第2話 俺の立ち位置と転校生  改訂版

大地から覗いた太陽がようやく全身を露わにするころに三人組は教室に着いた。

三人の席は教室の窓側の教卓から一番離れた所に横一列で並ぶ(偶然にも家の並びと一緒だ)。

そこで、陸は変な違和感を感じた。


「ん?席一つ多くね?」


海の隣になかったはずの机があった。初めはバカが騒いで机を動かしたのかと思ったが彼の知りうる限りこのクラスの中ににそこまで騒ぐ奴はいない。


「ほんとだ。あれ、クラス間違えた?」

「ないない。」

「おー!三人組おっはー」

「きゃっ!」


後ろで元気いっぱいの声と乙女のような声がして振り向くとと天が顔を下に向けて恥ずかしさで真っ赤にしていた。

後ろから抱きつくようにショートヘアで活発な少女ー友禅真莉の姿があった。天が唯一心を開いていて、よく一緒に子だ。そのため彼女もこの学校の有名人である。

クラスの視線が有名人が三人のいるここに集中した。

彼女の前では天の氷のような雰囲気が溶かされて小学生の頃ような恥ずかしがり屋な彼女が現れる。そのギャップで多くの男子生徒が魅了されている。

すると、小さな声が陸の耳に届いた。


「はうっ、素晴らしい乙女声。このギャップが堪らん」

「よし、遂に成し遂げた。ボイスレコーダーに椎名さんの乙女ボイスゲッチュ」

「さすがですメンバー会員No34......いくらだ!」

「ふっ、安心しろ君もメンバー会員なら定額制のプランで無料で聞ける」


...無料とは?


「友禅。なんか、席一つ多いけど何か聞いてないの?」


聞こえたくもない声を無視して、陸は真莉に訪ねてみる。

彼女は、この高校の情報屋だ。その情報収集能力は、誰かが、モサドとCIAの次に情報を知っているって言うほど。

そして、この高校で数少ない陸が人気者二人の幼馴染だと知っている人物である。


「ん?あー、そういえば転校生が来るみたいだよ。」

「え?今頃?」

「うん!なんでもちょー美少女だってよ。近くで良かったねー男子お二人さん。」

「へぇー、美少女かー。」


この時期に転校生は珍しい。

というか、高校生になっても転校する人いるんだと興味が湧いた。

出来れば、お淑やかなお嬢様のような人物が来たらいいなぁと夢想してみる。

しかし、どうせ海の隣の席だし関わることないだろうと陸はすぐに興味を無くした。


「あれあれ〜椎名さん。不満?」

「なんで、この流れで私が不満なのかしら。」


真莉にけしかけられた天はふんとそっぽを向いて予習の準備なのかバックを開けて始めた。あからさまに不満そうである。


「あ!うみくん!おはよー。」

「おはよ。野球部の朝練サボるとか珍しいじゃない。なんか、あったの?」

(おっと、ハーレム襲来。)


現れた人たちに道を譲る。

人気者の海には特につるむ女子生徒が二人いる髪を高いところで束ねた佐倉桔梗とメガネをかけた肩まで伸びた髪とカチューシャが特徴の深田つぼみ。

所謂、ハーレムというやつである。

バナナ踏んで滑って大怪我負えばいいのに。

陸はそんなことを思いながら彼らの邪魔をしないように椅子から立つとバックから、カバーをかけた本を数冊取り出して教卓の前の席に座る人の元へ足取り軽く向かう。眼鏡と短く切った髪は一見すると清潔そうに見える。なお、朝練での汗臭さは取れないが。


「よっす、皇。これ、借りてたやつ。」

「ん。どうやった?」

「おう、面白かった。まさか、表紙から騙してくるとは思わなかったよ。」

「でしょでしょ。俺も初見で読んでびっくりした!」


皇誠は陸にとって高校でできた唯一の悪友だ。海と同じ野球部で身長は少し皇の方が高いが趣味嗜好がほぼ同じ。

野球部という陽キャの集まりに所属しているのにも関わらず重度のオタクであり、よくライトノベルやギャルゲーなどを借りさせてくれる。ちなみに、ポジションはキャッチャーだ。

危ないから眼鏡やめてコンタクトにすればいいのにと前に言ったらロマンがないだろう?と返された。

おすすめのライトノベルやゲームの話を続けているとふと思い出したように誠がポンと手を叩き問いかけた。


「あ、ちょうどよかった。ところで、最近湊に変わったことある?」

「変わったこと?なんでまた。」

「今日、湊が朝練サボタージュしたの知ってる?」


やはり、海は一度休むとみんなから心配されるらしい。

よほど、日頃の行い良いのだろう。

そうでなければ、心配などされない。


「あー、そうみたいだな。でも、そんな日もあるだろ。」

「いや、それが最近部活の途中居なくなったりしてんだ。急用だ、トイレだーっつて。」

「まじか、それは変だな。」

「だろ?でも、その日くらいから球威が上がって球速も上がったんだ。もしかしたら、謎の特訓でもしてるんじゃねぇーかって噂が出てな。誰か湊に直接聞いたんだけど内緒の一点張りなんだよ。」

