第17話 エアグルーヴ 改訂版

古宮高校から車で二十分ほど走らせた先にある古宮浜の付近に『甘味処エアグルーヴ』はある。

とてもおいしいことで有名ではあるがなかなかに高額なお茶菓子しか売られていないため大盛況とは程遠い。

陸自身も滅多に来れずなけなしのお小遣いをやりくりして二ヶ月に一回しか食べに来ることはない。

そして、彼はここに来るのは一ヶ月前に食べた以来だ。

思わず未来へ手を合わせて崇め奉っていた。


(まさか、一ヶ月後の今日に食べれることになろうとは……西園寺 is God。)


しかし、平日の夕方というのに珍しく今日は人が多い。お昼には、裕福な年配が訪れるのでその時が稼ぎ時なのだろうなと思っていた陸は意外に思っていた。

見れば、サラリーマン姿の人が多い。会社帰りによるのだろうか。

あまり観ない光景だ。

前回も同じ時間帯に来た時は、多くても三人程度だったが今日は十人近くもいて数少ない席がいっぱいであった。

だが、そんなことは今の陸にとってどうでも良かった。

目の前の摩天楼の如きパフェに心奪われていた。

スペースシャトルのように上積みに上積みされたソフトクリームとアイスクリームがお互いを支え合っていて、彼らを固定するようにバナナなどの果物が下敷きになっている。

ガラスの器から、フレークが見て取れそこに至るまで全てクリームが敷き詰められていた。

陸は、その美しさを賞賛するようにパァーフェクトっとつぶやくと、スプーンで掬い、口元へと運ぶ。


「う、うみゃい。」


そんな言葉が漏れ出した。あまりの美味しさに涙が今にもこぼれ落ちそうなほど噛み締めるようにスプーンに残ったクリームを舐める。

現在の陸の顔は最高に気持ちが悪い。


「そ、それは何よりだ。」


若干、陸に引き気味である未来。

彼はというとシュークリームがポツンと一つ。


「んで、なんで俺ここにいるんだっけ?」

「ちょっ!?忘れてもらったら困るよ!相談だ!相談!!」

「あー。」


(そういえば、そうだった。)

気は乗らないが、パフェ代と考えるなら安い方だろうと丸まった背筋を伸ばす。

どうせ『好きな女性ができた!どうすればいいのか?』、『好きな子に好かれたいんだがどうすれば?』とかだ。

その時には、大体知ったふうに話したら勝手に向こうが都合がいいように納得するはずである。

天には迷惑がかかるが、それは陸の預かり知らぬこと。

もし、それでも納得しなければ適当に向こうがスッキリするくらい話を聞いてあげて(聞き流して)、行動あるのみの一言でごり押ししたら大抵のことは何とかなる。


「うん、馬鹿らしい……そう思うかもしれないけど……」


深刻そうに顔を下に向けて、彼らしくない自信の無い声色。意外だ。

相当、椎名のきつい当たりが効いたのか。


「僕は、今、二人の少女に恋をしているんだ…。」

「ほう…………ほう?フタリ……二人……二人!?」


青春ですなの一言が浮かぶ。てっきり、椎名だけと思っていたために初めてスプーンの動きを止めた。


「へ、へぇ。それは、難儀だな。一人はあれかな俺の情報網から聞いた話だが…一人は椎名だろ?」

「なっ!?やはり、友禅が言った通り全て知っているんだな!?」


未来はまるで自分の心が読まれたと思っているのか、目を見開いて相当驚いた様子でこちらを見ていた。

もっとも、『読む』というより『見た』が本当は正しいが反応が面白い、且つ、知ってるということで話のマウントとるためだ。

定期的に奢らせることを目的にした。

(……それよりも聞かねばならないことがある。)


