35話 ドギマギお料理教室開演 その3
「んで、何がどうなったらこうなる?」
腕を組み、辺りにばら撒かれた肉とパン粉と卵をこなれたもの、つまりはハンバーグのタネを横目に見る。俺の前には正座をした湊大好きクラブの方々。
「その〜こねるのが終わって待っていたんだけど……なかなかカムロンが来なかったから…。じゃあ、さっさとハンバーグの形にして、カムロンを驚かせよう♪……って考えてました。」
リーファは深く反省しているのか顔を俯かせ目を逸らす。なるほど、言い出しっぺはこいつか。
まぁ、簡単っちゃ簡単だから勢いで行ったんだろうなぁ。
「私も、その案に乗って…母さんからハンバーグは中の空気を抜くって聞いたたからそれを二人に伝えました。」
「それを聞いて,思いっきりペチンペチンしました。」
「そして、手が滑って…。」
深田さんがこの惨劇の最後のトリガーであったと…。
まぁ、空気を抜くっていうのは大事なことだ。じゃないと空気膨張でハンバーグが割れてしまうしな。まぁ、実際そこまでやらなくてもいいけど。」
だが、床に叩きつけるのはどうなん?
…起きてしまったことは仕方がないな。
「まぁ、はじめての料理だったしな。失敗くらいはするよ…。」
「「「え?」」」
俺の言葉に三人は豆鉄砲を喰らった鳩のように目を丸くした。許したくらいでそんな顔するとかどんだけ俺のこと怖いやつとおもってんだよ。
「なんだ?」
「いや、その、怒られると思ったから。」
「は?いちいち怒んないよ。」
そもそも、初めての人が失敗しない方が普通だ。やらかしたとはいえ、俺が怒って料理が嫌いになってもらったら困る。変にトラウマを付けさせるのは間違っている。
「でも、壁とか汚しちゃったし……。」
「いや、寧ろ汚れた方が……へへ…。」
「ちょっと、リク?そこで笑うのおかしくない?」
眉を顰めて、椎名が俺の肩を掴む。
「いや……ふふ…そんなことは……ふふ……ないぞ?」
俺は、汚れを見て……興奮していた。こんな、汚れはひさしぶりだ。
掃除大好きあるあるだが、とんでもない汚れを持てる限りの力で綺麗にして最高のストレス発散がしたい欲望がめちゃくちゃある…が、性格上綺麗好きだから少しでも汚れたらすぐに掃除してしまい。溜まりに溜まったとんでもない汚れと戦えないのだ。
だから、彼女らが作った大汚れに高鳴る心臓が止まらない!
ああヤッベ、この汚れは厄介だな。何を使おう…。壁に引っ付いたやつは壁紙には完全に染み込んでいるだろうな。とりあえず、洗剤染み込ませたキッチンペーパーを貼っとくか…。
ふっ、ハンバーグ作り終わったら掃除タイムだ。
「あぁ、私たちの所為でカムロン壊れた…。」
あれ?俺を見る目がなんだか冷たいのだが何故だろう。取り敢えず、まずはハンバーグだ。
「それよりもまずはハンバーグだな。取り敢えず、三人は俺の分で作れ。」
「そしたら、神室さんのお昼は?」
「カップ麺あるから気にしないでいいよ。三人は湊に作ってやるんだろ?だったら、一つ分でいいだろう?」
それに、今思ったがハンバーグを作った後三人はわざわざ湊に食べさせるということは同タイミングで俺と湊は孤独とハーレムという対比で同じ食べ物を食べるということになる。なんか、惨めに感じるからいやだ。
「でも……」
「安心して、リクには私と……椿ちゃんの分をわけてあげるから…。」
「はい!」
突然、椎名は妹さんと目くばせをして同時に頷いた。
「いや、俺カップラーメンで…。」
「「いいえ!」」
「…………はい。」
圧に負けた。
取り敢えず、染みができないように汚れに洗剤を浸したキッチンペーパーを拭き取った床や壁にくっつけて、料理教室が再び開園した。
もう、失敗はできないから三人の俺を見る目が変わったのを感じた。最初っから、その気持ちでやって欲しかった感はあるがそのやる気があれば十分に湊を喜ばせれるだろう。
あいつ、美味かろうが不味かろうが笑顔で美味いと言うだろうから…。
「んじゃ、まず深田が言った空気抜きについてだがそこまでしなくてもいい。」
「え……しなくてもよかったの?」
