31話 買い出しとM野郎と妹さんと殺気

「やぁ!神室くん!」

授業も終わり、別に部活動にも所属していない俺はさっさと下校してついでに土曜日に来る奴らのための食材調達のために教室を後にしよう。

すると、突然うるさい声が響いた。

「…………はぁ。」

心底、深いため息をこぼす。何だか、まだ厄介ごとは起きる気がした。

「なんだ?」

「一緒に帰ろう!」

「部活は?」

「ないさ!!あのスーツの訓練とかあるしね!」

そうだよな。前のボーリング場でアーマーを着て戦っていたが、そりゃその操作の訓練とかしてるよな。

「大変だな。じゃ!」

「ちょっとー!?今僕、一緒に帰ろうってお誘いしたんだけどお!?」

さっさと帰ろうとする俺の腰に西園寺は巻きつくような抱きつき沼並みに前に踏み出せない。この野郎、見た目の割に重い。無論、脂肪というより筋肉が故だろう。

まがりにも、政府様のヒーロー主人公だしな。

あーうざってぇー。

「いや、帰りたい気持ちもあるが今日は寄るところがある。」

「どこだい?」

抱きついたまま、顔だけを上に向ける西園寺。中々に気持ち悪い。これやって許せるのは小学生低学年以下と合法ロリだけだ。グーパンをお見舞いしたくなる気持ちを抑え込む。

「帰り道にあるスーパー。」

「何でまた?」

「買い物だよ。それくらい分かれや。」

「ほー。」

なんか、目をキラキラしやがった。嫌な予感する。

「ついて行って良いかい!?」

「別に構わんが…今日も車で帰るんじゃねーのか?」

いつも、車でお迎えに来てるからさっさと乗って帰れ。

「呼べばどこでも来るから、場所が学校になろうがそのスーパーになろうが関係ないさ。」

これは、何が何でもついてくる気だな。

「………勝手にしろ。」

諦めつつ、学生鞄を肩に担いで、あらためて教室を後にした。





帰り道にあるスーパーはいつもお世話になっている。品揃えはそれなり、だが、魚が異常に安い。本当にそれ正規のやつかと問いただしたくなるほど安い。

しかも国産。

絶対に何かあるに違いないと料理を作り始めた頃から思っているが食べてお腹を下したことも、食中毒がどうのこうのというのは起こしていないところ赤字覚悟で頑張っているのかもしれない。

「なんだか、これからバーベキューでもするみたいで、ワクワクするな!」

付いてきた西園寺は随分と楽しそうにあたりを見回していた。

「まるで、スーパーにバーベキューする時にしか来ていないように言うな。」

「実際そうだよ。基本、料理はお手伝いさんが買ってくる。あー、妹が最近料理にハマってて一人で買っては厨房で自分で弁当作ってるらしいが…。」

金持ちめ!

しかし、すげぇ、流石妹さん。アレだけしっかりしてるのに何で兄はこんな感じになっちゃったんだろう。

「さてと、鮭はどこに…。」

鮮魚売り場の方へ向かっていると見覚えのある服装の篠柿の制服を着た女子生徒が魚たちと睨めっこしていた。

「最近、お肉とか増えてきたからお魚にしたいけど……どうしよう。刺身とかはぜったら無理だし。焼き魚っていうのもなんか…。」

どうやら、西園寺兄が言ったのは本当だったらしい。だが、何故刺身が出てくる点で恐ろしく感じる。

話しかけるのも、なんか億劫だしさっと横から鮭を取って離脱しよう。決めると彼女をから回り込もうとすると突然、あ!っと西園寺兄の声がひびく。

「妹よ!お前、ここで買い物していたのか?」

「に、兄様!?なんでここにって、ふぁ!?神室さん!」

ちょうど、回り込もうと彼女の背後に来ていたところだったので半分ドッキリ状態になってしまった。おのれ、西園寺兄。

「あー、ども。」

適当に笑みを作りつつ、お目当ての鮭を何切か手に入れる。キリのいいタイミングで抜け出そう。どうせ、俺を無視して兄妹水入らずの話が展開されるはずだ。

「毎回わざわざ買ってきていたのか?」

「あ、神室さんもお買い物でしたか…。お夕飯ですか?」

あれ、こっちにくるの?

