シールの輪 4

 次の日僕はいつも通りの時間に僕は教室についた。

 昨日の晩からなぜ山中さんの輪にシールが貼りついているのか考えていた。結局昨日の晩はわからないまま寝落ちしてしまい、今日の朝も考えていたけれど何のアイディアも思いつかず学校についてしまった。

 窓の外を見ながら、僕が考え事をしていると後ろの方で僕の名前が呼ばれた気がした。振り返ってみたけれど、僕のことを呼んでいる人はいなかった。いたのは僕があまりかかわったことのない女子が数人いるだけだった。

 授業中も僕は中山さんの輪について考え続けた。時折山中さんの輪をみたりもした。僕はわからないなりにも、仮説を立てないといけないと思い、強引に仮説を立てた。

 僕の仮説は中山さんは実は小さいころからシールが好きで、そのシールが好きという自分を隠している。この隠された欲求というのが天使の輪システムにより暴き出されたのではないかと結論付けた。自分で考えたにしても、この仮説は絶対ないなと思った。

 昼休みになり、僕はいつも通りエレベータに乗り屋上の踊場まで向かう。そしてそこにはいつも通り海君がいた。

「おはよ」僕は声をかけた。海君は今日も本を読んでいた。読みかけの本に栞をはさみ、「おはよう」と返事をする。僕は海君の横に座ると弁当箱を広げる。静かな時間が流れる。

 この沈黙を破るのはいつも僕だ。「海君、仮説立てられた?」僕は聞く。「うん。昨日のメッセージをくれたおかげで、自分の仮説に自信を持てたよ。」といつもの落ちついた口調で僕に言う。「そっか。僕はいまいち自分の仮説に自信ないんだよね。ぎりぎりまで考えたんだけど、全然わからなくて強引に立てちゃった。」と僕は伝えた。内心僕は逃げ出したい気持ちになったし、本当は海君に仮説を発表しあおうと提案した自分を呪い殺したかった。僕よりもはるかに頭のいい海君に僕みたいな頭の悪い人間がかなうはずがないから。

「どっちが先に言う?」海君は僕に聞いてきた。僕は少し悩み、「僕が先に言う。それでもいい?」と答えた。海君は「もちろんいいよ。」と言ってくれた。もし海君が先に答えれば、僕の強引で、つまらない仮説はもっと言いたくなくなるし、自分がみじめになると思ったからだ。海君はそんなことしないと思うが、僕のことをもしかしたら頭が悪いと軽蔑するかもしれない。だから、先に言うことで少しでもダメージを減らすために僕は先に言うことを選んだ。

 僕は海君の方に少し体を向けて、自分の仮説を話す。海君は黙って聞いてくれた。そして最後の隠された欲望が輪に反映されていることを話すと少し口角が上がったように感じた。僕はそれを見るとあぁ、内心僕の仮説を笑っているんだと感じた。心が少し重くなった気がした。僕の仮説を海君に説明し終えると海君の口からは僕の思っていることとは真逆の答えが出てきた。

「結論の部分は僕と一緒だね。」そう海君は言った。僕は自分の耳を疑った。そしておそらく僕の頭にはハテナが浮かんでいたと思う。僕の口から「え?」とこぼれていた。「じゃあ、今度は僕の番だね。」と海君は自分の仮説を説明し始めた。「結論から言うと、僕もその中山さんの欲が輪に出ていると思う。中山さんの天使の輪についているのはシールじゃなくてきっとレッテルなんだよ。中山さんはその周りからつけられているレッテルを自分を認めてくれている証明だと認識していて、それをうまく利用しているんだと思う。だから、喧嘩を止めた時もシールが光ったんだよ。」

 僕は聞いている途中で何だかわけがわからなくなった。多分いつもの僕なら理解ができていたと思う。けれど、海君の口から思いもよらない言葉が出てきたことで動揺していたのだと思う。僕は海君にもう一度説明してもらいやっと理解することができた。

 海君の仮説を聞き終えて僕は海君の仮説が正しいと伝えた。そしてもう少し観察することで僕たちの仮説が正しいのか確認することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

丸形蛍光灯の天使 新溶解性B錠剤 @sinyokaiseiB

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