第3話 もう一つの物語とマゾ 改訂版
ガラガラと音が響く古臭い扉を開けると紙の匂いが鼻を燻る。
昼食を済ませ、残った昼休みを図書館で満喫しようと訪れた。
ウミと転校生の話題で盛り上がっている教室は異様に空気で満ちていた。
そんな二人のせいで誰もいない図書館はこれでもかと静かだった。
ソラの姿もない。別に会うためにここへ来たわけでないとは、いえ、やはり今日は珍しいことが起こる。
取り敢えず、一通り歩き回り興味が湧いた小説に手を伸ばして椅子にどっしりと座り込む。
「まさか、椎名もラブコメ始まった…なんちゃって」
(今日はイベントが多すぎ。)
別段彼には、ウミの事など関わりのないことのように思われるがそうでもない。
まず、席が隣ということも相まって、ウミとリ-ファの関係を知りたがる生徒たちに陸の席に座っていたりしたりと彼にとって良い迷惑だった。かといって、席をはずさずにいると渋滞が起きて押しやられる。
結局、今日はずっっと誠の席で他の生徒が元の席に戻る授業が始まるギリギリまでたっていないといけなくなった。
だが、そのおかげと言うべきか否応なしに陸のクラスの転校生…リーファの情報が耳に入る。
アメリカ生まれ日本育ちで父は在日米軍のエリート軍人という。
その父の譲り受けなのか、今日の体育においてサッカーで大活躍するわ、日本育ちなはずなのに海とのスキンシップがアメリカンというか少し過激だわ。
もう、海は地獄に堕ちればいいのにと本気で思うほどであった。
(凄いよ、あまりにスキンシップがアレだから湊のハーレムの二人も妙に張り切って積極的だよ。本当に重症でも折ってろ。)
なんだか、後からになってはらわたが煮えくり返ってくる気分を感じていた。
ぜんぜん、本に集中できない。
借りてきた本だが、後からまた読むことにしよう。
「ねぇ、聞いた。二人の転校生。」
図書館を後にしようとしていたところ、上級生が図書館に雑談しながら入ってきた。
どうやら、やたらと騒がしい転校生の話のようだった。
「リーファさんと西園寺未来くんだっけ?」
もう、一人の方は西園寺という名前なのかとは初めて認識する。周りからリーファの話ばかり聞くものだから、もう一人の転校生をすっかり忘れていたのだ。
「そうそう、リーファさんはスタイル良くてモデルさんみたいだよね。しかも、湊海とは知り合いみたいだよ。」
「流石、古宮の貴公子。美男は美女を呼ぶんだわ。そういや、リーファさんに話題持ってかれてたけど、西園寺くん凄くかっこいいよね。」
「わかる。ザッ御曹司って感じよね。ドSっぽいしキザだし。てか、実際お金持ちなんでしょ。なんで公立の高校に来たんだろう。」
「さぁ、お金持ちの人の考えることなんて私たちは分からないわよ。」
(へぇー、もう一人の方はお金持ち。友達になれば、なんか奢ってもらえそう。)
なんて、なかなかに腹黒いことを考えている陸は美味そうな甘味を頭に浮かべた。
(一目見に行ってくるか。)
目的が決まり、本をポケットにしまうとその場を後にした。
どうせ、教室に戻ったところで誠と駄弁るくらいである。
◇
図書館から教室のある棟に移動する際、必ず体育館の前を通る。
図書館より体育館の方が近いってなんなのだ。
バスケットでもしてるのか、床の板とボールがぶつかり合うような音が連続して聞こえる。部活をしていないリクにとって『楽しくみんなでスポーツ』は眩しい光景だ。
気になって、裏側の入り口からひょっこり覗いてみる。
「ん?あれ、一人しかいない。」
複数人で体育館を使用しているのかと思ったら一人がドリブルの練習をしていた。
知らない顔だった。
いや、一度も見たことがない顔だった。
