第8話 朝と目撃 その2 改訂版
「レヴィあいつらはどこだ!」
「下僕が主に命令するなんていい度胸ね。」
「あぁ!?そんなこと言ってる場合か!!」
レヴィにシャドウの出現を知らされた陸は、全速力で湊たち4人の後をリードがなくなった犬のように追っていた。
だが、それだというのに前にいるはずの四人の背中すら見受けられない。
心の中をかき乱されたような焦燥で背中に熱が生じる。
だが、自分自身を落ち着かせるように陸は、走りながら息を整える。
「そういや、あいつら運動神経お化けだったの忘れてたわ…」
海は、言わずもがな。体育で暴れていたリーファもそうだ。つぼみのことは、知らないが少なくとも桔梗に関しては剣道の個人ならば国体レベルという話も聞いたことがあった。
せっかく、冷静になれたのに再び焦りに苛まれ、歯軋りをぎしり。
このままでは、四人はシャドウと鉢合わせになってしまう。
陸は自分がレヴィによって、救われたように彼らの前に光の御子とやらが来てくれたらなんとかなるのかもと願った。
(頼む、シャドウをあの四人がくるより先にぶっ飛ばしてくれねぇかな。)
視界の先には、昔小学生くらいの時によく遊んでいた桜山腕公園。
地味に木で覆われている場所である。
周りに住宅街が集まっているが、その中で一際目立つ木よりもでかい黒い影が見えた。
おそらくシャドウだろう。
昨日、レヴィから聞かされた話を思い出し弱い方だと妙な安心感を覚えた。それならば、自分があの姿になれば何とかなるのかもしれないという希望が生まれる。
「はぁはぁ、あいつらは?」
息を整えながら状況を整理する。
シャドウと対峙するように立ち尽くす湊とリーファの姿があった。
身体中が震えた。
恐れていた事態が起こった。
(何してんだッッ!!!早くそこからッッ!!)
叫ぼうとした途端に、二人は何もない空間に手を伸ばすとパチリと何かが触れたのか、紫電のようなものが走る。
次の瞬間、神々しい光の柱が天高く上がっていった。
「なんだ……あれ………。」
二人の元へと伸びかけていた陸の手がゆっくりと降りていく。頭の中は、真っ白になっていた。ただ、呆然と起きている現状に唖然としていた。
あれほどまでに、非現実が起きたというのに更にそれを超えるような非現実を目撃したのだ。
二人の手元に現れたのは、剣と銃だった。
「さて、行こうかリーファ!!」
「えぇ、海!!」
「「変身」」
現れたものをそれぞれが掴むと湊とリーファが叫びながら、湊がポケットから取り出した何かを剣に合体させる。
同じようにリーファも杖と取り出した何を合体させる。
突然、二人が強烈な光に包まれた。
あまりのまぶしさに陸は腕で目を隠す。しかし、その閃光にはさほど意味はなく目がしみて、目を開けられない。
光が収まりようやく、視界が戻った。
その先には、学生服姿だった二人が全く別の姿に変わっていた。
湊は深紅のアーマーを身につけて手には、召喚した剣を携えていた。リーファは派手なピンクのドレス姿になった。
要するに、陸の前に現れたのは、昨日見た光の御子だった。
二人は、それぞれの獲物を手に駆け出すとシャドウとの戦闘を始めた。
「………なにあれ。」
「わからない?光の御子よ。」
いつの間中に、懐中時計から出てきたのかレヴィが呆れた口調で言ってきた。足元にはいつのまについて来ていたのかヒヒイロカネくんもいる。
「ははッ。」
乾いた笑いが虚しく響く。
(なんでまた、世界救済してるのが俺の幼馴染なんだよ。色々属性ありすぎるだろ。えぇーっと、学園ハーレム兼、スポコン主人公気質兼、変身ヒーロー?なろう系でもここまで盛りだくさんじゃ無いよ?誰だよ、湊の物語の作者は!?頭狂ってるだろ。これ俺の物語じゃなかったの?しかもなんだよ、あのアーマーみたいなのちょーかっこいいやん。剣はちょっとダサいけど。リーファもなんなんだ。ちょっと、二丁拳銃ってダサいけど。)
あまりの出来事で情報が錯乱する陸はひたすら頭の中で混乱していた。
「あいつら、いったいなんなんだよ。もう、俺の幼馴染が先を行きすぎてるよ。」
