【第98話:それから……】
ビッグホーンの群れとの戦いから一ヶ月が経ちました。
田畑が荒らされてしまったり、家が破壊されたりといった被害はいくつかありましたが、そういう被害にあった人たちも、領主様の方で援助がされた事で既にもう元の生活に戻れているそうです。
それに、戦いに参加した人の中には怪我をした人は何人かいましたが、大怪我や亡くなった人は出なかったのは本当に良かったわ。
最初はどうなることかと思ったけれど、私にかかれば魔物の群れのひとつやふたつ……ってのは冗談で、もう二度とごめんよ。
結果的には上手く行きましたが、運が少しでも悪ければ、目も当てられないような被害が出ていたことでしょう。
「本当に運が良かったのよね。でもまぁ……これも日頃の行いのおかげね!!」
「何が日頃の行いなのよ?」
私の独り言に、ジト目とともに話しかけてきたのはレミオロッコ。
実は今、領主様のお屋敷にお呼ばれされていて、レミオロッコと二人で応接室で領主様がくるのを待っているところなのです。
ちなみに待っている間に淹れて頂いたハーブティーが物凄く美味しくて、二杯もおかわりしちゃったのは内緒よ。
「魔物の群れを討伐した時のことを思い出していただけよ」
「それがどうして日頃の行いがって話になるのよ……。キュッテはどちらかと言えば、日頃の行いの悪さをいざという時の行いでカバーしてる感じじゃない?」
くっ……あながち否定できないから、言い返しにくいわね……。
それにしても、さすが領主様のお屋敷。
ふかふかの絨毯に、品の良い家具やインテリア。
壁には絵画などが飾られています。
ただ……カワイイ成分が足りていない……。
「足りていないわ!」
「今度はなに⁉」
そんなバカなやり取りをしていると、扉をノックする音が響いた。
「失礼するよ」
そう言って部屋に入ってきたのは、アレン様にとても良く似た壮年の男性。
アレン様がそのままいい感じで歳をとるとこのような顔になるんじゃないかしら?
特に目の細さとかそっくりです……。
私とレミオロッコは慌てて立ち上がり、深く礼をします。
このイケオジでダンディなおじ様。
だって、どう考えてもこの人は……。
「お初にお目にかかります。領主様。私は羊飼いのキュッテ。こちらが工房を任せているレミオロッコと申します」
「ほう。まだ若いのにこれはご丁寧に。私がこの街の領主。オルター・フォン・クーヘンだ」
部屋に入った時は、その威厳に満ちた姿に一瞬息を飲んだのですが、最後に見せた優しそうな笑顔にほっと息を吐きます。
それにしても、本当にアレン様とそっくりですね。
アレン様は父親似で、シグナ様は母親似なのかしら?
「この度は、お屋敷にお招きいただき、誠にありがとうございます」
「ははは。そんな畏まらなくても良いぞ。アレンも世話になっているようだしな」
「そんな! アレン様にはお世話になってばかりですよ!」
「何を言っているんだ。アレンやシグナから話は聞いている。そして、世話になったのは私もだ」
オルター様は表情を真剣なものに変えると、そう言って深く頭を下げました。
ちょ、ちょっと!? 領主様がそんな簡単に頭を下げちゃダメなんじゃ!?
そう思い、慌ててやめてくださいと止めたのだけれど、オルター様は感謝の気持ちに身分は関係ないと言って、さらに頭を下げました。
「もちろん礼だけで済ますつもりは無い。今回の件なのだが、私の方から報酬を用意している」
オルター様が扉近くで控えていた侍従っぽい人に「持ってきてくれ」と声を掛けると、既に用意していたのか、何かの紙と袋のようなものをすぐに持ってきました。
そして、それを私に……。
「領主様。こちらはいったい……?」
何かしらの報酬を用意するつもりだと言うのはアレン様から先に伺っていましたが、その内容までは聞いていません。
単に金一封的なものかと思ったのですが……。
「ふふふ。まぁまずは袋の方だが、そちらはささやかだがお金の方を用意した」
そして、中身を確認するように言われた私は、袋の口を開けてみてびっくりです。
「え!? こ、こんなに頂けません!」
そこには想像していたお金の一〇倍じゃきかないお金が入っていて、慌ててお断りしようとしたのですが……。
「まぁそういうでない。牧場や工房で働く者たちも含めてのものだから、分ければそこまでの額にはならないだろう。うちはそこまで裕福な領ではないのでな。それぐらいで許してくれ」
許してくれも何もありませんけど⁉
今や私は、従業員を大勢雇い、レミオロッコ工房を起ち上げ、牧場運営も含めてそれなりに稼いでいるつもりでいました。えへん。……じゃなくて、だからそれなりに小金を持っているつもりでいましたが、そんな今の私からしてもかなりの金額が入っていました。
「それに、そちらは冒険者ギルトや国の方からも出されているのだ。拒否されると、私の方もややこしい事になるから受け取ってくれ」
そういう風に言われると、私もこれ以上強く言えません。
えぇ、えぇ、まぁ仕方ないわね! これは受け取るしかありません!
本当に仕方ないわね!
「ありがとうございます!」
横で驚いて固まっていたレミオロッコが一瞬ジト目を向けて来ていましたが、きっと気のせいですね。
でもまぁ、金額はともかく、お金は頂けるだろうとは思っていたので良いのですが、そうなるとこちらの書類はいったいなんなのかしら?
「そちらが気になるかな? さぁ、考えていないで確認してみてくれ」
オルター様の言葉に促され、私は書類を手に取ったのでした。
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