「…もう一人はだれなんだ?」

「それは……ね。その、これが一番馬鹿らしいんだけど…。」


目を逸らして、声が次第に小さくなる。


「魔法少女に恋をしたんだ...」

「......なんて?」





陸が未来から、相談を受けていた一方、無事ジョン・ドゥという謎の戦士(陸)の手助けによって倒されたシャドウを湊海は眺めていた。

あの後、光の御子となることを決断した二人は僕とリーファによって顕現したワープホールで光の御子の主人たる、アビゲイルの元へ契約をするために向かっていった。

それから数十分は経過している。ある程度の話は二人にはしたが更に詳しい説明を受けているのだ。


「ごめん!待った?」


裂けた空間から、ひょっこりと桔梗とつぼみが赤面した様子で現れた。

二人は、リーファと同じような可愛いフリル姿だった。

桔梗は青を基調としてすらりとした足とお臍をあらわにしていてとてもセクシー。

対して、つぼみは長いロングスカートだが、前方が大きく開かれていて、こちらも太腿が少し露わだがどちらかとキュートと言ったふうだ。

ついつい、視線に困った海は三人を交互に見て取り敢えずつぼみに逃げこんだ。

もっと、動きやすい服装にすれば良いのにわざわざフリフリのものは戦闘の妨げになるのではないかと思うがこの服こそが彼ら光の御子のある種の特徴である。

男性に比べて、女性は防御魔力に非常に優れているのだ。そのために、男性、つまりは、海などの光の御子は衝撃な耐えられるスーツを着なければならないのだ。


「いや、そこまでは…。それよりアビゲイル様との話は終わった?」

「うん。とっても綺麗な人だったね、つぼみ!」

「う、うん。とても、優しかった。」


つぼみが何度も頷く。二人の表情は赤らんでおり何事もなかったようだ。


「……ところで何で出てこないの?」


なかなか、裂けた空間から出てこない二人に違和感を覚える。


「あ、いや、その…。」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいというか…。」


二人はお互い顔を見合わせて何やらボソボソと会話をする。


「つぼみは可愛いの似合うからいいじゃん!恥ずかしがることないって」

「い、いや、自分が可愛く無いのは自分が分かってますから!それより、桔梗ちゃんのほうがスタイルいいし、それに、可愛いのに…。」


声があまりに小さくて海には聞き取れないが、何やら、揉めているらしい。


「見てられないわね、よいしょっと!!」

「「きゃっ!?」」


もう、焦ったくなったのかリーファが手を突っ込んで二人を引っ張り込んだ。二人はそのまま宙を待ってそのまま海の真上まで上がるとそのまま重力のままに彼の元へと落ちてきた。その際に思いっきり柔らかい何かを鷲掴みしてしまった。


「ご、ごめんウミ……ってどこ触ってるのよ!?」

「え…?ぎゃぁぁぁ!?」


桔梗は、お尻に手を添えながら、回し蹴りをしてきた。

なかなか綺麗に顎に決まると人形を投げ捨てるような勢いで数メートルは軽く吹き飛ぶ。軽い浮遊感で手足が泳ぐのも束の間壁に激突。

目の前は黒く反転。

(あれ、僕死んだ?)

だが、良くも悪くも光の御子。すぐに意識が戻る。


「あ、あれ?」

「ちょっ!?桔梗ちゃん!?」


あまりにも飛んだことに驚いて回し蹴りをした後の体勢で固まっていた。つぼみも目を点にしてその現場に唖然とする。

呆ける二人にリーファがぽんと背中を叩く。


「これが光の御子の力よ。それに、good jobサクラ!たまにはあの男にはああいうのかまさないとね!」


どうやら、リーファは知らぬ間に湊に恨みを持っていたらしい。毎回のアプローチに何の反応もない海が悪い。


「ぼ、僕が何をしたって…。」

「光の御子となったものは常人より異常なほどの力を得るってアビゲイル様から聞かなかった?」


言葉を遮るようにリーファは話を進める。

聞き入れる気がまるでないことに理不尽さを湊は覚えるが彼が悪い。


「いや、聞いてはいたけどここまでとは…。」


桔梗は自分の両手を開いたら閉じたりしてじっと見つめていた。


「おうおう、美少女のお尻を鷲掴みしてからの美少女からの回し蹴りを喰らうたぁ。いい、青春謳歌してるねぇ。全く。」


塀の上に刀を肩に担いで腰を下ろす男がこちらを見て呆れるようにため息をこぼす。


「杉山さん!?」

「はいはい、みんな大好き頼れる杉山さんだよ。それにしても、上級の中でもかなり強いシャドウを一撃で倒すだなんて……かなりやばそうだな。黒コートは…。」


何故、ジョン・ドゥがやったことを知っているのか…という疑問が浮かんだが恐らくアビゲイルが見ていたのだろう。桔梗とつぼみの光の御子の手続きもスムーズ出会ったことを思い出す。


