一万人PV記念(今更) ラーメン

ある日、発生したシャドウを倒した後。俺は戦闘によるアドレナリンによって眠気が一切ない。そのため、深夜の街を散歩ついでに徘徊していた。本来ならば、レヴィが転移で家の自室まで飛ばしてくれるが今日はお断りした。偶には、深夜徘徊も悪くないだろう。

真夜中に一人で夜廻り。あたりに響くのは自分の足音と虫の音。周りには人の姿は一切ない。

なんというか、自由気ままに我が物顔で歩く猫になった気分だ。

いや、一人ではないか。

宝石の中に一人と後ろには……。

振り向くと銀色の塊、つまりはヒヒイロカネくんがのっそりとついて来ていた。

ん?

ふと、豚骨の匂いがするなと思うと視界の先に屋台が見えた。名前を見ると《杉ちゃん拉麺》とド派手に蛍光灯が点滅していた。

へぇー、こんな所にラーメン屋があるとは…。……いや、これ許可貰ってるのか?昭和みたいにど真ん中の街にあるとか…。通報したほうが良いのでは?

しっかし、良い匂いがするな。

ぐるぐるぐるぅぅ。

豚骨の匂いで俺の胃は急に夕食分を腸へと押し込み、お腹が消化物を欲していた。というか、お腹も空いてないけど急に真夜中にラーメンが食べたくなる欲求あるよね。

日本人だからかな?

無論、インスタントラーメンでもそれの欲求を満たせ、かつ、安くて済ませられるが…。

ポケットから財布を取り出すと千円札が三枚。

「……食うか。」

『何を?』

「いや、ラーメン食べて帰ろうかなって…。」

『らーめん?なにそれ』

「知らない?そっか」

レヴィは神秘的なことを知っているが常識というものがないところが多々ある。服を中々着ないところとか、まぁ、いろいろと。

「食べてみる?」

『美味しいの?』

「うん。比較的…。」

『ふーん。』

宝石からレヴィが飛び出して来た。どうやら、気になっているらしい。しかし、見た目は完全にフレンチとからへんが好きそうだし、お気に召すだろうか…。ヒヒイロカネくんは代わりに宝石の中に入れよう。宝石を取り出して後ろからついてくるヒヒイロカネくんに近づけると宝石の中へと吸い込まれるように消えた。

「じゃあ、私をエスコートなさい。」

手を出すレヴィはそれこそ舞踏会に出席するような気品さがあるが……。

「………」

「どうしたの?」

疑うように俺を見つめる彼女は、初めて会った時の黒いドレス姿だった。正直、真夜中にラーメンを食べに行く格好ではない。何というか、変に目立ちそうだな。まぁ、深夜にラーメン食べに来ている時点で目立つか。

「ラーメン屋でエスコートのエの字もないが……分かりましたよ。あと、服装はドレスでわなくラフな恰好でいいよ。」

「そう。」

諦めて、俺は彼女の手を取り、屋台へ。そして、レヴィはいつもの清楚な白いシャツに紺のロングスカートの姿へと変えた。

「すんすん………良い匂いね。」

屋台の前に着くとレヴィはいつも通りの声で呟くが、目をキラキラとさせていた。

意外だ。

なんだか、外国人に日本の文化を教えている感覚ってこんな感じなんだろうか…。

「すいませーん。」

「いっらっしゃーい!」

暖簾を分けて顔を出すと若い男性が笑顔で出迎えた。こんな夜中で元気やな。一瞬、疲れた顔してたけど…。

夜勤かな?

