第16話 M野郎と… 改訂版

学校の終了のチャイムが鳴り響く。

神室にとって異様に長い一日の半分が終了し、放課後に学校に用がない彼は多くの部活動生がそれぞれグラウンドやコートへと向かう中それを逆らうように校門の方面へと向かっていた。

この学校は部活に入っている割合が九割を超えるほどだ。

すると、校門を通り過ぎた先に道路があるのだが、そこには全長が長いリムジンが止められてあった。排気ガスの臭いに目を顰める。

(すごいな、初めて見た。でも、なんでこんな所に...。)


「君が、神室陸で間違いないか?」


ちょうど、校門を通り抜けようとしたときに横からどこか聞き覚えのある声で話しかけられた。声の主は誰かと振り向くと西園寺が壁によりかかって、涼しげな目でこちらを見ていた。

(あ、M野郎だ。)

ついうっかり、喉から出そうになったがギリギリ心の中で押さえられた。あのリムジンの持ち主は彼だろう。金持ちとは聞いていたがリムジンで学校から帰る人間だったのは神室は思いもしなかった。


「そう、だけど。」


軽く首をかしげる。こちらから一方的に認識はあるが、むこうからの認識はないはずだ。

それに、目立たない彼に何の用があるのやら。

まさか、あのときのぞき見ていたのがばれたのかと神室は少し身構えた。


「すまない。突然、話しかけて悪かった。」


疑っているとわかるほど全面に顔に出していたのだろうか、申し訳なさそうな顔をする。

思っていた態度とあまりに違い少し、挫かれたようだった。少なくとも、神室のイメージにはイケイケで湊のうざい版と思っていた。

(性格かわりすぎじゃない?)


「友禅から、『人生相談するのならば、神室陸に頼るとよろしい』とおしえてもらった……。」

「あぁ。」


どうやら、のぞき見していたことはばれていなかったらしい。しかし、友禅は神室に面倒ごと押しつけたようだった。

別段、初めてのことではない。

彼女はその明るい性格と面倒見の良さから同年代によく相談を請け負っているという話を彼女から一方的に聞かされていた。

最も、彼女は人を救うためさ⭐︎などと豪語していたがその実単純に他人から情報を手に入れているだけにすぎない。

そして、そこから得られる人間関係の滑稽さを楽しんでいるのだ。

内容は、人間関係や勉強が多いものの中にはとんでもないものがいくらかあった。

中でも面白かったのは男同士の一人の女性争奪戦の話だ。

あれは傑作だった。

まさか、三人の男が取り合っていたのはすでに彼氏持ちだっただなんて。思い出すだけで笑いがこみ上げてくる。

性格上人の不幸が大好きな神室は、それ以来、時折相談内容を聞いたり手伝ったりしていた。

今回もそんな類だろう。

しかし、友禅が神室の名前を出すなんて珍しかった。大体は、友禅からライネで内容を渡されてその返答を書きつけるといった間接的なものだった。

しかし、相談内容はなんとなくだがわかる。

椎名のことだろう...。

(待てよ。ということは、M男の話を聞くことになるのか...。)


「西園寺くん。すまないが、別を当たってくれ。今日は忙しいんだ。悪い。」


触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに颯爽と彼の横を通り過ぎる。

(すまないが、西園寺君。椎名のことは、諦...)


「そうか……仕方がない、喫茶店『エアグルーブ』の予約をしてご馳s「さぁ、早く乗りたまえ西園寺くん。君の相談事すべて、この世界一の相談相手こと神室陸にまるっとお任せを!!全く、西園寺くんが悩みを持っているというのに友禅のやつは薄情にもほどがあるな。」


エアグルーヴという単語に神速にて、西園寺のリムジンに腰をかけ、無意味に体を反らした神室の姿があった。

彼に促すようにぽんぽんと座席をたたいている。あまりの不躾さに運転手の視線がなかなかに鋭いものが向けられているが今の神室には関係がない。

それより、彼はエアグルーヴで何を食べるのかという考えに浸っていた。

(さて、なにを頼むとしようかチョコバナナパフェもいいが抹茶パフェもすてがたい)


「すごい、こんないとも簡単に...友禅の言ったとおりだ。」

「ん?何か言ったかいマイクライアント?」


何か小声でいてたが、おそらく相談相手にのってくれてありがとうというやつだろうと勝手に解釈した神室は「そんな、喜ばなくたっていいだろうに仕方がないなー。」などと頭の後ろを掻いている。