「プロの料理人とかは気にするらしい。だが、正直家庭料理ではしなくてもいい。成形してそのままフライパンだ。」
「なんか、余計にカムロンに迷惑かけたんだなって思っちゃう。」
「そうね。」
そこからは、俺が教えながらだったのもありテンポよく進んでいった。
その後、三つのハンバーグのタネが完成。
「さて、ここからは焼く段階に入る。」
「「おお!」」
「まずは、中火で熱したフライパンにサラダ油を引いてタネをぶっ込む。んで、蓋をして時々ひっくり返したりして中まで火がとおるまで蒸し焼きだ。」
「意外とすぐ終わるのね。」
「初見の人に難しいものをピックアップすると思うか?」
「流石。カムロン先生……」
「そのカムロン呼びなんなの?」
「え?カムロからカムロン。」
「ンはどっから出てきた?」
「可愛いじゃん……ン。」
「………」
ンの概念に可愛いを見出すのはそれはそれで凄いな。哲学者かな?
「まぁ、いいか。取り敢えずあと待つだけだから。リビングでゆっくりしてていい…。」
「「「やったー。」」」
ゆっくりしていいよと言い切る前に三人は一斉にリビングのソファに座ってガヤガヤしはじめた。
ここ俺ん家ぞ?
まぁ、疲れたのならしょうがない。
「何なの?あの人たち…ここはリクの家なのに……。」
「…気にしなくていいぞ。それより、椎名も妹さんも、わざわざ火の前にいると熱いだろ?あの三人のとこ行ってもいいけど?」
異様に近くにいる椎名と妹さんがじっとフライパンの方を見ていた。
何が面白いんだか…。
時計を見ると時間は十一時半。
まぁ、リーファさんから聞くに湊は練習で公園にいるそうだからあいつの昼には間に合うな。
「そういえば、カムロンの部屋ってどこにあるの?」
「ん?2階上がって左にリクって札があるドアだけど?」
「へぇー。暇だし入っていい?」
「おぉーいいよー……」
何気なくリーファが話しかけてきたので適当に了承する。
…何か忘れてる気がする…が別に俺の部屋を見たところで何も面白いところはないだろう。階段場所は玄関の前にあるので彼女らは探検を楽しむように向かっていった。
ふっ、漁ったところでえっちなものなんで出ないぜ。
出ても、ゲーム機やら小説やら、レヴィとかだしな……………。
刹那、汗が一気に滝のようにでた。
左右にいる椎名と妹さんを見る。
妹さん………はやめておこう。
「椎名!」
焦っていて、声の大きさ調節がバグったが今はそれどころじゃない。彼女の肩を強く掴み目を合わせて懇願する。
「ひゃ!ひゃい!?」
「ちょっとの間、火の番は任せた!」
「ひゃ、ひゃいわかりぃまひゃた!!」
なんか、椎名の甘噛みが過ぎるが驚かせたな。あとで謝らないと。
そのまま、階段を駆けてドアノブを掴もうとしたリーファたちの姿を捉えた。
「ちょっっっと待った!?」
「「はい!?」」
思ったより、大きな声を出して驚かせてしまったがそれどころじゃない。
「え?でも、さっき良いって…。」
「撤回撤回。その、なんだ、ぐちゃぐちゃになってるから…人に見せるものじゃないからほらゴミ屋敷みたいになってるから…な?分かるだろ?」
「なるほど、それで朝来た時ドタバタしたたのね。やっぱり、リーファ戻ろう。これ以上、神室さんに迷惑をかけたくないでしょ?」
よし、佐倉は良い子や。素直なのは良いことだ。問題はリーファだな。
彼女の方へ目を向けると
「私さ、インターネットで調べたけど日本人の男性は部屋にえっちな本を必ず一つはしまっているらしいの…。そして、それに出てくるヒロインこそが彼らにとって一番理想な女の子であると…」
「おい、何の話だ。てか、誰だそんな記事書いたやつ。」
今の時代、紙媒体のR指定なんて早々お目にかかれないぞ?それに大体、電子版だし。
それに、そういう本のヒロインが最高の理想であるとは限らないだろ。
「その話が本当か…確かめたいの!」
「だったら、湊のやつ調べろよ!」
「………オープンザドーア!」
何故か、湊のところで押し黙って、勢いのままリーファはドアを開いた。
あぁ、終わった。
「………全然、汚れてないんだけど…。」
あれ?思ってた反応じゃない。おかしい、レヴィと鉢合わせしていないのか?
