【第97話:抜け目なく】
「フィナンシェ! 薙ぎ払え~!!」
ごぉという音ともに吐き出されたブレスは、最後の三頭と思われるビッグホーンを
さっき魔道無線で確認したら、レミオロッコったら
仕方ないから、少しでも損害を補填できるように頑張って加減しながら倒したわよ。
そう! 私は何も自分がお肉を食べたいからという理由だけで、ブレスを加減して
だって、ビッグホーンは高級肉ですからね。
庶民が頑張って何とか手に入るレベルなので、特別珍しいお肉ではないけど、それでも売ればかなりの値がつきます。
こんがり焼いてしまっているので、いくらか値が落ちるとは思いますけど、ビッグホーンの巨体からは相当な量のお肉がとれるので、かなり儲かるはずです。
それに、私も
それでも多いとは思うけど、値があまりに落ちそうなら、一度に消費出来ない分は干し肉にすればいいですしね。
「まぁそれはともかく……ようやく終わったかしら? さすがに疲れたわ……」
とりあえず把握できている範囲では、全てのビッグホーンを退治したはず。
はぐれた生き残りが多少はいるかもしれませんが、当面の間は冒険者たちの方に調査と討伐の依頼を出すと聞いたので、あとは任せても大丈夫でしょう。
さすがに怪我人は少し出たようだけど、みんな軽い怪我のようだし、これだけの規模の魔物の群れと戦って重症者や死者が出なかったのだから、これ以上は高望みというもの。
「うん……本当に良かった……」
最後の方は作戦も上手く行って、多少はふざける余裕もあったけど、終わったと思うとなんだか一気に疲れがでて、へろへろになってしまいました。
アレン様の方は、既に撤収作業に入っているみたいですし、一旦シグナ様の所に戻って報告したら、レミオロッコと合流して街に戻りましょう。
とにかくもう寝たいです……本当に、もう睡魔が……やばい……。
「あぶない、よ?」
一瞬意識が飛んで
「ほへ?」
って、だれ!? と驚いて振り返るとそこには……。
「あ、ヨセミテ?」
私の影から上半身だけ抜け出たような格好で、ヨセミテが背を支えてくれていました。
すっかり忘れていたけど、ちゃんと護衛してくれていたのね。
「ありがとう。助かったわ!」
「うん? キュッテがんばった、ね」
そういう趣味はないけど、なにかに目覚めそうなシチュエーションだわ……。
ともかく、ちゃんと最後まで私の護衛をしてくれていたのはちゃんと感謝しないと。
「護衛ご苦労様。あとでいっぱいお菓子買ってあげるわね」
うん、目覚めていないからね。
そんな一幕を挟みつつ、私たちはシグナ様の元へと向かったのでした。
◆
「あっ!? キュッテ!! やったわね!!」
私に気付いたレミオロッコが、喜びの声をあげながら駆け寄ってきたのだけれど……。
「大成功よ!! って……ぎゃぁーー⁉」
私の影から、鼻から上だけを出して覗いていたヨセミテが、けだるそうに全身を出したことでレミオロッコもようやくそれが誰か気付いたようです。
「……って、あれ? ヨセミテ?」
「ん。ヨセミテだ、よ?」
「そ、そう言えば護衛についてくれてたんだったね。さ、さすがね。知ってたのにどこに潜んでいたか全くわからなかったわ」
「レミオロッコ、ヨセミテのこと、忘れるなんて、ひどい、ね。あぁ、ん?」
「キュッテはヨセミテの真似してるんじゃないわよ!」
まぁ私もその存在を忘れるぐらい完璧に隠れていたし、あまり話は広げないでおきましょう。
私は
「やっと……終わったわね」
「そうね。本当にやっと……」
お互い声を掛け合うと、私たちは更に近づいて……気付けば抱きしめ合っていました。
「ふぎゅ……ほんとに、なんとかなって良かった。……怖かった……上手く行かなかったらどうしようって、ほんとに不安で……怖かった……」
なんだか一気に気が抜けてしまったのか、感情がうまく抑えられなくなってしまって、涙が溢れてきてしまいました。不覚……。
「うんうん。キュッテはよく頑張ったわ」
「むぅ……下僕の分際で……」
「はいはい。そういう台詞が出てくるのなら、まだ大丈夫そうね」
「レミオロッコの癖に……」
「さぁ、街に帰りましょ。工房の皆も心配して待ってると思うし」
「そうだわ。街に帰ってビッグホーンお肉引き取って貰わないといけないし!」
「はぁ……あんた本当に抜け目ないわよね……」
こうしてビッグホーンの群れとの長い長い戦いは、幕を閉じたのでした。
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