ようやく落ち着いたというべきか、考えるのをやめたというべきか、神室は両手を頭に当てて深く抱え込んでうずくまった。
そんな、彼を置いてレヴィが両手を組んで唸っていた。
「まさか、貴方の身近にいるとは思いもしなかったわね。」
「できれば、思いもしないままでよかったよ。」
「何を言ってるの?」
「いや、なんでもない。……で、俺は何をすれば良いんだ?」
「そうね。ここじゃ、立地が悪いから場所を変えましょう。あそこが良いわ。」
レヴィが指さした先は鉄塔だった。
軽くあそこにいきましょうと言ったが、彼女が指す場所は数十メーターほどある。
また、昨日みたいに風を吹き上げて連れて行くのだろうと思って浮く覚悟をしている。
「あぁ、そうそう。あとこれを身につけなさい。」
そんな神室をよそにレヴィが変な首飾りを渡してきた。懐中時計についた宝石に凄く似ている。
だが、恐らく用途が違うのだろう。
「なんだこれ。」
「スーツよ。流石にそのままの姿だとすぐにバレるから。これをかざしなさい。」
レヴィに言われるがままに首飾りを掴むと掴んだ手を前にかざした。
途端、一瞬で何かに体が覆われた感覚があった。
肌に風が当たらないが、暑くはない。寧ろ、適温くらい。ふと、道路側にあったカーブミラーに目がいくと神室は自分の姿を確認した。
真っ黒なコートに顔を覆う鋭く尖って曲がった嘴のついたガスマスクを身につけていた。
完全に、犯罪者のようだった。
確かに顔を隠すとなるとこうはなってしまうが、ここまで悪者にする必要はあるのだろうか。
いや、彼女曰く光の御子を利用するのであれば多少の恐怖を煽るような外見にしたのだろう。
「……どう?カッコいいでしょう。」
横を見ると随分と得意げな様子でレヴィが腕組みをして鼻息を荒げていた。陸の予想は、外れていた。
この子は少し、感性が変わってるようだ。
「ソウデスネ。」
「それじゃあ、そのスーツは身体能力を上げる力があるから。ほら、さっさとしなさい。」
すんと腕組みを下ろして早くしなさいという表情をした。
何がしたいのかさっぱりとわからなかった。
「何をしてるの、早くあそこに運びなさい。」
「はいはい。」
自分で行けばいいのに何を考えているか、まるで分からない。レヴィを抱き上げると鉄塔の上部に狙いを済ませて角度をつけて跳ぶ準備をする。普通ならば、そんなこと出来るはずもない物理的に不可能だ。
だが、どこから沸いた自信かわからないができると頭の中で理解できた。
それにしても、レヴィの華奢な体はとても軽く持ち上がった。
ちゃんと食べてるんだろうか…それにいい匂いも…と色々な余分な思考が混ざる。頭を振ってそれを投げ捨てる。
(何考えてんだ俺…。)
振り払うように思いっきり、地面を蹴り上げるとすぐさま、あり得ないくらいの飛距離を飛んだ。
そのまま、鉄塔の上部にたどり着くとレヴィを優しく下ろした。
前回されたように仕返しをしたいきもちもあったが、それではこの後殺されそうな気がしたのでひよった。
「乗り心地は、悪くないわ。」
乗り心地って…。ツッコミそうになったが、それよりも湊達のことが気になった。
見下ろすといつのまにか、公園は燃え上がる炎が広がった。
湊が燃え上がる剣を振り回して化け物の体を焦がして悲鳴が響き、抗おうとでかい腕を湊は向ける。
しかし、それをさせないとばかりにリーファの後方射撃でその腕に光の光線をぶっ放している。
圧倒している…助ける余地がない。
「そういえば、学校…間に合うかなぁ」
「それは気にしなくていいわ。私の力で居たという認識にさせるから。」
なんか、訳のわからないことを言っているが大丈夫なのだろう。
「ならいいや。」
それじゃあ、ヒーローの観戦でもしますかね。文字どうり、高みの見物だ。
鉄塔の細い足場にあぐらをかいて、手を顎に添えて眺めた。
さっきから、みていると湊は随分と荒々しく剣を振っている。随分と苛立っているように見えた。
意外だった。
もう少し余裕のある戦い方をしていると思っていたからだ。
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