「ところで、銀髪の少女はその場には居なかったのか?」

「そういえば、見ませんでしたね。恐らく、遠くから見ていたんじゃないですか?」

「そうか。」

「それより、杉山さんは何故ここに?」

「あぁ、アビゲイルより。指令がきてな。最近のシャドウの活発化や黒コートの件で通常二人組での行動だったが、特例で新人四人に一人の零のメンバーが入り計五人組での活動となった。俺はお前たちに組み込まれたんだ。これからよろしくな?」






「なるほど、魔法少女と…。」

「あぁ、そうなんだ。」


何言ってんだこいつ。

………と数日前なら陸は言ってただろう。だが、その数日で事情が180度くらい変わった。

なにせ、その魔法少女とやらに嫌なほど馴染みがあった。

恐らく、光の御子のことだろう。 

てか、それ以外に心当たりがない。


「意外だね。馬鹿にされるかと思ったよ。」

「いや、馬鹿にするというよりどう答えていいか悩んでる。とりま、病院行く?」

「ははは。」


適当に合わせて話を進ませる。そういえば、自分自身もも知らない体で話さないといけないのを思い出す。

あまりにも理解が早すぎると変に思われる。

なんとか、やり過ごさなくてはならない。


「取り敢えず、順を追って話してもらえるか?」

「わかった。」

そして、落ち着かせるように深呼吸をすると西園寺は話し始めた。






「昨日の出来事だ。

僕は親の都合…でこの古宮高校へとやってきた。

僕は生まれてからというもの両親が優秀な人だったから不便なく寧ろ贅沢な生活ができた。欲しいものは言えば手に入るし、勉強も出来る。正直、学校の授業は出来すぎてつまらないから既に大学の教授を家に呼び寄せて暇な日は講義を受けている。

それに、女の子だってそうだ。僕が話しかければ誰だって振り向いてくれた。

傲慢にもほどがあるけど…この世は、全て僕の思うがままに動いてくれているんだって思っていた。

……でも、そんな日はたった一人の少女によって覆されたんだ。

ある人に、この高校で一番人気の女の子の話をしたらみんな椎名天という名を口にした。

傲慢だった僕は彼女を呼び出して、俺の彼女にしてやろうと思った。

その時に、僕は彼女に拒絶され暴力を受けて叱ってくれた。

情けないが僕はこれでようやく自分が幻想の中にいることに気がついたんだ。」


語る西園寺は和やかな表情だった。

相当、まともを教えてもらったことに感謝しているらしい。しかし、考えを改めないとなと陸は、反省する。

(別にマゾという訳では無いようだし…。)


「今でも、彼女から食らったビンタがまだ頬がヒリヒリしてるんだ。とても、心地よいんだ。」


(前言撤回、やっぱマゾであったよ。こいつは…。さっきの感動返して欲しい。)


「それで、まぁ、椎名の話は分かったけどもう一人は何なんだ?」

「うん……。彼女と出会ってすぐ…僕は感動が冷め上がらないなか…車で帰路についていたんだがその時に巨大な化け物を目撃した。」


恐らく、彼の言う化け物というのはシャドウのことだろう。それにしても、やはり光の御子とシャドウの戦いを目撃していることはあるのか…。

『それは無いわ。』

突如、脳内に響くようにレヴィの声がした。

『普通はアビゲイルによって目撃した人間は認識阻害に遭うし、日本政府によってその場一面の修復をしているから一般人は知るよしも無いはずよ』


彼女も動揺しているのか、焦っているような声をしている。

もし、彼女の言葉が本当ならば…まさか。


「あまりの非現実に僕は夢だと思っていた。恐るべき化け物に恐怖した。その時だ、青い閃光と共に魔法少女が現れたのは…。彼女はあっという間にそれこそ映画のスーパーマンのように化け物を倒した。……その時に教えてもらったんだ。その時の運転をしていた執事のじいに…光の御子という存在を…。」

「なぁ、お前の執事って何者なんだ?」


光の御子でもないのに、その単語も知っている。それは、あり得ないことだとレヴィが言ったということはつまり彼は…。


「彼は僕の父……元防衛大臣の秘書だったんだ。」


政府と何らかの繋がりがあるということだ。


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