「い、いや。なんでもないよ。」

「……そうか?……パフェ、えへへ」


ぎこちなく手を振る西園寺に多少の違和感を覚える神室であったがエアグルーヴのパフェのことですっかりと飛んでいった。

『あなた…いくら何でもチョロすぎない?』

レヴィの呆れた声が聞こえた気がするが…何度もいうが、神室の頭の中ではパフェのことでいっぱいだった。







誰もいない、図書館の端にある椅子は、彼女の-椎名天の特等席だった。

ページを捲る音が溶け入るような静けさは、彼女の二つな氷の女王と非常に似合う。

ふと、ページを捲る手を止めて窓を眺める。ここからは、校門と私の教室が同時に一望できる。つまりは、いつでもとある人の横顔を見ることが可能な場所だ。

彼女は今日は格段に機嫌が良かった。ゆっくりと目を閉じ、心の中で椎名は彼の声を再生する。

昨日だけでなく、今朝もお話をすることができた。

邪魔者がいない日はとても良いとふふっと鳥の囀りのような鼻歌を交じりながら目を開ける。

赤飯を用意したいくらいだ。

そんな気分。

思わず、声を思い出して椎名天は口角がだらしなく上がってしまう。


「ふ、ふへへへ。」

「天ー。漏れちゃってるよー。」


そこへ、唐突にカシャっとシャッター音。

シャッター音自体は、別に大きなものではないもののこの図書館において耳のそばで大砲を撃った並の爆音であった。それはもう、椎名の体に稲妻が走る。


「ふぇにぁぁぁあ!??」


誰もいないはずの、図書館に誰かの声が聞こえ、慌ててあたりを見渡すと真横にカメラを持った笑顔満点の真莉の姿があった。

危ない、他の生徒に変なところを見られたかと思った彼女は安堵の深いため息を一つして、むすっと頬を膨らませる。


「もう、脅かさないでよ真莉!てか、勝手に撮らないで。」

「なかなか、可愛らしいモデルがいたものでね!ちなみにみる?」

「みません!!すぐさま消しなさい!」

全く、彼女の前では気が抜けないと溜息一つ。片手を頭の側面に添える。

彼女の登場で椎名は深く疲れを頂いた模様だ。


「……それにしても、今日はいつになく上機嫌じゃない?体育も随分と張り切ってたし……神室くんといっぱい話せたの?」


友禅は腕を私の太ももに全体重を乗せて聞いてきた。肘が結構食い込んでいるために顔を顰める。


「………いっぱいじゃない。でも、話せた。……重いから離れて。」

「はいはいー。でも、これでわかったでしょ。神室くんは別に天を嫌ってなんかないって。」


友禅の言葉に椎名は押し黙る。

椎名天にとって、神室陸は幼馴染で親友であった。

だが、とある件にて3人の関係はひび割れた。

神室は二人から遠ざかり、湊と椎名もお互い距離を取り始めた。

関係が崩れて早三年経ったこの二日間、椎名天は彼に勇気を出して近づいたが彼は彼女と湊と一緒にいた頃と何も変わらなかった。

それに、多少緊張して強張った場面は幾つかあったが彼に変な態度はしていないはずだ。


「どうしよう……急に心配になってきた。」

「じゃあ、なんでリクは私に話しかけてこないの?」

「んー、どうだろう。意外としょうもない理由だったりするかもよ。」

「どう言うこと?」


首を傾げる。

(もしかして、好みの姿じゃなかったの?……そんなはずはない。皇くんから詰も……教えてもらったことには彼の推しキャラとやらは長髪でお淑やかでお嬢様っぽい感じだったはずだ。)

今日の体育で少しはっちゃけすぎたが気もしなくは無いがそれなりに寄せているはずだ。

実際、リク以外の男子からは好意的なものは感じている。


「たぶん、天が考えているようなことはないと思うなぁ。」


まるで、椎名の思考を読んだかのようにそんな事を宣う彼女は意味ありげに小さく笑っていた。


「でも、確かに神室くんは今日は変だったよねー。」

「変?」

「うん、なんか途中途中存在消してたし見てもなんかぼーっとしてたし…。なんか、お疲れなのかな〜。寝不足でもしたのかな?」


言われて見れば、今朝の授業中の彼は違和感があった。いつもなら、そつなく大体のことをこなすというのに…。


「もしかして、恋煩いかな〜」

「なっ!?」

彼女の一言で持っていた本を落としてしまった。静謐な図書館に甲高い音が嫌に響く。

「そ、そんな、いや、でも…そんな。」

動揺して舌が回らない。椎名は少女漫画で見た恋に落ちたキャラクターの行動と似ていることにさらに動揺する。

ふと、思考を落ち着かせようと窓の景色を眺めると視界に神室の姿があった。


「あ、リクだ……あれ?」


誰かといる?

少し、建物で見にくいが誰かと話しているようだった。


「あ、西園寺くんだ。」


横で真莉が私と同じ視線でリクと違う名前を出したことから誰かとは西園寺というのがわかった。

(確か、いきなり傲慢な態度で私に接してきた奴だ。今日は性格が一回死んで変わったみみたいになってたけど…。そんな奴がなんでリクと一緒に…。)

待てよと窓枠にどんと両手を落とす。

西園寺は確か、お金持ちのボンボンだったはずだと彼女から前にもらった情報を思い出す。

みしりと、木製の窓枠にヒビが入った音が鳴る。


「ねぇ。」

「ん?なに?」

「あの男に姉、あるいは妹はいるの?」

「あー、確かいた気がする。西北女学院っていうお嬢様学校に通ってるんだってよ。……でも、なんでそんなことを?」


(おのれ、西園寺。

まさか、私を立腹させるに飽き足らず。私のリクを妹なんかと引っ付けさせようとしているだなんて………見る目があるのは褒めましょうが決して受け入れられない。

リクもリクだ。

属性がピンポイントだからって……私がいるのに!!)

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