見た目は大学生っぽい茶髪のチャラい兄さん。

手元を見ると道具を片付けようとしていた。

「あ、もうやってない?」

「いいえ!大丈夫ですよ。自分お客さんが来ないから帰る準備してただけなので、来てくれてサンキューです!あ、お二人ですね!空いてるところにどーぞ。」

連れがいるのに気づいたのか、レヴィの方にも挨拶を交わす。すると、お兄さんお兄さんっと俺の肩を叩いて来た。

「ラーメン屋はデートには会わないっすよ〜。もしかして、初デートですかぁ〜。あ、それともここで口説くつもりっすか?それこそやめたほうがいい。」

「デートかつ口説きに来たんじゃないですよ。腹空かせて来たんです。それよりも、俺の立場はこれの保護者って感じですよ。」

「ふざけないで、あなたが私の保護者?逆でしょ?」

心外だとばかりに牙を立てるレヴィに店員が口笛を鳴らす。

「おぉー。気の強強ねぇさんがタイプなんすねー。いいなぁ!青春だなぁ〜」

「……いいから、メニューないの?」

だんだん、煽るような物言いに苛立って命令気味に店員に聞く。なんで、ラーメン食べるだけなのに疲れるんだ。というか、何故、高校生がこんな夜中にラーメン屋訪れてることに突っ込まない。あれか、大人びてるからっていうのか!高校生に大人びてるは、顔がおじさんとかおばさんですねって間接的にいってるようなもんだぞ!気をつけろよ、俺たち子供は傷つきやすいんだぞ!

「あ、こちらから選んでください!」

脳内で喚く俺を尻目に店員がプラスチックのメニュー表を渡される。

「何にする?」

「あなたに任せるわ。」

「はいはい。……んじゃ半チャーハンセットのバリカタを一つとと普通のラーメンを一つお願いします。」

俺は大体ラーメン屋で買うもので良いとしてレヴィにはまぁ、普通でいいだろう。一瞬、ハリガネをお願いしようかと思ったが後が怖いからやめた。

「かしこまりましたぁ!」

忙しない動作で作り始める店員の顔は急に真面目になった。ちゃんとした店員らしい。口は減らないけど…。

さほどの時間も掛からずに半チャーハンについていた餃子三つがきた。カウンターの餃子用のソースをかけていると視線が感じられた。もちろん、俺でなく餃子に…。ちらっとレヴィを見てみると口から涎が落ちそうになっていた。

いつもの威厳たっぷりな顔どこ行った?

「………」

「………」

「……………餃子…一ついる?」

「なっ!?別に欲しくないけれど、どうしてもというのならば貰ってあげないでもないわ。」

いってる割にはまだラーメンも来ていないのに割り箸を割り始めた。

仕方なく、餃子に入った皿を彼女の前に差し出す。嬉々として、レヴィは餃子を摘み口の中に放り込んだ。その横顔はいつも大人びて余裕のある顔ではなく美味しいものを食べて幸せな子供のようだった。

久々に今度、餃子を作ってみるか…。ふと、そんなことが浮かぶ。

「おまたせ、しまっっしたぁー」

「あ、ありがとうございます。」

店員がラーメンを机の上に出した。そして、遅れて半チャーハンが…。

「…ありがとう。」

同時に、レヴィから満足げに餃子の入った皿が返されるも全部なくなっていた。おいこら、一個だけっていったろ。

レヴィに抗議するように睨むも彼女は大きな丼の中を物珍しそうに眺めていた。本当に、ラーメンを知らなかったのか…。そういえば出自の話を一切したことないな、彼女から聞いた話は殆どが光の御子関連のことで彼女自身の話は聞いたことがない。

「いただきます。」

変なことを考えながら、ラーメンを啜る。

うん。うまい。

典型的なとんこつラーメンだ。この油に油の油といった味だ。好き嫌いは分かれるがこれが良い。

俺の様子を真似るようにレヴィも苦戦しながらもラーメンを小さな口で啜っていた。啜る時に長い髪が邪魔になったのだろう。どこからか取り出したゴムで髪をまとめた。

「はふっ、はふっ……」

黙々と豪快にラーメンを啜る彼女に意外そうに店員が見開く。まぁ、品の良さそうな人が男みたいにラーメン啜ってならそらそうなるよなギャップで…。

しかし、満足げな表情をする限り随分と楽しそうだ。横目に彼女を見ながらラーメンとチャーハンを食べる手は止めず頬張った。



意外とペロリと平げやがった。

横目でレヴィの丼を覗くと汁まで綺麗さっぱりなくなっていた。そこまで食べなくても良かったのにな。だが、見る限り気に入ったのだろうかと彼女をみると食った食ったっと言いたげに水を喉に流し込んでいた。

「おいしかった?」

「ええ、悪くないわ。」

「それは何より。んじゃ、ご馳走様。」

「はい!ありがとうございましたぁ!!」

立ち上がって、カウンターの上に半チャーハンセットとラーメン一杯分の料金を置くとせかせかと屋台を後にする。

「戻らないの?」

隣のレヴィは宝石に戻ることなく俺の隣を歩いていた。

「少し夜風に当たりたいの。」

舞う銀色の長髪は、満月の光でより一層輝きを増す。

「左様で……。」



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