【第99話:仲間】

「そちらが気になるかな? それなら、遠慮せずに目を通して確認してみてくれ」


 オルター様の言葉に促されて書類を手に取ると、そこに書かれている文字へと目を向ける。

 書類はどうも三枚あるようで、まずは一枚目の書類です。


「えっと、なになに……え? 土地?」


「そうだ。キュッテの牧場は街の外なので違法ではないのだが、正式な土地の所有者というわけでもない」


 この世界では、街の中の土地には権利書が存在し、決められた資格を持つ者がその取引を行うことになっています。

 しかし、街の外に住む者には基本明確な権利書のようなものはありません。

 一定の土地を占有して使う場合は届け出が必要ではあるけど、行ってしまえばそれだけで、届け出が受理されればその土地を届け出た内容に利用する限りは自由に使えます。


 うちの牧場もずっと昔にそういう手続きをしていたはずです。

 え? ……しているよね? ご先祖様?


「ははは。何か勘違いしているようだね。心配しなくても牧場としての利用申請には問題はない。ただ……危険な魔物を従える場合には話が変わってくるのだよ」


「危険な魔物……?」


「あんたねぇ……素でわかってないでしょ? フィナンシェちゃんよ」


 あぁ……フィナンシェはもう家族も同然なので、危険・・という認識がはずれてしまっていたわ。


「そうだ。我々はフィナンシェと名付けられた魔物ケルベロスが街を救ってくれたことを知っているし、危険がないと理解している。しかし、今回の魔物の群れの暴走の件は既に王国中に知れ渡りつつあり……」


 既にビッグホーンの群れとの戦いから一ヶ月が経っています。

 そりゃぁ、あれだけ大きな出来事だったのだから、その話が広がらないわけがない。


「我々はわかっていても、他の街の者たちはそうは思わないだろう」


 それは確かにそうでしょうね。

 オルター様はこう言っているけれど、実際この街の人でも不安に思っている人もきっといると思う。

 私だって何も知らずにただ「このケルベロスは安全だ」なんて聞いてもにわかには信じられないでしょうし……。


 でも、それでどうして土地をって話になるのかしら?

 そもそも街の外なのに土地の権利ってどういうこと?


「そこで二枚目となる」


 オルター様に促され、二枚目の紙に目を向けて読み進めていくうちに、私の思考は停止しました。


「・・・・・・」


「どうしたのよ? キュッテ?」


「レミオロッコ……守護獣ってなに?」


 二枚目の紙には、フィナンシェをクーヘンの街の守護獣とするといった内容がつらつらと書かれています。

 でも、私はこの世界に来てから、守護獣って言葉を聞いた事が無いので、ピンと来ていませんでした。


 ただ、凄くおおごとな気がします……。


「そっか……キュッテって、お爺さんが教えてくれなかった事は何も知らないんだったわね」


「失礼ね! 何も知らないわけじゃないし、ちょっと知らない事が多いだけよ」


 前世では色々経験したし、勉強もしたから知識はかなり多い方だとは思うけど、今世では祖父から学んだこと以外の知識って、レミオロッコに習ったことが大半だから、あんまり強く反論できないわね……。


 レミオロッコの癖に!


「レミオロッコの癖に!」


「急になに⁉」


 結局その後、オルター様から守護獣について色々と説明して頂きました。


 つまるところ、この国には従えている魔物を守護獣として認定する制度があるらしく、強大な力を持った魔物を管理し、悪く言えば利用しようという仕組みみたい。

 ただ、領地に何か問題が起こった際に助けて欲しいってことではあるのだけど、その代わりに、育成するのに必要な土地や食費などを支援してくれるそうで、どちらにもメリットはあるみたい。


 まぁフィナンシェの場合は餌代はコーギーモードのお陰で全然負担にはならないんだけど、普通の強い魔物を使役しようと思うと、凄い餌代がかかっちゃうことが多いでしょうからね。


 ただ、今回この制度を使う一番の目的は、私たちを守るためのようです。

 つまり、クーヘンの街の守護獣として登録することで、他の権力者からのちょっかいを防いだり、フィナンシェは安全ですよっていう公の信用を得る事ができるってことを説明してくれました。


「何から何まで、いろいろと考えて頂きありがとうございます」


 私は色々として頂いたお礼を伝えたのですが、オルター様は私ではないと首を振って、その理由を教えてくれました。


「ははは。例ならアレンとシグナに言ってやってくれ。守護獣の制度をと言い出したのはシグナだし、それを細かく詰めて処理したのはアレンだからな」


 そして、私は許可しただけだからと笑みを浮かべた。


「それでもお礼を言わせてください。ありがとうございます」


 だって、それを許可するってことは、その守護獣が暴れたりしたらオルター様が責任をとらないといけないということだし。


「うむ。それなら三枚目の書類を見てから、改めてその礼を受け取ろうか」


 私はオルター様に促されるままに書類をめくり、三枚目の内容に目を通していきました。


「んん!?」


「キュッテ? ど、どうしたのよ?」


 私は興奮を抑えつつ、手に持った書類をそのままレミオロッコに渡しました。


「なになに……クーヘン領の特産品に認定? わっ!? 羊毛が特産品に認定って凄いじゃない!!」


 この世界で領の特産品に指定されるというのは、前世よりも遥かに大変なことで、しかもネットなどのないこの世界では、その効果は凄いものがあると聞きます。


「喜んでもらえたようでなによりだ。まずは羊毛だけだが、キュッテ牧場やレミオロッコ工房でしか作れぬような品は、随時追加していくつもりだから商品開発をこれからも頑張って欲しい」


 うちの羊毛は錬金術ギルドの一件からもわかるように、普通の羊からとれる羊毛より遥かに質が良く高性能です。

 羊毛に高性能って言うのも何か違和感があるけど、本当にいろいろな効果があるみたいだから間違っていないわ。


 でも、どんなに良い品でも知られていなければ売れないし、人気も中々でない。

 この世界にカワイイを普及させるためには、特産品に指定して貰えるというのはそれだけで凄い価値があるわ!