兄様は?

無視は良くありませんわよ妹さん。思春期かな?

「夕飯というより、料理教室用と言うかなんと言うか…。」

「料理教室!?」

あ、まずい。食いかかってきてしまった。普通にそんなところって言えばよかった。

「あのッッッッ!」

突然、彼女は俺の両手を掴んでぐいっと詰め寄って上目遣いをしてきた。

「私、料理を覚えたくて毎日お弁当を作っているのですが中々上達しなくて……その私もその…お料理を教えてくださりませんか?」

なっ………なんだそのテクは!?!?

童貞を絶対殺す頼み方か!?

小さくか細い手が触れて、動悸が止まらない。ましてや、あの美少女の顔が近い。

なんか知らんが、背筋が凍る!

あれ?

おかしいな。この時は大体、恥ずかしくなって体が変に暑くなる流れじゃないの?

しかし、どうしたものか……。

「構わんが……今週の土曜だぞ?てか、それ以前に俺の家知らないだろ?」

よし、やりたい気持ちを伝えつつ、断る。実に紳士的な断り方だ。

「それは大丈夫だ。僕が知っている。」

あれ〜?

「なんでお前が知ってる。」

「友禅が教えてくれた。」

何してくれてんだあの野郎!?

「それなら、問題ないですね。よろしくお願いします!」

「ところで、神室くん。」

「なんだ?」

「その、椎名さんもここのスーパーを利用するのかい?」

忘れてた。こいつ、光の御子と椎名に恋してるとか言ったてわ。

待てよ……いや、流石に彼が惚れた光の御子と椎名が同一人物であるとは限らないか。

「ここで待ち伏せしてたまたま遭って偶然だなって言うつもりならやめたほうがいい。流石に不審者として捕まると思うぞ。」

「いや、そんな事はしないよ。ただ、あそこで椎名さんに似た人が僕らをじっと見つめているからね。もし、ほんとに椎名さんだったら……僕をストーカーしてくれてるのかもしれない!」

椎名に似た人?

ここのスーパーでそんな人見たこともないけど………。西園寺兄のいうあそこの方を見てみると紛うこともなき椎名天がこれでもかと不機嫌な顔をして見つめてきていた。 

それから、感じとるに確実に殺気を放っていた。光の御子の力を使っているのか先程スーパー全体の温度が寒くなったのは彼女のせいに違いない。

「…………」

「あの……椎名さんってまさか、古都高校の学績優秀者の?」

篠柿でも彼女は言う名なのだろうか…。それとも、兄から聞かされているのか分からないが少し怖そうに見ていた。初見であの人を殺す勢いの目を見たら怖いよね。

「カッコいい……。」

ボソリと俺の耳に聞こえるか聞こえないのかくらいの声で妹さんが呟く。

そうでもなかったわ。あれ、カッコいいのか?

「そうだな。今日は、とてつもなく不機嫌そうだけど……。なんかあったのかな?それとも……」

ふと、もしかしたら僕に気があるんじゃないかとテンションが上がる西園寺兄を横目に見る。

ストーカーっというより嫌いなやつをプライベートの時間に現れてあんな感じになっているのではないか?

「神室くん!これはアタックしてみてもいいのでは?」

ポジティブシンギングは良いことだ。なんにでも、自信を持って行動にうつす。素晴らしいことだ。だけど、今アタックするのは零戦一機でフル装備のアメリカ艦隊に突っ込むようなものだよ。

勇気と無謀を一括りにしちゃだめよ。

「行ってくる!」

やめたほうが……。

すすっと彼女の方へとブラックホールに吸いよられるように向かっていき片膝を滑るようについて右手を伸ばし手のひらを見せて手を胸に当てたいた。所謂、仰々しく告白するときのポーズだ。しかし、途端に椎名がアッパーを仕掛けて西園寺兄が吹き飛んだ。

「ところで、神室さんはいつからお料理を?」

いや、あなたの兄様吹き飛んでるよ?まぁ、関わりたくないと言う気持ちはわからんでもないけど…。

「親が仕事のこともあって家にいなかった日が多かったからな。だから、自分で作るしかなくてって感じ。最近は、働き方の改革ってやつでお互いが交互に作ってる感じだな。そっちは?何でまた、料理なんかを?」

別にお手伝いさんとかいるなら作らなくて良いのでは?

