第9話 朝と目撃 その3 改訂版

「せっかく、リクと2日連続で学校へかけたというのにッッ!」


本来ならば、今頃(リーファもいたが)仲良く昔のように二人っきりで雑談しながら学校へ行けたというのにシャドウというやつはなんと空気が読めないことか!!


海は、自分と陸との登校を邪魔されたことによる怒りをそのままに剣を振り下ろし、シャドウに一閃を喰らわせる。

しかし、シャドウはそれを察知したのか、本能かは分からないが、のけぞるようにしてその攻撃を回避する。

目の前のシャドウは大きい体格から下級であることが窺えるがそれにしては随分とすばしっこく手強い。



「……学校、間に合うかな。」

「どうしたの?なんか、今日雑じゃない?」


背後から、アビゲイルより与えられた名前。

【バレット】であるリーファが来て銃を構えていた。

どうやら、要らぬ心配をさせてしまったかもしれないと自分勝手の悪い癖が再発していたことに項垂れるように頭を掻く。

直して、改めようと心に刻んでいたのだが、なかなか人の癖というのは抜けきらない。

ある日を境に、女神アビゲイルから授かった力を手にして光の御子として《炎帝》の名を与えられた僕は毎日この古宮町に出没する人類の敵、シャドウを殲滅するために行動していた。


「大丈夫!そろそろ、終わらせよう!」

「えぇ!大技で決めるからあいつを頼むわ!」


リーファが頷くと持った銃を突き出して目を閉じて唱え始める。

すると、魔法陣が足元に出現し膨大な魔力が彼女の元へと集まっていく。


彼女に任せられたようにシャドウへと駆け出した。

シャドウが海目掛けて強烈な右フックをかましてくるがバク転しながら、それかわして無防備になった右腕に大きく振りかぶって切断する。


「GHAA aaa a」


シャドウの叫び声が公園中に響く。

振り向いて、更なる巨大な魔法陣を展開したリーファの姿を確認する。

よし、これで終わりだと確信するとシャドウからすぐさまこれからから最大攻撃に巻き込まれないように離れる。


「【アンリミテッド・バースト!!】」


リーファの声と共に緑色の巨大な光線がシャドウを飲み込んだ。

彼女の強力な浄化魔法だ。


元々、シャドウはアズラエルの力によって姿を変えられた人間。

そして、それを元の姿に戻すのが、光の御子である。それぞれが、シャドウを浄化する極大魔法を使えて人の姿に戻すことができる。

光の御子は二人一組で常に行動している。それは同性同士だったり異性同士だったりと規則性はない。

彼の場合は、それがリーファだった。

彼女と海は同じく最近、光の御子の力を与えられた。

アビゲイル様に「貴方のパートナーはこの方です」と言われた時、湊は外国人で本当に驚いたが数回の戦闘を共にするとそれなりに絆が芽生えて来た。


(それにしても、スキンシップが多いのは向こうの文化なんだろうか?まぁ、親友の証と取っておこう。)


砂塵舞う公園でそんなことを考えていると風で砂埃が吹き飛んだ。

残ったのは、その戦闘の痕跡と一人のスーツ姿のサラリーマンがうつ伏せで倒れていた。 

彼がシャドウの正体だ。

アズラエルによって、欲望に惑わされてしまった者。

何がしかの弱みというものを人は持っている。

それに漬け込んだアズラエルは、その弱みを暴走させることによってシャドウという化け物を生み出して世の中に放ち世界を闇に染めようとしているとアビゲイルに聞かされていた。


「おつかれ様、海!」


元気はつらつと言った感じでリーファ海の後ろから抱きついて来た。いやでも伝わる柔らかい二つの感触に思わず顔を赤らめる。


「り、リーファ!?」

「もー、元気ないぞー。ふっふふ。」


相変わらず、スキンシップが過ぎる彼女にどう接したらいいのか、悩む海は取り敢えず誤魔化すように話題を何とか持ち出す。


「それにしても、今日の敵はなんだか強かったね。」

「そうね。下級シャドウにしてはね。まぁ、私たちの敵ではないけどね。」

「そうだ……ん?」


彼女がさらに体重を乗せて来たためもっと前のめりになった時に背後の鉄塔の影が見えた。普通ならば、当たり前のことだ。ちょうど太陽が背後にある。寧ろ、影がないほうがおかしい。しかし、ただ鉄塔の影だけでなかった。

