第18話 パフェ……… 改訂版
「彼は僕の父……元防衛大臣の秘書だったんだ。」
陸は顔にこそ出さなかったが、動揺はした。なぜ西園寺は自分にそんな話をするのだという疑念が浮かぶ。
元々は、自分に恋愛相談をしに来たはずだった。そんな人間にわざわざ光の御子ないしは自分が閣僚の息子などという情報は必要ないはずである。
(まさか、俺の正体がバレてるのか?)
『それは無いはずよ。私のスーツの隠密スキルは高度。バレるはずがない…。』
「そして、改めて聞きたい…。」
真剣な面持ちで未来は両手を組み肘をテーブルにつけた。
唾を飲み込む。異様な緊張感があたりを巡る。
彼の言葉を待った。
レヴィの話を疑うつもりはないがそれにしてはタイミングが良過ぎる。
「僕はッッ。僕を叱ってくれて、まともにしてくれた椎名天に恋をするべきなのか……それとも、命を救ってくれて世界を救おうとしているあの光の御子の子に恋をすべきなのかどうすれば良いのか…教えて欲しいんだ。」
普通に相談の延長だった。
緊張が一気に緩んで足が滑って背筋が元どうりになった。
「………一つ聞いていいか?」
「な、なんだい?」
「その、話聞くと国家機密みたいな感じだけど俺にそんなこと言って良いの?」
「それは気にしなくて良い。」
「気にしなくて良いの!?」
(おい、西園寺父!お前の息子国家機密漏洩してんぞ。)
思わず、心の中で霞ヶ関の方向にツッコむ。
『恐らく、相談の後記憶を消すつもりなんじゃないの?』
(な、なるほど…待てよ、て事はこいつは俺にエアグルーヴのパフェの味すら消す前提で相談しにきたのか?信じられん最低かよ。)
『怒るとこそこ?』
『悪いか!?』
(何を言ってるんだレヴィは、エアグルーヴのパフェの食べてもその記憶がないのならば、それは食していることにはならんだろも!)
怒りで我と言葉を忘れてしまったのか、変な日本語になる陸。
少し、脱線が過ぎた。
相談であった以上それなりの回答はしなければならない。
(どうしたもんかな…。当たり障りなく行きたいしなぁ。)
トントンと人差し指でテーブルを叩き整理する。だが、なかなか良い言葉が見つからずありきたりな言葉を並べ始めた。
「………アドバイスをあげるとしたら、まずどちらもお友達から始めてみたら?何にしても、まずはその人のことを知ることが大事だと思うよ。」
それとなく人と付き合う時の基礎を言ってみる。
そもそも、相談する人間というのは、大抵、自分がどうするのかもう心のどこかで決まっているパターンが多い。
相談は本質は自分がこれからする行動を誰かから肯定を求めるための行為である。
これは、陸が祖父からの受け取った言葉であった。
最も、光の御子と友達の時点でおかしなことではあるが…。
「うん、そうだよね。君の言葉で腹を決めたよ…僕は…彼女らと共にシャドウと戦おうと思うよ。君にも手伝って欲しい。」
「そうか、そうか。」
(決心したようで何より何より、じゃあ、話も終わったことだし残りのパフェを食べ進めていきましょうかね)
ーと本当美味しそうなタワーだと微笑まながら、エアグルーヴの名物パフェの横腹にスプーンを差し込もうとして、ようやく未来の言葉を理解した。
「……今なんて言った?」
◇
ここは、古宮町の隣町の境界付近。
茂と合流した海達は何の行先も告げられずに彼の背について行っていた。
共同任務というのは理解できたが、周りを見るとリーファはまだわかるが光の御子となったばかりの桔梗とつぼみまでも、合同なのはどういうことだろうかと傾げる。
海が初めて光の御子になった時はある程度の期間を研修のように茂と共に戦って経験を積んでいった。
しかし、彼女らはそんな時間すらない光の御子となって身体能力が上がったものの数時間前まではただの学生。
戦闘に関しては、素人のままである。
(もしもの時は、僕が彼女らを守らないと…。)
彼女らは海の目的の手伝いがしたいと言って光の御子となる道を選んだ。
そのことは素直に海は嬉しかった。
自分の考えを肯定してくれて手伝ってくれる。こんなに出来た友人はいないだろう。
しかし、彼にとって彼女らも守るべき世界の一つである。
自分を奮い立出せるように強く拳を握った。
「ふーん。湊くん…そろそろ行き先気になる?」
「え、あ、はい。」
突然、歩くのをやめて体をよじってこちらを覗き込むようにみてきたので若干変な声になってしまった。
「今、向かってるのは恐らくあのシャドウが捕らえた子たちがいる場所だよ。まぁ、あのシャドウの巣というやつかな。」
「なるほどね〜。だから、つぼみんときっきょんしか、シャドウにはいなかったのね…。」
「つぼみん?」
「きっきょん?」
リーファは納得したように頷いていた。
確かに、茂が追っていたシャドウと同じ個体ならば他にも被害者がいたはずだ。
二人を連れてきた理由がなんとなくだが、わかった。
単に人手が欲しかっただけだろう。
無論、シャドウが暴れた後には掃除屋が訪れるのだが、彼らがすぐに現れるとは限らない。
もしもの時は、この場にいる五人が捕まった被害者たちをおぶって逃げなくてはならない。
既にシャドウは倒したはずだから、記憶が消えていた人たちが誘拐された子達を探しているだろう。
早めに救助にしないと。