「西園寺家の言いつけは『完璧であり続ける』です。私は勉強やスポーツにおいては並の人よりも出来ています。ですが、家事や料理などどうしてもお手伝いさんがしている仕事が私には出来ない。それを克服してこそ、『完璧』であると自分で言えるんです。」

か、完璧かぁ。

人それぞれ、得意不得意があるだろうて…。

「なら、妹さんは完璧に美味しい料理を作らないとな?」

「はい。よろしくお願いします!」

「何楽しそうにしているの?」

ひっぇ!!

俺と西園寺妹の間に割り込むように椎名が現れた。西園寺兄は……床でなんか嬉しそうな顔して倒れてる……が、平常運転だな。






無事、真莉への尋問が終わりどうしてあの三人組がリクの家に行くことになったかの経緯を把握した。

湊のために料理の勉強とは可愛いところがある。とは言ったもののリクのかっこよさに三人のうちの誰かが軽くコロッとリクが好きになるということは否めない。いくら、湊のことが好きでも所詮盛った女。警戒しておいたほうがいい。そのため、なんとか口実を作ってリクに話しかけようとしたところ彼は西園寺と土曜のための買い出しに向かっていた。

そして、あの美少女がいた。

あの、いとも容易くリクに近寄って来たあの子は中々の強敵だ。料理の勉強のためにリクの手を包むように掴み完全に逃れられないようにしてから小動物よろしくの上目遣い。

どうぞ私を服従してくださいと言わんばかりのあの仕草で一体何人の男の子を殺して来たのやら…。恐ろしいまである。

だが、落ち着け私は冷静だ。

冷静に……冷静に……。

「椎名さん!!僕と付き合っ具バレバッズ」

迫って来た西園寺を冷静に膝から上体を少し屈ませてから、一気にカチ上がる。

よし、決まった。

何度もうざったらしく、くる彼にはこれくらい見舞わせたほうがいい。

くらわせた後に未だに話しかける二人の元へと近づく。だと言うのに、リクはお喋りに夢中なのか全く気づいてない。

私が二人のど真ん中に仁王立ちしてようやく気付いてくれた。

「あの、椎名さん?」

「楽しそうね。」

「そうか?」

「楽しそうね。」

「な、何で2回?」

「何ででしょうね。」

「……聞いたわ。土曜日なんか料理教室を開くみたいね。」

「………なんで知ってんの?」

「私も行く。」

「えぇ…」

「………私も料理に興味があったの…。」

「あ……あのぅ〜。」

「なに?」

か細い弱い声が隣から聞こえて振り向くとびくびくと震える西園寺の妹の姿。そこまで、怖がらなくてもいいのに…。

「初めまして私、西園寺椿って言います。その、色々と愚兄が迷惑をかけているようで…。」

あら、兄のわりにはいい子みたいね。それもそうか、見る目はあるみたいだし。でも、リクは渡さない。

「あ、流石に色々あったとは言え貴方の兄を殴ってごめんなさいね。」

「いえ、その点に関してもっとやってやってください。その方が彼のためなので…。」

あれ〜?

「え、あ、貴方の兄でしょ?」

「正直、ちょっとキモいんで…。」

「そ、そう……。貴方、連絡先教えてもらえる?」

「え?」

「なんだか……貴方となら友達になれそう。」

「は、はい!私もあの女王椎名さんと友達になれるだなんて嬉しいです!!」

この子、思っていたよりもいい子かもしれない。と、視界の範囲でリクがそっと帰ろうとしていた。

「リク…またね。」

「…………はいはい。」

よし!

これであの三人組の監視かつ、リクと料理が作れる!!!!





なんか、いきなり連絡先の交換を始めた椎名と妹さん。なんで?

そんな急に意気投合する?

「神室くん。いいかい?」

「どうした?」

いつの間に復活した西園寺兄は声のトーンを落とていた。

「今日、シャドウが絡んでいるのかもしれない案件が付近で発生したんだ。その情報を渡したいから夜に君の家の近くの公園があるだろう?」

……以前、湊とリーファが戦った場所だな。たしかに、人通りは異常に少ない。極秘の話ならうってつけか。

「了解した。」

「それじゃあ、後で…。」



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