第5話 銀髪の少女 改訂版
むせかえるような血の匂いを感じた。
陸の目の前には悍ましい化け物だった肉塊があった。
否、彼がこの惨状を作り上げたのだ。
(もう、何が何だか…。)
何か、鋭い鋭利な物を頸に刺されると突然身体が勝手に動いて何処からとなく現れた太刀で怪物を斬り殺した。
今も、切ったぐしゃりとした感覚が鮮明に残っている。
自分自身の手を確かめるように握りしめる。
悪い夢なら、早く醒めてほしい。
「うっうぅ。」
急に身体がどっと重くなって、意識が朦朧としてきた。
両膝を地につけて手で体を支える。そうでもしなくては、倒れてしまいそうだ。
少し、体を動かすだけで体の節々に痛みが走る。
「よくやったわ、下僕。シャドウの上級を屠ったこと褒めてあげる。地べたに這いつくばるのは減点だけれども。」
横から、銀髪の少女が話しかけてきた。妙に馴れ馴れしい。初対面の人に対しての言葉遣いじゃない。
こいつの親の顔が見てみたいと思った。
どうせ、ろくでもないやつだろう。
陸の横を通って化け物のところへ向かうとどこからか空の瓶を取り出し、虚空に指を走らせると日本語ではない文字が浮かんだ。
浮かんだものが、化け物へと突き刺さると何かのかけらが化け物の中から飛び出してきた。まるで、宝石のようなきれいな輝きをしている。
そして、それを瓶の中にしまった。
「流石に上級なだけあって、魔晶が大きいわね。」
完全に置いてけぼりな俺を差し置いて、そんな事を呟く少女をよそに下僕が呼ばわりされたことに苛立ちを覚えた。先ほどまでよりかは随分と調子が良くなった。
頭痛も震えもそれなりにおさまった。
「あ?誰が下僕だ。」
「あなた以外に誰がいるの?」
まるで、貴方のほうが非常識と言いたげに少女は半目で睨みつけ、辟易としたようにため息をついた。
それで、勢いが削がれた陸はそれから何も言い返すことが出来なかった。
「……意外ね。もっと、動揺して無様に喚くかと思った。化け物とはいえ元人間を殺したのに…。」
元人間。その言葉を聞いて、一瞬意味がわからなかった。この『物』が元人間?
「はっは」
自分でも驚くほど乾いた笑いが出る。
「まじかよ。でも、これ一応…俺を殺しに来てたから正当防衛にあたる…よな?」
「……無情ね。まぁ、そのほうが助かるけど。人が咽び泣く音は聞くに耐えないから……どうせ、彼の血に適合しなかったからアレが死ぬのも時間の問題だった。」
(………ん?)
最後の呟くような言葉はまるで死ぬのは必然だったと言わんばかりだった。人を殺した罪悪感に苛まれているとフォローしてくれたとも捉えられる。
(わからん。いい人なのか、やばい人なのか…。)
その答えを見つけるのは、後でいいだろう。
それよりも…。
「あれは、一体なんなんだ。シャドウだとかなんか言ってたけど。てか、お前は誰だ。」
「他人の名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀ではなくて?でも、今回はその無礼を許してあげる。私は、レヴィ=……スラトムーン。」
「…俺は神室陸。それじゃ、…スラトムーン…さっがはぇぇぇぇ!?」
突然、スラトムーンの回転足蹴りが神室の額にクリティカルした。
二回転半しながら、アスファルトに叩きつけられる。
「何すんだ!!」
「あぁ、うるさい。従者が主人にいい度胸じゃない?いいこと、レヴィ様とお呼びなさい。」
何が何だかわからんが相当癇に障ったらしい。たたきつけられた後も何度も脇腹を踏みつけられた。
「いった、いった、だぁぁぁぁぁ!分かったよ。様はつけたくないから、レヴィ教えてくれ。始めに俺に何をした。」
「…様をつけないことは……まぁ、良しとしましょう。」
ふんっと鼻息一つつくと、小さな口を動かして話を始めた。どうやら、スラトムーン呼びが気に食わないらしい。
「これよ。」
瓶を直して真っ黒な石がついてある首飾りを見せてきた。
「それは?」
「異界の石よ。これであなたのうなじを傷つけたことで力を得たのよ。」
普通ならそんなこと信じれるはずはないが先ほどの信じられない光景を見てしまった為に妙にすんなり受け入れられた。
それよりも、先に言うことがあったのを思いだした。
「なる・・・ほど。とりあえず、なぜ俺に力を与えてくれたのか分らないが、助かったのは事実だ。ありがとう。」
謎は、たくさん残っているが彼女が来なければ間違いなく死んでいたと思う。
「そう。私はあなたを利用するために力を与えただけであって助けたつもりは一切なかったけど、受け取っておくわ。」
ぷいっと横を向いて、そんなつもりはないといっているが少しにやついている所からまんざらでもないらしい。
少しかわいいと思った情けない陸がいた。
だが、とある言葉が引っかかった。
「利用ってどういうことだ?」
「この石が与える力というのが、与えられた本人の特徴や本来の才能に影響されることが多いの。そして、たまたま私の求めていた才能を持っていたのが貴方というわけ。」
(これはつまり、俺が主人公の物語が始まってしまうのか?現代ファンタジーってやつか?裏の世界で英雄となっていくのかな?わくわくが止まらないぞ)
と神室の心情は妙な高鳴りを感じていた。
結論を言えば、彼は度重なる非現実さにハイのような状態に陥っていたのだ。
冷静に考えれば、この女は何を言ってるんだとなるがその判断が今の彼には持ち合わせていなかった。
「俺の才能ってなんなんだ?」
冷めない興奮のまま、力の内容を問うた。
「存在の薄さよ。」
「………」
「………」
「はい?」
「聞こえなかった?存在が極めて薄いのよ。今朝、私を見ることが出来たでしょう?あれは存在が薄ければ薄いほど私を認知することが出来るという私の最高傑作の発明品を用いて貴方を見つけ出したの。いいこと、貴方は世界一存在が薄くできる才能を持っているの。」
興奮気味にレヴィは饒舌に解説を始めら中で陸は、一切内容が入ってこなかった。
存在が世界一薄いという才能…。
確かに、陸自身、過去のことを振り返ってみるとと友達と帰るときに途中隣にいるのに「あれ?神室いなくね?」と言われたことがあった。
(ふざけているんじゃなかったのか?)
喜ぶべきことか、悲しむべきことだろうか。
反応がしづらい。
もしかしたら、その存在の薄さで陰のヒーローとして世界を救うのかもしれないバッ○マ○見たいにと言う、希望論が神室の頭の中に浮上した。
「それで、レヴィは俺にどうしてほしいんだ?」
(私の部下としてあの怪物を倒して世界を救うのよっていうんだろ?分ってる。)
未だに、ポジティブシンキングが抜けきらない陸は都合よい内容が頭に浮かぶ。
「そうね、貴方にはサポートと私の切り札として酷使してもらおうと思っているわ。」
(………サポート?)
予想と全然違う事を言ってきて、首をかしげた。
「ねぇ、ここは貴方の力で世界を救いなさいとかそんな言葉言う感じじゃないの?」
「何を勘違いしているのか分からないけど、貴方なんかに世界が救えるはずないじゃない。無理よ、まして光の御子でもないのに…。」
光の御子?
なんか、また新しい単語が出てきたぞ。レヴィが頭に手を当てて呆れ顔だ。
「貴方はこれから私の下僕として、魔書を手に入れる為に行動してもらうわ。」
「…………はい?」
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