第6話 光の御子 改訂版

光の御子。

シャドウから人々を守る戦士のことで、陸を傷つけたあの石に適合した人が類稀なる身体能力と得る代わりに光の御子として活動をするらしい。与えられた力は強大で例の化け物ことシャドウと渡り合うという。


「まだ、かかるの?」

「もう少しよ。」


もう、夕日も沈み終わった時間。

二人はとある場所へと向かっていた。光の御子、シャドウと知らない単語で混乱する陸を見て、「見たほうが早い。ついてきなさい」とだけ言われて、かれこれ数十分ほど歩いている。完全に夕食には間に合いそうにないので、とりあえず陸はライネに母に夕食は後で食べるとだけ連絡を入れた。


(それにしても、俺の才能が存在の薄さってどういうことなの…。)


世界一影の薄いというレッテルを貼られたがそのおかげというかそのせいで与えられた力は姿を消せるようなものだ。

透明マントというものではないが、相手は視線が陸の方ではなく別の方へと無意識に向いてしまう。

その説明に妙な説得力がないのは、たまたま自分の周りの注目が強すぎるだけなのではないかと疑問になった。


「そういえば、あの俺を襲ったシャドウってのは、改めてなんなんだ。」


質問内容が多すぎて聞くのを忘れていた。あの化け物がなんなのか一応元人間で何者かの手によってあんなものに変えられてしまったと言うところまでは聞いていたかそれが誰なのかなどは詳しく聞いていなかった。


「シャドウは、アズラエルが人間の欲望を暴走させることで生まれる怪物よ。」

「アズラエル?」


そういえば、彼の血がどうだこうだの言っていたのを思い出した。


「影の王。人類の敵よ。この世界に存在する全ての願望を叶えさせる魔書を探している。その為に人を化け物にしている。そうね、彼が関わる事件として…」


突然、振り向いてとある方向に指さした。流れるように目線を向けるととある工場が見受けられた。

確か、ガス漏れがあったとニュースであったはずだと思い出すとはっとしてレヴィの方を向いた。


「アレを引き起こしたのは彼よ。まぁ、隠蔽してガス漏れということになったのだけど。」

「隠蔽って…実際には何があったんだ?」

「彼と光の御子達との戦闘。その結果、多大な損害を出したわ。数人の命が亡くなった。」


レヴィはそう悲しそうな顔でそう言った。声色は少し震えているようにも思えた。光の御子とは関係がないと言っていた割に随分と悲しい顔をするのだなと違和感を覚える。


(確かに、俺を襲ったみたいなやつと戦っているのか…そりゃ死ぬわな。)


そんな事を考えているとレヴィがふと、上を見上げた。


「思ったより、時間がかかるから飛ぶわ。」

「飛ぶ?…えっちょっ!?」


突然、浮き上がるくらいの豪速の風が強く吹き付けて陸の体を浮かせた。そのまま、一気に付近のアパートの最上階まで上がる。

そこで、いきなり重力を感じて慌てて体勢を整えて屋上へと落とされた。腰を抜かして、尻餅をつく。

もっと、マシな落とし方はなかったのか…。

お尻に手を当てて摩っているとレヴィが優雅に服を翻しながら降り立つ。

それくらい丁寧におろして欲しかったなとジト目で彼女を見つめる。レヴィがバカにしたように鼻で笑いこちらを見下ろしてくる。


「無様ね。」


随分と楽しそうだ。性格の悪さが顔に滲み出ていた。


「てめぇ、わざとだろ?」

「アレよ。」


陸の睨みつけを無視して、レヴィは顎でアパートの下を見るように促した。立ち上がって、下を見るとそこは駐車場だった。


「なっ!?」


その場には、大きさは5メートルはある巨大な虎のような化け物がいた。

陸が殺したシャドウとは形状が、かけ離れている。

そして、その怪物に果敢に尋常でないスピードで突撃する者がいた。

危ないと喉から声が出そうになる。

丁度、建物で暗く影しか見えなかった人物が月の光に照らされた。

月光で赤く照らされたのは、深紅の金属に覆われていた。

ワックスがかかっているのかと思いたくなるほど、つつややかでどこか誇らしいその姿に陸は息を呑む。

(綺麗だ……)