「へぇー。」


相変わらず主人公ムーブをかましているようだった。


(これあれじゃん、確実に弱小野球部を甲子園に連れてく青春ストーリーやん。伝説になりそうな人生を送っている。そして、めっさモテそう......なんか腹立つ。)

「いや、特段変わったことはないとは思う。」

「そうかー。」

「ん?」


授業開始前の朝のホームルームのチャイムが鳴り響き会話は終了して誠にまた後でと残して元の席へと戻る。

このクラスの担任である藤原先生(32)は教師という生徒のお手本になるべき人の割に結構ルーズで今まで一度も間に合った日がない。おかげで、ほぼホームルームが雑談の時間となっている。

が、やはり転校生が来ることもあり時間ぴったしにやってきた。


「はぁ、まさか。私ともあろう人間が時間ぴったしに仕事場に着くことになろうとは・・・」


社会人の台詞ではないものを口にする。この人、なんで教師免許剥奪されないんだろうか、不思議でならない。しかし、そんな性格は生徒達には受けている。

彼女の授業は、学校でトップクラスで宿題が少ないのに彼が抱える生徒のテストの成績が上昇しているという。そのため、一応進学校を名乗る古宮高校において彼女の失言は他の教員からは見て見ぬふりをされていた。


「今日から、うちのクラスに新しい仲間がなんとひとり増える。もう一人は、隣のクラスだ。」


その言葉にクラスがざわめいた。あれ、二人も転校生がいるのとか、どっちが美少女なのか~やら。すると、教室の扉から誰かが入ってきた。


「みなさん、こんにちは古宮高校に転校してきました。リーファ・ヴァレンヌと申します。」


教壇の横に現れたのは、ミディアムの豪奢な金髪を持つ少女だった。

絹のようにきめ細かく大きな宝石のような瞳。スタイルはモデル並みでたわわなものが2つ。ふと、寒さを感じ陸は横目に天を覗くと目が死んでいた。

(諦めないで貴方の母親はそれはもう凄いから、遺伝を信じて。)

いたたまれなくなって、陸は彼女に励ます言葉を心の中で伝える。

クラスの男子がその姿に色めき出す。

案の定もいえる、新しく来た転校生で容姿が人並み外れたような子がこれから同じクラスになるのだ。


「めっちゃ可愛いじゃん!人形みたい。」

「好みだ!………結婚したい。」

「すげぇ、まつげなげぇ」

「胸でかぁ」


控えめに言って、美少女だった。そんな美少女を前にこのクラスの男子生徒のひそひそ声は大きくなっていく。興味がないと寝る態勢に入っていた陸は生徒達がいう体の一部分の話に耳を傾けた。


「一段階、古宮高校のレベルがあがった。」

「い、一瞬、椎名様から乗り継ぎかかったわ。危ない危ない…」

「34…おら、リーファ派に寝返りますわよ」

「しかり、我々が求めていたのは母性だった」

「素人がぁ」

「発情期ども黙れ」


騒ぐ男子生徒とそれを冷たい目で見る女子生徒というカオスな現場と成り果ててしまった。恐らく、このクラス発足以降一番仲が悪くなる一日となりそうだった。


「ん?……あっ!!お、おまっ!」


突然、隣の海が嫌な記憶でも思い出したのか急に立ち上がって、餌を与えられた魚のように口をパクパクさせていた。

(え、ちょっ、何?その反応、まさか…うそでしょ?)

勝手に物語が始まった予感がした。

……否、知らないうちに始まってた気がする。指をさされた転校生はにっこりと微笑んだ。


「どうも。湊海さん。昨夜はどうもありがとう。」


この瞬間、ラブコメ始まったとこのクラスのほとんどが察した。


「「「エェぇぇぇぇ!!!」」」


クラスどころか、学校中を揺るがす大事件だったと記録しておこう。

陸は既に興味を失っていたのでホームルームが終わるとみんなが海にやってたかるのを予見してさっさと食堂の食券を買いに向かった。


(すげぇな。転校生の美少女ともう知り合いとかこれで三角関係から四角関係になるのかー。)


ふと、この前誠が貸してくれた恋愛シュミレーションゲームにて、選択肢をミスして攻略対象のヒロインを複数にしてしまって、ヒロイン達に殺されるというバットエンドシナリオを迎えてしまった陸はどうもゲームの主人公と同じエンドをたどるのではないか、思い浮かんだ。


(死ぬなよ、海。ちゃんと避妊はしな。)


手を合わせなかったが、黙祷をする。

昨日はどうもといって寝坊したという話と彼女の昨日どうもという話から、あの二人は行くところまで行ったのかもしれない。


(……いや、もう致した後なのだろうか?早いな、海…グラディエーションしちゃったか…。)


「ちょっとこっちこい!」

「もー、いったい、そんな強くひっぱんなくってもいいでしょ!!」


背後が騒がしくなり、半分その正体に気づきながらあるいていると真横を現在クラス…いや、学校中の注目の的である二人にいつの間にか、来ていた。あの好奇心旺盛の生徒の壁からすり抜けたようだ。

絡まれないように、そっと息を殺して、彼らを逃れたのだった。

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