32話 次の任務と新たな光の御子
「悪い。待たせたな。」
夕飯後に散歩にいくと母に伝えてやってきたのは西園寺が指定した公園の端にあるベンチだった。
彼は既に待っていて、両指を組んで肘を膝にくっつけていた。さながら、どっかの司令官。
「いや、こちらこそすまない。本来なら、買い物終わりに時間を取ろうと思っていたら椎名天さんと妹がいたからね。椎名さんはもちろんのこと妹にもシャドウの案件に巻き込ませるわけにはいかないから……」
いや、俺は良いのかよ。一瞬、そんな突っ込みがでかかったが喉の奥に飲み込んだ。
そりゃまぁ、椎名は初恋の少女だしね。…まぁ、正体は分かってないけど…。てか、意外と妹思いだったのか…。
「それで、任務って?」
彼の隣に腰掛ける。わざわざ、こんな所に呼び出したんだ。
「新賀市に放送局があるのは知ってるかい?」
新賀……ここから車で30分はかかるところにある所だ。確かに、そこに地方局があった気がする。注目を浴びていた湊のインタビューをしていた局だ。
「あるな。そこで何かあったのか?」
「あった…というよりそこが怪しいと睨んでいる。昨日の深夜に警察から変な電話がかけられたらしいんだ。この県の男性で深夜、テレビから突然、変な番組が流れているが、これはどこの局から流しているんだ……と。初めは、愉快犯によるジャックが原因とされて発信源を調べていたら、その放送局が特定されてね。そこが新賀の放送局だったんだ。でも、放送局にはそんな電波を出した覚えはないの一点張りだ。実際、警察の人間が送られて調査したが一切の痕跡を見つけられなかった。」
「どんな放送だったんだ?」
「これだよ。」
彼は隣に置いていた、スーツケースのボタンを押して変形させた。あのアーマースーツは多用なことができるみたいだ。ディスプレイが表示されて、映像が流れた。
スマホで撮影された映像だった。恐らく、通報してきた人が撮ったのだろう。テレビには夕暮れ時の何処かの街の高いところから映し出されて、クラシックのような暗い音が流れると突然映像が切り替わり、画面にスタッフロールが映り始めた。
映ったのは、月日と人の名前、そして、場所。
横から、西園寺が口を開く。
「画面に映し出されたものを照合したら、その名前の人は自殺、他殺、事故死。まるで、それが予定調和とでもいうように…。そして、番組の最後にはまだ訪れていないの月日も書かれていた。」
確かに、下から上へ流れていくのは西園寺が言った通り十数人の名前と月日が記されたものだった。そして、次第に月日は今の日時に近づいていき最終的には数日後へと変わっていく。
その中で今週の土曜日にとある名前が見受けられた。別に知っている人でもなんでもないが珍しい名前だから目に止まった。
これ、なんで読むんだろう。ちょく……?
…しっかし、未来の月日……ということは、死んだ後に出しているのではなく死ぬ前に流した。
いや、もしこの番組が前から放送していたのならば予告殺人とも取れるな。
だが、しかし。
「頭が狂ったシリアルキラーの仕業か、ただの悪戯か……シャドウ関係には思えんのだが…。」
見る限り、シャドウの案件だとは思えない。
もし、予告殺人といってもだったら、何故既に死んだ人の名前を流しているのかと言うことになる。そうなるとハッカーが面白半分で放送局に忍び込んで死亡リストをコピペしたのと適当な人と月日を書いた悪戯とも取れる。
痕跡にしても、慎重深いやつなら完全に消すことだってできるはずだ。
「さっきも言ったが、地方の放送局では電波を発信した痕跡を見つけることはできなかった。普通の痕跡は、だ。……でも、シャドウの痕跡があったんだ。」
「シャドウの痕跡?なんだそれ?」
そんなものがあるのか?
「ボーリング場で見られた結界らしきものが微小ながら観測されたんだ。」
そういえば、レヴィが言ってたな。人の記憶を消す作用があった結界…。
『……ということは、幹部が関わっている可能性があるわね。でも、そんな大胆なことするかしら……』
今まで黙っていたレヴィの声が響く。確かに、まるで私を見つけてください…と言っているようにも感じる。
『罠ってことか?』
『分からないわ。』
「……僕は特戦群のいつもの面子を連れて光の御子よりも先にシャドウを討伐するように命令を受けた。」
とある言葉に引っかかって首を傾げる。
「光の御子よりも先に?」
「あぁ、政府はどうやら光の御子達のことを信用していないみたいだ。……これまで何度彼ら彼女らに救われたというのにッ…。
バンっと西園寺は怒りをあらわにしてベンチに拳をぶつける。
「落ち着けよ。政府としては、光の御子以外にシャドウと戦える存在が欲しいんだよ。」
「分かっているが……僕は怖いんだ。政府が光の御子を敵と認定しないかって…。」
まぁ、明らかに西園寺の話を聞く限り、光の御子を必要としないように行動しているのが丸見えだしな。
「確かに、そう思うかもしれないが…任務なんだろ?」
「あぁ…。」
「作戦日は?」
「今週の土曜日の夜だ。」
………うわ、俺の土曜日のスケジュール死んでね?