言葉に出していたか、分からないが素直にそんな言葉が浮かんだ。

手には、白刃。

形としては、西洋剣に近い。

だが、剣の厚さが数センチはある。

切るというよりは、叩きつけると言った方がいいだろう。仄かに、赤い煙のようなものが揺らめいていて幻想的だ。

まるで赤い稲光りのような鉄の塊が巨大なシャドウを手玉に取るように廻りを掻き乱していた。そして、確実にその背後に回って一撃をかます。

圧倒的な力でねじ伏せていた。


「ん?どっかから攻撃されてる?」


加えて、シャドウに遠くからの攻撃が見て取れた。

その攻撃の元を辿っていく。

派手な色のフリフリのドレスにも似た衣装を見に纏う少女の姿。

日曜朝にやっている番組のコスプレイヤーというわけでないようだ。

あれも光の御子とかいうやつだろう。

陸は正直ダサいなと思ってしまった。

何故、二種類もあるのだろうと思った。だが、それよりも自分と接触したものとは全く違うシャドウの方が少々気になった。


「あれも、シャドウなのか?」

「えぇ、でも、人の形からかけ離れているから貴方の力からしたら雑魚よ。」

「そう、なのか?」


再び、シャドウを見る。確かに、自分を襲ったシャドウほど動きは素早くないしパワーも劣るような気がしなくもない。

冷静になって考えてみるとそれなりに早いと自負していた自分から、逃げる速度について来た訳だから、歴然だ。


「それで?俺はあいつらの助太刀をすればいいのか?」

「まぁ、平たく言えばそうね。でも、すぐに助太刀をするわけじゃないの。」

「どういうことだ?」

「私の目的はアズラエルを打倒すること。その為に、何人かの光の御子を利用するつもりなの。」


レヴィの声に静かな憤怒が感じられた。アズラエルと何かしらの因縁でもあるのだろうか。光の御子を利用…。ということは…。


「利用するというのは具体的に?」

「アズラエルが求めている魔書の手がかりになる者が光の御子の中にいるらしいわ。その情報を手に入れる為に貴方に敵でも、味方でもない謎の人物として行動してもらう。」


(なるほど、影の実力者みたいだ。)


それに、この非現実は陸にとって魅力的だった。いままで、モブとか思っていたが、その生活から抜け出せるのかもしれない。


「分かった。救ってくれた恩もある。やらせてもらう。」

「そう。じゃあ、帰るわよ。下の戦闘も終わるみたいだし。」


下を覗くと、鎧姿の奴がシャドウに燃え上がる剣を振り下ろして丸焼きにしていた。


「そう言えば、帰るってどこに?」

「そんなの決まってるじゃない。貴方の家よ。」







まさか、本当に来るとは…。

目の前で同じご飯を食べる銀髪の少女を見ながらそう思った。

あの後、上がった時と同じように屋上から風が吹き飛ばされた先は紛れもない神室の家だった。当たり前のようにインターフォンを鳴らしてそのまま家に入っていき、案の定家にいた母と会議が始まった。一応、レヴィにも口裏を合わせてもらって海外旅行に来たが追い剥ぎにあったところを陸に助けられたということになった。

今は、ようやく落ち着いて夕食にありついている。母は明日の仕事も早いので既に就寝した。それにしても、母親は何故あんな怪しさしかない言い分をすんなりと受け入れたのだろうか、流石に無理があると思う。

さては、何か怪しい力をつかったのであろうと思い聴くと…。


「……あなたの母には、申し訳ないけど魔法をかけさせてもらったわ。相手の認識を操作するね。」

(……よし、この人の言っていることは訳わからないから理解するのやめよ。)

「左様か…」





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