音とカチッというとても嫌な音が通路にこだました。
僕と勅使河原さんがそろーと音の源を辿る。振り返りそこにあったものを見つけた。いや、見つけてしまった。
変身道具だった。
いつも、アーマーに直接チェーンがあるはずなのに何故?と見るとチェーンが粉々に落ちてきた。恐らく、西園寺が僕を倒した時に壊れてしまったらしい。
「あ、やっべ。」
途端、天井からゴゴゴと振動で通路が揺れる。地震かと思ったがその類ではないことがすぐにわかった。五メートルほど前の天井が降りてきたのだ。
「も、もしかしてぇ〜隠し通路?」
一瞬期待したように僕は声を振るわせる。現れた物体を見るとそんな声は壁に染み込み消え失せた。
現れたのは、通路ギリギリの大きさの丸岩。
それが僕たち目掛けて転がり始めた。
「に、ニゲローーーーー!!」
西園寺の怒声がなる。それの声で我に返り、僕らは岩とは反対側へ走り出す。
「貴方ね!!覚えてなさいよ!」
「すまない!!!てか、そもそもそこの男の光の御子さん。何でそんな大層な宝石を落とす!?大事なもんじゃないの!?」
「なにをぉ!?僕は悪くない。そもそも、君が僕を床に叩きつけるくらい強くした所為だし、そもそも、トラップなんて口で伝えればよかっただろう!?」
「言葉だけでは伝わらないものもあるでしょう!?」
「あぁーーもうっうっさいわ!!口なんかより早く足を動かしなさいよ!!」
三人が走りながら誰が悪い誰が悪いと言い合っている間にも岩のスピードがさらにさらに上がって行く。それに従って僕たちも走るスピードがさらに高まる。
「こうなったら、少しでも時間稼ぎよ!!」
スピードを更に上げて、道路に立ち塞がるように勅使河原が陣取ると魔方陣を出し、そこから筆のようなものを取り出した。恐らく、彼女のアイテムだろう。
「取り敢えず、止まれ!馬鹿野郎!!っと!」
そして、何もない空中に音読しながら文字をつらつらと書き記すと筆の墨がそこにガラスがあるかのように字が…【静止】の二文字が浮かび、真っ直ぐに岩石へと突き進み、動きを止めた。
「凄い。」
「ふっん!」
西園寺がパチパチと拍手するとドヤ顔で勅使河原さんが鼻息を一つ。
あれが彼女の光の御子の力なのだろう。
「……あっ。」
しかし、岩石の勢いが止まったのはほんの数秒でしかなかった。理不尽な強さで押さえつけていた静止という文字は千切れてしまい。再び、岩石が僕らへと侵攻した。
「む、無理だしたぁぁ」
「ですよねー!!」
駆け出して走りまくる。
「圧迫死なんて絶対イヤ!」
「ぜぇあぜぇあ。あーもう僕、無理。」
「諦めんな!諦めたらそこで人生終了だよ!」
「「「ギャァーーーーーーーーー!!!」」」
通路で三人の叫び声と冷酷にそして、問答無用で転がる丸岩。
徐々に岩と僕たちとの差は近づくばかりだった。
西園寺は今にも力尽きそうな顔で、もはや気絶しながら走ってるのではないかと思うほどでそろそろ白目になりつつある。もうダメかなと諦めの瞳を灯しそうになっていた勅使河原さんは突然指さした。
「あそこよ!あそこに隠れましょう。」
隙間だ、通路の左側に普通の人が二人分入るほどの隙間が数十メートル先にあった。
「ちょっと待て!全員入らんだろう!」
「ああ、みたいだな。西園寺くん!君はもうダメっぽいからその隙間に!」
「私達はどうするのよ!?」
もう私も限界と勅使河原さんが息を切らしながら言うと僕は先の天井を指した。その指差す方向を見るとそこにも僅かばかりの隙間があった。
えっと驚く勅使河原さんに小さくごめんと呟いて、片手で勅使河原さんの腰をかっさらって、小脇に抱えたのだ。
「ちょっと失礼っと」
「えっちょっとッッ」
いきなりの事に動揺と羞恥心から身をよじり離れようとするが片手で拘束されていたために叶わなかった。
「その、落ちるから…ね。」
「う、わかった」
そう言ってバタバタと逃げ出そうとする勅使河原を制するとピタッと動きを止めるのを確認し天井の隙間に飛んだ。
天井の隙間に着くと剣を鞘から抜き取って天井に突き立て身体が床に落ちないようにし、勅使河原さんは落ちないように僕の胴体に抱き着く状態になった。…いくら、緊急事態とは言えセクハラじみたことになったな。それに……現在お尻の方を少し触れてしまった。
「ん……ぁ。」
彼女の吐息が僕の耳に触れる。
背中から岩が掠れる感覚が少しあるとすぐになくなった。通り過ぎ終えたのだろうか抱きついた状態の勅使河原さんが腕の間からこっそりと覗く。
「た、助かったみたいね。」
「だ、だね。」
天井に突き刺したナイフを取ると抱きつけたまま、下に降りた。
岩の進む方向の逆を見ると西園寺が寄ってきていた。
「大丈夫だったか?」
「まぁな、……」
西園寺が訝しみ、何か言いたげな様子で僕を凝視する。
「なに?」
「いや、なんでも………くそう、僕が彼女を天井に逃せばよかった…飛ぶ出力を後のことを考えて温存したのが間違いだったな。しかも、なんだあいつは光の御子の女性の臀部を鷲掴みにするとは…男の光の御子はあれが合法なのだろうか、裏山けしからん。」
後半からは、何かもごもごとして聞き取れなかったがきっとあの岩石についての反省をしているのだろう。そして、まだ延々と続く通路を突き進んで行った。
「行くわよ。仕掛けがあったってことは何かがあるはずだわ。でも、取り敢えずアビゲイル様に現状を報告しなくちゃね。」
「ああ、そうだな。」
勅使河原さんは、そういうと筆を取り出して今度は空中に鳥を描く。描き終えると、描かれた二次元の鳥は一人でに動きだして飛び上がった。
「あら?やっぱり、ついてるわね私は……。早速、アズラエル様からのお使いを果たせそうだわ。」
最近聞いた、艶かしい女性の声が迷宮内に響に渡った。
振り向く先には、薄い霧。
その闇の向こう側から、コツコツとヒールの音がする。霧を払うようにして、そっと姿を表した。
「光の御子……と、政府の犬。」
「ニクス……。」
双眸に捉えるは妖しい笑みを浮かべていた。握る手に力が入る。
「こいつが幹部の……。」
勅使河原さんが筆を構えて腰から巻物のような物を一つ取ると締めるための紐に手をかけていた。
「………え、幹部なの?この人?」
……よし、彼は無視しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます