放送局

28話 嫁力…… 改訂版

湊海の朝は、気が気でない。

アラームが鳴って、体を起こそうとすると動けない。毛布を捲ってみると海を覆い被さるようにリーファがすやすやと寝ていた。


「………またか。」


リーファのアレが左腕に当たって感触が伝わるが無心を心がける。なぜなら、反応するとリーファはからかってくるからだ。

毎度のことだが、どうしてこうなるのだろう。

リーファには、きちんと部屋を用意したはずだ。

さらに、彼が寝る時は確かに自分だけのはずだった。

彼女曰く寝ぼけていつもトイレに行くたびに僕の布団に入っているらしい。


「あのー、リーファさん?」

「んっんん」


ちょんちょんと頬をつつくも一切起きる気配がない。

無理に引き剥がそうと試みるが無駄に握力が強くてなかなか離れない。

このような時は、いつもの魔法の呪文を使っていた。


「…………朝ごはん。」


バァッッサッッッ!!

という効果音が出るほどの勢いで布団が吹き飛んでリーファが離れた。

布団から現れた彼女の姿は、長袖のシャツにショートパンツと何故か海の服を着ていた。


(……なんだか、変な気分になるな。)


そして、両手を上に伸びをすると振り返る。


「ウミィィィィ!!おはよ!」

「おはよう。本当に元気だな。」

「まぁね!昨日はゲームでハイスコア出せたしぐっすり眠れたわ!!」


うーんと伸びをしつつ、得意げに自慢する彼女に思わずはにかむ。

見た目がアウトドア派だから、ゲームなんて寧ろ嫌いなタイプかと思えば、寧ろ、大好きな部類らしい。

海は、一度「入るな見るな」と言われた彼女の部屋の中を覗いたことがあるがゲーム機や何かのロボットのフィギアとポスターだらけの部屋だった。

所謂、オタク部屋というやつだろう。


「そうだ!!」


何かを思い出したのか、彼女は部屋を出て行ってしまった。


「全く、忙しいなぁ。」


今のうちにと、掛けてある学生服に手を伸ばす。そうでないと学校に間に合わなくなってしまうだろう。

流石に、短いスパンで遅刻は学生にとって色々と怖いものがあるのだ。

制服に着替え終わると何やら、ドタドタと足音が近づいて来る。

恐らく、リーファだろうと振り返ると大きなバックを持って来ていた。

そして、バックから色々なまっくろい機材が出てきた。どんだけ、ゲームを持ち出してきたんだろうか…。


「ねぇねぇ、明日から土曜日だし、学校が終わったらさ、このRPGゲームしたいんだけど一緒にしよ!」

「う、うーーん。」


彼女は、まるで母親に構ってもらおうとする子のような純粋な瞳を向けてきた。

海は、今日の放課後の予定を思い出していた。

部活が8時近くまであるから、9時以降になるのは明白だ。そこから、ご飯を食べてお風呂に入って。

確実に、11時以降になるだろう。

体力的にきついはずだが、楽しみにしているリーファに断りの言葉を伝えるのは少し酷だった。


「わかった。一緒にやろう!」

「やったー!それじゃあ、朝ごはんね!」

「あぁ、そう言えば」

「どうしたの?」

「食べ物で思い出したけど、母さんからリーファにお隣の挨拶をする様に言われてたんだった。」


リーファは、あくまでホームステイとしてきているのであって引っ越して来たわけでないので良いだろうと思っていたが、彼の母からそこら辺はしっかりした方がいいと昨日の夜言われたことを思い出した。






「皆さん。オふぁナふぃがありゅまふ。」


昼休みの時間。

珍しく、海がいない昼食を取り巻き達が過ごしていた。

彼はというと部活会があり、お昼は先に済ませて今は会議室で野球部の予算のお話し中だという。

本来ならば、彼の先輩がすることであるが一年生ながらエースとしてはっているためか監督がどちらにせよキャプテンを務めるのだから早めに経験した方がいいだろうと遣わされていた。

取り残された三人は仕方なく、教室で一緒にいるメンツで机をくっつけて昼食を取っていたのだ。

そんな中リーファが神妙な面持ちで話を切り出した。

頬は食べ物でいっぱいなのだが…。


「ど、どうしたのいきなり?」

「ちゃんと食べてから話しなさい。はしたないわよ。」


今までいつも通りに食べていたところ、いきなり変化した彼女につぼみも心配そうに声をかける。

どうせ、ロクでもないことだろうとたかを括っていた桔梗は弁当の箸を止めずにタコさんウィンナーを口に運んだ。

彼女はと言うと言葉に従って口の中のものを全て飲み込むと続けた。

意外と聞き分けがいい。


「私たちは、お互い先に倒さねばならない男がいるのを知ってる?」


両手の指を組んで額に当てるリーファはこれ以上ない真剣な顔だ。

光の御子の話かと察した二人は、周りに気を遣って、声のボリュームを小さくする。

光の御子として、シャドウとの戦いに身を置いた彼女は常に危険と隣り合わせの生活を余儀なくされている。


「何のこと?」


彼女は光の御子の先輩である。常に有益なことを言うのかもしれない。


「そう、神室陸ことが私たちの真の敵なのだと…。」


違った。真面目な話じゃなかった。

そもそも何で神室かと怪訝な顔をする二人。

初めは敵とはシャドウの親玉のことかと思ったけど…。

彼が海の同じ幼馴染ってことは彼自身から聞かされていた。

だが、なぜか。

影が薄いのか、あまり記憶にない。

初めての戦いの際に光の御子の状態で話したことだけで彼が政府の関係者ってことだけは知っていた。


「敵って何?」

「恋敵よ!」

「あの人、男だよね。」

「何なのよ、真面目な話と思った私が馬鹿だったわ。」

「なっ!真面目な話よ!!」


バンっと机を叩いてリーファは身を乗り出す。うわっ胸が揺れて、その贅肉剥ぎ取ってやろうかしら!!という桔梗の目が怖くなる。


「まぁまぁ。それで、なんで神室さんが私たちの敵なんですか?」


不思議そうにつぼみはストローで牛乳を吸いながら首を傾げる。


「よくぞ聞いてくれました。ふかっち!そう、それはお隣の挨拶の時の話…。私は湊から勧められてつまらないものですがと言う呪文を教えてもらって今日の朝にカムロンの家を訪れたのです。」

「つまらないものですがと言う呪文って……いや、たしかにそれいえば何とかなるっていうのも否定できないけど…。それでどうしたのよ。」

「彼は、部屋から漂う甘い匂いと共にエプロン姿でやってきたわ。」

「へぇ、あの人料理できるんだ。」


意外で思わず桔梗は、声が出た。

しかし、男が料理をするのも珍しくもないだろう。主夫と言うのもあるくらいである。


「………それが敵とどう言う関係が?」

「うん。私は彼に湊から教えてもらった呪文と共にお菓子をあげたんだけど、その時にお返しに作り立てのクッキーを分けてくれたの。一袋分。」

「へぇー。神室さんってクッキー焼けるんですか…凄いですね。」

「どう?美味しかったの?」

「えぇ、それはもう一口で幸せになるくらいに…。こちらが貰ったクッキーの残りです。」


バックから紙袋が出て来るとそれを机の上に乗せて中を開くとふわりとバターの香りが漂った。


「えっ、本当に美味しそう。一個もらっていい?」

「私もいいですか?」

「うん。食べて食べて。」


リーファに許可をもらうと二人は手を伸ばしてクッキーを掴みそのまま口の中に放り込んだ。サクッと歯触りのいい感触と共に甘い味が口いっぱいに広がった。


「「……………お、美味しい。」」


「何なのよこれ…お店とかで食べるレベルじゃない?あんな地味な見た目してやるじゃない。」

「でしょでしょ!湊のお母さんに聞いたら、彼は小学生から親が家にいないから、ずっと家のお手伝いをしていたんだって、それで今では家事は全てこなして料理もうまうま人間なったらしいの。」