その上部に人影が二つあった。


「リーファ!上に誰かいる!!」

「えっ!?」

「なんだあれは…」


鉄塔の上にいたのは、真っ黒なコートを身につけて、ガスマスクを被った男と美しい銀髪の少女だった。なぜ今まで気づかなかったのか……否、いつからそこにいたのか。

あの影が見えた途端に、姿に気づいたがずっと前から自分たちを見ていたというのなら相当の隠密能力を有するものなのだろうと湊は推測する。


「もしかして、アズラエルの幹部?」


リーファが彼らをみてそう考察する。

だとしたら、不味いと湊唾を飲む。

自分たちの実力では、どうにもならないレベルの敵である。

撤退するか…。

リーファに目配せをして、どう行動するか窺う。

震えている。

すると、銀髪の少女が指を鳴らす。

途端に空間が歪んだと思うと姿が消えてしまった。

数秒、当たりに警戒を巡らした。

感知を最大にして静寂な公園に目と耳を集中させる。隠密の能力ならば、目視でも注意深く確認した。


「いなくなっ…た?」


リーファが確認するように声を出した。


「みたいだね。なんだったのか…。ただ、見ていただけだったのかな?」

「もしかしたら、あの下級シャドウを生み出したもの……ではないわよね。」

「分からない。アビゲイル様に報告しなちょ…。」


同時に変身を解くと周りの外装が粒子へと変わって元の学生服姿になった。腕時計を見てみると時刻は八時二分。

遅刻してしまったとげんなりと顔を暗くする光の御子になってからは不真面目な生活を送る生活が増えていた。

(……はっ!?つまり!今、リクと椎名が二人っきりということか!?)


とんでもないことに気づいたと目を見開く湊にリーファが驚き顔。


「大丈夫?なんか、とてつもなく不味い状況だって顔してるけど。」

「いや、確かにそうだけどそこまで深刻ではない。気にしないでくれ。それよりも、急いで学校へ行くよ!遅刻確定だけど早く行かないと!!」

彼女の腕を掴んで学校への道を駆け出す。


絶対に椎名にリクを神室陸を奪われてたまるものか!





「……い。おい!神室陸!!」

「はい!?」

バンっと心臓が締め付けられるほど教壇に立つ大男が黒板に右手を叩きつけた。

あたりを見るとあぁと納得する。

一時限目は歴史で皆川先生の授業であった。


『……てか、なんで学校にいるの!?確かに、さっきまで湊とリーファの戦闘観察してなかった!?』

『貴方が遅刻したくないっていうからこうしたんじゃない。』


頭に淡々とした声が響いた。


『あー、なるほど。ようするに、そのままこっちに飛んだってこと?』

『そうよ、文句ある?』

『ありません。』

「貴様、私の授業中に寝るとはいい度胸ではないか?この問題を解け!!」


皆川先生は陸の通う高校で一番厳しい先生だ。

無論、そのため生徒に多くからヘイトが集まっている。


「ん…」


小さな声が聞こえて、少し右を見ると天がノートの端に【1904年、戦争、何?】と書かれていた。


「に、日露戦争…?」

「……ふん」


どうやら、当たっていたらしい。面白くなさそうに皆川が鼻息を出して授業を再開する。

(あっぶねぇぇ。)

前の席に座る男子生徒の影に隠れて椎名に見えるようにノートに【ありがとう】と書いて彼女に見せた。

天は反対方向に顔を向けた。どうも、機嫌が良さそうには見えない。

(あぁ、対応間違えたかもしれん。)

頭をかいて、仕方がなく黒板に書かれたものをノートに板書する。

後で、レヴィに色々聞いた方がいいな。

先ほどの二人のことが頭に浮かぶ。

彼らは、陸の影に気づいた途端、二人は互いに離れて、獲物を構えた。

その動きは、戦場を知り尽くした歴戦の戦士のよつな動きだ。

故に、その二人を鉄塔から彼らを覗いていた陸は、海が少なくとも長い間戦いに身を投じているのかと遠い目を向け、ボソリと呟いた。


「………なんなんだよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る