もしかしたら、彼がもう一人の転校生だろうか。ぼっちということに少しばかり、シンパシーを受けて友達になれるかもしれないという友達になりたいメーターが鰻登りに上昇した。
転校生イベントをもう一人の転校生にもってかれてみんなリーファばかりに目がいってボッチなのだろう。
西園寺未来。
しかし、髪が、意識高い系のようにガチガチに固められている。ワックスに命かけすぎなところから中々のナルシストかもしれないと友達になりたいメーターが下がった。
突然、綺麗なシュートフォームと共にボールを高く放った。ボールは弧を描くようにしてボールに一直線で入った。
(おぉ、すりーぽいんとー。)
「やっと、来たね。」
突然見透かすような声にびくっと身体が震えたが、すぐに自分ではないと気づいた。未来が横を向くとその先の正面入り口に天の姿があった。
「私を呼ぶなんていいご身分じゃない。無駄な時間はあまり取りたくないの。早く、要件を言いなさい。」
「ふふっ、確かに綺麗な人だ。」
(え、どういう状況?てか、初対面の人に綺麗ってこやつ、さては手慣れているな?幾人か侍らせてるのか?友達にするのやめよ。)
ここでリクの友達になりたいメーターがマイナスゲージまでに下降した。もうこうなっては、敵としか認識しない。
「聞いたんだよ。クラスの人にこの学校で一番人気の子は誰なのかってね。そしたら、椎名天だってね。会ってみて、さらに気に入った。俺が彼氏になってあげるよ。」
(言い切ったぞ、あいつ。)
これが噂に聞く俺様系ってやつかと感心する。
ねぇ、毎回思うけど、なんでこのタイプが女子に人気なの?
イケメンというのは、人生上手くいきすぎて頭を狂わしてしまうのか、かわいそうに…と勝手に解釈して哀れんでいるとソラが心底あきれたため息。
「ふざけないで、誰が貴方なんかと付き合いますか。要件はそれだけね。では、さようなら。」
呆れたと言わんばかりにそそくさとその場から去っていく。
あっけに取られた西園寺は口をあんぐりと開けたままだ。
(振られましたね、ざまぁみろ。)
声には決して出さないが神室は思いっきりガッツポーズをかます。
「まっまてっ!!お、俺と付き合わないだと!?」
思いのほか、動揺してる。
(あんなに自信満々だったのに…ダサいぞそれは。)
いやらしい笑みを浮かべて、陸はこれまでにない愉悦感を覚える。彼はどうしようもなく他人の不幸が大好きであった。
「はぁ?当たり前でしょ、私常識のない人とか嫌いなの。それじゃ、時間が惜しいから。」
「な、なんだとぉ!」
吐き捨てるように言い放ったソラに激怒した西園寺はいきなり服の袖を掴んだ。流石に、まずいと裏口から飛び出そうとした途端リクの目の前で人が飛んだ。
「えっ?」
一瞬だった。瞬きの間に、未来が床に頭をぶつけられた。
「何した?え、え?」
動揺したリクは、何度も目を擦って現場を確かめた。確かに、未来が床に倒れ伏していた。
「触れるな。」
今度こそ、椎名はその場から去っていった。
残ったのは、床に倒れ込む未来。
(え?椎名ってあんなゴリラみたいなパワーあったの?え?え?)
彼女の動きは彼の知ってるものではなかった。
未来が目を覚したのかゆっくりと起き上がった。左手で頭を押さえる。相当痛かったに違いない。
だが、自業自得だ。
ちょっと、スカッとした。そして、現場を目撃したリクは……今後、ソラの言うことをしっかり聞こうと心に決めた。
「初めてだ…。」
ギリギリ、それなりに耳のいいリクでも聞こえるか聞こえないほどの声でつぶやいた。
「初めて……叱られた。…………………嬉しい。」
…………………………は?
みなさん、とんでもない現場を目撃したのかもしれません。
そう、人の性癖の開花です。
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