「中々の苦労人なのね…。少し、彼に対して知らない人と言っていた私に喝を入れたくなるわ。……流石に本人には言えないけど。」


そして、桔梗は天へ向かって知らない人って言ってごめんね…神室くんと心の中でつぶやいた。


「そして、よく湊にも料理を振る舞ったこともあるらしい。んで、ここからが重要。その時に、ウミの母はこう言ったの……『あの子の料理がまた食べたくなったわ。できるならああいうごはんが美味しい子を嫁に欲しいわね』って……」

「「…………」」


沈黙が私たちを包む。

なるほど、リーファが言わんとしている事は分かった。

あの男……中々の強敵だったわけね。しかも、母親認定とは…。

まさか、既に胃袋は掴まれた後だったと…。


「そ、そんな。で、でも神室さんは男の子ですよ!」

「いいや、つぼみん。ウミのカムロンへの反応は怪しいわ。ずっと、彼を目で追っているし…。恐らく、気づいていないだけでどっちもいける口よ。」

「確かに、今まで私たちは彼にアタックを何度も仕掛けたけど中々それに湊は気づいてくれない。そう言うことを考慮しなくてはいけないのも事実。」

「…………なんとか、しなくちゃいけないわよね。」

「うん。このままでは神室に海を取られるのも時間の問題……。」


すると、視界の端でつぼみがそろりと席を離れようとしていた。それに気づいた桔梗とリーファは彼女の手を両側から掴む。

全く油断の隙間ないとは、このことである。

そして、リーファが咳払いをした。


「どこに行こうと言うのだね。」


どこか言ってやった感がすごい。


「本当、閃きと行動力はピカイチね。抜け駆けも…。」

「え、いや、その……。あはは……。」


戯けて、笑顔を作っているが焦っているのが目に見えてわかる。


「答えなさい。何を思いついたの?」

「……そのぉ、だったら、神室さんに料理教えてもらったら湊くんも喜ぶかなぁ〜って……。」


目を泳がせながら、つぼみは白状する。

確かに、その通りだ。

湊の胃袋を掴んでいる神室陸の料理をマスターすれば、とてつもない切り札となりうる。


「なるほど。それは盲点だったわ。」

「それじゃあ、彼に料理を教えてもらうということでok?」

「そうね。ここはフェアにいきましょう。」

「そ、そうですね。フェアって大事ですしねぇ〜……」

「よし、決まれば彼の元へ行くわよ。湊がいないうちにね。この教室にいないから、恐らく食堂かしら。」





一方その頃、3人の話を聞いていたものがいた。

これはこれは中々面白いことになりましたな。

光の御子の身体強化で聴覚をあの湊海の取り巻きたちの話を聞いているとどうやら神室くんに料理を学びに行くとな。


「………どうしたの?ニヤニヤ顔して…。」


今日は神室くんとご飯を食べに行かなかった天が弁当をつまみながら不思議そうにこちらを見た。


「いやね、思い出し笑いよ。」

「余計気色が悪いわよ…。また、何か盗み聞き?悪趣味は早めに治したほうが身のためよ。」

「まっさかー。ただ単純に昨日見てたバラエティーの思い出し笑いだって…やましい事は全然ないない。」

「そんなことを言う日は大体やましいことを考えているとき……ん?」

すると、突然天があたりを見回した。


「どうしたの?」

「いま、リクのクッキーの匂いがしたんだけど…。気のせいかな……。」


へぇ、匂いだけで神室くんのクッキーだとわかるんだ。相変わらず、神室くんに対してはちょっと怖いくらいよね。重いなぁ。

………良いこと思いついてしまった。

神室陸大好きヤンデレ椎名天と神室陸に料理を教えてもらおうとする湊大好き三人衆……合わさったらどうなるんだろう。

視界の先では三人組が教室を出ようとしていた話の流れからして湊くんがいないうちに食堂にいる神室くんのもとへ行くんだろう。


「………そうだ。ちょっと、購買行かない?」


上がる口角を必死に抑えて、私は天にそんなことを提案した。

絶対に面白い事態になりそう。

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