「ありがとうございます! これからも頑張ってより良いものを創り出していきますので宜しくお願いします!!」


「……なんか凄く嫌な予感がするんだけど……」


 レミオロッコが乾いた・・・笑いを浮かべて何か呟いているけれど、きっと嬉しいのね!


 その後、オルター様は忙しいらしく、他の方から今後の事や具体的な説明を受け、私たちは領主館を後にしたのでした。


 ◆


 私たちは領主館を出てから、レミオロッコ工房へと向けて街の大通りを歩いていました。

 もちろん護衛役として、コーギーモードフィナンシェも一緒です。


 ちなみにフィナンシェは、あのビッグホーンの群れの一件以来、合体も分裂も自由自在になりました。今は合体中です。

 そんな事を考えながらフィナンシェを眺めていると、不思議そうに首を傾げて見上げてきました。


「「がぅ?」」


 うん、フィナンシェ、カワイイよ、フィナンシェ。


「ふふふ。なんでもないわよ? フィナンシェはカワイイって思ってただけ」


「「がぅ♪」」


 私がフィナンシェと戯れていると、若干呆れた様子でレミオロッコが話しかけてきました。


「フィナンシェちゃんがカワイイのはわかったわよ。それより、特産品はともかく守護獣とか凄いおおごとになったわね」


 たしかにおおごとだけど、それよりもこれからの事が楽しみでわくわくが止まらないわ!


「うん、やっぱり嫌な予感がするわね……。キュッテ、あなた何を考えてるのよ?」


「ふふふ。決まってるじゃない! フィナンシェが守護獣になったら、他の街からも見物に来たりする人も沢山いるそうじゃない。つまりは牧場運営をさらに拡大できるってことでしょ? そしたらそしたら、工房でカワイイものをいっぱい創り出して特産品に指定して貰って売り捌けば、この世界にカワイイをもっともっと広められるってことじゃない!」


「な、なるほど……さすがキュッテ、どんなに凄いことでもカワイイ普及そこに繋げるのね……」


 牧場で羊毛を刈って、工房で加工し、街や牧場で売る。

 さらに工房では新商品も開発して、カワイイ商品は安く、それ以外の高性能な商品は高く売る。

 稼いだお金は従業員の福利厚生とカワイイ普及のための軍資金にすれば、いい感じに事業として回っていくんじゃないかしら。


 またイベントも開きたいし、他の街で開催して宣伝するのもいいわね。


「レミオロッコ! さっそく工房で新商品について考えるわよ!」


「はいはい。もう覚悟は決めたわよ」


「「がぅ!」」


 半年前まで、私はひとりぼっちでした。


 でも今は、レミオロッコやフィナンシェを始め、たくさんの仲間に囲まれています。

 そして、仲間たちはもちろん、アレン様やイーゴスさんを始めとした多くの人たちに支えて貰っています。


 まだまだこの世界にはカワイイは不足しているけれど、全然まったくこれっぽっちも足りてないけれど、でも、これから頑張ってカワイイを広めていきたいと、そう思った帰り道でした。








***********

 あとがき

***********

第二章完結までお読み頂き、本当にありがとうございます!


途中、書籍化や他の作業、家の事情等でWebの活動が止まってしまい申し訳ありませんでした。

また、第二章後半は戦いメインの話になっちゃったので、読者さんがついて来てくれるか不安だったのですが、ここまでお読み頂き本当に感謝です!


で……近況ノートには散々書かせて頂いていますが、先日2/4(金)に

ドラゴンノベルス様より


『羊飼いキュッテは異世界でもカワイイを広めたい

 ~転生少女とドワーフ娘のもふもふ×モノづくりライフ~』


が第一巻が発売にされました!

商業書籍の成否は発売後一週間がとても大事なので、もし興味を持って

頂いている方は、どうか早めのご検討をお願いいたします<(_ _")>


内容としてはWeb版の全ての文(特に地文)を全文改稿して読みやすくし、さらに3万字ほど書き下ろしています。

新しいちょっとしたエピソードも入っていますので、Web版をお読み頂いた方にもぜひ手に取って頂ければと思います。


それから、イラストが凄く素敵なのは今までも近況ノートでもお伝えしていたのですが、実は装丁デザインも素晴らしい仕上がりになっており、『一つの本』としても凄く良いんですよ! これってわかって貰えますかね?(;^_^A


と……話が宣伝の方にそれてしまいましたね。

今後のWeb版の展開ですが、近いうちにSSを公開する予定にはしていますが、ひとまずこの第二章完結の区切りで暫く時間を頂く予定です。


その間にしっかり第三章のプロットを練って、楽しい話になるように頑張りますので、どうか引き続き応援とご愛読をよろしくお願いいたします!


本当にここまでお読み頂き、ありがとうございました!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【書籍化作品】羊飼いキュッテは異世界でもカワイイを広めたい~転生少女とドワーフ娘のもふもふ×モノづくりライフ~【Web版】 こげ丸 @___Kogemaru___

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