「………俺にとっては汚れてるんだ。ほら、机に課題がそのままだろ?」
「確かにそうだけど、じゃあ、探索と行きますか!」
「ねぇ、どうでも良いけど……そろそら湊が帰ってくる時間じゃない?」
いつの間に、椎名が俺の横に立っていた。全然、気づかなかった。
「え?はっ!そうだ。ちょっと確認してくる!」
そう言うとちゃっちゃかと走り出して下へと降りていく。
「おい、火の番は?」
「ハンバーグならもう、出来たわ。皿にも乗せてるし。」
「…………ほんとなんで今日来たの?でも、助かった。ありがとな。」
「………ふん。」
そっぽ向いて、鼻息を一つする。
「じゃあ、下で待ってるから…その私はリクがそのどんな人になっても…なんというか……いつも通り接するから…ね。」
椎名はそれだけ言うと下へと降りていった。俺は部屋に戻ってドアを閉めて鍵をかけ、机の方までくると後ろを向く。
そこには、天井の隅に細い両手と両足で支えて雲のように這っていた。顔は汗だらけで、ぷるぷると腕が震えて今でも落ちそうだ。
「レヴィさん…流石っす。」
「わ、私の手にかかればこんなもの朝飯前よ。」
俺は感嘆とその努力に頭が上がらなかった。
◇
「おぉ!ウミおかえり!」
「おかえりウミ!」
「おかえりなさい…ウミさん。」
練習も終わり、ようやく家に着き鍵を開けるとリーファはまだしも佐倉と深田の三人が出迎えてくれた。
…そういえば、リーファがお昼がどうこう言ったたけど今日は四人で外食になったのかな?
いや、奥からなんだか良い匂いがする。
…もしかして。
「ねぇ、いい匂いがするけど…」
「ふふっ、今日はね。ウミが大好きなのを私たちが作ったのよ!」
「へぇー、凄い!いったい何を作ったんだい?」
「カムロン先生監修魚ハンバーグ!!」
「え?」
カムロンって確か、リクのことだよね?
「リクの?」
「えぇ、弟子入りして教えてもらったの!」
「全く一緒の味とは限らないけど……三人で頑張ってつくったの。よかったら食べてくれない?」
「もちろんさ!いただくよ。」
◇
全員が帰って、静まり返った俺の家。
外から聞こえるのは、湊の家からの楽しい笑い声だ。笑いの色から、それなりにいい出来だったと思う。何故か、椎名と妹さんは俺と昼食を食べて帰っていった。
もう、家には誰もいない。
数時間前まで六人もの人数がいたのに一人になってしまうと耳鳴りがすごく大きく感じる。
「ん?」
そんな静謐な海に波紋が浮かぶようにライネのチャットが鳴った。
もう、行くのかな?
流石に早すぎる気もしなくはないが。
開くと主は西園寺だった。
【何やら、騒がしいから。前回あった公園で車を止めている。】
【分かった。すぐ合流する。】
すぐに返信を返すと外に出る服へと着替える。
日常と非日常の切り替えってやつは中々にゾクゾクとくるものだ。
非現実味は嫌いじゃない。
「いってきます。」
誰もいない家にそう告げて俺は公園への道を歩いていった。
◇
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、今ドアが空いた音がしたけど…。」
「神室さんじゃないですか?」
「彼は、今日どこか行くって言ってた?」
「さぁ?用事でもあるんじゃない?」
「そっか……。」
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