◇
「え?僕がこの子と任務?」
真っ白なアビゲイル様の世界でゆっくりとお茶を飲んでいた僕は彼女から言い渡された任務に驚いていた。
突然、僕だけ来いと言われてやってきた。初めは、杉山さんから稽古をつけてもらえると思っていたがそうではなく。
小さな女の子が座っていた。
肩にかかるか、かからないかくらいの黒い髪を左右のそれぞれ高い位置に真っ赤な留め具で止めていて、黄色を基調とした光の御子の姿だった。
見る限り、小学生にしか見えない……。そうか、こんな小さな子でも人々をシャドウから守るために戦うと決めたのか…。
なんて、勇気のある子なんだろう。
「貴方、今、私のこと小学生か何かだと思ってない?」
随分と不機嫌そうに彼女は攻撃的に話す。
「え、違うの?」
「ちっっがうわよ!!私は高校生2年よ!!」
「え!?僕より先輩!?!?…………そっか、そう言う夢でも見たの?」
可愛い子だ。
少しでも大人びたいんだろう。
わかる、わかる。
僕も小さい時はそんな感じだったよ。優しく頭を撫でて彼女のご機嫌をとる。
「ば………馬鹿にしてッッッッ!!」
「ちょっと、湊さん。からかいはそこまでにしてあげて…確かに文香さんは……その、小柄な人だけどちゃんと貴方より年上なのですから。」
「え?本当に?」
「えぇ、本当です。」
「…………」
「…………」
「えっと…その、すいませんでした……」
「フンッ!分かればいいのよ。それはそれとして、アビゲイル様!本当にこの男と組んでシャドウの討伐をするの?」
「えぇ、最近はシャドウの出現も増えて多くの光の御子が忙しなくなっていますし、その強さも強大になっています。ですから、他の光の御子との戦闘も増えていくでしょう。その為に、様々な人との連携を取れるようにする為です。」
アビゲイル様は、諭すように説明した。
「なるほど。確かに、僕は杉山さんとリーファ、深田に佐倉としか組んだことがありませんでしたしね…。」
「なんだってこんな、失礼な奴と…。」
「いや、だって……すみません。」
年下にしか見えないからという言葉をなんとか出さずに耐える。
もしかしたら、コンプレックスなのかもしれないしね。だとしても、失言だった。気をつけないと…。
「えっと、それじゃあ。よろしくお願いします。湊海です。」
僕は手を差し出す。彼女は初めて体が止まったが諦めたのかすっとか細い手を差し出して僕の手を握った。
あれ、どうしたんだろ震えてる?
なんで?
怖がっているのか?
いや、しまった潔癖症だったかもしれない。
「……なってしまったものは仕方ないわ。よろしく。私は
心なしか、声も震えているようだった。
てか、てしがはらってどう言う漢字なんだろう…。
「はい、仲直り終了、且つ、挨拶終了。湊さん、文香さん。これから、数日は彼女と一緒に任務を受けることになるでしょう。」
「はい、分かりました。…そういえばリーファ達はどうなるんですか?」
「三人は引き続き、杉山さんとの任務になります。彼女達には申し訳ないですが……。」
「いえ、杉山さんがついているなら安心です。あと、よろしくね…えーと…。」
「ふ、文香……で、いいわ。」
「文香さん。これから、数日間よろしくね!」
◇
路地裏の辺りを見回して誰もいないのを確認するとアビゲイル様の世界とつながる穴から飛び出した。
そして、私は頭を抱えてうずくまり叫び声をあげる。無論、近所に出来るだけ迷惑がかからない程度に…。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
やらかした!
つい、子供扱いされて拗ねて睨みつけるに飽き足らず。差し出して来た手すぐに握れなくて変なぎこちない感じになっちゃったしぃぃ!!
最悪!
「でも、手……温かったなぁ………。」
ぼそりと誰もいない路地裏で呟き、右手にそっと触れる。先程、彼が握った手だ。
今日は、これを……おかずに……。
匂いも、それなりにいい匂いしたしあの匂いのジャンプー買って帰るか…。
「えへっへ…。」
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