第10話 風の噂 改訂版

「死ぬかと思った」


皆川に目をつけられた結果、授業の問題を全て答えさせられる羽目になった陸はぐったりと項垂れていた。

レヴィが海達に見られたからと言っていきなり教室に飛ばした結果がこれである。

無論、陸自身。

学校に飛んでくれたのは凄く助かった。

授業には間に合ったしノートも取れたしだが、タイミングが最悪すぎだ。

お陰で面倒な目にあってしまった。

助け舟を送ってくれた天に改めて感謝を伝えようとと思ったが、彼女はすぐにどこかへ行ってしまったのか、既に教室からは去っているようだった。


「何してんだよ、お前。」


呆れた声で誠が陸の机に浅く腰を掛ける。

いつもなら、腕で押し出していたがどうも今日はその気力が陸にはなかった。


「どうせ、夜中までゲームしてたんだろう?」

「………まぁ、そんなところだ。」


適当に頷く。

まさか、変身ヒーローたちの戦闘を観戦してたら遅くなったなんて言えるはずがない。

言ったら、即座に精神病院行き間違いなしである。


「そういや、リーファさんは遅刻癖があるか知らないからともかく、湊が学校来ないって珍しいな。なんか、聞いてないのか?」

「知らんよ。そのうち来るんじゃない?」


来るはずがないだろうなと陸は、公園があるであろう方向を見た。

今頃は通学路の半分に到達したぐらいだろうか。

そういえば、あの公園付近で佐倉と深田の姿が見えなかった。

まさか、あの二人も光の御子なのかなと思ったが、だとしたら戦闘に参加しているはずだ。

眉間に皺がよる。

何故その場にいなかったのかという疑問が沸く。


(まぁ、二人途中で気づいて眠らせたりとかしてたのかな。大体の正体隠すヒーローってそんな感じだし…。)


…変な胸騒ぎがする。

しかし、杞憂だろうと次の授業の準備に取り掛かかろうと机の中に手をかけた。


「あ、そういえば知ってる?この怪談。」


机から教科書を取り出したくらいに、誠がピンと人差し指を上げて自慢げににっこりと笑った。

誠は怪談とか都市伝説とかを話すのが大好きだ。

いつも、暇があれば色々な掲示板を見ている。その話(誠が面白おかしく改変した物)を聞くのが授業の合間のランダムエンカウトなルーティーンでもあった。

今回は、そんな彼の雑談で時間を潰そうと出すものだけ出して膝をつけて聴き耳を立てる。


「お、今回のはなんだ?」

「ふふん、聴きたてほやほやのやつさ!その名も、少女神隠し!」


ばばーんと背後で光り照らされる誠の姿が脳裏に浮かぶ。

その様、大御所落語家の猿真似。

三文芝居である。

だが、オカルト好きな人というものは得てしてそんなもんなのだろう。


「おぉー。」


彼の喋りにあまり乗り気にはなれないが、それなりに雑な拍手で盛り上げる。

誠という人間は、調子になると更に話が面白おかしくなる傾向がある。


「なんとなんと、数週間前からの出来事なのですが隣町で学生の二人の少女が行方不明になった話でな。その学生ってのがあの顔面偏差値がバグっている篠柿高等女子校な訳だよ。」


篠柿高校…たしかに顔面偏差値がバグっている学校だ。

古宮高校のクラスの3番目に可愛いのが最下位に沈められてしまうほどである。


(その分、性格曲がってそうなやつが多そうだなあ。薔薇に棘があるみたいに…。)

「ただの事件じゃん。」


可愛い女子校生が被害者。思い浮かぶのは、誘拐ってことだろう。どこが怪談なのか…。


「ふっふっふ、話は終わらない。それがね、そのあとも、続いたらしいんだ。二人組が突然失踪して防犯カメラに何も映っていない。まるで、突然宇宙人に連れ去られてしまったように…。」