「今、僕の能力【追跡】であのシャドウの痕跡を辿っていった先が…」
そう言って、姿勢を戻し背を向けると古いボウリング場があった。確か、数年前に営業を終えて空き地になっているがいつまで経っても解体しなかったところだ。
「まぁ、獲物を隠すには絶好の場所ね。」
「そうだね。確かに、怪しい魔力を極小ではあるが感じられる。生命反応もあるようだから、全員生きているだろう。でも、体内の魔力を少し吸われているから栄養失調のようになっているかもしれないね。それに、これまた随分とご丁寧に防犯システムがあるようだ。数体のシャドウを確認。でも、雑魚だ。新人の相手には丁度いいだろう。」
彼の言葉に間違いはないだろう。 それは、彼から戦闘のことを学んだ海だからこそ思えた。
「それは良かった。それでは、助けに行きますか!」
「そうだね。さっさと仕事をこなして帰るといたしますか。……お出迎えもいるようだ。」
彼の言ったようにボウリング場へ近づくに連れてシャドウの気配をより一層の感じる。
体を伸ばして、刀を虚空より発現させた。
海らも、それぞれ変身して獲物を手に持つ。
「深田つぼみくん、佐倉桔梗くん。君たちは僕の側にいなさい。初めての戦闘だ。無理はしないで欲しい。」
「「わかりました!」」
桔梗は刀を、つぼみは杖を持ち茂の背後にかける。
「リーファと湊はさっさと蹴散らして救出を!それでは、其々抜かり無く。」
「「はい!!」」
◇
『エアグルーヴ』の向かい側の店のテラスから変装をしてターゲットの動向を探っている少女は新聞紙で顔を見えないようにしつつわざわざ指で開けた穴から覗いていた。
どこから持ち出したのか、サングラスと大きな帽子を被った椎名天である。
図書館から陸と未来を目撃した彼女はどういうわけか二人を追いかけてきていたようだ。
初めは暴走気味だった天は中に入って強行しようと思っていたが、どうやら未来は相当警戒心が固く貸し切り状態にさせられていた。
全く、これだから、金持ちはとイライラが止まらない彼女は無意識に鞄から何故か常備していた裁ち鋏を持ち出す。
「ちょっと、落ち着いてソラ!ほら!取り敢えず、そのハサミ下ろそ?ね?」
慌てた様子で彼女についてきていた真莉は天の鋏を持つ腕を差し押さえた。
「私もまだ、リクとスイーツデートしてないのにッッ!!」
「相手は男同士よ!それに西園寺くんは椎名にぞっこんのノーマルよ!それは…神室×西園寺まぁ、興味なくもないけど!?あ、意外と悪くないわ…これ心の友に報告しよ。」
そうわけのわからないことを言いながら、何処からか持ち出したのかメモ帳に何やら長い文を書き記していく。
「なぁ!?裏切るつもり!?」
「いや、私は結末を見届けるものであって干渉する気は無いから安心して。」
「あ、はい。」
突然、真顔でそう断言するとまた、メモにペンを走らせていた。その突然のテンションの上下に戸惑うがいつものことだ。
やおいがどうとか誰かに説明されていた天だが、詳しくは知らなかった。
「それにしても、本当に天は神室くんとデートしてないの?」
「……その時にはいつも湊がいた……。」
「なるほどね〜」
「だから、今日は湊が居ない間に先手を打とうとしたのに…ボンボンが邪魔をするだなんて…。改めて、聞くけど真莉、あのボンボンの妹がいるって言ってたけどどんな顔の子か教えてもらっていい?」
とりあえず、敵を把握しておかないと情報の開示を求める。後手に回っている現状のままじゃまずいと天は感じていた。
「取り敢えず。殺さないであげてよ…。」
「失礼な!脅しはするけどそんな非人道的なことするわけないでしょ。」
「脅しは非人道的な行動では?」
「……命はある。」
「怖いって…。」
「冗談よ。」
「……聞こえないよ。まぁ、いいけど。えーと、どこにやったかなぁ。」
ガサガサと彼女はバックを漁って何かを探し始めた。彼女の情報が詰まったブラックノートを探しているのだろう。
「あったあった、えぇっとこの子この子。」
真莉が出したのは、国語辞典並みの厚さの真っ黒な皮のカバーがかかったメモ帳。
恐ろしい限りである。
その、真ん中より奥の一面を見せてきた。そこには顔写真やら個人情報が書かれていた。プライバシーの権利とは…とふと思ったが、まぁ、悪用はしていないので大丈夫だと信じたい。
「結構可愛いのね…。」
写真に写っているのは西園寺椿と記されていた。
(篠柿高等女子校…あの顔面偏差値いかれてるところじゃないの!?それに…胸もある……。)
ふと、天は勝手に視線が豊かでない胸元へと向けられる。
「そういえば、思い出したけどこの子でも笹高では名前も覚えられてないんだって!凄いよね。」
「え!?こんな可愛い子なのに?」
「聞いたら、居るはずなのにそんな子居たっけ?って言ってたしそうなんじゃない?」
世界は広い。
もし、あの男がリクにその子を近づけようとしたらまずいなと天は、再び向かい側の店の一つの席をじっと眺める。
(せめて、何を話しているのかさえ分かれば…。)
とじぃっと二人の口元から探ろうとしていた。
最も、彼らが話しているのは自分のことであることを彼女は知る由もなかった。
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