第11話 光の御子の主 改訂版

(おかしい。一体何があったんだ!)



人気のない道で、何かに駆られたように必死に走るのは、湊海であった。

シャドウを倒した後に急いで学校に戻った湊たちは、遅刻のことで皆川先生にしっかりと怒られた。

その後、教室に行くといつも話しかけてくれる佐倉と深田を見かけなかった事を気にかかり、近くにいた同じ部生である田中に聞いたら帰ってきた言葉が「だから、誰それ?」であった。

ドッキリなら、それに越したことはない。

だが、彼の反応は本当に誰のことを言っているのか分からないというものだった。

クラスの人がクラスメイトを忘れるなんてことは、まずありえない。

よっぽど、人に興味がないならまだしも、彼女らは色んな意味でクラスの人気者だ。

忘れられるわけがない。

そして、海にとってこの怪奇現象にも似たできごとにはとある存在が付き物ということを知っていた。

シャドウだ。


(やはり、朝に見た。あの気味の悪い黒コートが関係しているのか!?)


彼の頭の中には、シャドウを倒した時に目撃したあの二人組が上がっていた。

駆られた衝動のまま海は、教室から飛び出していて、現在に至る。

少しは、光の御子であると共に学生の身でもある彼は合間、都合をつけてその場から離れるのが常であったが今の彼は冷静な状態からかけ離れていた。


走る

走る

走る

ひたすらに走る。

もう、彼の頭の中には二人を探す以外何もなかった。


「ちょっと待ってよ、海!焦る気持ちは分かるけど一回落ち着いて!」


後ろから、袖を引っ張られて振り向くと彼を追いかけてきていたリーファが息を荒げていた。乱暴に海はその手を振り払う。勢いが強すぎてリーファは床にお尻をついた。そこで、ようやく海ははっとなった。


「ご、ごめん……」

「イッテテ……もう!二人がどこにいるかわかってるならいいけどなんの情報もないのよ!それなのにただ突っ走るのは無駄!」

「うっ。」


ぐうの音もでない。

自分の身近な人がシャドウに襲われたかもしれないという焦燥感で我を忘れていた。

そして、彼の中で絶対にやってはいけないことであった『女性を突き飛す』ということもしてしまった。

それだけで、海は自己嫌悪に陥る。

(何をしてるんだ僕はッッ!)

バンッと自分を叱咤するように両頬を叩くと彼女に手を伸ばす。

それに彼女は応えた。


「……改めて…ごめん。」

「わかったならよし。提案なんだけど、アビゲイル様に助けを求めない?」


リーファが変身に必要な宝石を持った右手を出した。

光の御子がアビゲイルと連絡を取るためにはバディの宝石をお互いに近づけることによってアビゲイルがいる空間に転移する。

頷くと同じように右手を出した。今は、それが一番正しい行動なはずだ。


「そうだね。あの佐倉と深田のこともだけど、あの朝に出会った二人組中とも報告しないと。」

「えぇ。」





白い、真っ白…。

目を開けると二人は、真っ白な空間にいた。

床も天井も壁もない。

遠くを見てもあるのは、白である。

果てしなく、白で埋め尽くされたこの世界こそがアビゲイルの世界だ。

彼がここにきたのは、初めて光の御子となった日と数ヶ月前の大規模な作戦で召集されて以来、二回目であった。

目の前には、いつの間にかに現れたのか、それとも初めからそこに居たのか…小さな円テーブルと豪奢な黄金の髪を背中まで伸ばした美しい女性ことアビゲイルと日本刀の鍔を肩に乗せるスーツ姿があった。

彼は光の御子において最高位の実力を持つものにだけ与えられる【零】の称号を持つ男だった。

彼は《雷電》杉山茂。

光の御子、最強の一角である。


「おや、珍しいですね。何か困り方でも?」

「おぉ、湊くん。大規模作戦以来だね。……なんだか、焦っているように匂うが何かあったかのかい?まぁ、こっちに来て座りな。ほら、リーファちゃんももみじ饅頭あるよ。」


茂が手でこちらに招く。

その手には、もみじ饅頭が握られていて空いていた場所に二つを置き始めていた。

アビゲイルが指を鳴らすと何もなかったところから椅子が二つ現れ、彼らはすっと自動的に動いて間を開ける。



「わ、お菓子があるー。」

「ちょっと!?」


リーファがすぐに飛び込むように椅子に座ってお菓子に手をつける。すぐにアビゲイル様に謝ろうとするが彼女は手を振って気にしていないと伝えてきた。

海も続くように椅子に腰をかける。

そして、彼らは今朝あった出来事を彼らに話した。

深田と佐倉のこと、そして、謎の二人組のことを…。


「なるほど、記憶がさっぱり消えてしまったと……シゲル。」


アビゲイルは茂と目を合わせた。

茂はそれに頷いて反応する。


「俺がおっているシャドウと似ているな。」

「本当ですか!?」

「あぁ、最近戸籍にあるはずの学生が存在しないことが数件見受けられた。しかも、毎回二人づつだ。恐らく、その二人はその被害に遭ったと見て間違い無いんだろう。」

「生存は?」


震えるような声で茂に問う。

光の御子となった日から、海は沢山の人が不幸になったところを見てきた。

無論、その度に救ってきた。

しかし、彼自身はどうしても自分の周りの人が被害に遭うということはないと無意識に思い込んでいた。

考えれば必ず起こることだった。

考えもしなかったのではない、考えないようにしていたのだ。


「わからない。だが、どこで消えたか分かったら私の鼻で追跡することができるかもしれん。そういえば、消える数十分に消えた人を目撃していた人は覚えているという情報があった。恐らく、敵の認識を変える能力には限度があるみたいだ。」


数十分前……普通に考えれば彼女らの両親ということになるだろう。だが、彼の知る限り彼女の家から学校までは走っても20分はかかるはずである。

それでは、ダメだ。もうすでに遅すぎる。



「…わかりました。」

「すまない。だが、私の持っている情報はこらだけしか無い。」

「いえ、……何かわかったら。報告します。」

「頼む。私も【零】の名の下にあのシャドウを突き止める。」

「お願いします。」





落胆した湊の背中を見ながら、茂はアビゲイルが用意したお茶会のお菓子をいくつか頬張った。


「もうっ、品が無いですよ。」


頬を膨らませて子供っぽく怒る彼女は先程までの張り詰めた雰囲気を和らげた。


(こういうところ可愛いよね。……歳はとんでも無いけど…。)

「品もくそも私には無いですよ〜。それで、二人が言っていた謎の二人組の銀髪ってまさか、あの子じゃ無いでしょうね。」

「……あなた今とんでもなく失礼なこと考えませんでした?……本人を確認しないとなんともいえません。彼女は確か、一人行動だったはず。それよりも、コートの男……私が見つけられなかったというのは不可解です。」


確かに、彼女は全ての光の御子の把握と出現したシャドウの魔力を感知できる。そんな彼女が黒いコートと銀髪の少女に気付くことが出来なかった。

ということは、相当に隠密能力の高い人物なのだろう。


「全光の御子に警告をしておくか?」

「……いえ、【零】にのみ情報を渡らせましょう。湊とリーファには実際何もしなかったわけですし…。」

「そうですか、では、私が全員に伝えておきます。お菓子、美味しかったです。また、呼んでください。」

「はい。こんどは、もう少し行儀良く食べてくれることを期待します。」

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