「ネット社会を現実から独立した虚像だと切って捨てる者は数十年単位で遅れている」
そう言われるほどにネット社会は普及し、本作の世界では切っても切り離せないものとなっている。
ネットに繋がっているのは、アンドロイドも同じだった。本作ではアンドロイドの社会的立ち位置が明らかになっていない。
なぜ、作られたのか? 人権はあるのか? それとも動産なのか?
ただ、重犯罪を犯すのはアンドロイドだけといわれ、アンドロイドは人間にとって憎悪の対象となっている。
本作では人とアンドロイドの違いについて、度々、言及される。
アンドロイドと人間の外見的相違はほとんどなく、捜査官ですらテスタを用いなければ判別できないほどに精密である。
人とアンドロイドの違いはなんのなのか?
テスタでのアンドロイドの判別は正しいのか?
現代でもAIの普及が広がりを見せる中、本作の問いかけは近い未来で、私たちが直面する問題なのかもしれない。
アンドロイドと人間、という普遍的なテーマ。日の光も届かない地下電脳都市という魅力的なシチュエーションから繰り出されるハイスピードのサスペンス・アクションSF。 SFとはScience Fictionの略でもあるし、Speculative Fictionでもある。
人とは何か。アンドロイドとの境界とは。それを問うのは迂遠な説明ではなく簡潔な思弁。人の本質を科学は定義できず、また人も理解できないのであれば人は人たると立証する行為に意味はあるのか。自らの存在に疑問を持たない人は人と呼べるのか。果てしない問いに対して提示される答えはあまりに短くそして美しい。
短編だからこそ光る思弁の疾走感をあなたに。