結局は、宇宙人かよと深く座っていた椅子から数ミリ滑った。

投げやりなオチに呆れるがオカルト大好きマンはそれで納得するらしい。誇らしい顔をしている。


「連れ去られたって言ってるけど、被害届は出してるのか?」

「さぁ?サイトの中身みたら、居なくなっているのかそれとも最初から居なかったのかってオチだったし。」

「ふーん、胡散臭いな。」


なんだそれは、まるで誘拐にあった人の記憶が無くなってしまうみたいだ。


「あ、湊とリーファだ。一緒に遅刻とはお熱いですね。」


窓の外を眺めて、誠がそんなことをつぶやく。ようやく学校に着いたのだろう。想像よりも速いあたり身体能力の高さが窺い知れる。


「ん?佐倉と深田達は一緒じゃないのか?」

「ん??誰?」

「は?いや、湊ハーレムの…。」


誠の顔は本当に知らないという顔だった。

ドッキリにしては雑すぎる。

さっき神隠しにあった二人組というワードを出していたというのに…。


「???やっぱ、お前疲れてるんじゃないのか?なんか、お目覚め用に昼飯買うついでにジュース奢ってやるよ。」


そう残して、彼は売店にでも行くのか教室を後にした。

呆然と誰もいない左側の席をみると佐倉と深田の席がなかった。


「は?」


まるでそこは誰もいなかったようにリーファと湊の席だけとなっていた。恐る恐る、前の席に座る身長の高いクラスメイトの肩を叩く。


「おわっ、いたのか…なに?」

「あのさ、佐倉桔梗と深田つぼみって分かる?」


お前は何を聞いてるんだという答えを待った。知ってるも何もクラスメイトだろっという言葉を…。

だが、陸の願いは虚しく叶わなかった。


「誰それ?」

「あ、あぁ、い、いや、知らなければいいんだ。」

「なんだよ気になるから教えろよ〜。」

「い、いやー。ほんとなんでもないって。」

「ほんとかー?あっ、湊達だ。」


ちょうど、帰って来たばかりの湊とリーファの姿が見えた。

遅刻届けというものを出さなければいけない仕組みとなっている古宮高校のシステム上の理由で皆川にしっかり怒られたのか少しぐったりとしている。

それもヒーローの仕事だ…ガンバと同情心が湧く。

そこを見るとレヴィがどんなことをしているかは知らないが、学校に居たことにしているのは結構有難いなと改めて思った。

タイミングは最悪だったが…。


『あら、ようやく。私の素晴らしさに気づいたのかしら、下僕。』

『居たのかよ。てか、そうだ。聞きたいことがあるんだけど…』

『えぇ、聞いてはいた。場所が悪いからどこか、人気のない場所に移動しなさい』

『了解』


まだ、次の授業には時間がある。

(人気のない場所か…あそこでいいか。)





この高校で一番人気のない場所はどこと聞かれたら、最上階の使われていない第三実験室だ。

誰も使わないし、実際授業にも使われないという謎の教室で鍵もかかってない。

しかし、このことを知っているのは恐らく神室陸しかいないだろう。

なにせ、あの友禅ですらこの教室の存在を知らなかったからである。

ぼっちは、心の休まる場所を知っているのだ。

ポケットから懐中時計を取り出して彼女に声をかけた。

これを側から見るとやばいやつにおもえる。


「ここなら、誰も来ないぞ。」

「そう。」


声に反応して、懐中時計が光ると目の前にレヴィの姿があった。興味ありげに物件でも見ているように教室を一周する。


「ふーん。いい場所ね。あの喧騒とした部屋よりかね。」


お気に召したらしい。

彼女に尻尾があったならば、今頃散歩にいく大型犬のようにブンブンとヘリコプター並みに回っているだろう。

それくらい上機嫌だ。

そんな、彼女を見ていると何故自分がここに彼女を呼んだのかを思い出す。

緩んだ空気を引き締めるように教室のドアを多少強めに閉める。

人が来るところを今まで見たことはないが、状況が状況だ。


「それより、あの二人について聞きたいんだが…。」

「そうね。恐らく、上級シャドウと思うけれど…。」


レヴィが窓側の手すりに腰をかけて腕を組む。その体勢が気に入っているんだろうか。


「あら、もう、動いたわね。」

「何が?」

「あなたの友人よ。すぐに、異変に気付いたみたい。」


その言葉ですぐにピンと来た。

窓際へと向かうとなるほど見慣れた後ろ姿と金髪の少女が走って向かっている。しかし、すぐに疑問が浮かんだ。


「なんで俺とあいつらは忘れてないんだ?」

「一般人はすぐに催眠の魔術に惑わされるけど少しでもそれをかじっていれば惑わされないの。あなたの場合はスーツに解術の加護がついている。」


陸にとっては、さっぱりでよく分かなかったが、取り敢えず。

スーツは凄いなという感想。

レヴィが窓を開けて手すりに足を乗せ、飛び降りた。すぐに彼らを追いかけるつもりらしい。首飾りの宝石に触れてスーツに着替える。一応、スーツに着替えた時に頭の中にこのスーツの知識が入っている。

認識阻害を施して、彼女の後を追った。

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